Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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今回のテーマは「不快音を発し催眠液を吐くクルペッコ」です。
ボルボロス変異種みたいな子が主役です。


part18:「蒼彩鳥の生態」

 ある孤島に、喉のイカれた若いクルペッコが居た。

 

 このクルペッコは生まれた時から喉の調子が悪いらしく、成体まで後少しという時期になっても治りはしなかった。

 幼生の頃から声マネの練習を続け、踊りの技は磨きが掛かったが、声帯を生かした技術だけは一向に上手くいかない。

 それどころか、このクルペッコの声はとんでもなく酷い。とにかく酷い。例えようはあるがそれでも酷い。

 読者にわかるように伝えるとすれば、音痴なガキ大将の歌ぐらいに酷い、といった感じか。

 

 そんなクルペッコは、暖かな日差しの元、海岸付近で魚を漁って腹を膨らませたところだ。

 食後の運動と言わんばかりに体を動かし、見事なステップを披露。見せる相手はそこらに居たルドロスぐらいだが。

 ダンスだけは幼生の頃より磨いてきた為、その動きは軽快で華やかだ。膨れた尻尾をフリフリ振ってアピールすることも忘れない。

 

 だが、ここで拡声器のようなクチバシを広げ音を出すのだが……これがまた酷い。

 モンスターの咆哮は甲高いものから重く響くものまで様々あるが……このクルペッコの声マネはどれでもない。

 

 ドスジャギィのような号令の声でもなく。

 ロアルドロスのような甲高い鳴き声でもなく。

 ラギアクルスのような鋭い咆哮でもない。

 むしろこれでは声とはいえない。ガラガラと異質な音を混ぜながら金属同士をかき鳴らしているような騒音だった。

 

 フリフリと尾羽を振りながら音を立てるクルペッコ自身は調子に乗っているらしいが、周りはそうではない。

 水中にいるはずの魚やエピオスが逃げ惑い、そこらへんに居たルドロス達がダメージを受けているかのように頭を振ってもがき苦しむ。

 その不快音たるや、獲物を追いかけている途中だったロアルドロスが水中から姿を現し、クルペッコを威嚇し始めるほどであった。

 それでもクルペッコは気づかなし止めない。だって踊りと歌に夢中なんだもん。

 

―夢中なんだもんで済ませられるかワレェー!

 

 なお、上記の台詞はイメージです。

 

 ゴロゴロと転がるようにしてぶつかってくるロアルドロスは若いクルペッコにはキツく、吹っ飛ぶしかない。

 歌うのに夢中だったからか大層驚き、ロアルドロスに背を向けて無我夢中で走り出して逃げていった。

 

 しかし、なんとも不運なことか。空からリオレイアとリオレウスが空からクルペッコの前に現れたではないか。

 陸の女王は地面に着地すると足元を蹴って威嚇し、リオレウスは滞空したまま炎を口から漏らし短く吼える。

 どうやらクルペッコの破滅の音色は夫婦の巣にすら届いたらしく、それを聞いた二匹は不機嫌の極みに達している様子。

 射殺さんばかりの視線と、捕食どころか殺意のようなオーラを目の当たりにして、クルペッコはダラダラと脂汗を垂らして後退り。

 

―ウルセーんだよ音痴!

 

―おちおち旦那と巣作りも出来ないじゃないの!

 

―ひーごめんなさい許してー!

 

 なお、上記の台詞はイメージです。

 

 竜夫婦がクルペッコに向けて咆哮を上げた途端、放たれた怨霊と殺気に怯むと同時に一目散に逃げ出す。主に空に向かって。

 それでも許すつもりはないのか、滞空していたリオレウスは翼を羽ばたかせて空を舞い、クルペッコの後を追う。

 まるでシューティングゲームのようにクルペッコの後方から火の玉を吐き続け、空の上で追いかけ続ける。なんと器用な。

 

 こうしてクルペッコは(強制的に)孤島から離脱。新たな地(主に温かな気候)へ足を運ぼうとした……のだが。

 

 砂原ではハプルポッカやディアブロスに襲われて。

 

 水没林ではドボルベルクやナルガクルガ亜種に襲われて。

 

 火山ではウラガンキンや(孤島とは別の)リオレウスに襲われて。

 

 残る選択肢である凍土ですら、自身より強いモンスターが居ないとはいえ、ウルクススに雪玉をぶつけられる始末。

 

 ああ、コレも全て音痴が悪いのだ。

 クルペッコという生態だからこそ、幼い頃から声が親兄弟との違いや、自身の音の脅威を理解していた。

 ちらほらと降る雪景色の中、暢気に歩いているポポを横目に、トボトボとした様子でクルペッコは歩く。

 

 

 ここで人間なら挫折を覚え、無理だと知って諦めてしまう事だろう。

 しかしモンスターは違う。挫折程度で諦めては弱肉強食の下で暮らすモンスターはやってけれない。

 欠点を治すどころか、その欠点を抱えたまま生きるか、欠点を利点にすら変えてしまうことだってある。

 だからこそ、このクルペッコは鳥竜種ならではの頭脳の高さを生かし、必死に考え、生きていく。

 自分の声をどう生かすのか。新たな出発点である凍土でどう生き延びるか。どのような生態にすべきか。

 見て、感じて、聞いて、食べて、そして学ぶ。鳥竜種は賢いのだ。

 

 幸いなことに、ここにはバギィという同じ鳥竜種のモンスターがいる。

 さらにその親玉であるドスバギィがいることで、その食性や生態をマネすることが出来るかもしれない。

 まずは魚を食べること。腹が減っては生きることは不可能だ。

 

 続いて音をどう生かすか。

 踊りはともかくとして、自身の放つ音は異質にして騒音。モンスターを怒らせるのが関の山だ。

 しかし怒らせるということは、どんなモンスターでも怒り状態にさせ、不協和音による体の不備ともいえる。

 これを上手く利用すれば、怒りで我を忘れさせ、自身以外のモンスターに危害を加えるかもしれない。

 さらにその活用方法を見いだせるかもしれないと、クルペッコはさらに踊りを極め、音の使い道を見出す。周りとしては迷惑だが。

 

 

 こうしてクルペッコもまた、新たな道を歩み出す。

 己自身で新たな可能性を見出し進化する「変異種」として。

 

 

 やがて時は経ち……ハンター達が世界を横断し始めた頃。

 若きクルペッコは苦難を越え、凍土にて新たな生態を得ることに成功したのだ。

 

 

 このクルペッコ変異種―食性の変化故か蒼い体となったので『蒼彩鳥(そうさいちょう)』と呼ぶ―の特徴は大きく変化している。

 暖かな気候を好むはずのクルペッコがよくもまぁ寒気渦巻く凍土に適応できたなと思うだろうが、だからこその変化ともいえる。

 今回はそんな蒼彩鳥の生態の一部をご紹介するとしよう。

 

 

 まずはクルペッコお馴染みの体液吐き。

 蒼彩鳥の場合は、眠魚を主な餌としていた為か、催眠液を吐き出すことができるようになった。

 強大な敵が襲い掛かってきた場合、この催眠液を広範囲に振りまくことで難を逃れ、逃げ出すのである。

 ちなみにこの催眠液攻撃を知ったのは、音痴な音がウルクススに届いて襲われ、咄嗟に吐き出した時だった。

 

 続いては翼爪。原種は火打ち石、亜種は電気石ときて、変異種は氷結晶と化していた。

 これは体内に蓄積した余分な水分や冷気を翼爪に集中したという説が強いが、ハッキリと解かっていない。

 とにかくこの氷結晶を打ち合わせることで破片が散らばり、獲物を氷やられ状態にするという特徴を持つ。

 ただし回りは冷気に強いモンスターばかりなので、この効果を発揮するのは、ハンターなどといった余所者ぐらいだろう。

 これも地方特有の特徴なので、詳しいことは考えないでおこう。

 

 最後にお待たせしました、あの音痴がどのように進化したのかというと。

 

 

―ただいま、凍土全域においてジャイ●ンリサイタルが開催されております。

 

 

 なんということでしょう。あの音痴はより酷い音痴へと進化を遂げたのです。

 音量アップはもちろん不協和音にも程がある、鼓膜どころか脳みそを破滅に導き兼ねない、恐ろしい歌と化したのだ。

 その音量は凄まじく、遠く離れたエリアでもその音は耳を塞がざるを得なくなり、洞窟内の天井から氷柱が舞い落ちる。

 小型モンスターは逃げ惑い、大型モンスターはあまりの不快に怒りをぶつけようと、その音がした方角へと走り出す。

 

 だがこの音ですら序の口。音量が大きくなっただけの「呼ぶ寄せる為の音」でしか過ぎない。

 本領が発揮されるのは、自身以外の大型モンスターが二体以上そろったときである。

 蒼彩鳥がこの音を出せば、必ずといっていい程に大型モンスターが聞きつけ、こちらへやってくる。

 ボルボロス亜種だろうがベリオロスだろうが、怒りを覚えたまま蒼彩鳥を止める為に走り出し、集い出す。

 

 ここで蒼彩鳥は高い所へ避難し、身を隠す。(蒼い体は保護色にも役立っている)

 するとベリオロスとボルボロス亜種が鉢合わせ、喧嘩となる。肝心のクルペッコを忘れたまま。

 怒りで我を忘れている彼らは、目の前の敵に怒りをぶつけたくて仕方なくなっている。

 そんな二頭の喧嘩を高い所から眺めながら、計画通り、と言わんばかりにクツクツと笑う蒼彩鳥。

 わざと怒らせて二頭を鉢合わせさせることで相打ちを狙い、悪くても弱った方を漁夫の利で倒す。

 もしもこちらへ気づいたとしても睡眠液で寝かしつけられるので、そしたら全速力で逃げる。

 こうすることで強者を1人でも減らし、自分の弱肉強食における地位を守ろうという狡猾な手段なのだ。

 

 この騒音はハンターを相手にしても効果を発揮する。

 何せ大抵のモンスターが嫌がり怒るほどの不協和音。人間が聞けば耳を塞ぎたくなる事は請け合いだろう。

 彼を発見したハンターの大半は、あまりの不協和音に体調を崩したという報告もあったほどだ。

 おまけに睡眠液で眠らせ、スタミナと熱を奪う氷属性やられにもさせるものだから余計に性質が悪い。

 こんな状態で怒り状態の大型モンスターに遭遇した時には、ネコタク送りになっても仕方ないというもの。

 

 こうして蒼彩鳥は、己の能力を最大限に生かし、新たな道のりを歩むことに成功した。

 最も音痴なのには違いないので、好きな時に踊り歌う度に怒られるのが難点らしいが……それでも生きている。

 鳥竜種ならではの高い知能を用いて、今日も彼は好きなように歌うのだが……。

 

 

 今日は雪崩が起きて巻き込まれた。頑張れ蒼彩鳥。

 

 

 まさかこんなクルペッコが、元は喉が壊れていて不調だったと誰が思うだろうか。

 生命は生きてさえいれば儲かり者。一部失ったとしても、それを補う生命力が新たな道を見出すことだってある。

 目を失い盲目となった迅竜だって、代わりに驚異的な感知能力を得て凄まじい力を見せ付けているのだから。

 

 

 

 生命の神秘の内の一つ・・・・・・それは「決して諦めない」ということなのかもしれない。

 

 

 

―完―




○本日の防具と素材一覧

●ペッコOシリーズのスキル一覧 (共通)
・耳栓
・笛吹き名人
・回避性能+1
・挑発

●主に剥ぎ取れる素材
・氷石
 蒼彩鳥の翼爪に取り付けられた、グラシスメタルに近い物質。生成方法は謎である。
・衝撃のクチバシ
 蒼彩鳥の独特的なクチバシ。そのクチバシの詳しい構造を見た者は衝撃を覚えたという。

ここで重大なお知らせです。
モンスターハンターデルシオンの貯蓄が切れた為、しばらく変異種編の更新をお休みします。
期待していた方には大変申し訳なく思います。しばらくはオリモン企画の公開を不定期に更新致します。

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