戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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八話 同族嫌悪

 私たちはエーテルパラダイスに再び来ていた。

 そこにはこちらの世界のグリーンと、サンの知り合いだというグラジオとかいうやつがいた。

 

 私、向こうレッド、こっちレッド、こっちグリーン、サン、リラ、グラジオ。

 総勢七名のチームだ。

 たった七名だが、各々が実力者だ。

 負ける気がしない。

 

 私はレッドからルリルリとスーちゃんを受け取った。

 聞いたところ、この二匹をパーティに入れていたおかげでレッドの手持ちは四匹らしい。

 正直ごめん。

 

「相変わらず警備は無し、気味が悪いですね」

 

「そうですね、油断せずに行きましょう」

 

 リラとサンがそう会話する。

 そして、一斉に忍び込んだ。

 忍び込んだ、瞬間だった。

 

「テレポートトラップ!?」

 

 誰が挙げた声だったか。

 地面が発光していく。

 

「メア姉!」

 

「レッド!」

 

 テレポートトラップは、手を繋いでいれば同じ場所に転移する。

 私が視認した限りでは、サンとリラ、こっち世界のレッドグリーンが手を繋いでいた。

 あいつ、名前なんて言ったっけ。

 あいつだけ誰とも接触してなかった。

 

 まぁどうにかなるでしょ。

 最悪ダメでも、その前に私たちが助けに行けばいい――。

 

「来たか、待ちわびたぞ。メア、レッドよ」

 

「自分から招き入れてくれるとは、随分気が利くじゃない」

 

 私は目の前の男に言う。

 

「ねぇ、サカキ?」

 

 さあ、今一度やり合おうよ。

 何度でも、殺してあげるからさ。

 

「まぁ待て、折角だ。賭けをしようじゃないか」

 

「あんたの話なんか聞くと思った?」

 

「ほう、これを見てもそう言えるかな?」

 

 そうサカキが言えば、空中に映像が投影された。

 あれだ、ホログラフィってやつだな。

 そしてそこには、トラップで切り離されたみんなが映し出されていた。

 

「……ロケット団……なの?」

 

 飛ばされた先では、様々な恰好をした人々がいた。

 赤いやつ、青いやつ、白いやつ、首が回り出しそうな奴。

 彼らがロケット団なのかと言われると、どうにも納得できない。

 

「そうだ、ロケット団だ。ただし、ただのロケット団ではない。レインボーロケット団だ」

 

「うわ、ネーミングセンス無い」

 

「メア姉、それは言っちゃダメだよ」

 

 いや、だってねぇ……。

 というかそもそもロケット団ていうワード自体がダサい。

 どんな言葉を付けてもダサくなるよ。

 

「ふ、せいぜい今のうちに笑っているがいい。見よ、これがレインボーロケット団だ」

 

 そう言うと、色々と強そうなポケモンが出てくる。

 デカいサンドやら、シャチみたいなやつ。

 ドラゴンのようなポケモン達。

 確かに、どれも強力そうだ。

 

「賭けは、彼らが勝てるかどうかだ。当然私は、レインボーロケット団の勝利に賭けるがな」

 

「ベットするものは?」

 

「そうだな、私は彼らの命、君らには君らの命を賭けてもらおう」

 

 レインボーロケット団が勝てば、君らには部下になってもらう。

 その代わり、彼らの命は保障しようと言っているのだ。

 そもそも、賭けとして成立していない。

 サカキはサカキたちが勝つと信じて、疑っていない。

 

 画面を食い入るように見る。

 サンとリラが、デカいサンドとデカいシャチの相手を。

 レッドとグリーンが、ドラゴン達やデカいカラス、強そうなオドシシを相手している。

 もう一人のあいつはウツロイドの相手をしている。

 

 私は肩を震わせた。

 まったくもって。

 

「あはははは。あんたの目、節穴なの?」

 

 バカらしい賭けだ。

 

「なんだと?」

 

「聞こえなかった? それなら言ってあげるよ、何度でも。あんたの目は節穴なのかってね」

 

 徐々に戦況が傾いていく。

 こちらの有利に。

 

 デカいサンドとデカいシャチ。

 真珠のようなドラゴンと、ダイヤのようなドラゴン。

 白き龍と、黒き龍。

 カラスとオドシシが。

 お互いを攻撃し始める。

 

「どうやら我が生みの親は、熱帯魚すら飼えなさそうだ」

 

 生物には相性という物がある。

 共生できる生命と、排他すべき生命の組み合わせが存在する。

 サカキの配置は、どうしようもなく噛み合わせが悪かった。

 

 なんだっけ、グラッツェだったっけ。

 お前は……がんばれ。

 他の人が駆けつけるまで耐え凌ぐんだ。

 

「賭けは不成立ね。この勝負は、私たちの勝ちよ」

 

「私たち……か。少し目を離した間に随分と変わったな、メアよ」

 

「さぁね?」

 

 言いながら確かにそうだと思った。

 だけど今は、そんなこと関係ない。

 

「そんな事よりさ、私の中で、うるさい声が反響するんだよ。お前を殺せって」

 

 脈拍が上がる。

 呼気が荒ぐ。

 目の前の敵を殺せと、神経がざわめく。

 

「やろうよ、殺し合いってやつをさ」

 

「行け! サイホーン!」

 

「ルリルリ、お願い」

 

「来い、ガラガラ!」

 

 三者が三様のポケモンを繰り出す。

 

「あら? 一体でいいのかしら?」

 

「構わん、ハンデだ」

 

「それじゃ、遠慮なく」

 

 マリルリに指示を出す。

 その際、左腕に少し痺れがあった。

 白クラゲの毒が、まだ尾を引いている。

 

「サイホーン、地震だ!」

 

「マリルリを守れガラガラ! 地団駄!」

 

 ガラガラがマリルリとサイホーンの間に入り、地団駄を踏む。

 地震によって引き起こされた衝撃を打ち消すように衝撃を生み出す。

 

「ナイスレッド。マリルリ、アクアジェット」

 

 準備を終えたマリルリが、超高速で吹き飛んだ。

 水流と共に、サイホーンを押し流していく。

 ただの一撃のもと、サイホーンは倒れ伏した。

 

「この威力、腹太鼓か」

 

「ご名答。意地張らずに、出しなよ。二体同時にさ」

 

「ふん、後悔するがいい。行け、ニドキング、ニドクイン!」

 

 サカキが繰り出したのは技のデパートと知られるニド夫妻。

 非常に広い技範囲。

 特性を駆使した超火力。

 確かに強力なポケモン達だ。

 

「ニドキング、ニドクイン、ヘドロウェーブだ!」

 

 ただ、強力なだけだ。

 

「ルリルリ、押し返して」

 

 教えてあげるよ。

 強力なポケモンのみに頼った愚かなバトルが、如何に脆いかを。

 

 ルリルリの波乗りが、ニド夫妻二匹のヘドロウェーブを押し返していく。

 

「バカなッ!?」

 

 そう思うならそれで結構。

 それがお前の限界だ。

 

 何故押し返せたのか。

 簡単なことだ。

 

 サカキに二体繰り出せと言っている間に、マリルリは光の壁を放っていた。

 相手のニド夫妻の火力は半減。

 対してこちらは波乗りを放った直後に、続けて『真似っ子』を使わせた。

 真似っ子は最後に出された技を繰り出す。

 この場合、マリルリが使った波乗り自体だ。

 

 相手の波は半減し、こちらの波は倍加して打ち出す。

 故に私の火力が上回った。

 

「むおおお!」

 

 毒の混じった水流がニド夫妻を飲み込む。

 当然一発ノックアウトだ。

 

「く、だが波乗りは全体攻撃。今のでガラガラは瀕死だろう。行け! ドサイドン!」

 

「あはは、ガラガラが戦闘不能? バカ言っちゃいけないよ」

 

 サカキがドサイドンを繰り出した後、空から茶色が飛来する。

 白い頭蓋骨を被ったそれは。

 太い骨を手にしたそれは。

 サカキが瀕死だと言った、レッドのガラガラだった。

 

「気合パンチ!」

 

 位置エネルギーを運動エネルギーに存分に変換し、膨大な運動量を持った一撃をドサイドンに見舞う。

 身にまとうプロテクターを、一切合切砕きながらその一撃が決まる。

 屈指の物理耐久を誇るドサイドンすら、耐えるに及ばなかった。

 

「ありえん!」

 

「これがあり得るんだよね。ルリルリが波乗りを放つ前に、ガラガラを天井に向けて『投げつける』しておいた。そして今、そのエネルギーを十全に蓄えた一撃を叩き込んだ」

 

 私は手早くネタを明かした。

 左腕だけだった痺れが、全身に回り始めている。

 一刻も早く、この勝負を終わらせないとヤバいかもしれない。

 

「サカキ、あんたの負けだよ。ぶすぶすと燻るくらいなら、いっそ華々しく散った方がいい。そう思うでしょ?」

 

「ふざけるなッ! 私が負けるなんてこと、あってたまるかッ!」

 

 私の右腕が、ピクリと反応した。

 サカキが放った言葉は、私が死の間際に放った言葉と同じ。

 一言一句、違いはない。

 

(あぁ、そうか。だから私はあんたを――)

 

 ずっと、気にくわなかった。

 こいつの前だけは、口が悪かった。

 何故かは分からなかったが、今ようやくわかった。 

 

(――同族嫌悪していたんだ)

 

 生みの親だとか、正義に絶望したとか、そんなレベルじゃない。

 もっと、もっと根本的な部分で、私たちは似通っていたのだ。

 

 

 

 それこそ、本当の親子のように。

 

 

 

「……え?」

 

 嫌な予感が脳裏をよぎった。

 

 サカキはただ、私の生みの親だと言った。

 私はてっきり、サカキが道具にするためだけに作ったと。

 そういう意味でとらえていた。

 だけど、もし言葉通りなのだとしたら……?

 

「いや、そんなはずは……」

 

 自分の考えを、必死に振り払った。

 だけど、思い当たることばかりだった。

 

 サカキは最初に会ったとき、『マサラの人間にしては上等だ』と言った。

 サカキはどこでマサラの人間を知ったというのか。

 

 私の父は、マサラの人間ではなかった。

 父は、母の死後マサラを発った。

 

 最初に会った時からそうだった。

 いくら変わり種とはいえ、サカキは私に甘かった。

 図鑑を与え、安全な環境に移した。

 国際警察の目の入らない場所に護送した。

 

 それだけじゃない。

 私に力を付けさせた。

 自分を殺しに来る相手だと分かっていながら、私を鍛えた。

 

 あれも、これも。

 『向こうのサカキ』の言動の一つ一つには、どこか優しさがあった。

 

 震える声で、私は問いかけた。

 

「私の中に、あんたの血が流れているの……?」




ちなこっちのサカキはちゃんとシルバーの親です。
向こうのサカキ? どうなんですかね。
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