戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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三話 お転婆人魚

「待ってくれ! 見つけた化石はやる! だから、見逃してくれ!」

 

「あはは、面白いこと言うのね」

 

 お月見山の、地下二階。

 ごつごつとした岩肌、でこぼこの地面、岩からしみ出した水。

 自然が生み出したというべき美しき光景に、一つの色を付けくわえる。

 すべての調和を無に帰すその色の名前は、狂気。

 

「化石なんてあなたを倒した後で貰えばいいじゃない。そんなことが交渉材料になるとでも思っているの?」

 

「いやだ、助けてくれ。どうしてこんな……」

 

「どうして? ふふっ」

 

 妖艶に笑う。

 洞窟が持つわずかな光量が、床で乱反射した光が、私の顔を下から照らす。

 

「私が私で、あなたがロケット団だから。それ以上に理由が必要かしら?」

 

「ああああああああ!」

 

 断末魔が一つ。

 お月見山という閉塞的な空間にこだました。

 

 そんな悲鳴を聞き流し、私は上を目指した。

 光が差している。

 出口だ。

 

「くぅー! また一つ正義を執行してしまった」

 

 お月見山を抜けた先、眼前には草原が一面に広がっている。

 久々の空の下、私はそんなことを一人呟いた。

 ニビで見かけたロケット団達は、町できいた話通りお月見山にいた。

 そいつらを片っ端からは千切っては投げ、全員戦闘不能にしておいた。

 因みに化石は奪ってない。それをしたらただの泥棒と同じだ。

 

「それにしても、化石の復元……ね……」

 

 あいつらの話の中に、興味深いものがあった。

 それは化石から、古代のポケモンを復元するというものだった。

 もし、もしもだ。

 もし本当に、そんな技術があるのだとしたら。

 

(それは、死者の蘇生と幾ばくの違いがあるのだろう?)

 

 嫌になる。

 早く私に、現実を突きつけてくれればいい。

 そうすれば、負うダメージも最小限で済むだろう。

 だがしかし、世界は私に可能性ばかりを見せつける。

 

(期待したって、縋ったって、どうせ裏切られる。願えば願うほど、思えば思うほど、私は深く傷つくだろうに。それなのに何故)

 

 私は、諦めきれないんだろう。

 

 理性が私を引き留めようとする。

 今度こそ本当に、壊れてしまうと。

 だけど、それでも私は、止まることができない。

 壊れかけのブレーキでは、私を制御しきれない。

 

「コニー」

 

 そんな言葉が零れ落ちた。

 

(待ってて。すぐに、君を取り返して見せるから)

 

 不可能だと言いながら。

 それでも私は願い続ける。

 

 空を仰いだ。

 雲一つない青空が、一面に広がっていた。

 それは空っぽの私をあざ笑うようで。

 私は少しだけ、空しくなった。

 

「なにこれ、プール?」

 

 私はハナダシティのジムに来ていた。

 いや、来たはずだった。

 しかし、私の目の前にあるのは、どう見てもバトルフィールドではなくプールだった。

 私はジムに行こうとすると別の施設に入ってしまう、そんな呪いでもかかっているのか?

 

「あなたは挑戦者?」

 

「はい?」

 

 どうしたものかと、一度外に出て確認しなおそうと思った時だった。

 プールサイドの反対側から彼女は現れた。

 オレンジ色の髪をサイドテールに結び、競泳着を纏った彼女。

 それはまさしく、水泳選手だった。

 

「すみません、間違えました」

 

「あ! ちょっ!」

 

 とてとてーと、建物から出る。

 んん?

 やっぱりこの建物がジムだと思ったんだけどな。

 構造的にニビやトキワにあるのと同じ感じだし。

 此は如何に。

 そう思っていると、彼女も建物から出てきた。

 

「ちょっとあんた、ジムに挑戦しに来たんじゃないの?」

 

「え、そうですけど」

 

 私は眉をひそめる。

 やっぱりここがジムであってるのか?

 どう考えても水泳場なんだが。

 

「私がこのハナダシティのジムリーダー。お転婆人魚のカスミよ!」

 

「うわぁ、お転婆人魚って……」

 

「声に出して引くな!」

 

 おっと失礼。

 というより、ジムリーダー?

 

「ここはジムであってるの?」

 

 そう、結局大事なのはそこだけだ。

 私は小首をかしげて質問する。

 カスミはすこし得意げに頷いた。

 

「そう、これこそがハナダジム。水上が舞台という画期的なバトルフィールドよ!」

 

「いや、絶対プールが目的でしょ」

 

 飛び込み台とかあったし、塩素の匂いがしたし。

 絶対私利私欲に従って生きてるよこの人。

 タケシと違って気が合わなさそうだ。

 

「というより、自分のフィールドで弱者をいたぶるってことでしょ? ないわー」

 

「あんたね……」

 

 タケシは正々堂々と戦っていたぞ!

 タケシを見習え!

 

「いいわ、私に挑むつもりだったんでしょ? バッジはいくつ? すぐに相手してあげるわ」

 

「一個、手持ちは二匹。ついでに水を抜いといてくれれば……」

 

「抜かない!」

 

 ちぇ。

 しかし参ったな。

 これだとルクシオの足場がない。

 どうやって戦わせればいいのやら。

 

(ん? 逆か?)

 

 この後の試合展開を予想しながら私とカスミは、再びジムに入って行った。

 

「あなたはポケモンを捕まえて育てるとき、何を考えてる?」

 

 ジムの中を歩きながら、向こう側からカスミが話しかけてくる。

 何を考えてか……、難しいな。

 そもそも私の主目的はバトルであって育成じゃない。

 ならば勝つことを考えて育てているのか?

 いや、育っていないポケモンで勝つ手段を模索することも好きだ。

 何を考えて、ポケモンを育てるかねぇ。

 私がうんうん唸っている一方で、カスミは言葉を続ける。

 

「私のポリシーはね、水タイプのポケモンで攻めて攻めて、攻めまくることよ!」

 

「育てるときの考えじゃないッ!」

 

「うるさいッ! カモン、マイステディ!」

 

「あの口を黙らせて! コニー!」

 

 カスミがヒトデマンを、私はルクシオを繰り出す。

 ん? ヒトデマン?

 

「ヒトデマン? なんでスターミーじゃないの?」

 

「あんたバッジを一つしか持ってないんでしょ? 手加減ってやつよ」

 

 ああ、そういえばタケシもそんなことを言ってたな。

 バッジの個数に応じて調整するとかなんとか。

 うーん、じゃあこのジム戦はあんまり期待できないかな。

 

「コニー、放電」

 

 私の意図を正しく理解したコニーが、プールの水に向かって電気を放つ。

 純水ならばともかく、塩素という不純物の混じった水ならば電気をよく通す。

 そしてヒトデマンはプールにいる。

 

(回避しようとするのならば、空中に逃げなければいけないけど。どうする? ジムリーダーさん)

 

 空中に逃げるのならば、そこを狙い打てばいい。

 だがもし、逃げないというのならば。

 

「ヒトちゃん! ミラータイプ!」

 

 プールに電気が走る。

 水面がバチバチと光輝いたが、ヒトデマンは大したダメージを負っていなかった。

 

「水タイプ使いが電気や草の対策をしていないとでも? ヒトちゃん! お返しよ!」

 

 ヒトデマンが10万ボルトを放つ。

 まるで電気タイプが放ったかのように、その攻撃は鋭く重い。

 否、まるでではなく、ヒトデマンは今電気タイプになっている。

 

 カスミが先ほど指示したミラータイプ。

 これは相手と同じタイプになるという効果がある。

 ルクシオのタイプは電気タイプ。

 電気の技は電気タイプに余り効かない。

 だからこそ、放電をヒトデマンは耐え切った。

 

 ならばなぜ、カスミは電気タイプに向かって10万ボルトを放ったのか。

 簡単だ、こちらを侮っている。

 

 もし私がミラータイプという技を知らなかったら?

 放電を受けてコロっとしているヒトデマン。

 水タイプらしからぬ威力の電気技。

 吸収され、倍返しにされたのかと混乱するだろう。

 つまりこれは、盤外戦術だ。

 

「あまり人を、見くびらないで欲しいわね」

 

 小さくそう呟いた。

 反対サイドのカスミには到底聞こえないだろう。

 ルクシオに目配せを行う。

 これだけわかりやすい状況、わざわざ指示をする必要もない。

 

「どう? 私のヒトデマンの一撃は」

 

「そうね。よく考えられていると思うわ。……けれど」

 

 10万ボルトの煙が晴れる。

 黒煙を切り裂いて、ルクシオが走り出す。

 その身に、膨大な電気を纏って。

 

「それじゃあまだ足りない」

 

「! ヒトちゃん!」

 

 本物を見せてやれ。

 ルクシオが、空中から極光の一撃を振り下ろす。

 その一撃は、電気タイプのヒトデマンを、ただの一撃のもと葬り去った。

 

「まさか、どんな火力しているのよ……」

 

「はぁ、ジムリーダーっていうのは自分の専門タイプ以外にはからっきしなのね」

 

 タケシもカスミも。

 自分の専門科目ならばいい線行っているのに、それを他のタイプに向けようとはしない。

 もったいない。

 

「コニーがただ何もせず10万ボルトを受けたと思う? 私が面食らって動けずにいると思う?」

 

 カスミはなかなかヒトデマンをボールに戻さない。

 やれやれ。

 盤外戦術を使おうとしている人が、そう簡単にこっちに主導権を渡しちゃダメでしょうに。

 

「見くびらないで欲しいわね。コニーには受ける直前に充電を指示してあった」

 

「そんなっ! それじゃあヒトちゃんの10万ボルトは!」

 

「うん。利用させてもらった」

 

 カスミは倍返しを演出した。

 ミラータイプという技を用いることで。

 私は、実際に倍返しを行った。

 充電という技を駆使することで。

 

 同じ戦略、同じ戦術。

 だがしかし、練度は大違いだ。

 これが本物だ。

 

「ふふっ、なかなかやるじゃない。でも、今度はそう簡単にはやられないわよ。 お願い! スタちゃん!」

 

 カスミがヒトデマンをボールに戻す。

 続いて繰り出されたポケモンはスターミー。

 

「スタちゃん! サイコキネシス!」

 

「コニー」

 

 スターミーからこちらに向かって、空間が歪む。

 それをかき消せと言わんばかりに、コニーに指示を出す。

 コニーが吼える。

 所詮念なんて不確かな存在だ。

 それを超える気迫と覚悟で臨めば無も同然。

 

「くっ! スタちゃんもう一回!」

 

「コニー」

 

 同じことを繰り返す。

 スターミーのサイコキネシスを、コニーが叩き伏せる。

 だめだめ、そんなのじゃ。

 むしろ、手遅れになるよ?

 

「くっ、本当は命中不安で使いたくなかったけど仕方ない。ハイドロポンプよ!」

 

 そうして放たれたのは、水タイプでも屈指の威力を持つハイドロポンプ。

 けれどその水圧は、ひどく弱弱しいものだった。

 そんな貧弱な水流を前に、私は指示を出す。

 

「切り捨てて」

 

 ルクシオが帯電し、水流に向かて飛び込む。

 水流がルクシオを飲み込むより早く、纏う雷が水を分解していく。

 そうして水源のスターミーの眼前まで迫り。

 ルクシオの一撃がスターミーを切り裂いた。

 

「そんな、ハイドロポンプの威力はこんなものじゃ……」

 

 戦闘不能になったスターミーを見て、カスミがそう呟いた。

 プールに飛び込む形になったルクシオは、犬掻きで遊んでいる。

 まあ少しくらい許してあげよう。

 たまには息抜きも必要だ。

 

「あんた、何をしたの?」

 

「ん?」

 

 ルクシオを保護者の様に見つめていると、カスミがそう問いかけてきた。

 

「スタちゃんのハイドロポンプは、あんなものじゃない。何かしたでしょ」

 

「さぁ? スターミーの鍛え方が足りなかったんじゃない?」

 

「ふざけないで! 私はジムリーダーよ? 自分のポケモンの調子くらい分かる!」

 

 うーん、この後タマゴについて聞こうと思ったんだけどなぁ。

 タケシさんや。

 どうにも私はこの人の事を信用できないよ。

 放置していい?

 

「……コニーが、ただ吠えているだけどと思いましたか?」

 

「……他に、何をしたっていうのよ」

 

 やっぱり、そういうことなんだろう。

 カスミはこの勝負中、殆どの場面で技を指示していた。

 唯一不明瞭だった技はミラータイプを使った後の10万ボルトだけ。

 指示を出すことのデメリットすら把握していない。

 

(前二人と比べれば、決定的に劣る)

 

 決めた。

 カスミに頼るのはやめよう。

 

「コニーがしていたのは吠えるではなく、バークアウト。相手の特殊攻撃を弱める追加効果を持った技」

 

 悪タイプの特殊技。

 悪の波動、ナイトバーストなどより威力が劣る分、優秀な追加効果を持った技だ。

 サイコキネシスを打ち消すと同時に、徐々にスターミーの火力を奪っていっていた。

 それに気付けないから、あんな痴態を晒すことになる。

 

「というわけで、ジムバッジはよ」

 

 私は手を出す。

 カスミは渋々と言った様子でバッジを渡した。

 水色に煌めく、ブルーバッジ。

 水滴を模した形をしている。

 

「ん、サンキュね」

 

「待ちなさい、これも」

 

 カスミはそう言って、技マシンをくれる。

 なんだ? ジムリーダーは挑戦者に技マシンを配るという決まりでもあるのか?

 まあくれるというなら貰っておこう。

 

「ん、またね。退屈しのぎにはなったよ、ハナダのお転婆人魚さん」

 

 背中に射殺すような視線を感じる。

 けれどそれじゃあ足りない。

 気迫だけじゃあ、私には届かない。

 

(ま、せいぜい強くなって私を楽しませてよ)

 

 私は次の街へ向けて、旅立ち始めた。




新作書きたい……でもまずこの作品を完結させるぞ。
あと何万字要ることやら……。
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