戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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五話 策謀

 私たちがここからの脱出を決めてからの事だ。

 私達はまず、この建物の内部からしらみつぶしに調査を開始した。

 消灯時間になってから施設内を駆け回り、逐一マッピングしていく。

 するとこの建物の中央部に、謎の空間があることが分かった。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

 できれば仏様が出て欲しいものだ。

 そんなことを思いながら隠し通路を開く。

 どうやって侵入方法を知ったかって?

 それっぽいところ数か所に隠しカメラを取り付けて、人の出入りを探ったんだよ。

 案の定、その内の一箇所がビンゴだった。

 

 ちなみにコニたんは私の部屋で待機中だ。

 感覚的には消灯確認に来る先生を誤魔化してもらうやつに近い。

 私は林間学校も修学旅行も言ったことないけれどね。

 というか、マサラにそんな行事はない。

 

 本棚から数冊の本を順番に取り出していく。

 すると本棚がスライドを始める。

 その裏には壁材の張られたドアがあった。

 

 ドアに手をかけ、息をのむ。

 心臓が早鐘を打つ。

 どくどくと、鼓膜を内側から叩く。

 

 呼吸を二つ置くと躊躇いが生じる。

 だから私は、一つ息を吐きだして、意を決した。

 扉を開くと、そこには培養器があった。

 

「なにこれ……ポケモン?」

 

 その培養器の中には、見たことのない化け物がいた。

 

「うーん、昨日のあれは何だったんだろうか」

 

 翌日、部屋で作戦会議を開く。

 参加者は私とコニたん、以上だ。

 

「もう一度確認から始めましょうか。そもそもこの部屋に入ったのはどういった目的からでしたか?」

 

「そりゃあ何らかの脱出手段がないかっていう確認のためだよ」

 

 この島は、外界から完全に遮断されている。

 船もなく、空路はサカキの自家用ジェットや、コニたんのように新人が来る場合のみ。

 新人はこの三年で初めての事なので、次に来るのはいつになることやら。

 加えて、仮に来たとしてジャックすることが可能かどうか。

 サカキレベルとは言わずとも、私に対して時間稼ぎができるだけのトレーナーがいればその時点で詰みだ。

 というわけなので、ボートや潜水艦のような海路に使える乗り物がないかと期待し潜入したのだった。

 

 しかし、そこに在ったのは大きな培養器と、その中で眠る化け物だけだった。

 

「白い体に紫のしっぽ。人型のポケモン……」

 

「聞いたことがないポケモンですね」

 

「うーん、どっかで聞いたことはある気がするんだけどねぇ」

 

 あと少し、きっかけがあれば思い出せそうな気がするんだよな。

 何だったか?

 

「あっ」

 

 私はふと思い出した。

 ここ数年で、すっかり使わなくなった機械。

 ここに来るとき、サカキに渡された備品。

 

「そうだ、これ使えばよかったんじゃん」

 

 なんですか、それ、そうコニたんが体を寄せてくる。

 

 黒色の筐体。

 便宜上私は、『ポケモン図鑑』と呼んでいる。

 持ち歩いているポシェットの中に、一応入っていたのだ。

 もしかするとポケモンとして認識しているかもしれない。

 私の期待通り、ポケモン図鑑はそのポケモンを登録してくれていた。

 

「遺伝子ポケモン、ミュウツー……」

 

 思い……出した!

 ベッドに図鑑を放り投げ、部屋の隅に存在する資料棚に駆け寄る。

 確かこの辺に。

 

「ミュウの遺伝子から生み出された、人造ポケモン。その凶暴性から、生みの親すら飼い慣らすことを諦めた」

 

「……ひどい話ですね……」

 

「うん、そうだね」

 

 人間の都合で作られ、人間の勝手で捨てられた。

 報われない、悲しいポケモンだ。

 しかし、こうなると疑問が浮かんでくる。

 

「どうしてそのポケモンがここに? 一体サカキは何を企んでいるの?」

 

 資料を隅から隅まで見遣る。

 どれもこれも、信じがたいような強さについて言及されたもので、到底御せるポケモンではないことがうかがえる。

 そんなポケモンを内部において、一体どうするつもりなのか。

 

「先輩、すっごい悪い顔してますよ」

 

「さて、どうでしょうね」

 

 とにかく、これで脱出の計画が練れた。

 ミュウツー、悲しき星の下生まれた悲哀なるポケモンよ。

 私があなたを助けてあげる。

 だから――。

 

(あなたも、私を助けてね?)

 

 私は歪に口角を上げた。

 

「危険すぎます!」

 

「まあまあ」

 

 私の脱出計画を聞かされたコニたんが怒鳴り散らす。

 ちなみにこの部屋の防音対策は完璧なので何の問題もない。

 自分の生活音を聞かれるとか堪ったものじゃないので融通を聞かせてもらった。

 一応立場的にはサカキの直属の部下だからね、私。

 そこらの団員より立場は上なのだよ。

 

「じゃあ聞くけど、他に何かいい案ある? あるなら考えてやってもいいよ」

 

「それは、今は思いつかないですけど……きっと他に方法があるはずです」

 

「却下。コニたんは気付いてないみたいだけどさ、サカキはきっと私の動向に気付き始めている。そろそろタイムリミットが近づいてきているはずだよ」

 

 具体的なリミットは分からないが、流石にそろそろ怪しまれ始めているだろう。

 コニたんが私についたことも、きっと伝わっているはずだ。

 そうなれば、私が近いうちにアクションを起こすことは想像に難くないだろう。

 つまり、先手必勝というのが現状だ。

 

「でも、だからってあのポケモンを世に解き放つのは……」

 

「何もしなくても、ロケット団の手に落ちるか、別の経路で世に解き放たれるかだよ。ロケット団の手に落ちるのが最悪のパターン、だから未来は都合よく切り替わるんだ」

 

「はやまる必要はないでしょう!?」

 

 確かに、自分が不利になる択を先延ばしにするというのは一つの選択肢だ。

 分かりやすいところだと、追い打ち不意打ち択だろうか。

 この場合に追い打ちを挟まず、不意打ちだけ打ち続ける。

 八回もあれば、相手はどこかでしびれを切らせてくれる場合が多い。

 攻撃したくなる気持ちをぐっとこらえて耐え忍ぶ。それができるトレーナーは本当に少ない。

 だから、問題の先送りというのは必ずしも悪いものではない。

 

 ただし、のちの事を考えずに済む場合は、である。

 

 例えば草タイプと炎タイプの対面でこちらが水タイプに引く。

 そうして相手が電気タイプに引き、私がさらに草タイプに交換する。

 これを繰り返していけば、確かに勝敗は先延ばしにすることができる。

 だが、それを繰り返したときに私が先に倒れることが予測できるとすれば?

 問題を先延ばしにしたところで、後々皴寄せが来るというのなら意味が無いのだ。

 

「ゆえに、行動は迅速に。この機会を逃す手はないの」

 

 

 私が立てた作戦は、ミュウツーを逃がしてしまおうというものだった。

 

 ついでにその間に施設をボロボロにしてもらえればなおよい。

 

 この島での生活が不可能になれば、いくらサカキといえど救助を寄越さないわけにもいかないだろう。

 

 カントーに降り立つことさえできれば、チャンスはいくらでもある。

 

 

「先輩、死なないでくださいね?」

 

「あはは、私は死なないよ」

 

 少し前は、ただ戦うために生きていた。

 だけど、コニたんと出会い、私の中で異なる生きる意味が生まれた。

 コニたんを守り抜く。

 そのためにこの命を懸けるのも、ありだと思うようになった。

 

「こんなところで、死んでたまるか。私には、生きて成し遂げなければいけないことがあるんだ」

 

 コニたん、知っている?

 あなたは、いつの間にか私の中で、とても大きな存在になっていたんだよ?

 

 私の生に対する強い意志に折れたのか。

 コニたんはしぶしぶだけどこの作戦を受け入れてくれた。

 

 さて、折角私を信じて任せてくれたんだ。

 期待にそえるように、ちょっくら本気出してきますかね。

 

 ――決行は今夜二十四時。

 チャンスは一度きり。

 必ず、成功させてみせる。

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