戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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GN-XXさん誤字報告ありがとうございます!


六話 過去、あるいは未来と言うべきもの

「目覚めはどうだ」

 

「最ッ悪」

 

 トキワジムの宿泊施設。

 その日の朝は、こうして始まった。

 一人は黒いスーツに身を包んだ男。

 先に声を掛けた中年で、名をサカキといった。

 もう一人は、右腕に大きな醜い傷を負った少女。

 マサラ生まれのメアリーであった。

 

 メアリーは先日、国際警察に喧嘩を売ったばかりであった。

 そこを助けに入った男がサカキだった。

 ならば何故、彼女の口から最悪という言葉が出たのか。

 

 その原因は、昨日男の口から告げられたことにある。

 彼女に接触してきたこの男が、ロケット団であることは分かっていた。

 だがまさか、ロケット団のボスで、しかもトキワシティのジムリーダーとは誰が予想できようか。

 彼女の中で、警察に対する評価がさらに下がった瞬間であった。

 

 とまあ、そういう埒外の人物と寝覚めに会話することになり、気が滅入っている。

 それが彼女の心情であった。

 

「まあそう邪険にするな。これから必要になるであろうものを持ってきたやっただけだ」

 

 サカキはそう言うと、メアリーに小箱を放り投げた。

 それを事もなく片手でキャッチすると、少し訝しげにしながら中を確認する。

 そこには二つのものが入っていた。

 

「トレーナーカードと、なにこれ?」

 

 一つは彼女も言ったようにトレーナーカード。

 それも、身分を詐称したものであった。

 

「トキワシティのメア……ねぇ」

 

 そんな彼女のぼやきに、サカキは「ありがたく思えよ」と返す

 マサラタウンのメアリーはこれから国際警察に目を付けられることになる。

 故に、偽りの身分証が手に入るのは確かに、彼女にとってありがたかった。

 

「礼は言っておくわ。それで、こっちの機械は?」

 

 箱に入っていたもう一つのブツ。

 黒の直方体のような形状をしており、横には電源ボタンのようなものがある。

 何となしに電源を入れると中央の液晶に画面が映る。

 

「? ああ、そういうこと」

 

「気に入ってくれたかな?」

 

 扉に目をやると、ニヤリとしたサカキが立っている。

 苛立ちはするが、彼女としても非常に助かるものだ。

 どこまでも周到な用意に、薄気味悪さを覚えながらも礼を言った。

 そして、疑問に思ったことを素直に切り出す。

 

「あなたは何がしたいの。はっきり言って、行動が支離滅裂とし過ぎている」

 

 そう、それが疑問だった。

 

「第一、どうして私に接触を試みたの? スーちゃんが目的だったんじゃないの?」

 

 サカキは言った。

 国際警察に歯向かった者がいると聞いたから足を運んでみたと。

 ならばその情報は、ロケット団のボスであるサカキに伝えなければいけないほど重要だったはず。

 それは彼女が歯向かったということか、スーちゃんがフリーだということか。

 普通に考えれば、スーちゃんのことだと考えるのが自然だ。

 

「第二、何故スーちゃんを奪い取らず私の手元に置いている」

 

 仮にスーちゃんではなく、国際警察に歯向かう彼女に興味を持ったとする。

 しかし、強力な力を持ったポケモンを取り上げることなく、そのままにしておくなど非合理にもほどがある。

 それをするだけの実力を有しておきながら、何故そうしないのか。

 

「第三、いくら何でも厚遇過ぎる。何が狙いなの」

 

 一度は自分にすら噛みついてきた未熟な子供。

 彼女が従属しているわけじゃないことなど分かり切っているだろう。

 力さえ身に付けてしまえばこんな組織、一握の価値すらない。

 だというのに、先ほど渡された二つのアイテム。

 私を懐柔できると思っているのか、裏切らないと思っているのか。

 彼女には意図が全く見えない。

 

「答えられるものなら答えてみなさいよ」

 

 だから彼女は問いかける。

 お前の目的は何だと。

 だが、サカキの口から告げられるのは答えではなかった。

 

「望んだものが与えられると思うなよ。それはお前が自らの手で手に入れるものだ」

 

「ここまで散々恵んでおいて……!」

 

 苛立ちがてっぺんに到達する寸前。

 ふとサカキの言葉が脳裏をよぎる。

 

 『これから先、力及ばず敗れる度にそういうつもりか。ベストを尽くさなかった自分に言い訳をして、他人のせいにして、そうやって生きて行くつもりか?』

 

 彼女は、彼女に向けて言ったものだと思っていた。

 だがもし、その前提が間違っていたとすれば……?

 

「……同情のつもり?」

 

 その仮説が浮上して、一気に冷静さを取り戻した。

 

 『「仕方がなかった」か? そういって今を妥協するつもりかッ』

 

 あれも、これもそうだ。

 彼女はそう思った。

 どれもこれも、彼女の未来を指しているものである。

 だから疑問に思わなかった。

 故に気付かなかった。

 

 あまりに、具体的過ぎるという違和感に。

 

 まるで、未来を見てきたように。

 さも、その未来を知っているかのように

 あたかも、未来を体験してきたように。

 

 だからこそ、心に響いた。

 それゆえに、心ゆすぶられた。

 それだけに、心を動かされた。

 

 そうして『核心』に至る。

 

(私の未来を指摘したものではなく、自分の過去を罵ったものではないのか?)

 

 果たしてその『確信』は正しかったのか。

 サカキはそれに、無言という形で返答した。

 

 だからこそ私は、意を決した。

 

(私は、お前と同じ未来は選ばない)

 

 沈黙という肯定を見て確信した。

 こいつは失敗したと、否、現在進行形で失敗し続けていると。

 もともと何を求めていたのかは私の知るところではない。

 だが結果として、ロケット団は悪としてみなされ、それに付き従うものもまた悪意を持った者達だ。

 

(私はそんな組織で埋没するつもりはない)

 

 私が望む未来は、誰もが私を正義だとあがめるものだ。

 異なる考えを受け入れ、共鳴し、ハーモニーを奏でる。

 そんな未来を、私が切り開くんだ。

 

 国際警察のように、一方的な慈悲を向けるのではない。

 ロケット団のように、どこからも慕われない組織ではない。

 誰もが自らを尊重し、他を尊ぶ。

 そんな未来を、私は切り開いて見せる。

 

(だから、せいぜい反面教師にでもなってくれ)

 

 その日の夜、サカキの自家用ジェット機で私は移動させられていた。

 行先はニューアイランドとかいう孤島らしい。

 なんでもポケモンの研究をしている施設で、スーちゃんの特殊技能も計測する予定だとか。

 もちろん生体実験を行うことは拒否した。

 せいぜい戦闘中のデータを計測する程度にしろと。

 端から期待してはいなかったが、意外にも受け入れられて拍子抜けしてしまった。

 

 椅子に腰かけ、与えられた機械をいじくる。

 おもちゃを与えられた子供の様に。

 その機械には、膨大なポケモンの情報が記されていた。

 そして、手持ちの情報も。

 

「学術名アーゴヨン、毒・ドラゴンタイプ、特性ビーストブースト」

 

 サカキは言った。

 私は、自らの手持ちの事も理解できていない、と。

 知は力なりとはうまくいったもので。

 どうせ向こうに着くまで暇なのだ。

 おとなしく知識を貪ろう。

 

「主なワザ、龍の波動、流星群、ヘドロウェーブ、火炎放射、大文字、目覚めるパワー、とんぼ返り、身代わり、悪だくみ」

 

 それぞれの技の効果を調べていく。

 放った後に特攻が下がるもの、毒や火傷の追加効果があるもの。

 個体によってタイプが変わるもの、攻撃後控えに戻るもの。

 実に多種多様なワザがあり、ポケモンバトルがいかに複雑かの一端が垣間見える。

 

 ある程度の事前知識を習得し終えた私は、他のデータに目を通す。

 手持ちの事は、実体験して叩き込んだ方がいい。

 それよりも先に知るべきことがある。

 

(例えば戦略・戦術)

 

 アーゴヨン一匹でさえ、持ち物によって立ち回りが変わる。

 例えばスカーフを持たせた超速アタッカー。

 あるいは命の珠を持たせた高火力アタッカー。

 もしくは気合の襷を持たせたストッパー。

 

 それが最大六体まで連れ歩けるのだ。

 パーティの組み合わせは、創意工夫次第で無数に広がる。

 だが、それを全て知るのはフレーム問題により不可能だ。

 故に、大まかに分類し、組み分ける。

 

(大きく二分するならサイクル寄りか、対面寄りか)

 

 サイクル寄りというのは、いわゆる交換合戦に重きを置いた戦い方だ。

 相手が水タイプならば草タイプを、草タイプには炎タイプを、炎タイプには水タイプを。

 そうして有利な状況を作り出していくゲームプランニング。

 これには役割論理、受けループ、トンボルチェン、コントロールなどが当たる。

 

 一方対面寄りというのは、交代を基本的に行わない戦い方を指す。

 交換するということはつまり、隙を作るということだ。

 その隙を相手に与えるくらいなら、そのポケモンは切り捨てて裏のポケモンで対処する。

 これには汎用理論、天候パ、起点構築などが当たる。

 

(さらにそれらも細かく分類される)

 

 例えば起点構築には、壁張りエース、トリルパ、バトンパなどがあるし、天候パには砂パや雨パがある。

 トンボルチェンといっても、上からとんぼ返りやボルトチェンジをうち、後ろのポケモンで攻撃を受けるものもあれば、攻撃を受けてから後続につなぎ、後続の負担を減らすものもある。

 それらもさらに分類していくと、砂パにもバンギラスを使うのかカバルドンを使うのかギガイアスを使うのか。

 そういった様々な戦術が、多種多様に存在している。

 

 つまるところ、知ることから始めろと言われても、知らなければいけないことが多すぎるのだ。

 それほどの知識、詰め込んだとしても利用できない。

 どれほど優良な燃料があっても、エンジンがボロボロではまともに機能しない。

 

(あはは)

 

 けれど、その少女はうすら笑いを浮かべて。

 まるでのめりこんでいくかのように、貪欲にそれらを吸収していった。




戦略については気にしないでいいです。メアちゃんが知識を身に付けるイベントなので。
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