夜天に輝く二つの光   作:栢人

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第一話 『終わり』の始まり

 

 

 私立風芽丘学園。海鳴市では、私立聖祥大付属高校に次ぐ進学校だ。

 聖祥大付属が女子高なのに対し、風芽丘学園は男女共学。聖祥大付属はレベルも学費も高いため、共学であってもこちらに通う女子は多い。八神颯輔の隣の席に座る女子、高町美由希もまた、その女子の一人であった。

 6月3日13時。土曜日のため半日授業が終わった教室で、本日の日直である颯輔と美由希は掃除に取り掛かっていた。

「八神君、時間は大丈夫? 妹さん、今日も待ってるんじゃない? 私一人でも掃除はできるけど……」

「大丈夫。掃除をする時間くらいはあるさ。それに、二人でやった方が早く終わるよ」

 諸事情を知っている美由希の言葉は嬉しかったが、そこまで気を遣われるほどのものではない。颯輔は何でもないように答えて箒を手に取り、慣れた手つきで床を掃き始めた。美由希もそれに倣い、四時間の授業で白くなった黒板を拭き始める。

 二年生のクラス替えで初めて同じクラスになった二人だが、新学期が始まって二ヶ月そこらにもかかわらず、その仲は良かった。別段、男女の仲というわけではない。読書という共通の趣味があり、また、お互いの妹が同い年ということもあって、自然と話すようになったのだ。

 あまり人に言いふらす様なものではない家庭事情をすんなりと話せたあたり、どこか通じるものがあったのかもしれない。時々先ほどのように気を遣われることはあったが、必要以上に遣われることはなく、同情ではなく普通に接してくれるため、颯輔は美由希の態度を有難く思っていた。

 最近のオススメの本は何だの、昨日のテレビはいまいちだっただの、適度に雑談をまじえつつ掃除を終える。あとは担任に学級日誌を提出すれば、日直の仕事は終わりだ。

「そうだ、妹さんのケーキ、頑張って作ってるから楽しみにしててね」

 美由希は握り拳を作って意気込みながらそう告げた。

 美由希の両親が経営している翠屋は、海鳴市では人気の喫茶店兼洋菓子店だ。妹の誕生日を明日に控えた颯輔は、翠屋にバースデイケーキを頼んでいた。

「高町が作ってるの?」

「あー、えっと……お母さん、だよ。私、恥ずかしながら料理のセンスはないから、厨房には入れてもらえないんだ。一応、練習はしてるんだけどね……」

「誰にでも得手不得手はあるよ。練習してるんなら、きっとそのうち上達するさ。俺も最初は全然料理できなかったし」

「ほんと? 八神君のお弁当、すっごく美味しかったけどなぁ」

「本当。四苦八苦して、やっと今のレベル。まだまだ精進中だけど」

「目標高いねぇ。将来の夢は、料理人とか?」

「さぁ、どうだろ? 先のことなんて、まだわからないよ。今のことだけで精一杯」

「高二でそれはマズイんじゃない? ……まぁ、私も今のことで一杯一杯だけどさ」

「みんなそんなもんだと思うよ。とりあえずは就職、そんな風にしか考えてないし」

「そっか。こっちは、うーん……恭ちゃんが大学生だし、私も進学、かな?」

 ぼんやりと話しているうちに、日誌を書き終える。時計を見れば13時半。そこまで時間はかかっていないだろう。

 学級日誌を提出すると、二人は学校を出て別れた。美由希は商店街にある翠屋の手伝いに行くらしい。颯輔は携帯電話を取り出し、新着メールを開いた。

『図書館で待っとるよー(^-^)v』

 差出人は『はやて』。受信時間は20分ほど前だった。

 今から行く、とメールを返し、颯輔は風芽丘学園の近隣にある風芽丘図書館へと足を進めた。

 

 

 

 

 車椅子のくせに毎度毎度よく来るものだ、しかし、家に籠っているよりはいいか、と相反する気持ちを抱きつつ、歩くこと五分。颯輔は目的の場所に到着し、その玄関をくぐった。

 館内で携帯を使うわけにもいかず、心当たりのコーナーへと向かう。はやては童話や伝奇が好みだ。この前借りたのは伝奇だったため、今度は童話だろうと当たりをつけた。

 童話のコーナーを覗いてみれば、案の定、そこには電動車椅子に座った少女がいた。

 栗色のショートヘアーに、年相応の幼い顔立ち。その表情をほんの少しばかり歪め、必死に本棚に手を伸ばしている。

 颯輔はそっと近づき、お目当てと見られる本を手に取った。

「あっ、ありがとうございま――って、なんや、お兄か。おかえり、お兄。それと、ありがとうなぁ」

「ただいま」

 本を手渡し、さらさらと手触りのいい細い髪をくしゃくしゃと撫でる。他にも何冊かの本を選ぶと、ゆっくりと車椅子を押し始めた。

 毎日のように通っているためか、すっかり顔馴染みとなってしまった司書と軽い挨拶を交わし、本を借りて図書館を出る。今日は買い物をする必要もなかったため、寄り道をせずに真っ直ぐ自宅へと向かった。

 中丘町は風芽丘の隣町。颯輔の足ならば十五分ほどで、電動車椅子ならば二十分ほどの距離だ。颯輔が進学先に風芽丘学園を選んだのも、自宅から近いという理由が一番だった。

「今日はちょう遅かったなぁ。何かあったん?」

「日直当番だったんだ。掃除と、学級日誌の提出が放課後の仕事。ちゃんと連絡しておけばよかったな、ごめん」

「ええよ。本選んでたらすぐやったし」

 はやては生まれつき下半身に障害があり、車椅子での生活を余儀なくされている。本来ならば小学三年生として学校に通っているはずなのだが、その理由から現在は休学していた。

 はやては日がな一日を読書をして過ごす場合が多く、また、颯輔の学校が近いため、借りた本が読み終わると図書館まで通っているというわけだ。

 季節が春から夏へと移り始め、気温が高くなった街並みを歩く。車椅子に座る少女とそれを押す男子高校生に好奇の視線を向ける者も少なからずいるが、ホームである中丘町まで来ればその限りではない。二人とすれ違えば、おかえりなさい、と声をかけてくれる人もいた。

 今では子供だけの二人暮らしとなった颯輔とはやてだが、地域の人は温かく見守ってくれていた。同情されるのは好きではないが、おかずのお裾分けをくれたりと、その好意は純粋に嬉しかった。

 家に辿り着くと、颯輔は車椅子に座るはやてを抱き上げ、リビングにあるソファへと運んだ。

 電動車椅子は高価なために屋内と屋外で兼用しており、外出した後は車輪を拭かなくてはならない。モーターやバッテリーを積んでいる電動車椅子は三十キログラム近くある。体も大きくなった今ではすっかり慣れてしまったが、颯輔が小さい頃は、この作業がまた一苦労だった。

 颯輔は普段着に着替えてから遅めの昼食を済ませると、まずは宿題を片付けることにした。ぶー垂れるはやてを促し、一緒に算数のドリルをやらせる。

 休学しているとはいえど、いや、休学しているからこそ、勉強を疎かにすることを許すつもりはない。はやての勉強を見るのも颯輔の仕事の一つだった。

 もっとも、口では文句を言いつつも、何だかんだではやては真面目に勉強に取り組んでいるようで、小学三年生として十分通用する学力を有している。それどころか、むしろそれよりも高いくらいだった。

 三年生用のドリルはもうすぐ終わりそうで、そのうち四年生用を用意しなければならないだろう。ドリルに赤ペンで丸をつけながら、颯輔はそう思った。

「お、お兄、そろそろご飯の用意せな……」

「ん? もうこんな時間か」

 颯輔の授業にグロッキー状態になりつつあったはやてに催促をされて時計を見てみれば、針は17時半を指していた。今から調理を始めれば、いい時間帯になるだろう。

 颯輔の宿題は終わっていたし、はやての授業もキリのいいところまで進んでいる。今日の勉強はここまでにし、二人は夕食を作ることにした。

 叔母の身長が低かったということもあり、八神家のキッチンは低めに作られている。車椅子のはやてにはギリギリの高さだが、できないことはない。はやて自身の意向もあり、料理だけに限らず、二人で家事をするのが八神家のスタイルとなっていた。

 颯輔は黒いエプロンを、はやてはピンクのエプロンをつけて手を洗う。

「今日はカレイの煮つけやね」

「ああ。煮汁、作ってみるか?」

「うんっ」

 冷凍庫から出しておいたカレイは、すでに解凍されている。颯輔は鍋を取り出し、お椀二杯分ほどの水とかつおだしを入れて火にかけた。人参とジャガイモを小気味いいリズムを奏でながら切り分け、鍋に追加する。

 その間、はやては水と酒、醤油にみりん、砂糖を使って煮汁を作っていた。

「こんなんでええかな?」

「どれ……うん、上出来だ」

「やたっ」

 颯輔からゴーサインをもらい、はやては煮汁を入れたフライパンを火にかける。一煮立ちしたら切り分けたカレイを入れ、十分ほど煮れば完成だ。

 ほどなくして、煮汁の甘い香りが台所に立ち込め始める。

 颯輔が味噌汁の味を調えている間に、はやては朝のうちにまとめて炊いておいたご飯を温めた。

 カレイの煮つけは完成したが、煮汁は少し多目に作ったため、野菜を煮ることでもう一品追加できる。青菜の煮物も作り、本日の夕食が完成した。

「「いただきます」」

 手慣れた様子で夕食を作り、二人は揃って手を合わせた。

 二人だけの食事だが、そこに寂しさはない。テレビではニュースを流しながら、颯輔ははやての語る今日読み終えた本の感想に相槌を打つ。

 八神家では颯輔が聞き手、はやてが話し手という構図が多い。聞き上手な颯輔と、女の子らしくおしゃべりなはやてとは相性が良かった。

 食べ終われば二人一緒に後片付けだ。片方が洗い、片方が拭くという役割分担で、これは日替わり制にしている。今日は颯輔が洗い、はやてが拭くという構図だった。

 次いで、食器を棚に戻し、明日の分の米を研いで炊飯器にセットする。炊きあがりの時間は7時だ。

 風呂を汲んでいる間はリビングで時間を潰す。面白い番組があればテレビを見るし、なければ本を読むことが多かった。

 今の時間帯は丁度ゴールデンタイムで、バラエティ番組を放送していた。

「お兄」

「はいはい」

 両手を伸ばして膝の上を要求され、颯輔ははやてを車椅子から移す。膝の上に収まると、はやては颯輔の腹に背中を預け、満足そうに喉を鳴らした。

 触れ合ったところからはやての温もりが伝わってくる。昔からのはやての定位置。テレビを見るときなどは、大抵このスタイルになるのだ。

 関西人であった母親の影響か、はやてはバラエティが好きだ。今のツッコミはいまいち、など、少々辛口ではあるが。

 だが、この穏やかな時間が颯輔は好きだった。

 はやてを膝の上に乗せ、手慰みに栗色の髪に手櫛を入れながら、面白ければ笑い声をあげる。一日疲れやストレスを忘れられる、貴重な時間だった。

「どれ、そろそろ風呂に入るぞ」

「え~。もうちょっと、アカン?」

「今入らないと、21時からの映画に間に合わないだろ?」

「う~、しゃあないか……」

 20時を少し過ぎたところで、颯輔ははやてに入浴を促した。

 毎週土曜日の21時からは映画の放送をしている。今日は観たかったタイトルだったからか、はやては渋々ながらも頷き、テレビの電源を落とした。

 一度部屋に戻り、着替えを取ってから脱衣所へ向かう。足の不自由なはやてが一人で入浴するのは危険なため、颯輔も一緒に入る。はやてはマットの上に座りながらだったが、自力で服を脱いでいた。できることは自分で、それがはやてのモットーだ。

 颯輔も服を脱ぎ、腰にタオルを巻いて浴室に入る。

 はやてをイスに座らせると、まず頭を洗い始めた。できることは自分で、だが、このあたりは颯輔の担当だ。頭くらいは自分でも洗えるはずだが、兄への甘えなのだろう。スキンシップの一環として、そういった要求には応えることにしていた。

 

「痒いところはないか?」

「んー、もうちょい右……あっ、そこそこ。ん~、気持ちええよ。お兄は洗うの上手やね」

「毎日のように洗ってるからな、上手くもなるさ」

 颯輔は爪を立てないようにと注意しながら、指の腹を使って丁寧に洗う。

 シャンプーを流すと軽くタオルで拭き、今度はリンスを手に馴染ませてから髪を洗い始めた。必要以上に擦って髪を傷めないように、手櫛を入れるようにして洗っていく。はやては心地良さそうに目を細めていた。

 颯輔は丹念にリンスも洗い流してやると、タオルを巻きつけてはやての髪をまとめた。今度はボディタオルにボディソープを垂らし、泡立て始める。

 はやては自力で足を動かすことができない。無論、手を使えば話は変わってくるが、足の力だけで動かすことはできないのである。そのため、はやての体を洗うのも颯輔の担当だった。さすがにデリケートゾーンは自分でやってもらうのだが。

 あまり日に当たらない所為もあってか、ミルクを溶かし込んだかのように真っ白な肌に、優しくタオルを当てる。そっとタオルを動かすと、はやては時折身を捩じらせて小さな声を上げていた。

 

「んひゃっ」

「こら、動くなったら。洗い難いだろ」

「だ、だって、くすぐったいんやもん」

「少しくらい我慢しなさい」

「はーい。んふふっ」

 小さな体に纏った泡の衣をシャワーで洗い流すと、脇に手を差し込んではやてを湯船に入れる。

 今度は颯輔が椅子に座り、シャンプーを始めた。急いでいるというわけではないが、その手つきは先ほどよりは雑で、かかる時間も少ない。子供で女の子であるはやての柔肌とは違い、今度は正真正銘自分の体なのだ。当然といえば当然だった。

 頭、顔、体と洗い、颯輔も湯船に浸かった。二人も入れば一気に窮屈に感じる湯船だが、足をたためば入れないこともない。

 風呂のお湯は適温で、体の隅々までをじんわりと温めてくれる。一日の疲れが溶け出していくようだった。

 十分に体が温まったところで、風呂から上がる。バスタオルを使い、先ずははやての体を拭いた。

 続いて、はやてが着替えている間に颯輔も体を拭いて着替える。颯輔はグレーのスエットで、はやては藤色のパジャマだった。

 リビングに戻るとはやての頭のタオルを解き、ドライヤーで髪を乾かし始める。あ~、う~、などと言いながら、はやてはされるがままになっていた。最後に櫛を使って乱れを調えると、颯輔は自分の髪を乾かした。

 ドライヤーを片づけ、洗濯機の予約を済ませると、丁度映画の始まる時間になっていた。

 夕食後の間食は推奨されないが、こういう時は別と割り切り、お菓子と飲み物を用意する。始まってまうよ、と急かすはやてを再び膝の上に乗せ、一緒にテレビの画面に目を向けた。

 時折お菓子へ手を伸ばしながら、画面に集中すること二時間半。比較的長い部類の映画は終わり、膝の上でははやてが欠伸を噛み殺していた。終盤になってから時折そうしていたため、眠気が大挙として襲ってきているのだろう。

 颯輔は一度はやてを下し、ゴミとコップを片づける。さっとコップを洗って戻ってみると、はやてはうつらうつらと船を漕いでいた。

「ほら、歯磨きして寝るぞ」

「んぅ……」

 曖昧な返事をしながら手を伸ばしてくるはやてを抱き上げ、洗面所へと連れて行く。頬を軽くぺしぺしと叩いて起こし、イチゴ味の歯磨き粉をつけた歯ブラシを持たせてやると、意識を半覚醒させたはやてはもそもそと手を動かし始めた。その様子に苦笑を漏らしながら、颯輔も歯磨きを始める。

 歯磨きを終えると、トイレに入ってから寝室に足を運んだ。

 はやてが車椅子でも行けるようにと、はやての寝室は一階にある。また、はやては一人でトイレに行くことが困難なため、颯輔も一緒の寝室で眠ることにしていた。

 部屋のスペースの都合上、ベッドは大きめのサイズのものが一つきりだ。無論、ベッドから落ちないようにとはやてが壁側である。はやてを奥に寝かせると、電気を消して颯輔もベッドに入り込んだ。

「おやすみ、はやて」

「……歯磨きしたら目ぇ覚めてもうた」

「いいから寝なさい。もうすぐ0時になるぞ?」

「そやけど……ちょっとだけお話しよ? 明日はお兄もお休みやし」

「……ちょっとだけだぞ?」

 どうも甘やかしすぎている気がする、と自覚を持ちつつも、颯輔ははやての誘いに頷いてしまった。

 ダメなものはダメと言える颯輔だったが、こういった部類のちょっとしたお願いには弱い。はやてがこの世でたった一人の家族だからだろう。人より不自由な思いをさせているから、という理由もある。そのため、はやてが望むことにはできる限り応えるようにしていた。

 時折カーテンの隙間から差し込む車のライトによって照らされる天井を見上げながら、映画の感想や明日の予定などを話し合う。

 明日、6月4日ははやての九回目の誕生日だ。

 二人きりの家族でサプライズも何もないが、誕生日プレゼントは既に用意してあるし、夕飯のご馳走メニューも考えてある。今年は、海鳴市で一番の洋菓子店にバースデイケーキの予約もしてあった。プレゼントもご馳走メニューもそれとなくリクエストを聞いていたためにバレているだろうが、ケーキに関してはまだ話していない。はやては稀に入ってくる広告を穴が開くほど見つめていたため、間違いなく喜んでくれるだろう。サプライズといえば、サプライズになるかもしれなかった。

 二人の小さな声が響く寝室で、時計がカチリと音を立てる。分針が頂点に登って時針と重なり、12を示したのだ。

 6月4日、午前0時である。いつもなら寝ている時間だが、今晩は起きているのだ。せっかくだから、誕生日おめでとう、と早めに祝おうと颯輔が口を開いた、その時だった。

 真っ暗な部屋を、怪しい光が照らし始めたのは。

 慌てて身を起こして光源を探してみれば、机の上に飾っていた一冊の本が紫の光を発していた。茶色の表紙に十字架の金細工が施されたハードカバー。鎖で封をされた、あの本である。綺麗な本だからとインテリアとして飾っていたはずが、どういう仕掛けか、自ら光を発しているのだ。

「なっ、何っ? きゃあっ!?」

「はやてっ!」

 光量が増すとともに、地震のような揺れが襲ってくる。颯輔は、悲鳴を上げたはやてを反射的に抱きしめた。

 何が起こっているかはわからない。危険なのか、安全なのかの判断もつかない。颯輔は、空中へと浮き上がって脈打つように鳴動している本から、ただただ目を離せずにいた。

 ギチギチと軋みを上げていた鎖が遂に飛び散り、どうやっても解けなかった封が解ける。本が開き、バラバラと独りでに頁が捲られていた。不思議なことに、その頁は文字も絵も記されていないまっさらな白紙。呆然と見つめる中、颯輔はそんなことに気が付いた。

《Ich entferne eine Versiegelung.》

 全ての頁が捲られると、これまたどこから発したのか、聞き覚えのない合成音声が何事かを告げた。

 気のせいでなければ、封印を解除します、と聞こえたような気がする。バタン、と音を立てて閉じられた本はゆっくりと高度を下げ、二人の目の前まで下りてきた。

《Anfang.》

 起動、と本が告げると、一際眩い光が寝室を照らし出した。

 

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