戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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本日二話目

リア10爆発46さん、どらいばーさん、誤字報告ありがとうございます!


六話 逆光

 私の眼前には、近未来的な装置が立ちふさがっている。

 存在を秘匿された、空白の場所。

 緑色の液体を内包した機械に、白い怪物が閉じ込められていた。

 さあ、物語を始めよう。

 

「聞こえる?」

 

 私は培養器の外側から、その化け物に問いかけた。

 前回来たときは姿だけ確認してすぐに帰っちゃったからね、このポケモンが覚醒しているかどうか分からず仕舞いだったのさ。

 機械に手をあてて、じっくりと観察する。

 その時、白い怪物の、長らく開かれることのなかった瞼が開かれた。

 

『お前は……誰だ』

 

 そんな声が聞こえた。

 私は慌てて周囲を見渡す。

 誰も居ないと踏んでいたが誰かいたのだろうか。

 そんな焦りが生じ、首筋に大きな汗が噴き出した。

 

『どこを向いている、こっちだ』

 

 私に声を掛けてきたのは、機械に閉じ込められているポケモンだった。

 人語を介すポケモンに、少しだけ驚いた。

 けれども、幻のポケモンミュウから作られたポケモンならありうるかと考え直した。

 

「夜分遅くにごめんなさいね。私は……メア。トキワシティのメア」

 

 どちらで名乗るか、少しだけ悩んでメアと名乗った。

 あの日、決別したはずだろう。

 この世界に、マサラタウンのメアリーはもう存在しない。

 

「あなたは、ミュウツーで合っているかしら?」

 

『ミュウツー……そうだな。貴様ら人間は私の事をそう呼んでいた』

 

 思ったより会話が成り立っていることに違和感を覚えた。

 ミュウツーは、その凶暴性から捨てられたんじゃなかったのか?

 私が聞いていいか悩んでいると、ミュウツーから話しかけてきた。

 

『それは貴様らが勝手に作り出した絵空事だ』

 

「え、何? 思考読めるとかそういう感じ?」

 

 無いわー、そんなの交渉の余地すらないじゃん。

 こっちの切り札が最初から見えているっていうことでしょ?

 ミュウツーがフッと笑った。

 なんとなく馬鹿にされた気がしないでもないけど、きっと気のせいだろう。

 

「はあ、折角身構えてきたのに無駄だったってことね。それで? 返事を聞かせてもらえる?」

 

『ふっ、断るさ。先ほど言った通り、私は残虐性とは無縁なのでな。無駄な殺生をするつもりはない』

 

「……あなたを今現在、こんな目に遭わせている相手であっても?」

 

『どんな相手であっても、だ』

 

 うーん、これはちょっと予想外だ。

 だれだよミュウツーが凶暴な性格だとか言ったやつ、見つけ出してぶん殴ってやる。

 

(さて、それはさておき厄介なことになったな)

 

 ミュウツーを引き込めないとなれば、計画が頓挫する。

 普段なら二重三重に次善策を用意しておくが、今回の場合は筋道が細すぎる。

 スーちゃんの流星群で施設を破壊するという選択肢もあるが、そうすると今度は被害者面して救出されるという選択肢が取れない。

 いやー、それでもやるしかないか?

 

『貴様ら人間はいつもそうだな。身勝手で、傍若無人で、独善的。いつも自分の事を優先している』

 

「いやいや、相手が人間ならそれなりの対応を取るよ。でも結局のところロケット団は潰すべき相手だし」

 

『善だろうが、悪だろうが、生きている相手ではないのか? それを淘汰するお前は、何を以て正義を振り翳すのだ?』

 

 ミュウツーの問いかけに、私は少し悩む。

 私の正義とは何か……か。

 

「陽に照らされて、月は輝く。けれどその陽射しは必ず影を生み出す。この世界は、秩序という陽に照らされていて、抗う術を持たない人たちは影を背負って生き続けなければいけない。そんな人の影を掬い上げる」

 

 狂った世界に望まずに生まれ、抗う術無く囚われる人たち。

 そんな人を抑圧から解放する。

 誰もが自由意思のもとに行動できる世界。

 

「それが私の正義」

 

『……なるほど。しかしお前は結局、別の影を生み出すことになるのではないか?』

 

「さて、どうでしょうね。どちらにせよ、行動を起こさなければ願いを手繰り寄せることもできないわ。だから私は進み続けるの」

 

 理想としては、私がすべての影を背負うことか。

 だけど、私の死後はどうなるのだろうか。

 また別の、次代を担うものが背負っていくのか。

 それとも消えることは無く、残り続けるのか。

 まあ、そんな先の事を見据えても仕方がない。

 

『狂っているな』

 

「さて、どうかしらね。時代が進めば、狂っていたのは世界の方だったってなるかもしれないわよ」

 

 さてと。

 それじゃあお暇しますかね。

 無駄に時間を食ってしまった。

 計画は一から練り直しだ。

 入り口に向かって歩き出そうとする私を、ミュウツーが呼び止めた。

 

『待て……気が変わった。私も……私の好きなように生きたい』

 

 だから頼む。

 そうミュウツーが頭を下げた。

 

『私をここから出してくれ』

 

「……どういうつもり?」

 

 少し離れた場所から問いかける。

 

『私は、ずっと考えていたのだ。私は何故ココに在るのかと。ココに在っていい存在なのかと』

 

 ミュウツーが空を仰ぐ。

 当然、天井がそれを塞いでいて、星の一つも見えやしない。

 

『ここに来る前に、月というものを見た。綺麗だが、陰っていた。私は思った。私はこの月の、影のような存在なのだと』

 

 ミュウツーの独白は続く。

 私はそれを、ただひたすら聞いていた。

 

『私はミュウから作られたコピーだ。ミュウを光だとするのならば私は影。日の目を見ることなく、ひっそりと生涯を終える。それが私なのだと思っていた』

 

 ミュウツーが空に手を伸ばす。

 培養液にはきっと、ミュウツーの力を制限する物質が含まれているのだろう。

 その動きは緩慢で、重苦しい。

 

『だが同時にこうも思っていた。そんな一生に、一体何の価値があるのかと。何のために在るのかと』

 

 力無くも、伸ばした先の拳を握り締める。

 月をつかみ取るように。

 

『もし、本当に。お前の掲げる理想をお前が貫くというのなら、まず私を解き放ってくれ』

 

 ミュウツーがそういう。

 私はそれに、笑って答えた。

 

「それが君の意思だというのなら、私はそれを尊重するよ」

 

 ボールに手をかけ、スーちゃんを繰り出す。

 機械とか難しいことはちんぷんかんぷんだ。

 どのボタンを押せばいいとか悪いとか、まったくわからない。

 なら、すべて壊してしまえばいい。

 

「スーちゃん、熱風」

 

 スーちゃんの怒号が響きわたる。

 この部屋の気温が一気に上がる。

 様々な精密部品がショートを起こし、漏電を開始する。

 あちこちでスパークがはじけ、次いで小規模の爆発が起こる。

 

「スーちゃん」

 

 そうして最後に指示を出す。

 ベノムショックとベノムトラップ。

 二つの異なる、特殊な毒液を配合した溶解液。

 

「強化ガラスだろうと知ったこっちゃないね。お願い」

 

 スーちゃんが放った毒液は、培養器をあっという間に蒸発させた。

 そこから緑の液体が流れだし、ミュウツーに自由が与えられる。

 

『ああ、懐かしいな。そうだ、これが世界だ』

 

 ミュウツーは手を握ったり、首を捻ったりして可動域を確認している。

 そうして私に向けて手を差し伸べた。

 

 ……その手を取ろうとして、私は飛び退いた。

 

「どういうつもりかな?」

 

 先ほどまで私がいた直線上の床が削り取られていた。

 まるで鋭利な刃物で切り裂いたかのように。

 今このポケモンは、私を殺すつもりで攻撃してきた。

 

「さすがにちょっと予想外なんだけど。さっきの話は嘘だったっていうこと?」

 

 もともとリスクは承知の上での作戦だった。

 こちらの思考が読まれるという想定外の事は起きたが、結果的に私の手助けをしてくれるという話じゃなかったのか。

 そう思い、私はミュウツーに問い掛ける。

 

『お前には感謝している。先ほどの言葉にも、嘘はない』

 

 ただ、と。

 ミュウツーはそう前置きをしてこう言い残した。

 

『誰が私を生めと願った。誰が私を作れと頼んだ。私は私を生んだ人間たちを許さない。お前がロケット団全てを悪とみなすというのならば、私は人間すべてを悪とみなす。たとえ恩人であろうとだ』

 

「無駄な殺生はしないんじゃなかったの?」

 

『必要とあれば殺しだってしてみせるさ』

 

 これは攻撃でも宣戦布告でもない。

 そうミュウツーが、高らかに宣言する。

 

『私を生んだ貴様らへの逆襲だ』

 

「ははっ」

 

 笑えない状況に、笑みが零れてくる。

 久しく感じていなかった、死に対する恐怖。

 今、私のすぐ隣には死が待っている。

 手ぐすね引いて、今か今かと待ち望んでいる。

 

 絶対に敵わないような強者を前にして、私は嗤った。




理性に狂気をぶち込んだもの→メア
狂気に理性をぶち込んだもの→ミュウツー
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