戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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悪一文字


四話 赤報隊

 やったと。

 そんな確信があった。

 

 ウルトラホールをこじ開けられるのは、ソルガレオとルナアーラだけだ。

 神話に匹敵するほどの実力をもって初めて可能になる技なのだ。

 彼女がいくら強くても、他にウルトラビーストを携えていても。

 この空間に閉じ込めている限りリラさんの邪魔をすることはできない。

 

 急いでホールを閉じる。

 折角捕まえたのに、逃げられましたじゃ話にならない。

 彼女の油断が引き起こしたこの好機を、決して逃してはいけない。

 

「……?」

 

 おかしい。

 ホールが、閉じない?

 

 そんなはずはない。

 そう思い、振り返る。

 そこにはやはり、閉じない穴。

 

「邪魔を、スルナァァァ!!」

 

「なっ」

 

 一度は抑え込んだはずの彼女が、再び押し返してくる。

 ソルガレオのパワーを超える力で押し込んでくる。

 

(そんな馬鹿な!?)

 

 先ほどそんなことをするのはバカだと言ったはずの愚行を、俺自身が。

 身をもって実行してしまうことになった。

 

 すなわち、俺と彼女は再びホールの外側に飛び出したのだった。

 

 サンは知らなかったが、彼女はマサラ人の血を引いている。

 逆境に陥れば、背水の陣に立たせれば、限界以上の力を引き出す。

 それは例えば、レッドがミュウツーのテレポートに抗い、無効化した物と同じだ。

 

「かぁーふぅー、はぁ」

 

 それでもやはり、リミッターを外した活動は負荷がかかるのか。

 彼女は肩で呼吸をしていた。

 

「サン君!?」

 

「う、ってぇ。すみませんリラさん、しくじりました」

 

 謝る一方で、サンは思考を加速させる。

 論点は、何故ホールが閉じなかったかだ。

 

(くそ、ホールさえ閉じてりゃこっちのものだったっていうのに。なんでだ、なんで……)

 

 それを引き起こす原因となりえそうなものを、一つ一つ検討していく。

 

 ソルガレオの体調が悪かった?

 それはない。彼は手持ちのコンディションはきちんと把握している。

 彼女の手持ちに、ホールに干渉できるほどのポケモンがいる?

 否、他に可能なのはルナアーラだけである。

 加えて、それが可能ならばあそこまで怒り狂う必要がない。

 

 ならば何故、ホールは閉じなかったのか。

 

「く、はは」

 

 彼女は嗤う。

 楽しそうに、愉しそうに。

 

「赤い鎖……ねぇ。サカキも粋な事してくれるじゃん」

 

「赤い鎖……!?」

 

「知ってるのかリラさん!?」

 

「ああ」

 

 リラが小さく首肯した。

 そして言葉を紡いでいく。

 

「とはいえ、私もハンサムさんから聞いた話に過ぎないが……昔、シンオウ地方で大きな事件が起きたらしい」

 

「シンオウ地方?」

 

「ああ、その地方には二匹の伝説のポケモンがいた。一体は時間をつかさどるポケモン、ディアルガ」

 

「あの、リラさん……。話が見えてこないんですが――ッ!」

 

 先ほどの作戦タイムは傍観していた彼女だが、今度は攻撃してきた。

 サンには彼女が分からなかった。

 何がしたいのか、なぜここに居るのか。

 まったくもって不明瞭であった。

 

「今、ハンサムって言った?」

 

 もともと暗かった瞳に、今度は闇を携えて。

 彼女はそう問いかける。

 

 底冷えするような、凍てつくような声で。

 

「答えてよ、あなた達、ハンサムとどういう関係なの?」

 

「……私の部下だ」

 

「国際、警察……?」

 

 彼女が小首をかしげて問いかける。

 そこには一切の愛嬌も、可愛らしさも存在しない。

 ただただ、圧倒するような空気だけがそこにあった。

 

「そうだ」

 

 リラがそう答えると、彼女は地面に顔を向けた。

 サンは彼女の肩が、小刻みに揺れていることに気付いた。

 泣いているのかと思い、手を伸ばしかけ。

 そして彼は凍り付いた。

 

「……アハァ」

 

 催眠術や金縛りなんてちゃちなもんじゃない。

 もっと、もっと別の何か。

 恐ろしいものの片鱗。

 それを俺は彼女から感じ取っていた。

 

「そういえば、サカキが言ってたよね。チャンピオンと、国際警察が来るって。てことは、あんたがチャンピオン?」

 

「あっがっ」

 

 その二つの眼が、俺を捉えた。

 その不安、その悪寒、その恐怖。

 それらから俺は逃げ出そうとする。

 足がすくむ。膝が笑う。

 まるで自分のものでないかのように、言うことを聞かなかった。

 

「……あなたは、つまらなさそうだね」

 

 彼女の興味が俺から外れる。

 

 助かったと思った。

 死ぬかと思った。

 いまだに手が震える。

 彼女に、恐怖を抱いている。

 

「あ……」

 

 そして気付いた。

 俺から注目が外れたということは、彼女は今何を見ているのか。

 当然、リラさんだ。

 

「やめっ」

 

 手を伸ばす、いや、伸ばそうとする。

 けれど地面についた手のひらは、まるで縫い付けられたこのように動かない。

 やめろ、やめてくれ。

 

「助け」

 

 声すら自由に出せない。

 それでも、リラさんを助けて欲しかった。

 

 誰でもいい。

 俺に出来る事なら、何だってする。

 だから、だからっ。

 誰か、助けてッ!!

 

「ねぇ」

 

 彼女がリラさんに声を掛ける。

 リラさんの足は、いまだ焼けただれたままだ。

 俺が時間を稼げなかったから。

 俺の、せいだ。

 

「前から気になっていたんだよね」

 

 彼女がリラさんに馬乗りする。

 そうして顔を近づけて、こういった。

 

「どうして国際警察が正義なの?」

 

「……どうして、とは?」

 

 私の質問に、紫髪の国際警察が質問で返す。

 質問に質問で返すなと習わないのかな、最近の若者は。

 まあ私の方が若いんだけどね。

 

 さて、思考から靄のようなものが抜けて行ったと思ったらこの状況だ。

 何がどうなったし。

 

 そんな思考をしようとすると、それを遮るように白いポケモンが私を操ろうとする。

 

「チィ、邪魔なんだよ」

 

 それを超自我で抑制する。

 黙ってろ。

 

「ねぇ、危険だからという理由でポケモンを殺すあなた達。ポケモンからすれば、あなた達の方がよっぽど危険よね? だというのに、あなた達がポケモンを殺す事は正義で、あなた達に抗うことは悪になる。そこに一体、どれだけの違いがあるの?」

 

「あなたは……一体何を」

 

「教えてよ……。私たちが何をしたっていうのさ。どうして私たちに、一方的に悪の名を背負わせたのさ」

 

 涙が鼻筋を伝っていく。

 重力で引き離された雫が、目下の国際警察の目じりに落ちた。

 

「私は、どうすればよかったっていうの……?」

 

 絞り出すように、そう呟いた。

 目の前の彼女は、何も口にしない。

 

「……だんまり、なのね。いいわ、もともとあなた達に期待なんてしていないもの」

 

 引いていた殺意が、沸き上がってくる。

 押さえつけていたウツロイドが、喜びながら私に囁く。

 殺せ、と。

 

「じゃあね、負け犬」

 

 両の手で、彼女の首を絞める。

 

 絞殺には、およそ五分が必要だと言われる。

 もっとも意識が残っているのは最初の数分くらいだが、確実な死を前に恐怖するがいい。

 今ある生に感謝して、今生きる道に後悔し、今からくる恵みを賜るがいい。

 私から散々奪われたそれを、私がお前に恵んでやる。

 

「あっガッ」

 

 私の下で、彼女が悶える。

 押さえつける量の腕を、必死に引き剥がそうとする。

 爪が食い込み、私の肌を引き裂いて行く。

 それでも私は、手を緩めない。

 

 頭に声が響く。

 目の前の邪魔者を排除しろと反響する。

 うるさいな。

 少しくらい黙ってみていろ。

 

 その時だった。

 

 このポケモンに寄生され、鋭敏化された私の知覚が、空間の揺らぎを感知した。

 見れば空間に穴が開いている。

 さきほどソルガレオが開いたものと、類似のものだ。

 

 そしてそこから、一人の青年が飛び出した。

 赤を連想させる、その青年。

 記憶にある容姿より、いくらか大人びた彼。

 だが、見間違うはずもなかった。

 

「ここか!? アーゴヨン!」

 

 ホールを飛び出し、現れたのは。

 紛れもない、私の弟。

 

「レッド……?」

 

「……ただいま、メア姉」




リラ(締まってる、締まってる!)バンバン


嘘みたいだろ?
プロットにはサン勝利って書いてあるんだぜ?
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