戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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六話 三十六計逃げるに如かず

「……興味ないから」

 

 そう告げられた。

 リビングレジェンドから。

 

「な、なんで」

 

 世界の危機だというのに。

 ロケット団が暗躍しているというのに。

 

「そのままの意味だよ。君らがロケット団を倒そうと、ロケット団が野望を成し遂げようと、俺には関係ない」

 

「そんな……、放っておいたら多くの人が苦しむんですよ!?」

 

「勘違いするな。もともと俺はこの世界の住人じゃない。どうしてもというなら、この世界の俺に頼るんだな」

 

 そう言って、レッドは立ち去ろうとした。

 先ほどまで立ちふさがっていた少女を抱えて。

 引き留めなければいけないと感じた俺は、地雷を踏み抜くことになった。

 

「あなたに正義の心はないんですか!?」

 

「正義?」

 

「この世に悪が蔓延っている。多くの人が苦しんでいる! どうしてそれを、見て見ぬ振りできるんですかッ!」

 

「黙れよ」

 

 レッドさんの視線が突き刺さる。

 赤く燃える瞳が、酷く冷たかった。

 

「お前が何を信念に持とうが知ったことじゃない。俺も昔は、お前みたいに考えていたこともあったしな」

 

「だ、だったら」

 

「だがそれを俺に押し付けるな」

 

 ぴしゃりと、レッドさんが言葉を断ち切る。

 断ち切った後に、言の葉を紡いでいく。

 

「違うんだよ、俺が守りたいものと、お前らが守りたいものは。お前らは森ばかり見て、木を見ようとはしない。山火事が起きたなら、火の手が広がる前に進行方向の木を切り倒す。そんなことを平気でやってのける」

 

 ああそうだ、と。

 間違っちゃいないさ、と。

 レッドさんは続ける。

 

「それがより多くを助けることに繋がるからな。その為なら少数の命が切り捨てられようと構わないんだろ?」

 

 俺は違う、と。

 レッドさんは力強く宣言する。

 

「俺が守りたいのは山じゃねえ。この目に映る大切な人、大切な仲間。そいつらさえ守り抜ければ、あとは何もいらねえ」

 

 だから、と。

 レッドさんが話を締める。

 

「それを周囲が悪だというのなら、俺は喜んでそれを背負ってやるよ」

 

 俺は、俺は何も言い返せなかった。

 レッドさんの例え話が、脳内でリフレインする。

 

(俺が倒してきたスカル団。彼らにあった繋がりを、俺は断ち切った。断ち切ってしまった)

 

 結果として俺は、アローラの島民に感謝されることをした。

 多くの人にありがとうと言われた。

 一方で、解散になったスカル団の事なんて目も向けていなかった。

 

 彼らを繋いでいた、スカル団という絆。

 それを俺は切り捨てておいて、みんなの役に立ったと思っていたのか?

 いや、でも。

 スカル団が迷惑をかけていたのは事実なんだ。

 やっぱり悪いのはあいつらで。

 

 でもそもそも、スカル団というのは島巡りという制度のせいでできたものだ。

 となると、島巡りを作ったこの風習が悪いんじゃないか。

 どっちだ。

 どっちが悪いんだよ。

 

 分からなくなっちまった。

 何が正しくて、何が悪なんだ。

 

「……まぁ、そういうわけだ。やりたきゃ勝手にやってろ。俺は俺の勝手にする」

 

 そう言ってレッドさんが立ち去ろうとする。

 引き留めなきゃ。

 そう思ったが、俺でない人物がそうしたせいで、俺は何もせずに済んだ。

 

「それは許さん。そいつは私の道具だ、置いていって貰おう」

 

「……サカキか」

 

 部屋の向こうから、男が現れる。

 オールバック風の黒髪に黒いスーツ。

 顔は彫りが深く、目つきは鋭い。

 そして胸元に付けられた虹色のRの文字。

 

「それにしても驚いたぞ。まさかお前までこの世界に来るとはな」

 

「俺は当然だと思うけどね。想像力が足りないんじゃないか?」

 

「ふは、ふはは、そうだな。さて、そんな私の想像を超えたお前に提案だ。私の部下になる気はないか?」

 

「断る」

 

 サカキの提案を、速攻で切り捨てるレッド。

 サカキは少しだけ興味深そうに声を零した。

 

「ほぅ。何故だ? 聞いていた限り、お前は正義も悪も関係ないようだが?」

 

「頭お花畑か。メア姉を苦しめる事しかできない奴の下になんざ誰が付くかっての」

 

 そう言うとサカキは納得した。

 次いで目を閉じ、鼻で笑う。

 

「そうか、ならば仕方ない。力づくで制御下に置かしてもらおう。行け、ウツロイド」

 

「誰が……ストライク、かまいたち!」

 

 風が巻き起こる。

 砕けたコンクリート片を巻き込み、質量を持った嵐となる。

 

「ウツロイド、パワージェムだ」

 

「迎え撃て」

 

 かまいたちは溜を有する技。

 その分威力は大きいが、何分相性が悪い。

 パワージェムと相打ちになり、巻き込んでいたコンクリート片が弾け散る。

 土煙が、ウツロイドを包み込む。

 

「ストライク」

 

 レッドが指示を出す。

 ストライクが頷く。

 心を以て心に伝える。

 

「爆ぜろッ!」

 

 次の瞬間、土煙が爆発した。

 

「むっ!」

 

 一瞬サカキの思考が止まる。

 爆発で生じた光エネルギーが、レッド達を視界から隠す。

 その瞬間に、レッドはアーゴヨンの力でウルトラホールに飛び込んだ。

 

「リラさん!」

 

 その隙に便乗し、サンとリラも逃亡を図った。

 彼らも同様に、ソルガレオの力で退散した。

 

「……逃げられたか」

 

 爆発で損耗したウツロイドを見て、サカキは呟いた。

 

「まぁいい。その間にルザミーネを支配下に置いてしまえば、それですべてが片付く」

 

 メアが現れたことにより、彼らが一度引いたことにより。

 歴史は正史から、ほんの少しだけ悪い方に傾いた。

 

「レッドさん、今のは?」

 

「なんだお前ら、ついてきたのか」

 

 ウルトラホール内で、サンとレッドが会話していた。

 

「粉塵爆発って言ってな、空気中に一定以上の粉物がある場所で着火すると爆発が起きるんだ。それを利用しただけだ」

 

「でも、レッドさんが使っていたのはストライクですよね?」

 

「さぁ、ストライクが火を起こせないと誰が決めた?」

 

 レッドはサンを味方だと思っていない。

 故に、仕組みは教えても仕掛けはばらさない。

 

「目覚めるパワー、ですか?」

 

「……」

 

 それを見破ったのはリラであった。

 レッドからすればリラは、サン以上に信用できない人物だ。

 理由は一つ。

 姉を苦しめた国際警察だから、である。

 

「目覚めるパワーを、ストライクに……?」

 

「さぁな。さっきも言ったはずだ。お前たちの常識を、俺に押し付けるな」

 

 メアに『常識に囚われるな』とシルフで言われて以来、レッドは根底から学びなおした。

 それが水浸しや渦潮を使うマリルリや、目覚めるパワーを持ったストライクである。

 

 マリルリの特性は力持ち。

 特殊技を使うより、物理技で殴る方がDPSは高い。

 それでも、DPSだけが勝敗を左右するわけではない。

 

 幅広い戦術を有するということは、より多くの戦況に柔軟に対応できるということだ。

 レッドはそういう、相手に応じて戦えるパーティにしたのだった。

 

「で、お前らは逃げ出してきてよかったわけ?」

 

「いや、早くしないとルザミーネさんが……、でも、戦力が足りない。ここは一度立て直す場面だ」

 

「……色々考えてんのな」

 

 レッドはこれまで、サンに少しだけ自分を重ねていた。

 自分と言っても、もう数年も前の自分だ。

 

 ハンサムに出会い、ロケット団と戦い、自分を正義だと錯覚して。

 目の前の少年は、きっと昔の俺と同じなんだろう、と。

 そんなことをレッドは考えていた。

 

 だがしかし、レッドは周りを見れていなかった。

 気づける場面はあった。

 国際警察が絶対的な正義ではないと。

 それでも、レッドは小さな違和感は無視して、最後まで気づかないという愚行を犯した。

 

 だがサンは、周りをよく見ている。

 むやみに走るだけだったレッドとは、少し違う。

 

「俺も、それだけ周りを見れていれば……」

 

 その先の言葉は、続かなかった。

 今になって悔やんでも、仕方のない事だったから。

 

(だから、そう。この罪は、永遠に背負い続けよう)

 

 それが姉に対する誠意だと。

 レッドは思っていた。




粉塵爆発……。
私の初見は『推理の星くん』でした。
次いで『ブラッディ・マンディ』。
言うほどなろうで使われてる?
そんなに見ない気がするんだけど。
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