戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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ジム戦どうあがいてもワンパターンになっちゃうからカット。


七話 See You

「ごめんなさい。ここから先には行かせられない」

 

 眼前の少年を、私は拒絶した。

 自分の利得の為に、彼を傷つけた。

 お面の向こうに見える少年の顔が、動揺に歪んだ。

 

「まさか、そんな……?」

 

 状況が飲み込めていない少年を前に、私はボールを構える。

 トレーナー同士、目と目があったらバトルは避けられない。

 どうしようもなく楽しかった高揚感は、今は感じられなかった。

 ただ空しく、ただ悲しく、ただ空虚だった。

 

「メア姉、なの?」

 

「……」

 

 私がそれに答えることはなかった。

 

 私はジムバッジを七つ集めた。

 毒使いのキョウを毒タイプのスーちゃんで圧倒し、炎使いのカツラをマリルリで封殺し、草使いのエリカを電気タイプのルクシオで撃破した。

 七色の天の証を、魃の如く倒して得た。

 ようやく、ようやくだ。

 やっと私は、私を受け入れられる。

 

「……来たか、メアよ」

 

「はいはい、やってきましたよっと」

 

 私は今、トキワジムの最奥に来ていた。

 そこにはサカキがいて、私を待ち構えていた。

 無造作にバッジの入った袋を投げつける。

 サカキは中身を確認して満足そうに笑った。

 

「行くぞ」

 

 腰を上げたサカキが、扉に手をかけそういう。

 私は問う。

 どこへ行くのかと。

 サカキは嗤い、こう答えた。

 

「先へだ」

 

 開けられた扉から日光が差し込みサカキを照らし、その影を私に落とした。

 

 その後、私はサカキとともにヤマブキまでやってきた。

 

 前に来たときはなかなか立ち入れなかったというのに、サカキと一緒というだけであっさり入り込めてしまった。

 これが顔パスというやつか。

 町の中をしばらく歩き、そこでようやく立ち止まった。

 この建物がお目当てのものだということだろうか。

 その建造物の全容を確認し、私は声を零した。

 

「シルフ、カンパニー」

 

 それは世界最大手の企業。

 モンスターボールをはじめとする商品を全世界に展開し、並ぶもの泣き富を築き上げる新進気鋭の大会社。

 そこが、ロケット団の本拠地……だと?

 

「来い。コーニッシュが待っている」

 

 サカキの言葉で、意識が引き戻された。

 そうだ、まずはコーニッシュの無事が先だ。

 先ほど同様に顔パスで入っていくサカキに黙ってついて行く。

 

(あっちもこっちも、ロケット団だらけ……)

 

 ロケット団が乗っ取ったというより、もともとロケット団のものだった。

 そう言われた方がしっくりくるほど異様な光景だった。

 まるでゴキブリだな。

 そんな感想を抱きながら私は後をついて行く。

 

 階段を上り、ワープパネルを駆使し、カードキーを使用して先へ先へと進む。

 もはや自分がどっちの方向に進んでいるのかもわからない。

 角を曲がる度に目印になる跡をつけ、脱出だけはできるようにしながら追いかける。

 やがて一つの部屋の前で、サカキが足を止めた。

 

「ここだ」

 

 私はおぼつかない足取りで、その扉に手を掛けた。

 息を飲むというのは、きっとこういう時のためにあるんだろう。

 一呼吸おいて刮目し、私は扉を開けた。

 

 ひんやりとした冷気が、私の足を攫って行った。

 足を踏み入れれば、吐息が凍りつき、白い煙を巻き上げた。

 

「……コーニッシュ」

 

 そこに在ったのは、見たことのない機械と、その中央に佇むコーニッシュだった。

 死化粧を施された彼女は、以前と何も変わらないように見えた。

 ともすれば、動き出すのではないか。

 そんな錯覚すら私に抱かせた。

 

「エンバーミングと言ってな、要するに死体を綺麗に保管するための技術だ」

 

 サカキがそういう。

 

「随分と気前がいいじゃん。どういった風の吹き回し?」

 

 善意? そんなはずがない。

 私が知るサカキという男はもっと独善的で、恣意的で、傍若無人だった。

 まかり間違っても気遣いなんてできる男ではない。

 奇妙な違和感を抱き問いかける。

 

 しかしその問い掛けは、サカキが答えることなく打ち切られた。

 サカキのケータイが鳴り響く。

 マナーのなってない野郎だ。

 出ればいいという意味を込め、小さくうなずく。

 

「私だ。……侵入者だと?」

 

 その言葉に、私はピンとくる。

 ナツメが予知した未来が、ここまで来たのだと。

 何度となく会いたいと願ったあの子。

 レッドが来たのだと。

 

「分かった、こちらで対処しよう。持ち場に戻れ」

 

 サカキが通信を切る。

 私に向き直り、当然のように口にする。

 

「メア、命令だ。侵入者がこちらに来ている。ここに入り込ませるな」

 

「……それを私が聞くとでも?」

 

「ああ、お前は喜んで聞き入れる。きちんと状況を認識してみろ」

 

 言われてこの部屋を確認する。

 なんだ?

 特に違和感はない気がするが……。

 

(違うッ、私は既に、経験している)

 

 部屋に入ったときの冷気。

 死体を保管するためだと思ったけれど、それ自体がカムフラージュだとすれば?

 そこに気付くと同時に、コーニッシュの影を凝視する。

 私の視線に気付いた影が、不気味に笑った。

 

「そのポケモンはポケモンタワーで捕獲したものだ。私の指示一つでコーニッシュを永遠に葬ることができる」

 

「サカキィィィ!」

 

 私はサカキに詰め寄った。

 襟を掴み上げ、声を荒げる。

 

「お前ッ! どれだけ人の尊厳を愚弄すれば気が済む!」

 

「人の尊厳を愚弄する……だと? それはお前も同じだろう」

 

 サカキの言葉に、思考が止まりかける。

 一瞬ののち意味を理解し、歯噛みする。

 

「死は生きとし生けるすべての命に与えられる、天からの贈り物だ。それを奪おうとするお前は尊厳を愚弄していないと言えるのか?」

 

「黙れ! そんな解釈なんざ必要としていない!」

 

「正当性の名のもとに横暴を働くお前。力の下に支配を企てる私。何が違う?」

 

「黙れ黙れ黙れ!」

 

 私は間違っていないんだ。

 おかしいのは、世界の方。

 今は謗られようと、罵られようと。

 いつか私が正しかったと語られるんだ。

 

「正義を振り翳せばすべてが許されると思ったか? 断言しよう。世界は俺たちに、そんな優しさを見せない」

 

「だったら……だったらッ! 私がしてきたことは何だったんだよ! 全部無駄だったっていうのかよ!」

 

 コーニッシュを助ける。

 そのために、その為だけに生きてきたというのに。

 それを望むこと自体が、間違いだったというのか?

 そんなの、認められるわけが……ない。

 

「無駄にしたくなければ、さっさと侵入者を退治して来い。それですべてが片付く」

 

 ……結局、私がしてきたことは、サカキと同じだったのか?

 あれだけ毛嫌いしていた奴と、私の本質は何も変わらなかったのか?

 善意のつもりで行ったすべては、偽善でしかなかったのか?

 

 パンクしそうになる思考を止めて、私は部屋を後にした。

 私は、どうすればよかったんだ。

 

 コーニッシュのためと思ったことは、コーニッシュを愚弄するものだった。

 どうすれば、どうすれば。

 問いかけても問いかけても、答えなんて出てこなかった。

 

 ゾロアのお面を取り出し、顔を隠す。

 フード付きのローブを被り、かの少年がやってくる時を待ち伏せる。

 一体どれほど時間が経っただろうか。

 数分だったような気も、数十分だった気もする。

 

(私に、出来る事……)

 

 何をなすべきなんだ。

 分からない、解らない。

 コーニッシュを掬うためにはあの子を止めなければいけない。

 コーニッシュを救うためにはサカキを止めなければいけない。

 どうすれば、どうすれば。

 

 そんな思考を切り裂くように、扉が開かれた。

 向こうから現れたのは、昔と変わらないあの子。

 赤い帽子に茶色い髪、赤い服に黒のシャツ、リストバンドにジーパンの少年は。

 マサラ出身の少年は。

 私の弟分で、ナツメの予言に現れる英雄は。

 名をレッドと言った。

 

「ごめんなさい。ここから先には行かせられない」

 

 眼前の少年を、私は拒絶した。

 自分の利得の為に、彼を傷つけた。

 お面の向こうに見える少年の顔が、動揺に歪んだ。

 

「まさか、そんな……?」

 

 状況が飲み込めていない少年を前に、私はボールを構える。

 トレーナー同士、目と目があったらバトルは避けられない。

 どうしようもなく楽しかった高揚感は、今は感じられなかった。

 ただ空しく、ただ悲しく、ただ空虚だった。

 

「メア姉、なの?」

 

「……」

 

 私がそれに答えることはなかった。




ナツメ「よっぽどのことがない限りは確定した未来」
なお、その未来にメアは存在していない模様。
→メアが存在していること自体がよっぽどのこと。
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