戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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三話 勝利は一通りじゃない

「リラさん!」

 

「うぁぐ……」

 

 俺は慌ててリラさんに駆け寄る。

 リラさんの足は焼けただれていて、まともに歩ける様子ではなかった。

 

「あは、アハハ」

 

「お前ッ!」

 

 俺はコレを仕出かした彼女を睨みつけた。

 睨みつけて、見てしまった。

 彼女の背後にとりつく、その白いポケモンを。

 

「ウツロイド……!?」

 

 クラゲのような、少女のようなそのポケモンは、ウルトラスペースに住む異界の生命体だった。

 ウツロイドは寄生ポケモンに分類され、様々な逸話が残っている。

 

 曰く、寄生された人が暴れ出した。

 曰く、超刺激的な覚醒作用のある強力な神経毒を持つ。

 曰く、ウツロイド達を守るように宿主の意識を誘導する。

 

 とにかく、ウツロイドに寄生されるというのは非常に危険なことなのだ。

 そして目の前の少女は、寄生されている。

 

「うぅ……サン君」

 

「あれ? 意外と元気なんだね。そうだ、お姉さんもこっちにおいでよ。ここは心地がいいから」

 

 そう言って彼女はボールからウツロイドを繰り出した。

 二体目の、ウツロイドである。

 ここでリラさんが敵に回るのはキツイ!

 

「させるかッ! 行け! ガオガエン!」

 

 ウツロイドはそのクラゲのような見た目とは相反し、毒岩タイプのポケモンだ。

 おそらく石英と神経毒を持つことからなのだろうが、初見殺しもいいところだ。

 だが俺は、既に知識を持っている。

 

「地団駄だ!」

 

 故に選んだ地面技だった。

 ウツロイドを踏みつけるために、ガオガエンが飛び上がる。

 まずは一体、確実に処理する!

 

「ウツロイド」

 

 そんな俺の考えは。

 脆く崩れ去る。

 

「サイドチェンジ」

 

 目の前の少女が天に手を掲げそう呟く。

 次の瞬間には、ウツロイドとガオガエンの位置が逆転していた。

 

 本来味方と位置を入れ替える技。

 それをさも当然のように、縦方向に、敵味方問わず入れ替えた。

 

 突然現れた地面に足を取られたガオガエン。

 ひれ伏せと言わんばかりに天から見下ろすウツロイド。

 

「堕ちろ、パワージェム」

 

「ガオガエン!!」

 

 彼女がその手を振り下ろす。

 宝石のような光が、ガオガエンを貫く。

 ガオガエンが苦手な岩タイプの技を食らい、そのHPを大きく削られる。

 

「くっ、戻れ!」

 

 地面を踏み抜き、身動きの取れないガオガエン。

 彼をその場に置いていても恰好の的になるだけだ。

 それを回避するために、一度ボールに戻して仕切りなおす。

 いや、仕切り直そうとする。

 

「ステルスロック」

 

 そんな考えも、あっさり破られる。

 炎タイプのガオガエンは、ステルスロックが苦手だ。

 ボールから繰り出したとたんに、わずかに残った体力が削り取られる。

 事実上、瀕死になったのと同じことだった。

 

「……強い」

 

 今まで出会った誰よりも、間違いなく。

 

 チャンピオンと言われ、増長していた。

 最強と言われ、浮かれていた。

 所詮井の中の蛙でしかないというのに、大海を知った気でいた。

 

「邪魔、しないで」

 

 彼女がそう口にする。

 そこには抑えきれない怒りの色が見えた。

 怒っているのだ。

 目的を邪魔しようとする、俺の存在を。

 その激しい殺気に、俺は確信する。

 

(迷子なんかじゃねえ、確実に、この出来事に関わってる!)

 

 そしてそれは非常にまずい。

 アローラ最強である自分を、いとも簡単にいなす存在。

 そんな人物が、敵に回っている。

 それはつまり、歯向かえるものが存在しないことを表す。

 

「くっ、来い、ジャラランガァ!」

 

 修行を極めしツワモノ。

 弱い訳がないポケモン。

 

「行くぞ!」

 

「ウツロイド!!」

 

 ゼンリョクのZワザで一気に流れを呼び込む。

 その力の本流に気付いたのか、対処しようとしているようだが間に合うわけがねぇ。

 一撃必壊。

 故にゼンリョク。

 故にZワザ。

 

「喰らえよッ! ブレイジングソウルビート!!」

 

 鋼の鱗を鱗で弾き、衝撃波を生み出す。

 その衝撃波がさらに鱗を揺らし、さらなる衝撃を生み出す。

 鼠算式に増していくエネルギーが、ウツロイドに襲い掛かる。

 音速の一撃が、敵を捕らえる。

 

 地面が崩れ、コンクリート片が巻き上がる。

 土煙を巻き起こす。

 その煙幕の向こうから、極大の閃光がジャラランガを貫いた。

 

「……え?」

 

 一撃。

 たった一撃のもと、ジャラランガが落とされた。

 

 あり得ない。

 ブレイジングソウルビートには、能力が上昇する効果がある。

 不可能だ。

 特防の上がったジャラランガを一撃で倒す技を、ウツロイドは覚えない。

 土台無理なのだ。

 そもそもウツロイドがブレイジングソウルビートを受け切ることが。

 

 土煙が晴れる。

 そこにいるのは、ボロボロになりながらも耐えるウツロイドと、鏡のような反射板。

 

「気合の襷に、ミラーコート……!」

 

 背筋が凍り付いた、そんな気がした。

 ミラーコートは受けた特殊技を倍返しで返す技だ。

 強力な一方、大きな隙も作りやすい危険な技だ。

 それを実戦で、息を吐くように使ったとでもいうのか。

 

 あり得ないと否定する。

 だが現状は、それ以外の可能性を否定した。

 認めるしかない。

 このままでは俺に勝ち目がないことを。

 

「戻れ、ジャラランガ」

 

 それでも、俺はまだ負けていない。

 まだ戦える。

 

「勝負はここからだ」

 

 一つのボールを取り出す。

 俺の思いに呼応して、僅かに熱を帯びる。

 微かに胎動する。

 

「行くぜ、ソルガレオ!」

 

 相手があと何体持っているのか分からない。

 もしフルパーティならば、勝利は絶望的であろう。

 

 ただし、まっとうに勝負を挑んだ場合、であるが。

 

「リラさん、これを」

 

「これは?」

 

「俺のマシェードです。痛みを緩和するぐらいならできると思います。それで先に向かってください」

 

 リラさんに駆け寄り、小声で作戦会議をする。

 少女は何を考えているのか、あるいは何も考えていないのか。

 その間妨害しに来ることはなかった。

 

「サン君は……?」

 

「あー……、参ったなぁ」

 

 俺は帽子の上から頭を掻いた。

 昔からやってみたかったんだよな。

 ここは俺に任せて、先に行けってやつ?

 でも、どうにも俺にはかっこよすぎて似合わねえや。

 

「俺が足止めをします」

 

「いや、彼女を倒してから一緒に……」

 

「認めましょう。彼女は、確実に俺達よりも強いです。二人で挑んでも、勝てるかどうか」

 

 だから、と。

 俺は続ける。

 

「俺が彼女を連れてウルトラホールに向かいます。その隙に、先に進んでください」

 

「だがしかし」

 

「いい加減にしてください。あなたに与えられた使命は何ですか」

 

 リラさんがハッとする。

 リラさんが優先すべきは、より多くの人の安全。

 そのために、ウルトラホールの対処をすること。

 だから俺は、リラさんに託すことにした。

 

「……」

 

「そんな顔しないでください。それが正しいんです。だれも憎みませんよ」

 

「……サン君、すまない」

 

「こちらこそ、すみません。それでは、行きます」

 

 ソルガレオのたてがみを掴み、背中に飛び移る。

 真正面から彼女と向き合うが、彼女は一切臆する気配を見せない。

 神話の生き物でさえ、彼女にとっては強敵足りえないのだ。

 

「ねー、話し合い終わったー?」

 

「えぇ、お待たせしました。今から行きます、よっと!」

 

 俺は風になった。

 リラさんを後押しするための、一陣の風に。

 

 彼女の後ろでウルトラホールが開く。

 ソルガレオに頼んで開いてもらったものだ。

 彼女が振り返り、驚くがもう遅い。

 

「行っけぇ!」

 

「なっ、くそッ! 放せ!」

 

 ソルガレオの牙が、彼女を確かに加える。

 じたばたと手足を動かすが、ソルガレオの前では無意味だ。

 

 彼女に寄生しているウツロイドと、ソルガレオの真っ向勝負。

 となれば、ソルガレオの方が力強い。

 徐々に、徐々に、ウルトラホールに押し込んでいく。

 

 こちらの目的は、彼女を戦線から引き剥がす事。

 そう考えると、少しは余裕が出てきた。

 

「ヘイ彼女、君かわいいね……! ちょっとお茶しようぜ!」

 

「茶化すなぁ!」

 

「お、上手いこと言うねぇ……!」

 

「邪魔を、するな!! 私の前に、立ちふさがるなァ!」

 

 まったく、悲しいぜ。

 アローラのチャンピオンが神話のポケモンを駆使して、同い年くらいの女の子一人押さえつけるのがやっとだなんて。

 それでも、俺は俺のすべきことをする。

 だからリラさん。

 

(あとは任せましたよ)

 

 最後にちらりと、リラさんに視線を送る。

 その頬を伝う雫に気付かない振りをして、俺はまた向き直った。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 ウルトラホールが、俺たちを完全に飲み込んだ。

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