Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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今回のテーマは「雪山に完全に適応し白くなったティガレックス」です。
音爆弾を吐き出すような攻撃や龍属性を纏う兇悪な轟龍です。

今回の話は、作者の偏見が多く含まれます。
読めば作者に嫌悪感を抱く可能性が高く、賛否論や批判が出ても仕方ないと思っています。
ですがテンプレ小説そのものが嫌いでないことをご理解ください。お願いします。

もう一つのテーマは「自然の猛威と現実」です。

2014/11/20:誤字修正


part16:「白轟竜の生態」

 世界に決まりなどない。自然界において絶対などない。

 常に世界は変化している。善悪も無く、区別も無く、進化と変化を繰り返して明日を生きる。

 自然界におけるルールは「弱肉強食」。しかし、誰が弱く誰が強いかなど、日どころか刻単為で変化している。

 

 それを理解しているのは他でもない―――この世界に生きる全ての生物だ。

 この世界の自然に生きる全ての生物は、己の持つ全てを生かし、全力を持ってこの世界で生き抜く。

 故に人々は生き続ける。故にハンターは戦い続ける。故にモンスターは進化し続けている。

 

 

 

 故に―――この世には、人間では到底適わない強さを秘めたモンスターも存在する。

 

 

 

 オレの名はタロウ。信じられないだろうが、俗に言う転生者ってやつだ。

 糞神のおかげで、ありえねーぐらいにテンプレな死に方しちまったんだよ。大学入ったばっかの20歳で、だぜ?

 そんな神にはお詫び(という名の責任逃れ)として、オレを「ある世界」にチート持ちで転生させてもらったんだ。

 

 それがこの「モンスターハンター」の世界!

 オレはモンハンが大好きだ。装備がカッケーし、モンスターを狩り終えた時の征服感がたまらねーっての。

 フロンティアでのネット中毒はもちろん、神おまゲットの為に徹夜で鉱山夫、なんて当たり前だったぜ。

 

 そこに転生させてもらったオレのチート能力は「全スキル持ち」と「攻撃力・防御力の異常強化」。

 神から譲り受けたこの「神のピアス」で、全ての良スキルが付加され、攻撃力と防御力が強化されるという優れものだ。

 装備の都合上ヘルムを装備できないが、転生後の顔はイケメンなのでなんの問題も無い。むしろ顔みせは重要だ。

 

 もう一つのチート能力としてオトモアイルーがいるんだが……そいつはなんと「悪魔アイルー」であるという。

 見た目は黒っぽいアイルーでしかないし、転生後の幼少時から一緒にいたが、攻撃力と防御力は異常。まさに悪魔だ。

 ま、オレより弱いには違いないからいいけど。楽をしたいときはこいつに狩猟任せれば充分だ。

 

 この力と美男子フェイスのおかげで、HRは鰻登り、美女ハンター達と毎日ラブラブハーレムだぜ!

 ただし男とブサイク、てめーらは駄目だ。俺のクエスト参加者は美女だって決まってんだよ。アイルーは同行可。

 こんなことしていいのかって?いいんだよ、俺は前世では神に間違えて殺されたんだぜ?むしろ当然だっての。

 

 さて、そんな最強なオレの元に、ハンターギルドのお偉いさんから手紙が届いた。なんでも秘密裏に受注して欲しいクエストがあるらしい。

 報酬は今までのクエストとは比べ物にならないが、注目すべきは討伐するモンスター。

 内容によると、そのモンスターは人間では太刀打ちできない程に強く凶暴らしい。

 今まで機種に関わらず沢山のモンスターと相手をしてきたが、変種や特異個体は居ても覇種クラスは狩ったことがない。

 もしかして、フロンティアでいう「UNKNOWN」みたいなレアモンか?ならこの世界ではオレが先駆けになるか……歴史にオレの名が刻まれるだろうな……!

 さっそくお偉いさんに会いに行くとする。1人でって話だがオトモアイルーは許可されたので、悪魔アイルーのデビを連れて行く。

 

 ま、チートのオレ様に掛かれば楽勝だがな!まさに俺TUEEEE!

 

 

 

 そのティガレックスは、人里離れた雪山に生息していた。

 それまでは、その辺にいるような、普通に強いだけのモンスターだった。力を振り回し、赴くままに生きていた。

 しかしそれは、ある日を境目に一変するようになった……1人のハンターに敗れたことによって。

 

 G級の二つ名を持つ1人のハンターと、その雪山の頂点に立つティガレックス。一方は討伐依頼の為に、一方は侵入者を排する為に。

 彼らの戦いは激戦だった。常に全力で挑み、生傷が絶えず、全ての攻撃が一撃必殺の大技だった。

 だが、決着には至らなかった。トドメまで後僅かでありながら、命欲しさにハンターが逃げ出したのだ。

 ハンターにとって打ち勝つばかりが生きる道ではない。時には誇りと名誉を捨て、命と大事な者の為に逃げるという選択肢もある。

 

 だが、ティガレックスはそうではなかった。

 弱肉強食の世界の下で、命の炎が途切れようとしているのに生き延びている。これは生物にとって最大の侮辱でしかなかった。

 放っておいても死ぬかもしれないが、癒す術はあるし、獲物を狩るだけの力が微かにある。つまり生かされたのだ。

 自分は絶対強者の地位から転落した。ティガレックスは朦朧とした意識の中でそう気づく。野性の世界にも「強弱」の区別がつくのだ。

 だからこそ彼は、この時からハンターに勝ち続けなければならない―――全ては、己が「絶対強者」であった頃を取り戻す為に。

 

 

 

 始めに違和感を抱いていたのは、タロウのオトモアイルーであるデビであった。

 彼とは幼少の頃からの付き合い故にある程度の信頼感があるが、それでも彼に対して抱く不信感は少なからずある。

 

 デビは生まれつき怪力を身につけたアイルーとして、将来的にはハンターと共に狩猟する気もあってか、強くなろうと努力し続けた。

 そんな矢先だ。タロウがハンターになると聞き、自分に彼のオトモをしろと命令されたのは。

そんなこんなで彼のオトモをしているが、色々な所で適当でいい加減な彼とは未だに折り合いが悪く、付き合いも悪くなった。

 デビは強さに反して慎重な性格をしており、何事に対しても気配りや警戒を怠らない。幼少の頃からの勉学が物を言う結果だ。

 だからこそ、いい加減なタロウを苦手としていた。少なくともデビ自身はそう思っているし、自覚している。タロウがどう考えているかはサッパリ解からないが。

 

 だからこそデビは常に警告してきた。

 ハンターギルドから届いた手紙に記されていた、自分達だけの極秘裏な依頼に対しても。

 自分達を呼び止めたハンターギルドのお偉いさんの、品定めするような鋭い目つきにも。

 護送人と名乗る武装していた二人組みにも。行き先である地図に無い雪山にも。入り口が巨大な鉄格子で覆われていることにも。

 依頼達成条件が「白轟竜(はくごうりゅう)」なる特別なティガレックスの討伐だということにも。

 そして、護送人が「討伐の証を持ってくるまでは帰還は許さん」と言って分厚い鉄格子を閉じた事にも。

 

 しかし、タロウは。

 

「何ビビってんだよデビ。オレが負けるとでも思っているのか?」

 

 なんていう始末。

 

 頭部以外をアカムト装備で覆い、ガンランス「テオ=ブラスト」を背負っているタロウは、吹雪をモノともせず平然としている。

 後ろでは重々しい鉄格子が、まるで自分達を逃さないでいるかのように立ちふさがっている為、デビは少ながらず恐怖している。

 妖しさの中でも平然と歩いているタロウの背を見ると……まるで緊張感を漂わせていない。

 まるで舐めきっている。これから挑むのは、ティガレックスとはいえ、未知なるモンスターに違いないのに。

 

 デビが頭の中でモヤモヤと考えていた時――自分達と雪山を轟音と振動が襲った。

 デビは獣人種故に持つ野生の勘を感じた。これはヤバイ。凄くヤバいと。

 

「だ、旦那さ」「こっちだな!ついてこいデビ!」

 

 忠告しようと思った所で走り出すタロウ。その表情にはまるで危機感を醸し出しておらず、むしろ狩る気満々だった。

 こうなったタロウはとめられない。諦めたデビは、彼の後を追う。

 

 

 

 白いティガレックス――白轟竜は歓喜した。この地にハンターが到来してきたを。

 ティガレックスは感じ取っていた。強大な力を秘めたハンターの気配を。

 この雪山は人間によって人が出る所を阻まれており、餌はあれどハンターがやって来ることは滅多に無い。

 古龍種ですら破壊できないような鉄のバリゲードをふんだんに使う辺り、このティガレックスに抱いている恐怖心を感じる。

 だがそんなことは白轟竜にとってどうでもいい。ハンターが来るのなら、倒し、殺し、喰らう。

 雪山に完全に適応して白くなり、ラージャンを尽く殺してきた力を持つティガレックスは咆哮を上げる。

 

 

 

 まるで、宣戦布告のように。

 

 

 

 チートで主人公している自分が、特異個体相手でも余裕で勝てたのに、ティガレックスごときに負けるはずがない。

 そう思っていた……少なくともギルドのお偉いさんから話を聞いた時点では。

 

(なんでだよ……!)

 

 タロウは逃げていた。武器を捨て、デビを見捨て、ひたすら入り口を目指して。

 最初に抱いていた勝利の確信は完全に崩れ去り、顔には焦燥と恐怖、そして現実から背ける濁った目が映っていた。

 

(なんでだよ……!)

 

 相手はただのティガレックスではなかった。

 こちらを見た途端に怒り状態になったティガレックスは、全身から龍属性のオーラを滲み出していた。

 全身に溢れ出てくるオーラのようなゴウゴウと燃える黒い炎は、まるで怒り喰らうイビルジョーのような姿に酷似している。

 それだけならよかった。見るだけなら、最初から覚悟を持たないタロウなら何てこともないからだ。

 

 白轟竜が息を吸い上げる動作を見て、ガードの姿勢に入った。その時から事体は一転した。

 咆哮かと思いきや、空気の塊のようなものを吐き出し、それがタロウの後方へと飛んでいく。

 その直後、ガードしていた背面から、音爆弾の音量と振動を数十倍にしたような大爆発が襲い掛かった。

 タロウは驚く暇も無くそのまま前方へと吹き飛ばされ、着地したと同時に驚愕が走った。

 ありえない。こんな攻撃、ティガレックスには無いはすだ。黒轟竜ですらこんな攻撃は無い。クシャルダオラですらあんな空気の暴発があるかどうか怪しい。

 というかあんな攻撃見た事も感じた事もない。フロンティアでも似たような攻撃を知らない。現世でも前世でも。

 

 その後は流石のタロウも観察だの様子見だのといわず、本気で挑みに掛かった。

 掛かったのだが……先ほどの咆哮玉を合図に、事体は逆転していくこととなった。

 

 絶大な攻撃力を誇るはずのタロウの砲撃は、鎧竜の甲殻ですら一発で粉砕する威力がある。それを受けても傷は負うが致命傷にはならない。

 龍属性のオーラを纏った爪攻撃は、ガード強化&ガード性能+2を持つガードごと吹き飛ばし、直撃でないのに全身に衝撃と痛みが走る。

 動きはティガレックスに近いが、素早さと小回り、そして攻撃力が段違い。先読みできたとしてもガンランスの機動性だと追いつけない。

 当たったとしても、筋肉質な甲殻がタロウの攻撃を防ぐ。今までの相手なら一発で致命傷になれたのに、まるで通用しない。

 何よりも恐ろしいのは咆哮だ。黒轟竜を凌駕する咆哮は、風圧ブレスのように圧縮し、先ほどの咆哮玉を放つこともある。

 今まで舐めて掛かってきたからか、デビの力がありながら、未だにタロウは不利を覆すことができない。

 前世でのティガレックスの攻略知識が当てにならず、並の大型モンスターを悠々と殺した確かな力がさほど通じない。

 通じないわけではない。確かに傷はついた……しかしこの攻撃力を持ってしても、まるでナイフで肉を裂くような感覚しか残らかった。

 

 

 

―そして今、事態はタロウの予想を大きく裏切ることとなる。

 

 

 

(なんで、武器が、ぶっ壊れるんだよぉ……!!?)

 

 見えない恐怖に怯えつつも必死に逃げるタロウは、先ほどまで握っていたはずの、今は投げ捨てた武器の姿を思い出す。

 優れた武器であるはずのテオ=ブラストは、ティガレックスの牙によって粉砕された。それも粉々になって。

 噛みつき攻撃をガードした時に盾を、呆然としていた時に砲塔を破壊され、タロウはついに顔を蒼白に染めた。

 その後の対応は早かった。デビに「任せた」と言って閃光玉を投げ、怯んだ隙に背を向けて全力疾走した。

 

 そして彼は今に至る―――ありえない、ありえない、ありえないと頭の中を恐怖と葛藤が渦巻きながら。

 咆哮玉に吹き飛ばされた時……いや白轟竜と対面したその時から、勝利のイメージは掻き消え、敗北の道しかなかったのだ。

 

 しかし彼は現実をゆがめていた。

 きっと逃げ切れる、デビが倒してくれる、あの轟竜も転生者だ、倒れてもネコタクで帰れる、ご都合展開でオレの恋人達が助けてくれる、そもそも逃げ切れれば生き残れる……様々な妄想を思いつくことで、現実から逃れようとしている。

 だってここは、モンスターハンターの世界―――つまりゲームの世界なのだから。ゲームの世界だからこそ、いくらでも逃げ道はある。

 

 

 

―だが、彼にとってゲームであっても、ここは現実でしかない。

 

 

 

 鉄格子の先に、人は居なかった。

 護送人と名乗っていた二人組の姿どころか影も、そして待機してあったはずの気球ですらない。

 開けろ開けろと叫んで鉄格子を掴んで動かそうにもビクともせず、声は吹雪の先に消えていくだけ。

 それでもタロウは叫びながら鉄格子を壊そうとするが、岩をも砕く拳を前にしても、対古龍用に開発した特注の鉄格子を破壊することはできなかった。

 彼は忘れていた。狩猟時間の事を。それを過ぎても何の警告もなかったことを。自分を置いていくとは思わなかったのだ。

 やがてかじかむ手を降ろし、呆然と鉄格子の先に映る灰色の光景を眺める。その目に光はなかった。

 

 

―そして、絶望はやって来る。

 

 

 爆発のような咆哮が背後から轟き、強振動が耳と全身を包み込む。

 その咆哮に怯みつつ咄嗟に後ろを向くと、そこには、猛烈な勢いで走ってくる白轟竜がいた。

 口元に、デビが纏っていたはずのマフモフコートの破片を引っ掛けて。

 

 タロウは、今度こそ絶望の淵に精神を追い込まれた。信じられない光景を、嫌というほど目の当たりにするしかなかった。

 雪を掻き分け、龍属性のオーラを揺らめかせ、怒りに血走る白轟龍の姿を見た。

 そこで初めてタロウは現実を目の当たりにし、死への恐怖と実感を全身に受けることとなる。

 

「あ、あ……」

 

 走る。

 

「お、お前も転生者なんだろ!?は、話を聞いてくれよ!」

 

 白い絶望が走ってくる。

 

「これはゲームなんだ!オレは死なない!だからやっても無駄なんだぜ!?」

 

 猛烈な怒りと闘争心を滾らせながら、白い死が迫ってくる。

 

「オレはオリ主なんだぞ!?神が死んだお詫びにと転生させてもらったんだぞ!?だから殺すのは世界の理に反して

 

―ゴガオオオオオォォォォォォ!!!!

 

 白い死は、それを理解しない。現実から逃げて叫ぶだけのハンターに構うはずがない。

 

「………助けて」

 

 

 

―母さん

 

 

 

 それは、前世と今世、どちらの母を指したのだろうか?

 自分でも曖昧だと思う助けを求めた、自然の理を理解しようとしなかった愚かなハンターは。

 

 

 

 

 白い死に、呑まれた。

 

 

 

 

「……そうか。ついに帰ってこなかったか」

 

 暗闇の中で、蝋燭の炎が舞う。今にも消えそうな弱い光だけが、薄暗くも周囲を照らす。

 

「はい。狩猟時間を過ぎても白轟竜の轟きが響いていたので、もう終わったかと」

 

 その光に照らされる影二つ。しかし見えづらく、人影から人物を特定するのは難しい。

 

「それなら良い。……結局、彼も人だった、ということか」

 

 蝋燭が照らすのは人影だけでない。卓の上に置かれた物―×印が押された青年の似顔絵―も照らされる。

 

「ギルドナイトを派遣する手間が省けましたね」

 

 二つの影はハンターズギルドに繋がる者だ。そして彼―――タロウに秘密の依頼を申し込んだ発端でもある。

 

「彼は不自然に強かった。それだけならまだいい。問題は彼の性格にあったのだから」

 

 影は思い出す。タロウと呼ばれる若きハンターの伝説と―――その裏にある恐ろしさを。

 

「ええ。死を恐れず、まるで遊びのようにモンスターを狩る。そんな彼には、まるで夢でも見ているかのように魅了された人々が集まってくる」

 

 誘蛾灯に集まる蛾のように盲目になった人々が集い、常に女遊びをしていたとも。

 物が欲しいからと草食モンスターですら無遠慮に殺しまわり、それをなんとも思わない残酷さを見たとも。

 圧倒的な力を持っているからと強大なモンスターを前に優雅っぽく戦う、自作自演といいようがない戦い方をしたとも。

 

「行き過ぎた力と半端な覚悟は、ハンターではなく殺人鬼を、自然を無遠慮に殺すだけの生き物を生み出す要因になりかねん」

 

 まるで自分を見せびらかすかのように力を振るう彼は、自分の優秀さを自慢する子供のよう。

 子供故に残酷。過剰故に凶悪。無自覚故に危険。だからこそ芽を摘むべきだと、ギルドが判断した。

 

「ですが、彼は白轟竜の前に敗れた」

 

 そして芽は詰まれた。少しの疑いも持たず、彼は白い死に摘まれに行った。

 

「奴は何年も前から生き永らえ、ラージャンにも、古龍種にも打ち勝ってきた強者だ。故に我々は、あの雪山を地図から消し、入り口を塞いだ」

 

 激昂のラージャンですら食い殺したとされる『金獅子喰らい』。

 クシャルダオラの無残な死骸が目撃されたから付けられた『古龍殺し』。

 まるでイビルジョーのように恐怖と暴力を振舞う様は『恐暴竜の生まれ変わり』。

 

 全ては亡きハンターが逃したティガレックスから成る、人間に伝えられる禁忌。

 

「だが、そんな奴でも自然には違い無い」

 

 そんな白轟竜でもモンスターには違い無い。世間が知らないだけで、彼のような『化物』は各所に居るのだから。

 

「だからこそ、彼を奴に向かわせた。どちらに転んでも人間側にとって有利になりえたから」

 

 白轟竜が倒れてもタロウが倒れても、人間の脅威が一つ減る。数多ある最悪の一つに過ぎないが、それで救える物がある。

 

「しかし、自然の前に敗れた時点で、彼も人だった。それだけだ」

 

 どんなに強力でも、どんなに奇怪でも、ただの人間だったことが解った。

 生死の有無など今は知る由もないが、人間界(ココ)に戻ってこない以上は死んだ事にしている。

 もちろん秘密裏故に彼の生存は確認されず、別のクエストで死んだことになっている。多少の噂は出るだろうが、いずれ消えるだろう。

 

「しかし彼は何者だったのでしょうか……訳のわからない言葉を並べ、この世界を遊技場のように例える彼は……まるで神にでもなったかのように」

 

 自分は負けない・死なないと豪語し、弱肉強食を知らないかのような甘い思考をしていた彼。

 絶対強者とも謡われていた彼だが、一人の影がフッと笑う―――あんなのは、絶対強者とはいえない。

 必死に生き延び、全力で敵を狩るティガレックスの方がまだその名が相応しい。それだけ、彼に「必死さ」がなかったのだから。

 

「神……か」

 

 

―そんなものは、幻想でしかない。

 

 

―そんなものは、この世界から見たら、生物とさほど変わりない。

 

 

―見ているか、神よ。

 

 

―我々は、この世界で生き延びている。

 

 

―進化し続ける自然を前に、あなた方は見続けることができるかな?

 

 

 

 

―少なくとも、白き轟竜に打ち勝てぬようでは……我々がまだ見ぬ脅威に勝てるはずがないのだから。

 

 

 

 

―完―




―オマケ「とある三匹のアイルーの愚痴話」―

「デビ久しぶりだニャ~。元気にしていたかニャ?」

「皆お久ニャ~。元気もなにもないニャ。逃げるので必死だったニャよ……」

「ニャアニャア、あの噂は本当かニャ?お前さんの旦那さん……」

「あー、タロウかニャ?白いティガレックスに喰われたんじゃニャいか?ボクは知らんニャ」

「随分淡白ニャね……」

「淡白にもなるニャよ!あんな警戒心も遠慮も気配りも優しさも生活感も無いダメハンターなら当然だニャ!お礼の一言も言わない傍若無人っぷりニャ!」

「間違いじゃないからなんとも言えないニャー……」

「あ、けどうちの旦那さんがようやく目覚めたニャ。なんであんな奴に惚れてたんだろうって」

「あのタロウといると頭がおかしくなるからニャ……」

「で、デビは今どうしてるんだニャ?」

「それが聞いて欲しいニャ!新しい旦那さんに雇われたんだけど、その人がとってもいい人なんだニャ!」

「ああ、あのぽやんとした感じの女の子かニャ?」

「もー最高ニャっ!優しいし、忠告は聞いてくれるし、撫で撫でが気持ちいいし、猫まんまが最高に美味いんだニャ!もう彼女の為ニャら命預けれるぐらいだニャ!これから一狩り行ってくるニャ!それじゃあニャ!」

「す、凄い褒めっぷりだニャ……」

「よっぽど前の旦那さんの待遇がイヤだったんニャね……」

―完―

 そんなわけで「白轟竜」でした。
 当初は「音爆弾のように咆哮を遠くに飛ばし爆発させる」「龍属性を持つ」というアイディアを頂き、こうなりました。
 丁度近日になって「ティガレックスに属性持たせたら……」という感想を頂いていたのですが、どうでしたか?満足できましたか?
 生き延びる≠勝ち続けるではありません。勝ち続けるというのは生きる以上に難しいものだと私は考えてます。
 オリ主(笑)はUNKNOWNと戦ったことがないので表現できませんが

 白轟竜<越えられない壁<UNKNOWN……とだけ書きましょう。

 狩猟される云々はともかく、白轟竜の装備を作るとしたらスキルはこんな感じ。

●レックスWシリーズ(剣士・ガンナー両用)
・力の解放+2
・挑戦者+2
・災難

見つけ次第戦う白轟竜の特性をスキルに生かしてみました。完全に戦闘用です。
ではでは。また次回お会いしましょう。

以下、テンプレ転生に対する偏見があります。不愉快だと感想が一つでもあれば消します。




作者はテンプレ転生が嫌いです。閻魔大王様に裁かれず楽な道へ行くことが許せません。
「なんとかなるさ」と楽観的になってご都合で良くなっていく展開が好ましくありません。
自分の世界とは全く違う異なる世界を現実として受け入れ、真摯に生きる人間は素晴らしいです。
そんな奴は世界の理の前に敗れるといい。一度でも現実をその身に体感するといい。

……そんな作者の捻くれ思想が詰まった作品でもあります。自分って世間知らず……(溜息)

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