物語の始まりは、いつからだったか。
私がコラッタに、腕を引き裂かれたときからか。
サカキが手足となる道具を求めた時からか。
思うにそれは、サカキがマサラの女性を愛してしまったときから。
本来ありえない歴史。
誰も立ち寄らないマサラに、サカキが立ち寄る偶然。
そこで後に子を授かる女性と、邂逅する偶然。
その二人の間に、愛情が芽生えた偶然。
すべては偶然だ。
だけどその偶然は、あらかじめ決められた世界の意思でもあった。
けれども、たとえ世界の意思だったとしても。
別世界のサカキが片手間に生み出した世界だったとしても。
その物語の始まりは、ここからだったというべきだ。
少なくとも私はそう思う。
だから、ここに終止符を打とう。
*
ニューアイランドにいた時、ロクな死に方をしないと私に言ったやつがいた。
確かに私の死に様は、最後の一回を除いてどれも酷いものだった。
だがしかし、だがしかしだ。
最後の最後にあれだけ穏やかな気持ちで終わりを迎えられるなら、それだけで十分だ。
私はそう思う。
さて、死後の世界と言えば天国か地獄か。
あるいはギラティナがいると言われる、破れた世界なのか。
死ぬ機会は何度もあったというのに見たことがないというのもおかしなものだ。
(あるいは、死の先にあるのは、ただの無なのかもしれないけどね)
だとしたらそれは嫌だなぁと思う。
何もない場所で、一人孤独に生き続けるのか。
いや、既に死んでいたか。訂正しよう。
何もない場所で、一人孤独に死に続けるのか。
(それはまぁ、何とも苦しいものだね)
どうせならこの思考すら残っていなければ、随分と楽だったというのに。
(ふふっ)
少しだけ、笑みが零れた。
世界は私を嫌ったかもしれない。
でも少しだけ、私は世界を好きになれた。
なら、それでいいじゃないか。
(さて、もうひと眠りしますか)
永眠とはうまいこと言ったものだと、私は思った。
だけど、それは許されなかった。
「おい、起きろ」
聞き覚えのある声がした。
丸まっていた体を開き、声の主を探す。
瞳を開けた先には、一人の男性が立っていた。
オールバック風の黒髪に黒いスーツ。
顔は彫りが深く、目つきは鋭い。
「……お父さん?」
「……サカキと言え」
その言葉で確信した。
いや、聞くまでもなく見分けてはいたけれども。
目で見て、耳で聞いて。
そこまでして私は確証を得た。
何故そこにいるのかは分からない。
けれどここに居る男は、私の世界のサカキで。
サンたちの世界のサカキではなく、私の父だった。
誰からも認められることなく。
それでも一人、正義を翳し続けた、自慢の父親だった。
「お父さん、ごめんなさい、私……」
謝りたいことがたくさんあった。
「誰がお父さんか。よく聞け。お前はお前の正義を貫いた。そうだろう?」
「うっ……、でも……」
私は間違っていた。
その過ちを孕んだまま許されるのは、なんというかこう、気持ち悪い。
そんな私の思考を読んだように彼は言う。
「それなら胸を張っていればいい」
……サカキは続ける。
「善だろうと、悪だろうと。最後まで貫き通した信念に、嘘偽りはない。ならば誇れ。自らの生き様を」
そんな考え方もあるのかと思った。
私は今、豆鉄砲を喰らったポッポのような顔をしているだろう。
「何を呆けているんだ、行くぞ」
「……行く? どこに?」
サカキが嗤う。
「決まっている、私たちを地獄に堕とした閻魔相手に、正義を振り翳しに行くのだ」
目を見開いた。
この男は、まだ諦めていないのだ。
「むこうでは時代が私達を恐れたが、こちらでは誰にも邪魔されん」
だから、と。
サカキが私に手を伸ばす。
「私の部下になれ。メアよ」
暴論だと、人は笑うかもしれない。
不可能だと、皆が嘲るかもしれない。
だけど私は、その提案に。
(少しだけ、惹かれたんだ)
だから私はこう返す。
「お母さんに会いたいし、それまでは力を貸してあげるよ。だから、さ」
そして、こう続けたんだ。
「一緒に、会いに行こうよ」
「……そうだな」
ようやく与えられた死も平穏も。
全部かなぐり捨てて。
私は宣誓する。
「この世界も狂っている。だから私が、私たちが救ってあげる」
それが私の最期で、そして始まりだった。
はー、楽しかった。
実はこの話を投稿することで一話平均がジャスト4000文字になるというちょっとした遊び。Foo↑
ちょくちょく書いているのですが、この作品何度も筆を置きかけたんですよね。
理由はまぁ没率の高さなのですが。
前二作は加筆修正こそすれど、没にした話はないんですよね。
一作目は完全にノリで書いていたから。
二作目は最初から終わりまで明確な構造があったし、それに主人公がぴったりとハマってくれたから(それにそもそも短編)。
この作品は『「オレ様の天下」』書き終えてから、何か書いていないと落ち着かないという状況になってしまって急遽書き出したんですよね。
その時聞いていたのがナナホシ管弦楽団さんの『IMAGINARY LIKE THE JUSTICE』。
そこから世界を広げて勢いで書き始めた感じです。
この作品好きな人なら多分ハマると思うから一回聞いてみて。いや、本当に。ニコ動に上がってるから。
(歌詞の転載だけはめちゃくちゃ気を使ったから絶対にしてない自信がある)
で、そんな感じで書き始めたはいいものの、いざキャラクターを動かしだすと全力でバッドエンドに向かうのなんの(笑)。
没にした話を数えてみたら十話分。
一話平均四千だから約四万字ですか。
あれ? 思ったより少ない……?
まぁ書いてる側としてはそれ以上に没を出してる感じがしたんですよ。
酷かったのは当然一章ですね、メアちゃんの人物像を掴み切れていなかったから。プロットもあってないようなもの(メアちゃんが全部ぶち壊していった)だし。
後は三章の終わり? あそこも結構没出した。
あとはあれですね。
プロットが次から次へと崩れ去り、加筆修正ばかりしていたから没率が高く感じたのかも。分かんないけどね。
さて、それでも最後まで書き切れたのは、
ブクマを外さずにいてくれた皆さん、
誤字報告をくれた皆さん、
評価をくれた皆さん、
そして感想をくれた皆さんのおかげです。
いやホントありがたい話です。
いままでありがとうございました。
アスタ・ラ・ビスタ!