彼女、コーニッシュがここに来てから約一月が経過した。
覚えるつもりの無かった名前も、ついに覚えてしまった。
彼女は実に、ロケット団ぽく無かった。
彼女はよく笑い、よく泣き、とにかく感情を表に出した。
彼女は彼女のルクシオを、とても慈しんだ。
彼女はこの施設にいる実験用のポケモンを見て、顔を悲痛に歪ませた。
彼女は、彼女は……。
「あんたさ」
「コーニッシュです、コニーと呼んでください」
「コニたんはさ」
ずっと気になっていた。
けれど、なんとなく聞いちゃいけないことの気がして、聞けずにいた。
その事を、ついに聞いてみることにした。
「答えたくなかったら、答えなくていいんだけどさ。なんでロケット団なんかにいるのさ。あなたは、ここに居るような存在じゃないでしょう?」
ロケット団のような擦れた人たちとは違う。
純真に育った、無垢な少女。
そんな彼女が、どうしてこんな穢れた場所にいるのか。
答えたくなかったのか、彼女は沈黙を貫いていた。
「ごめん、踏み込み過ぎた。忘れて」
自分には過干渉するなと言っておきながら、自分からは踏み抜く、最低だね。
「いえ、いい機会です。聞いてください」
そう思ったが、どういうつもりなのか。
彼女は私に話し始めた。
どうしてここに居るのかを。
*
私の名前はコーニッシュといいます。
わけあってロケット団というポケモンマフィアに所属しています。
これは私が、メア先輩に出会うまでのお話です。
私は遥か北方の地、シンオウ地方で生まれました。
日は短く、年中雪の降っている場所もありましたが、住民は皆心暖かく、いいところでした。
私の生まれたクロガネシティは、石炭に恵まれた山間部に属していました。
そんな街なので、父も当然炭鉱で働いていました。
よく、父についていって、炭鉱の中を探検したものです。
炭鉱は楽しかったですが、時折顔を出すズバットが嫌いでした。
イシツブテやイワークは頼もしくカッコいいのに、どうしてあれだけは気持ち悪いのか。
こほん、話がそれました。
まあ、父は私にとって偉大な人で、私は父の事が好きでした。
けれど、ある日の事でした。
父は、落盤に巻き込まれて、帰らぬ人となってしまいました。
なんでも、同僚の人を守るために身を挺し、代わりに犠牲になったらしいです。
どうして父が死ななければいけなかったんだろう。
そう考えない日はありませんでした。
その同僚が、私たちの家にお礼をしに来ました。
父のおかげで助かったと。
ふざけるなと思いました。
お前が死んでいたら、父は助かったんだ。
それをよくも、よくもぬけぬけと私の前に顔が出せたなと。
いえ、思っただけではなかったでしょう。
きっと口に出し、非力ながらに精一杯殴りつけた気がします。
まあ、今となっては行き過ぎた行為だったと反省しています。
父の善意を捨て去るような愚行だったと。
けれど、今も思うのです。
せめてその同僚さんが、危険な場所にいなければ。
父は死ななかったんじゃないかと。
もちろん、炭鉱などで完全な安置というのは存在しないでしょう。
それでも、もし、もし偶然落盤に巻き込まれるところにいたように、運よく安全地帯にいてくれたら。
そんな思いが、ぐるぐると巡りました。
そんなことがあってから、母との関係もこじれ始めました。
反抗ばかりする私と、ヒステリックな母。
父を失い、大黒柱という言葉の意味を知りました。
父が私たち家族を結んでいたんだと知りました。
父が、父が……。
そんな折、ついに母は耐え切れなくなったのでしょう。
私を売り飛ばすことにしたのです。
その取引先が、ロケット団でした。
二束三文で買い叩かれたようでしたが、私を引き取ってくれるというだけで母は大喜びでした。
そんな母を、私はどんな目で見ていたんでしょうか。
侮蔑でしょうか? それとも悲哀?
すべてが、過去のどうでもいい思い出です。
そうしてヤマブキシティに送り込まれた私でしたが、まったくの役立たずでした。
与えられた仕事もできない。
捕らえられたポケモンを見ると吐く。
周りの人たちは冷たい目をした大人たちばかり。
クロガネでの一件以来、大人に対して嫌悪を抱いている私は、いつも怯えていました。
とにかく、私の居場所はヤマブキにはなかったのです。
そんなだったので、ここに飛ばされることになりました。
そこで私は、メア先輩に出会ったのです。
年齢の近い女の子なんてヤマブキにはいなかったので、私はどうしても先輩の隣に居座ろうとしたのです。
まあ、先輩は全然優しくなかったのですが。
初日からまさか解雇通告を受けるとは思いませんでしたよ……。
その晩は一人で泣き明かし、翌日謝罪に向かいました。
日が昇り、すぐに押し掛けたというのに、先輩の部屋は既にもぬけの殻でした。
窓から外を見れば、先輩が走っている様子が窺えました。
私の体力では到底走り切れないので、先輩が戻ってくるのを待とうと思ったのです。
この島はとても大きいので、きっと長い時間待つことになるだろうと思いました。
けれど、予想に反して、先輩はすぐに戻ってきました。
心の準備ができていなかったので、思わず茂みに隠れてしまいました。
バクバクと脈打つ心臓を握り締め、どうにか落ち着こうと頑張りました。
茂みの隙間から見える先輩は、苦しそうだったのに楽しそうでした。
私は驚きました。
こんな場所にいるのに、どうして先輩はこうも輝いているんだろう、と。
とても、とても眩しかったです。
きっと憧れたんだと思います。
こんな場所にいながら、私の様に演技ではなく、本心で生を楽しむ様子に。
きっと、憧憬を抱いたんだと思います。
私は生きる意味を見つけました。
その後、先輩に隠れていることを指摘されました。
恥ずかしくて、耳まで真っ赤になってしまいました。
必死に火照りを抑えてから、茂みから出ました。
先輩に見つかりました。
私は謝りました。
先輩は受け流すばかりで、まともに取り合ってくれませんでした。
でも、私に、好きにしていいと言ってくれました。
その言葉が、どれだけ私の心を救ってくれたか。
先輩、知っていますか?
私は先輩に付きまといました。
迷惑を掛けないように、気を害されない程度の距離を保ちながら。
ある時は戦闘訓練の相手として、ある時はアラームに気付かない先輩を起こすために。
……あの時の発勁はきつかったなぁ。
とまあ、それが私がここに居る理由です。
*
「と、最初は為す術もなくロケット団に居たんです。でも、今は違います。メア先輩の役に立ちたいです。メア先輩のそばにいたいです。ロケット団に入って、メア先輩に出会えて、本当によかったと思っています」
「……」
私は彼女の独白を、時折相槌を打ちながら聞いていた。
道理でロケット団らしくないわけだ。
そしてロケット団、お前らは人身売買にまで手を出していたのか。
とことんゴミみたいな組織だな。
「もし、もしさ」
分かっている。
これは憐憫の情で、相手に向けるということは相手を弱者と定義してしまうことだ。
理解している。
こんなこと、なんのメリットもなく、切り出す意味はないと。
考慮している。
彼女の言葉が嘘で、私の監視が目的であるという可能性。
それでも、私は聞かずにはいられなかった。
「ここを抜け出す手段があると言ったら、あなたはここに残る?」
「……先輩はどうするんですか?」
「あはは、ここから抜け出すつもりがあるからそう聞いているんだよ」
もし彼女が、私の動向を監視するために派遣された人員であれば、私の言は失敗だ。
だけど、私に残された人間らしさが、彼女を捨て去ることを許さなかった。
「私は、先輩について行きます。どこまでも、いつまでも」
そんな私の思いにこたえるように、彼女はそう言ってくれた。
彼女は知らないだろう。
彼女が来てから、私の心が元に戻り始めているということに。
ここを出たら、やり直そう。
その日私たちの間に、ニューアイランド脱出同盟が結ばれた。
ワンリキー→イシツブテやイワークは倒せる。ズバットは苦手。
コニー「ズバット倒したろ」
コリンク採用。
そんな流れがあったりなかったり。