戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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グリーンと会う前にオレンジバッジは貰ってます。


六話 氷壊

 まだ日が昇る前。

 グリーンに置手紙を書き記し、センターのジョーイさんに預け、クチバを発つ準備をする。

 

「まさかグリーンに会うとはなぁ」

 

 正直予想外ではあった。

 予想外であったが、まあ想定の範疇だった。

 レッドが旅に出ているんだったらグリーンが出ていてもおかしくないというか。

 しかしまあ旅に出た動機は、予想外だったな。

 

「ポケモン図鑑……ねぇ」

 

 サカキに貰った黒い筐体を取り出す。

 ……似ている。

 グリーンが持っていた物と。

 

(オーキドとサカキが裏で繋がっている? いや、サカキはマサラの人間を嫌う発言をしていた。ここのラインはないと思う)

 

 私と初めて会ったとき、サカキは『マサラの人間にしては上出来だ』と言っていた。

 裏を返せば、典型的なマサラ人を見下しているということだ。

 オーキドはマサラを代表する人間だ。

 ここが繋がっている可能性は考えにくい。

 

(あれか、国際警察と同じ感じか)

 

 サカキは国際警察の情報を掴めていた。

 工作員がいて、情報を横流ししているというのが私の推測だった。

 同様に、オーキド研究所にもスパイを紛れ込ませている。

 そういったところだろう。

 

(あの子たちに、危険が及ばなければいいけれど)

 

 オーキド博士は、すごく人質にしやすいポジションにいる。

 私はオーキドに何の感慨もないが、グリーンが悲しむのは嫌だなとは感じる。

 行動を起こしたいとは思うが、私にとってマサラは近寄りたくない場所でもある。

 きっと父も、こういった理由でマサラに来なくなったのだろう。

 

(それにしてもポケモン図鑑、捕まえないと詳細が登録されないって……)

 

 私の持っている図鑑には、そもそも生態系に関する情報は載っていない。

 覚えるわざや特性、分類などは表示されるがそれだけだ。

 ルリリの時のように、データベースにないポケモンは調べられないし、生態系の詳細も表示されない。

 

(私の持っているこれは三年前の代物だから当然だけど、新型の図鑑は気にくわないわね)

 

 データを取るためだけにポケモンを捕獲する?

 お前らにとってポケモンってなんだ? 研究材料か?

 少なくとも、私がオーキドと和解する日は来ないだろう。

 

「出てきて、ルリルリ」

 

「ルッリィ!」

 

 つい先日タマゴから孵ったルリリ。

 なんと既に二段階進化していた。

 最初に進化してマリルになったときは驚いたよね。

 マリルに進化前があるとは……。

 現在確認されているたねポケモンには、全員進化前があるのだろうか。

 また一つ、世界になぞが生まれてしまった。

 

 さて、先ほど二段階進化したと言った。

 そう、既にマリルリになっていた。

 早くない?

 ねえ? 早くない?

 いいんだけどね。

 というわけでマリルリに乗ってクチバ沖を横断する。

 目指すはセキチクシティだ。

 

 マリルリになると同時にニックネームをルリリからルリルリに変更した。

 なかなか陽気な名前になった気がする。

 ルリリって音はあざとすぎて似合わなかったからね、ナイス判断だと思うよ。

 

 ちらっと隣の豪華客船に目をやる。

 ……ふぅ。

 私には縁も所縁もない場所だ。

 理由はどうあれ私はロケット団。

 私にこの船は、眩しすぎる。

 

 ……マリルリは凄いスピードで海を走る。

 ジェットスキーもびっくりだ。

 ふはははー、スゴイぞー!! カッコいいぞー!!

 テンション上げていこうぜ!

 

 夜までにセキチクに着ければいいと思っていたのに、これなら昼までに到着してしまいそうだ!

 さすがマリルリだ! 何ともないぜ!

 

 そんなこんなで、しばらく進んでいた時だった。

 急に肌寒くなってきたなと思ったら、突然吹雪きだした。

 

「ええ!? 何? 寒ッ!!? ルリルリ、アクアリング」

 

 水のベールで外気を遮断し、冷気を遮る。

 この水のドームの中は私たちの体温で、ある程度保たれる。

 これならまあ、問題ないかな。

 

「ギャーオ!!」

 

 吹雪が勢いを増す。

 その氷の風を引き裂いて、一匹のポケモンが現れた。

 

「……嘘でしょ?」

 

 アクアリングが凍り付く。

 流水の、アクアリングがだ。

 

 流水を凍らせるのは至難の業だ。

 そもそも熱というのは、分子と分子がぶつかった際に生じるエネルギーの漏れの事だ。

 流水の場合、運動エネルギーがあるため凍らせることが難しい。

 それを一瞬で凍り付かせた。

 

「……コニー」

 

 内側からアクアリングだったモノを突き破る。

 私たちがいた場所を除いて、海が凍り付いていた。

 

「ははっ」

 

 こんなことができるポケモン、カントーには一体しかいない。

 

「れいとうポケモン……フリーザー」

 

 絶望的な相手だというのに、私はそれに魅入られた。

 

「ギャーオ!」

 

「ッ! コニー!」

 

 ルクシオが私を咥えて戦線離脱する。

 私が立っていた場所には、巨大な氷柱が立っていた。

 

「あらら、何か怒らせるようなことしたっけなー?」

 

 そんな覚えないんだけどなー。

 伝説の鳥ポケモンさんは怒髪天のようだ。

 まあまあ棒が欲しい。

 

 取り敢えずさっさとお暇しよう。

 何を怒ってるのか知らないけど、多分縄張りを荒らしたとかそんなのじゃない?

 それなら縄張りから出ちゃえば大丈夫でしょ。

 と、思っていたのだが。

 

「くっ」

 

 フリーザーがその両翼をはためかせると、私たちの前に氷壁が現れた。

 別にこれくらいコニーなら壊せるけど、それはやらない。

 

「はーん、やろうっていうのか。私と」

 

 折角平和的解決を試みてやったのに、お前はそういう態度をとるのか。

 いいよ、やってやろうじゃんか。

 

「伝説だからって、調子に乗ってんじゃねえ!」

 

 まずはこの天候をどうにかしなければいけない。

 視界が悪いだけならともかく、徐々に体温を奪われていくのはまずい。

 この戦いだけならともかく、勝った後に遭難なんてシャレにならない。

 

「コニー、雨乞い」

 

 荒れ狂う吹雪を、雨で塗り替える。

 雨でも体温が奪われることに変わりはないが、雪よりましだ。

 無理に晴状態にすれば、今度は足場がなくなるし、これが精一杯だ。

 それに、短期決戦を仕掛けてしまえば問題ない。

 

「コニー、雷」

 

「ギャーオ!」

 

 ルクシオが雷を振り下ろす。

 フリーザーはそれを避けようとするが、無駄だ。

 なあ伝説の鳥よ、知っているか?

 当たるまで攻撃すれば、必中だ。

 

 本来ならば、そんな無理は通らない。

 エネルギーが絶対的に足りないからだ。

 しかし今、空中には雨雲がある。

 雹を多分に含んだ、膨大なエネルギーを持つ雲だ。

 エネルギー面の問題が解消されれば、無限に打ち出せる。

 

 無数に打ち付ける雷に、ついに避けることが叶わなくなったフリーザー。

 もう一度雷を指示しようとして、気づいた。

 

「ああ、羽休め……」

 

 羽休めは体力を回復する技だ。

 この雨が晴れるまで粘り、雨が止んだ瞬間に仕掛けようということだろう。

 

「コニー、雷」

 

 それを無視して雷を指示する。

 フリーザーがまた羽休めで回復し、もう一度雷を打ち下ろす。

 二度三度、そんなやり取りを繰り返した。

 おそらく、もうすぐこの雨は上がるだろう。

 だがしかし、その前に私の勝ちが決まる。

 

「ルリルリ、アクアブレイク」

 

 凍り付いた海の床から、フリーザーの真下から、マリルリが飛び出した。

 重い重い、一撃を以て。

 フリーザーが弾け飛ぶ。

 

「ウッルァ!」

 

 完璧な角度でボールを投げる。

 ジョウト地方で作られているという、ぼんぐりを使った特殊なボール。

 相手が重たいほど捕まえやすい、変わったボールの名は、ヘビーボールと言った。

 

 ボールが輝き、フリーザーが飲み込まれる。

 グラグラとボールが揺れる。

 やがてカチリという音とともに、その捕獲を知らせた。

 

「ふふん、雉も鳴かずば撃たれまい……ってね」

 

 今回の作戦はいたって簡単だ。

 マリルリはずっと、海中に潜んでいた。

 実は比熱比の関係から、空気中より海中の方が温かい。

 だからマリルリには海中にいるように指示していた。

 

 そう、戦闘中ずっと機会をうかがっていたのだ。

 

 ルクシオに雷でフリーザーを殴らせている間に、水中のマリルリには腹太鼓を指示。

 そうして極限までパワーのあがったマリルリに、必殺の一撃を放ってもらった。

 その時点ではまだ雨は止んでおらず、水技の威力が上昇する。

 これが伝説の鳥ポケモンを一撃で倒した秘密だった。

 

「はぁ、まったく。なんだってんだよー!」

 

 昼までにセキチクに着けなかったらどうしてくれんだよ。

 うがーっと空を見上げると、オスプレイのような飛行機が飛んでいた。

 

 ……なんとなく、中に乗っている人が分かる気がする。

 

「……メアか」

 

「チッ、何しにきやがったサカキ」

 

 ロープを伝い、降りてきたのはロケット団のサカキだった。

 

「ふん、伝説の鳥ポケモンフリーザーを追っかけていたのだがな。吹き荒れる雪風の為に近寄れなくてな」

 

「へー、そりゃ残念だったね」

 

 つまりあれか。

 フリーザーがおこだったのは、こいつらがストーカー紛いの行為をしたからか。

 そりゃ怒るよ。

 

「ああ、残念なことにこの周辺まで生体反応を確認できたのだが、唐突に消えてしまってな」

 

「ふーん。故障とは災難だったわね」

 

 サカキはこう言いたいのだろう。

 捕まえたフリーザーを渡せと。

 冗談じゃない、お前なんかに渡して堪るか。

 

「ああ、とんだ災難だった。ところでメアよ、コニーの遺体を、誰が管理しているか知っているか?」

 

「あ?」

 

 血管がぶちぎれる音を聞いた。

 

「お前ふざけるなよ、コニーの身に何かしてみろ。ただで済むと思うなよ?」

 

「フン、ならばどうすればいいか、お前なら分かるだろう?」

 

「お前……ッ」

 

 サカキの胸倉につかみかかる。

 勢いそのままに、氷上にたたきつける。

 マウントを取り、吐き捨てる。

 

「ふざけるなッ! どこまで人の尊厳を踏みにじれば気が済む! コニーは、道具じゃない!」

 

「……もう一度だけ言う。どうすればいいか分かるな?」

 

 白い息が零れる。

 私は、無力だ。

 いまだに理不尽に抗う術を見つけられずにいる。

 

「……フリーザー。捕獲しておきました」

 

「ご苦労だった」

 

 サカキの横にボールを置き、その場を立ち去る。

 悔しい。

 何もできない自分が。

 

「ああ、そうだ。メアよ」

 

「……何?」

 

 サカキに声を掛けられ向き直る。

 私はこいつに、今は逆らえない。

 

「お前が必死に助けようとしているコニーという奴は、お前がそうまでするほどの価値がある人間だったのか?」

 

「何を……」

 

「どうしてお前はそこまであいつに肩入れする? たかが数ヶ月ともに過ごしただけだろう? しかもあいつはロケット団だぞ? お前が嫌いな」

 

 だからこそ、と。

 サカキは言う。

 

「アイツに、それほどの価値があるのか?」

 

「……当り前よ」

 

「フッ、そうか。引き続き任務の方を頼むぞ」

 

 この心もとない流氷の上で、去っていく飛行機を見ながらひとり思う。

 

(コニーさえいなければ……)

 

 一人ならミュウツーを倒せた。

 一人ならロケット団から逃げ出せていた。

 一人ならこの理不尽に嘆くこともなかった。

 一人なら、一人なら……。

 

(コニーは、私にとっての何なの?)

 

 ずっと、支えだと思っていた。

 だがしかし、今となっては私を縛り付ける鎖でしかない。

 その足枷のせいで私は囚われ続けることになっている。

 

(……切り捨てるべき……?)

 

 私は、何をしたいんだろう。

 私は一人、寒空を仰いだ。




サカキィ! 氷に打ち付けられて大丈夫やったんか!?
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