鉄紺のフシャスラ -偽典Final Fantasy-   作:銅如月

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第二幕 ドラグーン

 

 

 かつてドラグーンとは、騎馬状態で銃火器を扱うもののことを指したらしい。じゃらり、と懐から黄金のネックレスを取り出しながら、ヌイはそう思った。ギルドマスターの無骨な手が、それを受け取る。

「ご苦労だったな。依頼料だ」

 そういいながら、彼は銀貨の詰まった袋を差し出した。恐らくあのネックレスを質に流せば、同じだけの金貨が手に入っただろうが――ビジネスライクなのがヌイ・レプンクルという男である。仕事は信用第一だ――などと、いつもならそんなことを考えているのだろうが、今日ばかりは違った。ヌイの笠に隠れた赤い目は、一点を見つめて動かない。というか――ギルドのある酒場の全員が、その一点を見つめていた。

 

 

「……ドラグーン」

 

 

 ぽつり、と誰かがつぶやいた。

 ミトラス王国竜騎士部隊――通称ドラグーン。竜を象った鉄紺(てっこん)の鎧に、鋭く尖った長槍がその証である。だが、今この世の中に、「ドラグーン」と呼ばれるものは――今現在、一人として存在しないはずだ。ヌイはそれを、痛いほど知っている。

 

「どうして」

 

 ドラグーン部隊は、あの時、父と一緒に全滅したはずなのに――。赤い装飾の笠の下で、ヌイの同じ色の目が大きく広がる。次いで湧き出してきたのは怒りだった。幾ら会話をしたことがない父親でも――それを奪った戦は憎い。

 彼はいらだち紛れに、酒場の椅子へどっかりと座った。そして、ウェイトレスに「エールを」と告げる。運ばれてきたペール・エールを口に含むと、やっと夢から目覚めたかのように、頭が落ち着いてきた。

 

 

 

 ドラグーン部隊――全滅したのは、今から三年前のはずだ。

 

 

 

 忘れもしない、三年前のあの日――王国は戦に負け、地図上からその名を消した。かつてアムシャと呼ばれた王都は、今ではダエーワ帝国の領地である。つまり、ドラグーンの装備を作るものも、彼らをまとめるものも、既にこの世に存在しない計算となる。

 だが――ヌイはちらり、と酒場の隅にいる、ドラグーンに視線を向けた。彼の纏っている鎧は、明らかにドラグーンのそれだ。それも、遠い記憶に残っている、父親の部隊の。

 

 それ以上に疑問なのが、何故この辺境の地にドラグーンがいるのか、ということだ。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 酒場や町の賑わいから、多くの人がここを都会だと思うだろうが――ここは帝都ザッハークから遠く離れた洋上の島――通称遺跡島である。

 遺跡島の発祥を知るものはいない。しかし、発見から今に至るまでの経緯を知るものは多かった。

 

 はじめは、流刑だった。

 

 今は無きミトラス王国にて、罪を犯したものが、この島に流された。最初は、緑豊かな無人島として、ただ罪人を押し込めておくだけの場所であった。

 しかし晶暦(しょうれき)1058年。港まで罪人を運んできた役人に、先にこの島に流されていた流刑人が言った。

 

 

「この島の奥に、巨大な迷宮がある。恐らく古代文明のものだ」

 

 

 通常なら頭のおかしな罪人の戯言として片付けられるだろうが、役人が変わり者だったのか、それともほかの理由があるのか、その古代遺跡の噂はたちまちのうちに広がった。

 そして、島には罪人以外に、冒険者たちが押し寄せるようになった。一攫千金を狙うものもいれば、単に知的欲求を満たすためのものもいる。

 困ったのは国であった。既に流したものはいいとして、これから流すものはどうなるのか――考えあぐねた結果、出た答えが「現状維持」であった。

 国は、罪人が島から逃げないように、彼らにのみある例を発布した。

 

<古代迷宮より、伝承のクリスタルを持ち帰ったもののみ、放免とす>

 

 これですべてを抑制できるわけではないが、施設が揃い始めたことにより、ある程度のものたちは島に縛り付けることが出来るようになった。月に数回ほど、命知らずな罪人が冒険者に変装して島からの脱走を試みるが――成功したものは未だ一人としていない。脱走者は、即「樹刑(じゅけい)」に処されるからだ。あまりにおぞましいこの刑罰を見たものたちは、自然と脱走する気をなくす。脱走さえしなければ、金も稼げるし、食べるものにも苦労しない。だが、やはりそこは人間。どんなものを見ようとも、脱走するものは後を絶たない。

 そんなものたちの血を糧にするかのように、遺跡島の木々は青々とその葉を茂らせていた。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

「よお、兄ちゃん」

 竜騎士が顔を上げると、目の前には凶相としか言いようが無い顔の大男が立っていた。巌のような体格に浅黒い肌――腕の茨の刺青は、罪人の証か。だが、ミトラス王国が滅びた今、その刺青も意味をなくしている。

「一杯奢っちゃくれねえか?」

 にやにやと嫌味ったらしい笑いを浮かべた男が言った。隣では、取り巻きと思われる痩せた男が笑っている。

「断る」

 低く錆びた声。ドラグーンの兜から覗く、青い目が男を射抜いた。ざわざわと空気が揺らいだ。眼前の男を、この酒場の者たちは知っているのだろうか? フシャスラは辺りに視線を走らせた。

 

<グロウスだ>

<大斧のグロウスだ>

 

 喧騒の中に混じる声。なるほど眼前のならず者は、確かに大斧を背負っていた。グロウスはにやにやと笑いながら続ける。

「ほお、いい度胸じゃねえか、騎士様よお」

 グロウスが背中の大斧を手に取った――いや、取ろうとした。

 

「おいおっさん。てめえの酒ぐらい、てめえで買ったらどうだい?」

 

 ガシャン。そんな音が沈黙の中に弾けた。何らかの瓶が割れた音だ。グロウスを見ると、彼は頭を押さえて、後ろを向いている。その方向から歩み寄ってきたのは、赤い笠を被った長身の若者だった。グロウスが、瓶のぶつかった頭を押さえながら、彼をにらみつけた。

「てめェ……ヌイか!」

「そうだよ、でけぇだけのおっさん」

 ヌイ。そう呼ばれた若者が少し上を向くと、赤い笠の下から、同じ色の目が覗いた。

 

「クソガキがァ……!!」

 

 今度こそ、ならず者は大斧を手に取った。だが若者はひるみもしない。

 

「表ェ出な。ここじゃ、商売の邪魔だ」

 若者がそう言った瞬間、彼目掛けて剣が振り下ろされた。

「兄貴をおちょくりやがって!」

 取り巻きの痩せ男だ。彼の持っていた鋭い剣が、若者の頭に――当たらなかった。代わりに、それを受け止めたのはほかでもない、彼の掌だ。

 

「カッ、こんな鈍らで俺が殺せるとでも?」

 

 ぎりぎり、と剣が軋む。たかが生身の人間相手に。痩せた取り巻きの顔に、明らかな動揺が走る。その刹那、パリン、と乾いた音を立てて剣が砕け散った。若者の掌には傷一つついていない。

「て、てめぇっ!!」

 痩せ男が悲鳴のような声を上げた。同時に、大男が獣のような声で笑った。

 

「おもしれえ! クソガキ、相手してやるぜ!」

 

 ※

 

 それは奇妙な決闘であった。

 かたや、大斧を担いだごついならず者と、東洋の刀を持った隻眼の男。

 かたや、笠を目深に被った若い男と、同じく兜を目深に被った竜騎士。

 

 まずいことになったな、と笠の男――ヌイは内心思っていた。相手は大斧のグロウス。この遺跡島ではそれなりに有名なならず者だ。

 いや、グロウス自体は大した敵ではない。いかな大斧だろうと、ヌイの戦鎚(ウォーハンマー)で叩き壊してしまえばいい話だ。事実、グロウスは武器と自分の体が重すぎるせいか、一発一発の威力は大きいものの、隙の大きさもそれに比例していた。

 だが、問題は奴の相棒である。東国人と思わしきその男の剣筋に隙はなく、その上とびきり素早いと来ていた。それが、ダガーを武器に戦うシーフあたりなら楽なのだが、東国人が持っているのは、あの長く反り返った刀。ヌイの一番苦手な相手だ。

 

「おい」

 

 ヌイは傍らのドラグーンに声をかけた。

「あんた、あの刀持ってるの――行けるか」

「あの男か」

 ヒュンヒュンと槍が空を切る。

「無論だ」

 その言葉を耳にして、ヌイは一つ笑う。そして、大斧のならず者と向き合った。

 

 

「さあ、はじめようぜ!」

 

 

 そして、大斧と戦鎚、刀と槍がぶつかり合った。




ここまでお読みくださりありがとうございました。

フシャスラさん、私の弟曰く「モーションは無双OROCHIのネメアで、CVはFFのカイン」だそうです。
CVはともかく、何故モーションがネメアなのだ……
私としては「FF11の竜騎士+FF14の竜騎士+DDFFのカイン」あたりかな~と考えていたのですが。

しかし室内でジャンプした竜騎士はどうなるんでしょうか。
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