戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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本日二話目


虚夢の章 狂

 私は、どうすればよかったんだろう。

 そんなことを、何度となく考えた。

 思い返してみれば、いつだって私に選択の余地はなかった。

 悩む余裕もないほどに、切羽詰まっていた。

 

 弟分を守ったことに後悔はない。

 紆余曲折あったが、スーちゃんを守ったことに後悔はない。

 後悔はない、その言葉に嘘はない。

 けれど、弟分を庇わなければ腕にこんな醜いけがを負うこともなく、スーちゃんを見捨てていれば私は指名手配されることは無かった。

 私のとった一挙手一投足は、着実に私の首を絞めて行った。

 

 私は無力だった。

 この狂った世界の波に流されることしかできない、非力な人間だった。

 サカキに声を掛けられて、力を望んだ。

 他に選択肢はなかった。

 

 ニューアイランドに隔離された。

 脱出手段なんてなかった。

 リスク承知の上で、脱走を画策するしか道はなかった。

 コーニッシュの言葉を無視して、独断で実行した。

 

 私はいつも自分で行動を選んでいるつもりだった。

 けれどいつだってその選択肢は押し付けられたもので、そうする以外に道がない物ばかりだった。

 それでも自分に嘘を吐き続けてこられたのは、大事なものを守れたという誇りがあったからだ。

 その誇りは、儚くも砕け散った。

 

 あの時私が、戦いにのめりこんでいなければ。

 コニーの出現にいち早く気づけていれば。

 あるいはコニーが犠牲になる必要はなかったんじゃないか。

 そんな思いだけが、ぐるぐる、ぐるぐると駆け巡る。

 

 手の中に握りしめられているのは、ルクシオの入ったモンスターボール。

 今はもういない、彼女に思いを馳せる。

 

「コーニッシュ……」

 

 見たくない現実が、認めたくない真実が私を責め立てる。

 コニーが死んだのは、私のせいだと。

 今でも分からない。

 どうしてコニーは、私なんかを庇ったんだろう。

 

「お前があいつの事を好いてしまった偶然、あいつがお前の事を好いてしまった偶然。二つの偶然が奇跡的に重なっただけだ」

 

「……サカキ」

 

 先日のミュウツーの暴走で壊滅した施設。

 私の部屋だけは無事だった。

 あの時、私の部屋にはコニーがいた。

 危険が及ばないようにと、無意識に避けていた。

 

 そんな私の部屋に忍び込んだ男は、ロケット団のボス、サカキだった。

 

「ミュウツーの捕獲、ご苦労だった」

 

「あんた、ここまで全部計算済みだったでしょう」

 

「さて、なんのことかな」

 

 白々しい。

 なにが二つの偶然が奇跡的に重なっただけだ。

 全て、あらかじめ筋道が立てられていたんだろう。

 

 私が平凡から抜け出すように、脱走を試みること。

 そこに少女を押し付けられて、私が情を抱くこと。

 そして少女もまた、私に好意を持つこと。

 一見秘匿しているように見せかけてガバガバの秘密の部屋。

 すべては必然だ。

 そう考える方が、よっぽど尤もらしい。

 

「勘違いしているようだが、私は切っ掛けを作ったにすぎん。そこから先は本当に偶然だ」

 

 具体的に言えば、お前とあいつをここに送ったことだなとサカキは言った。

 それ以外は、私たちの選択に過ぎないと。

 

「お前が牙を失い服従してもよかった。お前が情を無くしていてもよかった。お前がミュウツーにたどり着かなくてもよかった」

 

 すべては偶然で、この未来を選んだのは私だとサカキは言う。

 

「まあ、お前が生きていてよかったがな。その点で、コーニッシュがお前に好意を抱いたのは嬉しい誤算だった」

 

「……そうかよ」

 

 空を仰ぐ。

 天井がそれを塞ぎ、青の一つも見えやしない。

 

 結局私は、何も選べていなかったのだ。

 いや、どう行動したとしても、サカキにとってプラスに働くように仕組まれていた。

 ロケット団として教育されても、バトルマシーンとなっても、ミュウツーを私が捕獲しても。

 全て、サカキが得するようになっていた。

 

 いや、一つだけあったか。

 サカキにダメージを与えられる方法が。

 私がミュウツーに、倒されていた場合だ。

 

 この場合なら、ミュウツーはロケット団の手から解き放たれ、サカキは私を失うことになる。

 あいつの手札を二枚、捨てさせるチャンスだったのだ。

 少しだけ、コーニッシュが守ってくれたこの命が恨めしかった。

 

「さて、ミュウツーはこちらが預かっておく」

 

「ほらよ」

 

 私はミュウツーのボールを放り投げる。

 開閉スイッチは押していないので、ただのキャッチボールと同じだ。

 サカキはそれを右手でワンハンドキャッチした。

 

「ふむ、いいのか? そんな簡単に手放して」

 

「いいんだよ。そいつがいると、心がざわつく」

 

 どうして身内を殺した相手と一緒にいられるだろうか。

 いや、いられない。

 私は一秒でも早くこのポケモンを手放したかった。

 野生に放つよりかは、サカキのもとの方がまだ安心できるだろう。

 なんだかんだこいつ、リスク管理がうまいみたいだからな。

 

「なるほどな。さて、次の指令だ。お前にはカントー各地のジムバッジを集めてもらう」

 

「……私が素直に聞き入れるとでも?」

 

「まさか。お前は無償では働かんだろうさ。だからこそ手元に置いている」

 

 良く分からない指示だが、各地のバッジを集めるということはある程度の自由があるのだろう。

 そうすれば私は、当然逃げ出す。

 それを分かっていながら、どうしてそんな指示を出すというのか。

 

「バッジエネルギー増幅器は知っているか?」

 

 そうサカキが問い掛けてくる。

 私が首を横に振ると、だろうなと言った後こう続けた。

 

「読んで字の通りだな。トレーナーバッジにはそれぞれ、特殊なエネルギーが内包されている」

 

 ポケモンのステータスを補強したり、他人のポケモンが言うことを聞くようになったりな。

 そう続ける。

 

「そういったエネルギーを増幅させる装置が、バッジエネルギー増幅器だ」

 

「それで?」

 

 いまいち話が見えてこない。

 何だ? こいつは何が言いたいんだ?

 

「そのエネルギー、どのように扱えると思う?」

 

「……そんなの、できるわけがないでしょう」

 

 ようやく話が見えてきた。

 今の私が、つい受諾してしまうような甘言。

 そんな切り札をサカキが持っているとしたら、そして切ってくるとすれば。

 それは間違いなく、死者の蘇生だ。

 

「そんなの、許されるはずがない」

 

「私は何も言ってないぞ?」

 

「言わなくても分かるわよ。あんたは『死者の蘇生だ』という。当然、根はあれど葉はない虚構」

 

 私が指摘すれば、サカキは笑みを浮かべる。

 手札を一つ潰したというのに、この男にとっては痛手ではないということか。

 いや、私がこいつの思考をトレースできたように、こいつも私の思考をトレースしているのか。

 

「それなら、やめておいてもいいぞ?」

 

 ほら来た。

 その誘いは、乗る必要がないものだ。

 いわば詐欺のような、あるいは無賃労働のようなものだ。

 だけど私は、それを断ることはできない。

 

「やるよ」

 

「ほう? 死者の蘇生はできないんじゃなかったのか?」

 

「論理的にはね」

 

 そう、普通に考えてできるはずがない。

 だけど、僅かばかりでも可能性があるのならば、私はそれに縋るしかない。

 根があるのなら、葉もあるのではないかと思わずにはいられない。

 たとえそれが、虚数の彼方にしか存在しない可能性だったとしても。

 だからこそ、サカキはこう問いかけたのだ。

 やめておいてもいいぞ、と。

 

 私が断れないことを知っていて、口では否定しておきながらも希望を抱いていることを知って。

 あえて希望をちらつかせ、その希望に縋らせる。

 ああ、こいつは紛れもない悪だよ。

 

「さて、それはお前が嫌うロケット団に所属し続けることになるがいいのか?」

 

「構わないね」

 

 バッジなんて、あっという間に集めてみせる。

 そしてコニーの蘇生を試みて、失敗すればその時抜ける。

 それで十分間に合う。

 三年も待ったのだ。

 たかが数ヶ月、今更誤差の範囲でしかない。

 

「敢えて狂うことも厭わない。そんな正義を極めてみせる」

 

 覚えておきなさいと、サカキに言い渡す。

 サカキは満足そうに笑い、私たちはニューアイランドを後にした。

 

 久しぶりに踏みしめた、カントーの大地。

 トキワは、何も変わらなかった。

 

 トキワは緑、永遠の色だったか。

 私が指名手配されて、三年ほど経過している。

 いつまでも厳重な警備を敷いていられないし、私がトキワにいないことは分かっただろう。

 既に警戒態勢は解除されていた。

 

「さて、トキワのジムバッジは別に要らないとして、どういう順番で巡ろうかね」

 

 忘れているかもしれないが、トキワのジムリーダーはサカキなのだ。

 故にトキワのジムバッジを入手する必要はない。

 ならばニビ、ハナダと北の方から攻め落としていくか。

 ある程度脳内で旅路を決めて、トキワの森へと進みだした。

 

「ういーっ! ひっく……待ちやがれ! わしの話を聞け!」

 

 酔っ払いの、そんな声が聞こえた。

 真昼間から酔いつぶれるとか、世界は終わっているな。

 話から察するに、誰かが酔っ払いに絡まれているのだろう。

 かわいそうにと思いながらも特に気には留めず、私はトキワの森へと足を進めた。




というわけで二区切り
一章の赤の章と繋がります、ヒロインはコニーではなくレッドだからね

・補足
R団はミュウツーは閉じ込めることに成功したものの、捕獲はできていなかった。
自らに危険が及ばない方法で捕獲することを考えメアが派遣された感じ。

/*裏設定的な何か*/
コニたんの名前について
モデル:
ロバート・E・コーニッシュ
18歳で米カリフォルニア大学バークレー校を卒業、22歳で博士号を取得。
死者の蘇生に注力し、実際に死後間もない犬の蘇生に成功したと言われている。
とある死刑囚を用いて人体での蘇生も試みたがこちらは失敗したと言われている。

コニたんの性格について
メアたんの狂気を出したいと思い、至って普通の常識人と対比させたかった。そのため作中随一の一般常識人となっている。けれども実際にはこいつが出てくると他の団員と絡めないわメアちゃんと相思相愛になるわですごく扱いに困った。

コニたんの容姿について
ご想像にお任せします。

さて、次回更新はいつになるやら。
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