戦闘狂は正義を振り翳す   作:HDアロー

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神様いた!
モチベ上がりまくって二章終わりまで書き切りました!
多分二万字くらい。
よろしくお願いします!


二話 歯車

 暁の水平線が、一日の始まりを告げ始める。

 あと数分もすれば日も差し始めるだろう。

 そんな空気の変わり目を察知し、私は寝床を後にした。

 

(結局、あの子は戻ってこなかったのね)

 

 ぐるりと部屋を一瞥する。

 普段はしない、いつもとちょっと変わった朝。

 あの子はあの後、結局帰ったのだろうか。

 

(まあいい。それもまた彼女の自由意思)

 

 備え付けの洗面所で歯磨きや顔洗いを済ませる。

 櫛で髪を梳かし、右腕の傷を隠すアームカバーを身に付ける。

 それが終わると、ニューアイランドの外周に沿ってランニングを開始する。

 

 ポケモントレーナーは、ポケモンに指示を出すだけの存在である。

 そう考えている人間は数え知れないほどいる。

 だが、そうではないのだ。

 

 例えばフルパーティで勝負する場合、かなり長い時間が掛かる。

 その間一切緊張の糸を切らすことなく、常に集中力を欠かさずに戦いきれる。

 そんなトレーナーがどれだけ存在するだろうか。

 下手すれば世界で三桁もいないかもしれない。

 

 また、トレーナーの筋力なども重要だ。

 ポケモンからだと死角になってしまうような情報、それらを補完し伝達する。

 そうするためには脚力がいる。

 脚力を十全に扱うためには、全身の筋肉を満遍なく鍛え、重心移動を正確に行えなければいけない。

 

 要するに、トレーナーというのは常在戦場を心がけるべき存在なのだ。

 その為にトレーナー自身が己を鍛えなければいけない。

 私がいま行っていることは、私自身のトレーニングであった。

 

 心臓が破れそうになる。

 汗を吸った衣服がまとわりついて鬱陶しい。

 それでも私は走り続けた。

 

 島の周りをぐるっと一周して、漸く私はランニングを止めた。

 呼吸を整えるために、クールダウンを兼ねてゆっくりと歩きだす。

 そうしてしばらく、ようやっと心臓が落ち着いたのを確認して茂みに声を掛ける。

 

「それで、何の用かしら」

 

 先に言った通り、トレーナーというのは常在戦場だ。

 絶えず気配察知を行え、自身に向けられる視線にも気付けないのは愚かものだ。

 私が声を掛けた先の人物は、しばらく息をひそめていたが、私が横眼も降らずに見続けるのを見て諦めた。

 茂みが揺れ、姿を現す。

 

「あ、あの。先日は申し訳ございませんでした」

 

「ああ、あんたか」

 

 声の主は、昨日の少女だった。

 一晩泣き続けたのか、涙袋は膨れ上がり、目は赤く充血している。

 

「いいわよ別に。あなたがどうしようと私の知ったことじゃないわ。好きにするといいわ」

 

「もう一度だけチャンスをください! お願いします」

 

 汗を拭いながら立ち去ろうとする私に、少女はそう願いこむ。

 そんな彼女を尻目に、私は軽くため息をついた。

 ダメだな、どうにもこの子には甘くしてしまいがちだ。

 

「言ったでしょ。あなたがどうしようと私の知ったことじゃない、好きにしなさい」

 

「ッ! ありがとうございます!」

 

 後ろ手に腕を振り、その場を後にする。

 彼女の声は、良く弾んでいた。

 

(はぁ、どうにも調子が狂う)

 

 私の気が晴れることは無かった。

 

 

 

 シャワーを浴び、着替えて、朝食を済ます。

 戦闘訓練を行い、反省点をノートに書き記す。

 改善点を取り上げ、また別のノートに記述する。

 

「はぁ、どうにも眠いな」

 

 いつもなら眠気など感じる時間ではないというのに。

 なんだかんだ私も、昨日の事が気になって熟睡できていなかったということか。

 別に今日一日くらいどうということは無いが、疲労は取れるときに取っておかないとドミノ倒しに増加する。

 

(三十分くらい仮眠しますかね)

 

 昼寝の三十分は、夜の二時間分の睡眠に相当する。

 うん、早いうちに眠気を解消しておこう。

 アラームを三十分後に指定して、意識を手放した。

 

 夢を、見ていた。

 弟分が四歳の頃だから、私が七歳の頃の記憶か。

 もうずいぶん昔の事だというのに、色あせることなく鮮明に描写される。

 

 吹き抜ける風が、騒めく木々が、赤く吹き上がる血が。

 脳裏に焼き付いた記憶が延々リピートされる。

 だけど私にはわかる。

 これは夢だと。

 

 あの迫りくる死の恐怖はない。

 生と死のはざまで、私の心が突き動かされることは無い。

 すべてはまがい物で、私が望むものは手に入らない。

 

 弟分が駆け寄ってくる。

 先ほどまで鮮明だった映像に、ノイズが掛かる。

 この時、弟分はどんな表情をしていたんだったか。

 万全だったはずのビジョンに、欠けが生じる。

 この時私は、何と話しかけたのだったか。

 分からない、分からない。

 すべては虚構で、本質は戦いの中にだけあった。

 

 また夢が繰り返される。

 いつもと同じ光景。

 変わり映えの無い惨状。

 繰り返されるまがい物。

 

 そこに、違和感が走った。

 誰かに夢を観測されているような、そんな感覚。

 理性だったのか、本能だったのか。

 私は動き出した。

 

「がはっ!」

 

 突き出した右腕に、何か柔らかい物がぶつかった。

 それを振り払うように押し出し、その後空気を零すような悲鳴が上がった。

 

「す、すっびばせん」

 

「あんたねぇ、何やっているのよ」

 

 私が突き飛ばしたのは、いつもの少女だった。

 私の空間に立ち入るなって言ってるでしょうに。

 懲りずにまた忍び寄ったのか、うん、私は悪くないな。

 

「申し訳ございません」

 

「はいはい、もう謝罪なら聞いたから。用は何? 無いなら疾く立ち去って」

 

「は、はい。申し訳ございませんでした」

 

 そういうと彼女は走り出していった。

 私は思ったよね。

 

「用、無かったのか」

 

 用事もないのに部屋に入ってきたのか?

 どうにもおかしい気がする。

 そんな違和感を覚えながら、時刻を確認する。

 アラームの時間を少しだけ回っていた。

 

(アラームの設定、切ったっけ?)

 

 目覚まし時計を裏返し確認する。

 オンの状態のままだった。

 

(それだけ寝入っていたっていこと? そんなはずは……)

 

 ここに来てから、深く眠りについたことなんてなかった。

 周りは敵だらけ、常に警戒は怠れない。

 心を許せる相手もいない。

 そんな状況下で熟睡できるなんて、よっぽどの狂人だ。

 

(アラームが鳴っても私が起きないから起こしに来た。けれど私が飛び起きたせいで用がなくなった。そんなところかしらね)

 

 アラームの設定をオフにして、時計をまた立て掛けなおす。

 妙に頭はさえていたが、しばらく何をするにもやる気が起きず、布団の上でボーとしていた。

 どうにもあいつが来てからおかしい。

 

「本当に、調子が狂う」

 

 そんなことを零す。

 だけど同時に、私はこうも思っていた。

 

(本当に狂い始めているのだろうか。それとも、正常に戻りつつあるんだろうか)

 

 その問いが、自分の中でぐるぐると回る。

 私がその問いに答えを出すことは、ついぞなかった。

 

「で、どういうこと?」

 

 ところかわって訓練場。

 私の前には彼女が立っていた。

 

「あ、あの! 私、メア先輩の役に全然立てていないのです!」

 

「知ってる」

 

「あうぅ。そ、それでですね、戦闘訓練なら、私でもできることあるんじゃないかな……って思って」

 

「……強そうには見えないけれど」

 

 要するに、いつもの有象無象に変わって、この少女が相手をするということか。

 私のスカウターだと戦闘力五のゴミなんだけどな。

 戦ってみたら強かったりするのかしら。

 

「いいわ、変わり映えの無い相手に飽き飽きしていたところだから。まあ、せいぜい、私を楽しませてよ」

 

「! はい! 行くよ、ルクシオ!」

 

 そう言って彼女が繰り出したのは青地に黒毛の猫のようなポケモン。

 

(ルクシオ……確かシンオウ地方に多く生息するポケモン、だよね)

 

 脳内データベースにアクセスする。

 オーキド博士の研究所に、そんな一ページがあったはずだ。

 記憶から抜け落ちかけているが、存外きっかけさえ与えられれば思い出せるものだ。

 ルクシオの爪の辺りに視線を移す。

 パチパチと、過剰供給された電流がはじけていた。

 

(そう、確か電気タイプ。スーちゃんなら有利を取れる)

 

 私は無言でスーちゃんを繰り出す。

 相手の間合いに入らず、私と死角をカバーし合えるポジションを考慮したところに、寸分の狂いもなく。

 

(電気タイプに氷技は良く採用される。その内、ルクシオが使えそうなのは目覚めるパワー氷と氷の牙くらい)

 

 気を付けてねと、スーちゃんに合図を送る。

 スーちゃんもこちらに視線を送る。

 それだけで私たちの意思疎通は完了した。

 

「う、ぐすっ……ひっぐ」

 

 私の目の前には、またも泣きじゃくる幼女。

 結論から言おう。

 めっちゃ弱かった。

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