Monster Hunter Delusion【更新停止】 作:ヤトラ
今回の妄想モンハンのテーマは「海」です。MH3の世界観は結構好きです。やったのはMH3Gだけですが。
この小説はMHFGのPVを見て、大型帆船があったら世界観が広がらないかなぁと思って書いたものです。
これを読んで妄想を広げたりして楽しんでいただければ幸いです。
旧大陸と新大陸…これらとの距離は遠く、繋ぐために渡る海域はとても広いとされている。
これらの大陸の交流に最も欠かせない存在として、交易船が上げられるだろう。
時には特産品、時にはハンター、時には新技術など、様々な交流や交易が船によって運ばれてくる。
そんな交易船も、二つの大陸を繋ぐ為、これまでに色々なことがあった。
新たな大陸に挑む為、数多くの苦難や苦行を乗り越え、やっと今の形が生まれたということ。
海を渡る男達が語る歴史や伝説は多々あれど、それらは全て、偉業を成し遂げた者達への賛美だ。
そしてもちろん、語るべきでない物語もある。
実は、交易船は旧大陸から新大陸までの海域をまっすぐ進んでいるわけではない。
旧大陸から新大陸までを、緩やかな弧を描くようにして船を進め、直線に進むのを避けて移動しているのである。
この理由に対し、潮の流れや風向きなど自然科学に乗っ取った訳がある為、誰もが気にしなかった。
しかし、理由はこれだけではない。少なくとも船乗り達は暗黙のルールとして知っている。
かつて広大な海を直進し、最短ルートの海道を見つけ出そうと行く船も何隻かあり、全て帰らぬ者となった。
新大陸・旧大陸ともに辿り着くことが出来ず、船どころか船員の安否も解からぬまま。
―そこには、踏み込めば快晴であろうとも一瞬で深い霧に包まれてしまう、魔の海域があるから……。
―――
「いやぁ、潮風が気持ちいいゼヨ!」
特徴的な語尾を持つ交易船の船長は、広大な青空に浮かぶ太陽を見上げ、風邪を浴びながら歓喜する。
海鳥の群れが飛び交う青い空、太陽の光を反射して輝く海、そして心地よい潮風…船長にとって満点以上の良い天気だった。
もちろん、背後で慌しくも元気に動き回る船員達がいる甲板の光景も良いものだと船長は実感していた。
ただ、油断はならない。そう思っていた矢先に、それを言葉として伝えてきたのは、別の男だった。
「気を抜かんでくれ交易船船長殿。もうすぐ例の海域だぞ」
掛って来た声は野太い声。しかし振り向いて見た姿はとても小さい。
交易船長の半分も無い背丈でありながら、その顔に刻まれた皺と傷は、海の漢を体言している。
ハンターの武器としても製造されているイカリハンマーを背負っており、小柄でありながら、かつてそのハンマーをぶん回し多くのモンスターを撃退したと云われている。
「解かっているゼヨ!相変わらず堅いのぉカリィ船長!」
「ふん。海で怖ぇ事の一つのは、お前さんみたいな能天気が船長やってることだよ」
どうやらこのカリィ船長と呼ばれた小柄な男は、交易船長とは古い付き合いらしい。
ギロリと猛獣のような睨みで見上げるカリィ船長に対し、交易船長はケラケラと笑って流すだけ。
この2人が昔ながらの付き合いをしているおかげで、カリィにビビっている船員が穏やかな時間を過ごせているといっても過言ではない。
なぜ同じ船に2人の船長が乗っているのか。それは彼らが乗っている船に理由があった。
「だとしてものぉカリィ、こんな大型帆船、それも二隻連なって一つといえる船に乗るなんぞ始めてだゼヨ!」
隠し切れない好奇心と喜びを言葉と身体で体言しながら、ゴツゴツと足元の看板を踵で小突きつつ船の全容を眺める。
交易船長の言葉に同意しているのか、カリィ船長は無言で、操舵手の傍らから船を見下ろす。
彼らが乗っている船は、これまでの船とは次元がまったく違う品物だ。
大きさはもちろんの事、外装や内部、そしてそれらを構成する全ての要素に、最先端の技術が詰め込まれていた。
船を網状に覆う鉄製の装甲は、障害物だけでなくモンスターの魔の手から守るようにして作られ。
複雑な仕組みを搭載した巨大な帆は船員や航海士の腕が問われつつも、逆に言えばあらゆる状況に対応できるよう作られ。
万が一の事態を想定した職人達が、航海に必要な機能を損なう事無く、折りたたみ式小型飛行艇を組み込んで作られた。
もちろん大量の荷物を搭載することができ、船員達の生活を快適にする為の設備も整えられている。
これだけ多機能かつ豪華な船でありながら、それを二隻、横並びに連結させている。
二隻を繋ぐ頑丈かつ大きな板は、モンスターに遭遇した場合を想定して備えられたフィールドだ。
既に護衛であるハンターは数名派遣されており、モンスターの対処もある程度は整っているといえる。
近年の技術革新は、空に大型の飛行船を飛ばす事に成功することが出来た。その技術革新は更なる発明として、「連結式大型帆船」を生み出したのだ。
だが豊富な機能を持つとはいえ、大型帆船を操作する為の人数は半端無く、初めての機能故に戸惑う者も多い。
さらに試験的に作られた名目上、最低限の成果を遂げなければならない―――例え失敗の確率が高いとしても。
故に、名高き交易船長と実力派のカリィ船長が呼ばれたのは、この二隻の船のまとめ役を任された。
―この先にある、「魔の海域」と呼ばれる領域を見て、それを伝える為に。
そう頭の中で理解しつつも…逆に理解しているからこそ、交易船長は景色を見て首を傾げる。
「しかしカリィ船長、この先で本当にあっているんゼヨな?」
「なんでい藪から棒に」
「ワシが聞いた話では、濃霧に包まれた白い世界、だったはずゼヨ…なのになんだゼヨ?この穏やかな海は」
若干不機嫌気味なカリィ船長の心情は知らずといわんばかりに、交易船長は背後の光景を指差した。
なにせ、その光景を一度見れば、魔の海域と呼ぶにはあまりにも不自然に思えるからだ。
静かに波打つ青い景色の中には、とても小さな孤島が点々と広がっている。
孤島付近の岩礁ではエピオスがのんびりと日向ぼっこをしており、浅瀬の砂浜ではルドロスが集まってこちらを見つめている。
海を見れば、大型の魚影や魚群が見える。恐らくは鮫やマンボウ、ハリマグロなども生息しているのだろう。
孤島の林にはアプトノスの群もいる。ギャアギャアと鳴き声が聞こえ、小型の鳥竜種がいると予測される。
小さな島々が連なり、それが一種のネットワークを構築し、狩猟場となるような海域。
海が大半を占めるこの光景を目の当たりにして、交易船長は可笑しなぐらいに平和を感じていた。
しかしそんな交易船長を、だからこそだ、と重く語るカリィ船長。
「考えてみろ。確かに海のど真ん中でありながら、島がいくつも見える。なのに――どうしてこんなに静かだと思う?」
カリィ船長の言葉に、交易船長はふと周囲を見て気づく。
そうだ、確かにモンスターの姿は見える……だが、大きな姿はどこにもいない。
ルドロスですらこっちを見るだけに留まっている。群がいながらロアルドロスがいないのは、一体どういうことか。
まるで、連中はこちらではなく、別の何かを警戒しているかのよう――そう思った矢先。
―周囲を霧が覆い始めた。
先ほどまで快晴だったにも関わらず、まるで雲のように濃厚な霧に包まれ、周囲を白に染めていく。
海上ではルドロスやエピナスが水中に潜り、陸地ではアプトノスの群が島の奥へと逃げ込んでいく。
彼らだけでなく、自然と交易船長やカリィ船長にも、一種の悪寒のようなものが走る。
―何かが居る。二人の船長とハンター達は、それを直感的に理解していた。
やがて周りの全てが白に染まる頃、灯りを照らせとカリィの怒号が船員に伝えられ、カンテラに火をつける。
まるで雲の中にいるような暗闇と湿気に包まれる中、障害物の接触を避けるよう、注意深く周囲を警戒する。
この時ばかりは交易船長も目を光らせ、ハンター達も戦闘態勢を整える。
やがて船の前方に黒い影が幾つか浮かび、それを確認すると船長2人が船を止めるよう指示。
帆を閉じてゆっくりと速度を落としていく中、徐々に黒い影の輪郭がはっきりとしていき、やがて全貌が明らかになる。
「こ、これは…!?」
流石の交易船長も、一瞬とはいえ目を見開いた。白い霧の中でもはっきりと見えるそれらを見て、船員達はざわめきを隠せなかった。
目の前に見える光景は、まるで船で出来た孤島。数多くの廃船が岩礁を支えに積み上げられ、小さな島にも見える塊に変貌している。
まるで船の墓標にも見えかねないそれらを見て、船員達が、ハンター達が、そして船長2人の顔が驚愕に染まる。
特に驚いていたのはカリィ船長だ。船の残骸の山々の中に、見覚えのある船首が見えたからである。
―なにせ、その船首とは……。
「ありゃあ……親父の船じゃねぇか!」
かつて幼少の頃に見た、海の漢として憧れた父が乗っていた帆船。
リオレウスの頭を模して作られた雄雄しい船首が堂々と天を向けど、そこから下は無残な姿を遂げていた。
痛々しいその姿を視線から逸らしたくても、カリィ船長には出来なかった。
「それだけじゃあないゼヨ……どれもこれも、新大陸に辿り着けず、行方不明となった船ばかりゼヨ!」
決して老人とはいえぬ交易船長ではあるが、書物や船員仲間から引き出した情報がある。
ボロボロとはいえ面影を残す船達は、全て交易船長が記憶している、海に出たきり戻ってこなかった船ばかり。まさに船の墓場そのものではないか。
交易船長の台詞も相まって、勇敢だったはずの船員達の顔は驚愕から恐怖へと染まっていく。
ここでふと、一人のハンターが背負っていた武器を手に取り、続いて仲間達も各々の武器を手に取り始める。
その行為を目撃した船長2人だったが―――すぐに理由がわかった。
さきほどまで薄っすらとしか感じ取れなかったが……今ならハッキリと解かる。
黒い影がスウッと現れたと思ったらすぐに霧の奥へ消え、一瞬にして別方向から影が浮かぶ。
それも一つだけではない。細長い何かは二本あるようで、しかも緩やかに蠢いている。
船員達は見えているようで見えない恐怖に怯えているが、ハンター達と船長2人は違う。
圧倒的なプレッシャーと敵意……それらが船の周囲を取り囲むような感覚を覚え、緊張感が走る。
カンテラの灯りでなんとか見えていた影だったが、突如として霧が薄れていき、徐々に影の姿が照らされていく。
その存在は、まるで挑戦を待っているかのように、二隻を繋ぐ板の上に鎮座していた。
照らされた姿を前にして、初めて連結式大型帆船を目撃した時よりも、交易船長は驚愕した。
その姿は大きくも長く、海竜種を彷彿とさせる。目だった突起は少なく、無駄の無いほっそりとした流線型を描いている。
濡れているはずの長い身体は、ジュウジュウと音を立てて水分を蒸発させ、水蒸気となって白い湯気を上げる。
濃い蒸気が立ち込めるせいで正確な姿を捉えることが出来ないが……最たる特徴がハッキリとわかる。
その長い身体の先……緩やかに伸びる首と頭が、二つあった。
「そ、双頭の龍、ゼヨ!?」
―ギエエエェェェェェェェェェェ!!!
二つの頭から放つ咆哮が共鳴し、鼓膜どころか体中を振るわせる。
そう、交易船長の言うとおり、このモンスターは二つの頭を持っていた。
未だ曇る霧のおかげではっきりとは見えないが、明らかに二つの首がこちらを見据えている。
双頭という、見たことも聞いたことも無い、下手をすれば古龍種よりも危険と判断しかねない特徴を前に、ハンターですら怯みを見せる。
船員達にいたっては、怪物だ、古龍だ、海神様の祟りだとよからぬことで慌てふためくばかり。
交易船長はその様を見てどう指示すべきか一瞬戸惑うが―――。
「静まれぇぇぇぇぇぇ!!」
カリィの怒号が、謎のモンスターに対する恐怖心を塗りつぶし、驚愕の余り放心する。
「全員、交易船長の指示に従ってこの場を脱出しろ!熱気球の用意だ!急げ!」
放心させる暇も与えぬと言わんばかりに怒号は途絶えず、船員達は一瞬怯んだ後、急ぎつつも冷静に行動を開始。
そんな船員達を余所に、交易船長は我に帰り、ハンター達は急いで船の中間へ足を運ぶ。
「残りの板を広げろ!ハンター達の領域を増やすんだ!」
「待つゼヨ、カリィ船長!お前さんはどうするゼヨ!?」
中間点である板の他に収納している足場を力自慢の船員達が展開させる中、交易船長は慌ててカリィの元に駆け寄る。
だがそれをカリィの手の平が語っていた―――来るんじゃない、と。
「ここは俺に任せな。ハンター達が残ってくれる以上、見届けてやるのが俺の務めよ」
「だが…」
「いいから行け!そして伝えろ!この海域の化物を!」
何度も聞きなれた怒号ではあるが、正論故に交易船長はそれ以上口出しできなかった。
船尾に展開された熱気球から船員達の呼ぶ声が聞こえてくる。同時に、ハンター達に向けて咆哮するモンスターの叫びも。
船員達の命、自分達の使命、そしてカリィ船長の意思が頭の中で渦巻き、止む終えず熱気球の元へ向かう。
そして深い霧の中、緊急脱出用の飛行艇が飛んでいき、白の世界へと消えていく。
それを見届けたカリィ船長は、再び船と船の間に視線を向ける。
未知なる双頭のモンスター―――『
―――
この会合から一ヵ月後、ハンター達は無事生還した。それは成功を意味したのではなく、命がけで逃げ出したという結果だった。
それでもハンターギルドや船団から見れば大収穫だ。かつて誰も帰ってこなかったという海域から脱出できたのだから。
さらには未知なるモンスターの情報も得ることが出来た。伝説ですら記されているか妖しい双頭の龍という疑いの要素が強い物だが……。
しかし一人のハンターが手に持っていた鱗を採取したことにより、様子見の予知ありと考えた。命知らずと名高いハンターが言うのだから間違いないだろうと。
ただ、カリィ船長の安否は、彼らハンターにも解からない。
カリィ船長は重傷を負って動けないハンター達の為に帆船を出し、双頭の龍の気を逸らす為の囮になって姿を消したという。
知らせを聞いたその日、交易船長は静かに涙を流したという。
―完―
●名称:ミスティロン
●別名:霧双龍(ムソウリュウ)
●種族:古龍種
●特徴:
大きさはクアルセプスほど。色調はメタリックブルー。モチーフは首長竜。
無駄の無い流線型の身体をしており、翼の名残である背びれや、鮫のような尾びれを持つ尻尾を持つ。
殻といえる部分は矢じりの如く鋭い頭殻のみで、それ以外は非常に硬く鋭い鱗で覆われている。
双頭のように見えるが、共生関係にある魚竜種『
このムガロガスはミスティロンの姿に酷似しているものの微妙に違い、口内は鋭い歯が並んでいる。
●説明:
「魔の海域」と呼ばれる海域に姿を現すという古龍種らしきモンスター。姿を現すと辺りが霧に染まるという。
その縄張りは広大で、普段は海底火山で眠っているが、海面を進む大型船ですら敵と認識し上昇する。逆に小型の船は敵と見なさない。
高温のマグマと海水を圧縮し保管する器官を持ち、これより熱光線や水ブレスを吐く他、高温の水蒸気を噴出す。
背には共生関係にある双魚竜が張り付いており、外敵をミスティロンが追い払う代わりに身の回りの世話を双魚竜がする。
別離も可能で、時には息のあった連携プレイで狩りや攻撃を行うこともある。
次回はピクシブにて読者様が応募してくださった『海域』のオリジナルモンスターが登場します。
待て次回!(←言ってみたかった)