戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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九話 真贋心眼

 人を、殺した。

 この手で。

 そんな正義が、あっていいのか。

 いや、分かっている。

 私がやっていることは、きっと正義なんかじゃないんだ。

 

「あ……あぁ」

 

 その場に崩れ落ちる。

 ルクシオの入ったボールが零れ落ち、中からルクシオが現れる。

 コーニッシュのもとまで駆け寄ると、進化の光を身にまとった。

 やがて光がおさまると、中から現れたのはレントラーだった。

 

(私といた時は、一向に進化する兆しも見せなかったのに)

 

 こいつも、私の敵だったんだ。

 どいつもこいつも、私に歩み寄るだけ歩み寄って切り捨てていく。

 もううんざりだ。

 

 レントラーは私のもとまで来ると、ボールの開閉スイッチを壊した。

 その瞳に私を映し、興味を失ったように立ち去った。

 コーニッシュを連れて。

 

「ふむ、これでチェックメイトだ、メアよ。もう一度、今度は本当の意味で問おう。私の部下になれ」

 

「……誰が、あんたなんかの」

 

「分かっているのだろう? お前は、本質的には私と同じだということを」

 

 否定も肯定もせず、押し黙る。

 

「誰かのために何かを成せど、見返りを与えられるわけではなく、嫌われる一方だ。そんな世界のどこに希望がある? いやない」

 

 思考に靄がかかる。

 善悪を判断する能力にロックが掛かる。

 サカキの言葉に身を委ねれば、どれだけ楽になるだろうか。

 

「この世界は私たちの敵だ。お前がどれだけ身を粉にしても、最後に世界はお前を裏切る」

 

 甘ったるく、とても苦い。

 けれどその話は、私の心をつかんで離さない。

 

「選べ。世界に捨てられるか、世界を捨てるか」

 

「……私は」

 

 分かっているんだろう?

 自分はもう、どうしようもなく堕ちている。

 ならばサカキは、私の一番の理解者だろ。

 その手を取ればいい。

 それだけで、それだけでいい。

 

「私は! 自分の信じる道を行く!」

 

 伸ばしかけた手を、もう一方の手で叩き落とす。

 たとえ世界のすべてが敵になっても、私だけは私を信じる。

 誰かに私を委ねるなんて、絶対に許さない。

 

「スーちゃん!」

 

「愚かな。分かっているのだろう? サイドンの特性は頑丈。お前の攻撃を一度耐え、返しの一撃で倒せる」

 

「そんな常識、知ったことじゃない!」

 

 覆せ、これまでの前提を。

 貫け、これからの信念を。

 

 型破りで頑丈を貫けるならば、何か抜け道があるかもしれない。

 それを引き寄せろッ!

 

「駆け抜けろ! 極限の一瞬を!」

 

 私の信念にアーゴヨンは、必死に応えようとした。

 レッドの時よりも強力かもしれない一撃が、龍の形を成してサイドンに襲い掛かる。

 けれど、それだけだった。

 

 そんな奇跡、私に引き寄せられるわけがなかった。

 

 私は、主人公なんかじゃないんだから当然だ。

 

 サイドンの返しの一撃で、アーゴヨンが倒れる。

 マリルリのボールは、レントラーが壊していった。

 レントラーは私を見限って、去っていった。

 もはや私を守るものは、何もなかった。

 

「……最後のチャンスだ」

 

「お断りだね」

 

「……残念だ」

 

 サカキが私に忠告する。

 ただ生きるのではなく、良く生きる。

 何と難しいことだろうか。

 

 サイドンのドリルが私に向かってくる。

 世界が引き延ばされていく。

 死が歩み寄ってくる。

 もはや死に対する恐怖はなかった。

 

(ああ、なんだ。私はとっくに、死んでたんじゃないか)

 

 吸い込まれるように向かってくるサイドンを見つめていると、視界を白が埋め尽くした。

 

 硬い金属を、ドリルが削る音がした。

 

「な、んで。あんたがここに?」

 

 白い体。

 紫のしっぽ。

 尖った耳に、鋭い目つき。

 念能力で生み出したスプーンを私に突き出したそいつの名前は……。

 

「ミュウツー……?」

 

 サイドンが倒れ伏す。

 肩口から脇へと残る傷跡は、ミュウツーの得意技のサイコカッターだろう。

 こいつは、私を助けた……のか?

 

『久しいな、サカキよ』

 

「ミュウツーか。お前は、地下に閉じ込めておいたはずだが」

 

『二度同じ轍を踏むわけがないだろう。今回はきちんと対策をしておいた』

 

 私のアームカバーが、淡く光る。

 マーキング、ということか?

 

『私を倒したこいつが追い詰められるようなことがあるとすれば、それはお前に他ならないと思っていたぞ、サカキよ』

 

「ふん、お前ほどの力があるのならば小手先に頼らずとも、力に訴えればいいというのに」

 

『それは既に試した。もっとも、力では解決しないと学んだだけだがな』

 

 ミュウツーは膝を突いて私と対等な高さに視線を合わせた。

 そして、私に問いかけてきた。

 

『メアと言ったな。お前も学んだだろう。たとえ力を持っていても、一人きりでは勝てないということを』

 

 力を求めた。

 それは間違っていなかった。

 何を間違った。

 仲間を切り捨てたことだ。

 

『私はサカキを倒したい。お前はロケット団を倒したい。どうだ、共闘しないか?』

 

 ミュウツーの声は、サカキよりも心地よかった。

 だからこそ、私は恐れた。

 

「もう、嫌なんだよ……。誰かに裏切られるのも、誰かを見捨てるのも」

 

 一人にしてくれ。

 

「ふ、残念だったなミュウツーよ。メアがトレーナーであることを放棄したならば、お前は正式に私のポケモンとなる」

 

『メアよ、本当にそれでいいのか? お前はそれで、後悔しないのか?』

 

「後悔って、何かをしても、何もしなくても、どっちにしろ苛まれるじゃないか」

 

『……なら、行動してみせろ! もがき続けろ! そうしてダメだったら、その時悔いればいい!』

 

 頭を、強く揺すられた気がした。

 

『今諦めれば、確実に後悔する! だが足搔き続ければ、違う未来が待っているかもしれない!!』

 

「私は……」

 

 心臓が跳ね上がる。

 

『お前の信念は、そんな脆いものなのか!』

 

 慟哭を、あげた。

 

 空に向かって、吠えた。

 

「……やってやる。何度だって、何度だって立ちはだかってみせる!」

 

 踊る阿呆に見る阿呆。

 同じ阿呆なら踊らにゃ損損。

 やらずに後悔するくらいなら、やって後悔してみせる。

 

『よく言った。餞別だ』

 

 私の手元に、もう一つボールが送られる。

 それは私がかつて捕獲した、フリーザーだった。

 

「うん。来い、フリーザー!」

 

 戦いは激化した。

 シングルバトルならば、ミュウツーが優勢だっただろう。

 だがこの戦いは、ルール無用のバトルだ。

 サイドンを除くサカキの手持ち五匹対、ミュウツーフリーザーの戦いになっている。

 加えてフリーザーは岩タイプの攻撃が苦手だ。

 フリーザーが致命打を受けないように気を使いながら、立ち回る。

 サカキ相手に、無謀な戦いだった。

 

(ミュウツー、聞こえる?)

 

(メアか、何だ?)

 

 私の脳裏によぎったのは、ナツメとユンゲラーのコンビ。

 テレパシーでの意思疎通、ミュウツーならばできるんじゃないかと考えた。

 そしてそれは正しかった。

 

(隙を見つけ次第、自己再生を挟んで)

 

(……? まだ体力は十分だが?)

 

(スーちゃんを回復させる)

 

 かつてはミュウツーを仕留めるために使った戦略。

 『横取り』による、スーちゃんの疑似的な高速再生技。

 

(なるほど、分かった)

 

 狙い通り、隙を見てミュウツーは自己再生を試みてくれて、それをスーちゃんがすかさず横取りした。

 あとはスーちゃんにこっそり悪だくみを積んでもらって、隙を見て一掃する。

 それで行けるはずだ。

 

 しばらくして、上手く試合を運べていると思ったそのときだった。

 サカキが嗤った。

 

「アーゴヨンによる奇襲を狙っているな? そんなこと、お見通しだ。貫け、サイホーン」

 

「! スーちゃん!」

 

「ふはは、残念だったな」

 

「……本当に、残念だったわね」

 

 熱波が襲い掛かる。

 サカキのポケモン達を、飲み込んでいく。

 

「い、一体何が」

 

 サカキが動揺したとき、サイホーンが貫いていたアーゴヨンが煙になって溶けた。

 

「身代わり!?」

 

 かつては届かなかった。

 だが今度は、前回とは違う。

 

「無暗に力を付けさせたこと、向こうで後悔することね! スーちゃん、熱風!」

 

 敵全体攻撃の熱波が、サカキの手持ちに襲い掛かる。

 悪だくみを三回積んだ攻撃を耐えるべくもなく、一斉に淘汰した。

 

「……また、か」

 

「つれないわねサカキ、どこに行くつもり?」

 

 負けを自覚したサカキが、逃走しようとした。

 そんなこと、許すと思ったか?

 

「メアよ、次は私が勝つぞ」

 

 そう言って、サカキの存在が希薄になっていった。

 だから私は、呟いた。

 

「次なんて、あったらね」

 

 フリーザーに、指示を出す。

 足手まといでしかなかったフリーザーを、どうして庇っていたか。

 ただ一瞬、この一瞬のためだ。

 

「絶対零度」

 

 通常、殆ど当たらない一撃必殺技。

 当たれば死を回避することのできない技。

 それをサカキにぶち込んだ。

 

「そんな攻撃、当たるわけ……なっ!?」

 

 ただの絶対零度ならそうだろうよ。

 お前はフリーザーの強さを見誤った。

 

「戦いの最中、お前に心の目を使っていたんだよ。故に、絶対零度が外れることはない」

 

「ふざ、ふざけるなぁ!」

 

「恨み言は、向こうで聞いてあげるよ」

 

 私もあんたも、どうせ地獄行きだろうからね。

 

 サカキの悲鳴が、時空にこだました。

 サカキの遺体は、現代に残っている。

 ロードは失敗したということだろう。

 

「く、くはは」

 

 やった。

 私はついに、成し遂げたんだ。

 

「やった、やったやった! ついに私は、サカキを倒したんだ! ようやく、クリアしたんだ!」

 

「残念だが、ゲームオーバーだ」

 

 勝利の余韻に浸ろうとした私に、何者かが水を差した。

 音を立てて扉が開かれる。

 振り返るとそこに、見覚えのある顔があった。

 

「ああ、誰かと思えば、国際警察のハンサムさんじゃないですか? 今日も元気に税金を潰していますか?」

 

「ごく潰しにならないためにも、君を捕らえないといけないな」




メアはサカキにミュウツーを預けたが交換したわけではない。だから一応メアの手持ちのままだった。ニワトコの杖みたいな感じ。
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