Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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今回のテーマは「白いナルガクルガ」です。舞台は凍土。
この話はイャンガルルガの逸話を元に、モンスターハンターの可能性を広げてみようと思い書いた物です。
今更ですが、リクエストしてくれた方、理想と違っていたらごめんなさい(汗)

12/10:誤字修正「黒狼竜」→「黒狼鳥」


part10:「白豹竜の生態」

 ―ヘッヘッヘ、良い尻尾をしていますねレイアの奥さん

 

 ―だ、駄目ですわクック先生、主人が帰ってきてしまいます

 

 ―レウスの旦那も罪だねぇ。こんないい奥さんをほったらかしにするなんてさ

 

 ―ああ、そんな……

 

 ―奥さーんっ!

 

 ―あーれー!

 

 

 

「……ていう事があってイャンガルルガが生まれたっていう説」

 

「ねーよ」

 

 ほんとにねーよ、という気分のレウス装備の男の突っ込みはとても冷めた物であった。

 なんだよ面白みねーな、とレックス装備の男は不貞腐れ、それに同意するかのようにナルガ装備の女は頷いた。

 こんな凍土のど真ん中、しかもクエスト中でそんな事が言えるのだから、二人の神経の図太さは半端無い。

 

 彼らはご存知、イャンクックを愛するユクモ地域のベテランハンター3人組であった。イャンクック変異種を逃した彼らだが、それ以降は大した変化は無い。

 現在もこうして、近隣を暴れまわっているというベリオロス「らしきモンスター」の討伐へ向かっている。

 

 「らしき」という単語が、今回のクエストのキモだ。

 目撃した人物曰く……「ベリオロスのようでベリオロスでななかった」とのこと。

 その目撃した人物というのもまた困惑させた原因で、彼はとある村の専属ハンターだったのだ。

 それも多くの飛竜を倒してきた熟練者だったのだが、そんな彼が体中に傷を負って帰ってきた。

 しかも彼が言うには、そのモンスターの動きはとても早く、目で捉えることが難しいという。

 

 極小の目撃情報とはいえ、名の知れたハンターを重傷に追い込んだモンスターを野放しにするほど甘くは無い。

 最近になって変異種の発見が続出していることもあり、ユクモ地域で主力となっている彼らを向かわせた、ということだ。

 そんな重要な任務を与えられるということは、彼らの腕前を信頼している証拠なのだが……。

 

「……で、そんな歪んだ家庭だからこそ、イャンガルルガはグレて暴れん坊になったってわけだ」

 

「ああ、かわいそうなイャンガルルガ……」

 

―なんだこの盛り上がりよう。

 

 後で邪魔になるであろうバギィ達を掃討している最中でも、レックス男とナルガ女の談笑は終わらない。

 しかもイャンガルルガ誕生の嘘話を中心にして、だ。それでいてキチンと作業しているのだからイラッっとくる。

 

 だが考えてみれば、イャンガルルガの誕生の説としては正しいかもしれない。

 飛竜にも匹敵する力を持ち、長い尾には毒を持ち、火を吹き、それでいて好戦的。まさしく火竜種の血筋を思わせるほどの攻撃的なスタイルを黒狼竜は持っているのだ。

 噂では本当に火竜と怪鳥のハーフではないかと言われているのだから、そこから冗談めいた話に持ち込んでいるのだろう。

 

―それにしたって、クエスト中にそんな話をするのもどうかと思うが。

 

 真面目かつ常識が備わったレウス男としては悩み所だが、今は仕方ない。

 大方バギィ達を倒した所で、周囲を見渡してお求めのモンスターを探すことにする。

 

 

 

 そして、3人揃ってその姿を目撃することができた。

 氷の崖の頂上から、こちらを見下すかのように睨み付けるモンスターが居たのだ。

 

 それは、遠くから見ても解かるほどに、ベリオロスのようでベリオロスではなかった。強いて言えば、どことなく別のモンスターの面影が重なる姿をしていた。

 橙色の鋸のような刃翼、棘は生えていても鞭のようにしなる尻尾、鋭い眼光……。

 

―そうだ。迅竜ナルガクルガだ。

 

 ナルガクルガを白くしたか、またはベリオロスが刃の翼を持ったかのような姿。

 奇しくもそれは、黒狼鳥のような、しかしそれ以上に恐ろしい組合せで作られたモンスター。

 黒狼鳥が怪鳥と火竜の混合種と考えるなら、こちらは迅竜と氷牙竜の混合種。

 

 

 仮に別名をつけるなら、黒き狼の竜とは対となる白き姿からして―――「白豹竜(はくひょうりゅう)」と言った所か。

 

 

 先ほどまで馬鹿な話をしていたとは思えぬほどに空気に張りを与えるレックス男とナルガ女。

 レウス男もそれに続き、高くから見下ろしているモンスター……白豹竜に対して構えを見せる。

 レックス男は大剣、ナルガ女は弓、レウス男はランス。堅実に、時に大胆に攻めるのが彼らの戦法だ。

 白豹竜はそれに応じるかのように咆哮を上げる――遠く高い位置に居るというのに、鼓膜と体をビリビリと震わせた。

 

 白豹竜は大きく跳び、滑空しながら猛スピードでこちらに跳びかかってくる。

 あんなスピードで襲われたらたまらないと、三人は助走をつけて一気に三方へと跳ぶ。

 四肢が雪にめり込むが、落下速度と重力を無視するかのように、しかし雪による滑りを生かして距離を取りつつ、態勢を立て直す。

 

 無駄の無い動きだが、僅かに隙はあった。しかしそこへ飛び込むようなことはしない。

 新たな脅威である白豹竜の動きを観察すべく、剣士2人が並び、その後方にガンナーが立つ。

 

 その警戒は正しかったようで、白豹竜は滑りの勢いが衰えたと同時に跳びかかってきたのだ。

 大剣とランスのガードで応じるが、その跳びかかりの勢いは強く、持ちこたえるのに精一杯だった。

 だがぶつかって動きを止めたのには違い無い。ナルガ女の弓矢が白豹竜を捕らえ、穿つ。

 

 しかしベリオロスの血筋を思わせる甲殻がそれを阻み、それどころか弾いてしまった。

 ただの矢では効能が無いとわかったが、今は距離を取ることを優先すべく、ナルガ女は走った。

 白豹竜の右前足がレックス男の大剣を、そしてナルガクルガ似の顔に琥珀色の鋭牙を生やした口がレウス男の盾に噛み付く。

 ジリジリと男2人が白豹竜の力に押されていき……白豹竜が後方へ飛んで距離を取った。

 

(俺が前に立つ。奴の側面から攻めてくれ)

 

 レウス男が指とアイコンタクトで指示を送り、レックス男が頷いた。

 言葉は足らずともハンターの長年の経験がそれを補い、二人は即座に行動に移した。

 

 盾を構えながら迫るレウス男を前に白豹竜は噛み付きで応戦。それを防ぐ。

 その僅かな隙を狙ったレックス男が白豹竜の右側面へと周りこみ、剣を振るう。

 

―レックス男は、もらったと思っていた。

 

 ガギン、と派手な金属音が響く。

 そこには、白豹竜の横っ腹を狙って振り下ろされた大剣を防ぐ、鋸のような刃翼があった。

 弾かれた剣の行く先に翻弄されるレックス男は、ギロリとこちらを睨み付ける白豹竜の眼を見た。

 完全にこちらの動きを読まれていたのだ。だから届かないはずの刃翼がそこにあった。

 

 レウス男を盾ごと吹き飛ばすと、白豹竜は四肢―特に右前足―に力を込め、長く棘まみれな尾を振り上げる。

 逃げ切れないとレックス男は悟ったか、即座に大剣を盾にして構える。だが白豹竜はお構いなしに、右前足を軸にして、右へ向けて体を大きく揺らす。

 結果、遠心力としなる尾によって、棘まみれの長い尾がレックス男に襲いかかる。

 

 ガード系スキルを持っていないレックス男は、盾で防げなかった箇所に激痛を伴った。

 体を打たれた痛み、棘が体に食い込む痛み……それらを体に、文字通り叩き付けたのだ。

 

「このぉぉぉぉ!」

 

 イャンクックを語り合う親友が吹き飛ぶ様を見て、ナルガ女は激怒した。

 爆裂型の弓が曲射を描いて白豹竜へと落ちていくが、白豹竜はそれですらお見通しであったかのように跳ぶ。

 短い距離だったこともあるのか、白豹竜は滑りもせずに着地。鋭い爪を突き立てたのだろうか?

 

 ナルガ女は傍目でレックス男がレウス男に助けられたのを確認し、安堵する。

 しかし白豹竜は容赦しない。今度は助走を加えて跳びかかってきたのだ。ナルガ女は即座に武器をしまい、走って逃げることでこれを回避する。

 

―だが。

 

 鋸のような刃を地面に押し当てることで摩擦が生じ、白豹竜は緩やかなカーブを描く。

 しかし白豹竜はその勢いに乗じたまま、なんと四肢を構え跳びかかる態勢に入っていた。

 

 その様子を見ていたハンター達は、固まっていてはまずいと思ったか、走り回って避けようと試みる。

 そして白豹竜が一気に跳びかかるのだが……速い。少なくとも雪上での動きとは思えないほどに。

 その速さと勢いを殺すことなく、しかし雪の滑りを計算に入れた無駄の無い動きでハンター達を追い詰める。

 

 この白豹竜にとって、雪上における動きの障害など無意味だった。

 ベリオロスは棘の生えた翼と尾で無駄の無い動きをしているのだが、その比ではない。氷地の上でありながら、ナルガクルガ特有の機敏な動きを失わせていない。

 それこそがベリオロスとの決定的な違いだった。跳躍や尾での攻撃を加え、より攻撃的になった。

 イャンガルルガのような好戦的な印象は受けず、優雅で華麗な戦い方を見せる飛竜種。

 

―ここにいるハンター達は、窮地に立たされていながらも、白豹竜の美しさをかみ締めていた。

 

 

 

 やがて戦いは激戦を繰り返し、日が地平線に傾き始めた頃。ハンター達は堅実な立ち回りを見せるものの、息が上がっていた。

 長時間も戦えば本来は足が震えていてもおかしくはないが、経験豊富な彼らはまだ持ちこたえている。

 

 白豹竜はといえば、口から涎を垂らし、息を荒げていた。

 ベテランハンターを相手に少ない損傷で済ましているとはいえ、長時間も戦えばそうもなる。

 逆に考えれば、アレだけ派手な動きをしておりながら、今になってやっとスタミナ切れになった、ということ。

 このモンスターがいかに長生きし、歴戦を貫いてきたのかが解かる。

 

―そして、根負けしたかのように白豹竜が空へ昇って行った。

 

「逃がすものか!」

 

「深追いするな。もう時間も無い」

 

 弓を構え狙い撃とうとしたナルガ女をレックス男が止める。

 本来なら飛行した所を狙って落としたかったのだが、アイテムが底を尽きた以上、深追いは禁物。

 なによりもスタミナを切らすことはできても重傷を与えることができなかったのが痛かった。

 それだけの強敵だと解かっただけでも収穫としておくべく、名残惜しそうに空を見上げる3人。

 

 

 

―大空を滑空する白豹竜の姿が、そこにはあった。

 

 

 

「ナルガ×ベリオって誰得だよって話だよな」

 

「案外いけるんじゃない?」

 

「……お前ら」

 

 さっきまでのシリアスな空気はなんだったんだろうか……。

 レウス男は即座に平常運転に戻る二人を見て、呆れながらそう思った。突っ込んだりしないのは、狩猟の疲れからだ。

 

 

 この後、三人の報告と情報提供によりギルドは難色を示した。

 ナルガクルガとベリオロスを足して二で割ったようなモンスターが居るだなんて信じられなかった。

 しかし彼らは(おふざけが多くても)名の知れたハンターだ。嘘を言っているようにも思えない。

 さらにレックス男が描いた(妙に上手い)スケッチにより詳しい詳細が解かるようになり、さらに頭を悩ませる結果となった。

 結果、この謎のモンスターを「ナルガオロス」と名づけ、世界中のハンターに注意を呼びかけることになった。

 

 

 

―完―




 レウス装備の男、レックス装備の男、ナルガ装備の女。何気に当作品常連予定の上位ハンター三人組です。
 彼らは(pixivでも)未だに名前や容姿が決まっていません。イイ加減決めるべき?

 そんなこんなで、ベリオロスとナルガクルガを合体したようなモンスターでした。
 特徴は雪上でも素早い動きを維持できることです。目撃例が少ない激レアモンスター、という設定です。
 なので装備やスキルは全然考えていません(←怠け者)

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