戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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四話 同志

 彼女、コーニッシュがここに来てから約一月が経過した。

 覚えるつもりの無かった名前も、ついに覚えてしまった。

 彼女は実に、ロケット団ぽく無かった。

 

 彼女はよく笑い、よく泣き、とにかく感情を表に出した。

 彼女は彼女のルクシオを、とても慈しんだ。

 彼女はこの施設にいる実験用のポケモンを見て、顔を悲痛に歪ませた。

 彼女は、彼女は……。

 

「あんたさ」

 

「コーニッシュです、コニーと呼んでください」

 

「コニたんはさ」

 

 ずっと気になっていた。

 けれど、なんとなく聞いちゃいけないことの気がして、聞けずにいた。

 その事を、ついに聞いてみることにした。

 

「答えたくなかったら、答えなくていいんだけどさ。なんでロケット団なんかにいるのさ。あなたは、ここに居るような存在じゃないでしょう?」

 

 ロケット団のような擦れた人たちとは違う。

 純真に育った、無垢な少女。

 そんな彼女が、どうしてこんな穢れた場所にいるのか。

 答えたくなかったのか、彼女は沈黙を貫いていた。

 

「ごめん、踏み込み過ぎた。忘れて」

 

 自分には過干渉するなと言っておきながら、自分からは踏み抜く、最低だね。

 

「いえ、いい機会です。聞いてください」

 

 そう思ったが、どういうつもりなのか。

 彼女は私に話し始めた。

 どうしてここに居るのかを。

 

 私の名前はコーニッシュといいます。

 わけあってロケット団というポケモンマフィアに所属しています。

 これは私が、メア先輩に出会うまでのお話です。

 

 私は遥か北方の地、シンオウ地方で生まれました。

 日は短く、年中雪の降っている場所もありましたが、住民は皆心暖かく、いいところでした。

 私の生まれたクロガネシティは、石炭に恵まれた山間部に属していました。

 そんな街なので、父も当然炭鉱で働いていました。

 

 よく、父についていって、炭鉱の中を探検したものです。

 炭鉱は楽しかったですが、時折顔を出すズバットが嫌いでした。

 イシツブテやイワークは頼もしくカッコいいのに、どうしてあれだけは気持ち悪いのか。

 

 こほん、話がそれました。

 まあ、父は私にとって偉大な人で、私は父の事が好きでした。

 けれど、ある日の事でした。

 父は、落盤に巻き込まれて、帰らぬ人となってしまいました。

 なんでも、同僚の人を守るために身を挺し、代わりに犠牲になったらしいです。

 

 どうして父が死ななければいけなかったんだろう。

 そう考えない日はありませんでした。

 その同僚が、私たちの家にお礼をしに来ました。

 父のおかげで助かったと。

 

 ふざけるなと思いました。

 お前が死んでいたら、父は助かったんだ。

 それをよくも、よくもぬけぬけと私の前に顔が出せたなと。

 いえ、思っただけではなかったでしょう。

 きっと口に出し、非力ながらに精一杯殴りつけた気がします。

 

 まあ、今となっては行き過ぎた行為だったと反省しています。

 父の善意を捨て去るような愚行だったと。

 けれど、今も思うのです。

 せめてその同僚さんが、危険な場所にいなければ。

 父は死ななかったんじゃないかと。

 

 もちろん、炭鉱などで完全な安置というのは存在しないでしょう。

 それでも、もし、もし偶然落盤に巻き込まれるところにいたように、運よく安全地帯にいてくれたら。

 そんな思いが、ぐるぐると巡りました。

 

 そんなことがあってから、母との関係もこじれ始めました。

 反抗ばかりする私と、ヒステリックな母。

 父を失い、大黒柱という言葉の意味を知りました。

 父が私たち家族を結んでいたんだと知りました。

 父が、父が……。

 

 そんな折、ついに母は耐え切れなくなったのでしょう。

 私を売り飛ばすことにしたのです。

 その取引先が、ロケット団でした。

 

 二束三文で買い叩かれたようでしたが、私を引き取ってくれるというだけで母は大喜びでした。

 そんな母を、私はどんな目で見ていたんでしょうか。

 侮蔑でしょうか? それとも悲哀?

 すべてが、過去のどうでもいい思い出です。

 

 そうしてヤマブキシティに送り込まれた私でしたが、まったくの役立たずでした。

 与えられた仕事もできない。

 捕らえられたポケモンを見ると吐く。

 周りの人たちは冷たい目をした大人たちばかり。

 クロガネでの一件以来、大人に対して嫌悪を抱いている私は、いつも怯えていました。

 とにかく、私の居場所はヤマブキにはなかったのです。

 

 そんなだったので、ここに飛ばされることになりました。

 そこで私は、メア先輩に出会ったのです。

 年齢の近い女の子なんてヤマブキにはいなかったので、私はどうしても先輩の隣に居座ろうとしたのです。

 

 まあ、先輩は全然優しくなかったのですが。

 初日からまさか解雇通告を受けるとは思いませんでしたよ……。

 その晩は一人で泣き明かし、翌日謝罪に向かいました。

 

 日が昇り、すぐに押し掛けたというのに、先輩の部屋は既にもぬけの殻でした。

 窓から外を見れば、先輩が走っている様子が窺えました。

 私の体力では到底走り切れないので、先輩が戻ってくるのを待とうと思ったのです。

 この島はとても大きいので、きっと長い時間待つことになるだろうと思いました。

 けれど、予想に反して、先輩はすぐに戻ってきました。

 

 心の準備ができていなかったので、思わず茂みに隠れてしまいました。

 バクバクと脈打つ心臓を握り締め、どうにか落ち着こうと頑張りました。

 茂みの隙間から見える先輩は、苦しそうだったのに楽しそうでした。

 私は驚きました。

 

 こんな場所にいるのに、どうして先輩はこうも輝いているんだろう、と。

 

 とても、とても眩しかったです。

 きっと憧れたんだと思います。

 こんな場所にいながら、私の様に演技ではなく、本心で生を楽しむ様子に。

 きっと、憧憬を抱いたんだと思います。

 私は生きる意味を見つけました。

 

 その後、先輩に隠れていることを指摘されました。

 恥ずかしくて、耳まで真っ赤になってしまいました。

 必死に火照りを抑えてから、茂みから出ました。

 先輩に見つかりました。

 

 私は謝りました。

 先輩は受け流すばかりで、まともに取り合ってくれませんでした。

 でも、私に、好きにしていいと言ってくれました。

 その言葉が、どれだけ私の心を救ってくれたか。

 先輩、知っていますか?

 

 私は先輩に付きまといました。

 迷惑を掛けないように、気を害されない程度の距離を保ちながら。

 ある時は戦闘訓練の相手として、ある時はアラームに気付かない先輩を起こすために。

 ……あの時の発勁はきつかったなぁ。

 

 とまあ、それが私がここに居る理由です。

 

「と、最初は為す術もなくロケット団に居たんです。でも、今は違います。メア先輩の役に立ちたいです。メア先輩のそばにいたいです。ロケット団に入って、メア先輩に出会えて、本当によかったと思っています」

 

「……」

 

 私は彼女の独白を、時折相槌を打ちながら聞いていた。

 道理でロケット団らしくないわけだ。

 そしてロケット団、お前らは人身売買にまで手を出していたのか。

 とことんゴミみたいな組織だな。

 

「もし、もしさ」

 

 分かっている。

 これは憐憫の情で、相手に向けるということは相手を弱者と定義してしまうことだ。

 理解している。

 こんなこと、なんのメリットもなく、切り出す意味はないと。

 考慮している。

 彼女の言葉が嘘で、私の監視が目的であるという可能性。

 それでも、私は聞かずにはいられなかった。

 

「ここを抜け出す手段があると言ったら、あなたはここに残る?」

 

「……先輩はどうするんですか?」

 

「あはは、ここから抜け出すつもりがあるからそう聞いているんだよ」

 

 もし彼女が、私の動向を監視するために派遣された人員であれば、私の言は失敗だ。

 だけど、私に残された人間らしさが、彼女を捨て去ることを許さなかった。

 

「私は、先輩について行きます。どこまでも、いつまでも」

 

 そんな私の思いにこたえるように、彼女はそう言ってくれた。

 彼女は知らないだろう。

 彼女が来てから、私の心が元に戻り始めているということに。

 

 ここを出たら、やり直そう。

 

 その日私たちの間に、ニューアイランド脱出同盟が結ばれた。




ワンリキー→イシツブテやイワークは倒せる。ズバットは苦手。
コニー「ズバット倒したろ」
コリンク採用。
そんな流れがあったりなかったり。
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