Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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今回のテーマは「海を中心としたフィールドに生息するモンスター」です。
モンハン3でいう孤島よりも海の割合が多いという設定のフィールドでの生態系を記します。
もちろん妄想設定バリバリに詰め込んでいます。ご了承ください。


Extra5-2:「海域の生態」

 

―プロローグ「海域の生態系」―

 

 旧大陸と新大陸――二大大陸の丁度真ん中に位置する海域がある。

 ここらは深い霧で包まれている為、交易船などはこの海域を避けるようにして移動している。

 しかし人々は気づいていない。その海域の霧は、大型モンスターよりも大きな船が通る時「だけ」発生しているということに。

 

 大きな船が通らなければ、その海域(以後、【海域】に統一)の天候は通常の海と変わらない。

 晴れれば穏やかな海だが、ひとたび荒れるものなら、大波小波となって周囲を蹂躙するだろう。

 そんな海はただ広大なだけではなく、島々が連なるフィールドも存在している。

 

 ここらはかつて大きな島が浮かんでいたらしいが、今は海に沈んだらしく、いくつかの小島があるだけ。

 美しい珊瑚礁と陸地だったはずの岩礁が密かに島同士を繋げているが、陸地よりも水域が多い事に変わりは無い。

 故に、この島々が浮かんでいる海域では、大陸ほどではないがフィールドとしての自然系は成り立っているのだ。

 

 小島一つとなれば僅かな陸地しかないが、それでも大地である以上は森があり、水辺がある。

 椰子の木が揺れる砂浜では、ルドロスが練り歩き、ヤオザミが餌を啄ばんでいる姿が見られる。

 島の中央へ行けば森林が広がり、アプトノスの小さな群とそれを狙うジャギィ達の群が見られる。

 沖で行こうものなら、水面に飛び出している岩礁の上で日向ぼっこをしているエピオスを目撃することができる。

 

 今はまだ平和に見えるだろうが、陸地は陸地で時には危険が伴う。

 何せここいらは大陸の中間。大陸を渡る飛竜種にとっては絶好の休憩場、現代的に言えばサービスエリアも当然。

 リオレウスやリオレイアが餌を求めて島に襲い掛かってくるなんてことは当たり前なのだから、陸地も大変だ。

 

 だが忘れてはならない。ここはあくまで海域が主体であると。

 ひとたび水中へ潜れば、広大な青の世界と、美しい珊瑚礁による色取り取りの景色が見えることだろう。

 色彩豊かなその空間は岩と珊瑚礁で砂底を覆っている為、砂の白が見えることはなく、魚達の隠れ家となる。

 魚が繁栄すればそれを餌とするモンスターも栄える他、豊富な栄養を含む海草を好んで食べるエピオスを狙うモンスターも多い。

 それはルドロスの群でもあれば、ガノトトスでもあり、海中における食物連鎖の頂点であるラギアクルスでもある。

 

 

 海のど真ん中に浮かぶ小さな島々は、充分な自然系を営み、多くのモンスターの糧となる。

 また、陸地が少ない分、大陸にはない独特の進化を遂げたモンスターも数多く存在している。

 

 

 今回は、広大なる海のど真ん中に浮かぶ島々と「海域」の生態系を紹介しよう。

 

 

―第1章:「渡泳蟹(トエイガニ)の生態」―

 

 とある小さな、エリア一つ分にも満たないほど小さい島の砂浜に、大きな姿が二つ。

 緩やかな小波に揉まれた白い砂浜と青い海、そしてそれらを照らす太陽のおかげで、そこはまるでリゾート地のよう。

 軽く風が吹くだけでヤシの木が揺れ、ランゴスタ達が餌は無いかと周囲を穏やかに飛び回っている。

 

 そんな砂浜では、二匹の甲殻種が戦いを繰り広げていた。

 ヤオザミよりも大きなそれはダイミョウザザミ。それらが鋏を広げ体の大きさをアピールし合っている。

 戦いとはいっても、これは縄張り争い。甲殻種同士の戦いは身体の大きさで決まるのだ。

 

 ここで一つ二つ告げるとすれば、このダイミョウザザミは大陸のに比べ違いがある。

 小島で育ったダイミョウザザミは、食性の違いか通常種よりも小さく、色が鮮やかなのだ。

 陸地での恵みよりも海中での恵みが多いからだろう。背負う殻も龍頭などではなく、巨大な巻貝となっている。

 

 そして注目すべきは、敵対しているダイミョウザザミ―――らしき甲殻種。

 一回り大きいそれはダイミョウザザミに似ているのだが、その姿は随分と違う。

 細かい詳細は後ほど伝えるとして、最たる特徴が―――背負っている物の違いだろう。

 

 何せその甲殻種が背負っているのは、自身以上に大きなイソギンチャクなのだから。

 

 鮮やかな紫色の体(?)の上にはウネウネと太く長い触手が数本動いており、それが生きていることを証明している。

 そんなイソギンチャクは、幼少から甲殻種の背で育ってきたのか、彼の弱点をすっぽりと覆っている。

 それでいて宿主である甲殻種を攻撃することはなく、しかし獲物を求めているかのように動き続けている。

 

 巨大なイソギンチャクこと「ドスイソギンチャク」を殻の代わりに背負うこの甲殻種。

 ダイミョウザザミと同じ祖先の、海を泳ぎ渡る甲殻種―――「渡泳蟹(トエイガニ)サキモリザザミ」である。

 彼はダイミョウザザミの近縁でもあるが、その違いは身体の作りで表されている。

 それを証明するかのように―――事体は動き出した。

 

 縄張り争いに勝利したサキモリザザミの前に、ロアルドロスとルドロス数匹が現れたのである。

 海中から這い出てきたロアルドロスは、オレの縄張りだ、と言わんばかりに咆哮を上げてサキモリザザミを威嚇。

 しかし、縄張り争いに勝ったばかりのサキモリザザミは、ロアルドロスを前に下がることはない。お互いに争う気満々のようだ。

 

 まずはロアルドロスが先制。サキモリザザミへ向かって走り、そのまま飛び込むようにして体当たりを繰り出す。

 それをサキモリザザミは両の鋏で受け止める。厚みは通常種より薄いが、硬度はそれ以上のようだ。

 そのままロアルドロスはサキモリザザミに圧し掛かり、前脚による攻撃を繰り出す。中々に力強い。

 

 ロアルドロスを受け止め戦うサキモリザザミの後方では、ルドロス達が群がっている。

 寄って集って戦うのが悪いというわけではない。群を率いる水獣ならではの戦いといえよう。

 しかしルドロス達は、サキモリザザミの後方へと近づくことを躊躇していた。

 何故なら、サキモリザザミが背負っているドスイソギンチャクが、近寄るなと言わんばかりに触手をうねらせているからだ。

 イソギンチャクの触手に毒があるように、このドスイソギンチャクの触手にも毒がある。

 それをルドロス達が理解している為、サキモリザザミの後を攻めたくても攻められないでいるのだ。

 

 このドスイソギンチャクとサキモリザザミは共生関係にある。

 防衛本能により触手で攻撃するドスイソギンチャクは、硬い殻や頭骨といった物とは別の防御力の高さを発揮する。

 では何故、ダイミョウザザミのように頭骨を纏わないのか?その理由はこれから明らかになる。

 

 突如、サキモリザザミはロアルドロスを押し出し、海の方へと走っていった。

 ドスイソギンチャクは乾燥に弱い為、水辺付近でしか活動できず、必要とあらば水中へ赴く必要がある。

 ここらの海中も彼の縄張りとしているロアルドロスは黙ってない。ルドロスを連れてサキモリザザミを追いかける。

 

 ここで、サキモリザザミの別名「渡泳蟹」の由来を知ることになる。

 なんとこのザザミ、ゆっくりとだが海中を泳ぐことができるのだ。

 甲殻が薄いのも脚が少々平たいのも、ザザミが海を渡る為、泳げるよう進化したもの。

 ダイミョウザザミのように龍頭を背負わないのも、広い海で殻を探すのが困難だからだろう。

 その為、幼少の頃よりイソギンチャクを背負い、共に成長することであのような巨大イソギンチャクに変貌するのだ。

 

 そんなサキモリザザミとドスイソギンチャクのコンビは、水中でこそ真価を発揮する。

 海中で元気になったドスイソギンチャクの触手の暴れっぷりときたら、まるで蛇が乱舞しているかのよう。

 しっかりと岩礁に脚を固定したサキモリザザミの、軽くも硬い鋏がルドロスを捉え、触手の餌食となって毒を与える。

 ロアルドロスの体当たりも鋏で受け止められ、その際にドスイソギンチャクの触手が攻撃を加える。

 

 サキモリザザミの硬い甲殻で防御しながら、ドスイソギンチャクの毒でじわじわと弱らせていく。

 攻防隙の無い攻撃を繰り出す二匹の前に、弱ったロアルドロスは仕方ないとばかりに逃げ出すのだった。

 それを見送ってから、サキモリザザミは魚を鋏で捕まえ、ドスイソギンチャクに振舞う。

 

 

 ダイミョウザザミとは違った防衛手段を持つ、共生関係を持つ甲殻種。

 それこそがサキモリザザミの特徴であり、世にも珍しい、巨大イソギンチャクを背負った泳ぐ蟹の生態なのだ。

 今日もサキモリザザミは、食料を確保する為、ドスイソギンチャクを背負ったまま海を泳ぐのだった。

 

 

―第2章「粘鰻竜(ネンマンリュウ)の生態」

 

 今、幾つかある島の内の一つがパニックに陥っていた。

 アプトノスの群が懸命に逃げ、それに続くようにしてジャギィ達が追いかけ―――もとい逃げ回っている。

 その逃げ足の速さは、獲物であるはずのアプトノスを通り過ぎ、我先にと走り去るほどだ。

 彼らの親分であるドスジャギィですらアプトノスを無視している。一体何が起こっているというのか?

 

―島の砂浜では、大型モンスター同士が争っている真っ最中だった。

 

 その内の一体はリオレウス。どうやら大陸を渡る途中、餌を求めて飛来してきたようだ。

 地面を蹴り上げ、身を低くして威嚇の唸り声を上げるリオレオス。かなりお怒りらしい。

 彼が敵対しているモンスターは、とても奇妙かつ特異的なモンスターであった。

 

―ずばり、ピンク色のフルフル―――ではない。

 

 そのモンスターはフルフルやギギネブラのような、ブヨブヨしたピンク色の皮を持った、不気味な姿を持っている。

 目も無く、耳も無く、鼻も無い。ぬるりとした光沢に包まれた顔らしき箇所には、筒状の口が空いているだけ。

 身体はとても長く、脚は短い。その短さは尋常ではなく、腹で身体を支えているようなものだ。

 べたり、べたりと短い脚で砂浜を進むその姿は、海竜種らしい特徴が一応はあるようだ。

 

 そのモンスターの最大の特徴は、全身や口らしき穴から溢れ出ている、透明度が高く粘り気のある液体――粘液だろう。

 全身を覆いつくすその粘液の粘度は凄まじく、偶然くっ付いたランゴスタが粘液に絡まれたまま絶命している。

 

 身体に粘液を纏う海竜種――「粘鰻竜(ネンマンリュウ)ゼパルイール」。

 ピンク色の筒状のような生物という、特徴が少ないようで特徴がありすぎるモンスターだ。

 ちなみにこの姿を見て卑猥な物だと想像したあなたは、もう手遅れかもしれません。

 

 さて、話はそこまでにして、現状がどうなっているかを見てみよう。

 たまたま砂浜を歩いていたゼパルイールだったが、不運な事に、空腹でお怒りなリオレウスに目をつけられた。

 食事よりも縄張りから追い出そうと目論むリオレウスは、数度翼を羽ばたかせ低空を飛び、ゼパルイールを見下ろす。

 ゼパルイールとしては水中戦を得意としているが、決して陸上でも活動できないわけではない。

 これでも縄張り意識を持っているのか、低空移動しながらこちらを見下ろすリオレオスに敵意を持っているようだ。

 

 リオレオスが咆哮を上げようとしたが、それよりも先にゼパルイールの咆哮が響き渡る。

 その咆哮は凄まじく、音と同時に周囲の木々を振動させ、大音量に怯んだリオレウスが一時着地せざるを得ないほど。

 ちなみに叫び方としてはギギネブラに似ているが、咆哮音はフルフルに酷似している。

 

 着地したリオレウスだが、黙っているわけには行かない。息を軽く吸い込み、火球を繰り出そうとする。

 それを逃すゼパルイールではない。突如として喉元を膨らませ、その膨らみが首を伝っていき……頭へと登っていく。

 そして火球を放とうと口を開きかけた瞬間、ゼパルイールの筒状の口から大量の粘液が放出される。

 火球が口から放たれるも、それは大量の粘液を多少蒸発させるだけに終わり、残りは全てリオレウスの頭部に降りかかる。

 

 粘度の高い液体はもはや接着剤のようで、リオレウスは口を開けず、首を振って剥がそうと試みる。

 視界もろくに見えないリオレウスの前に、ゼパルイールは全身をくねらせ前進する。

 全身から滲ませている粘液は濃度が低く、砂の上でありながら、まるで潤滑油を垂らしたかのように滑らかに滑ることが出来る。

 

 粘液を滴らせるゼパルイールはそのままリオレウスに巻きつき、動きを封じようと試みる。

 全長はリオレオスを大きく凌駕する為にたちどころに全身を締め付けられ、身動きですらとれなくなる。

 オマケに身体に滴る粘液のおかげで足元が滑り、火竜はなすすべなく地面に平伏すしかなかった。

 

 やがて空の王者は、粘液による呼吸困難と締め付けによる圧迫により、呆気なく絶命。

 ゼパルイールにとってリオレウスは餌として大きすぎるらしく、粘液を残して海へと消えていくのだった。

 まさにゼパルイールは、海のフルフル、水中のギギネブラと言っても過言ではないだろう。

 

 

 余談だが、フルフルとギギネブラは飛竜種、ゼパルイールは海竜種なので、血の繋がりは全く無い事を記しておく。

 

 

―第3章:「音海獣(オンカイジュウ)の生態」-

 

 同じ群を成すモンスターといえども、その生態は種によって違ってくる。

 例えば同じ鳥竜種でも、ランポスとジャギィとでは、似通っているようで随分と違う。

ジャギィの場合は雄と雌とで役割が違う他、体格も違ってくる。ランポスはリーダーを除けば大きさは同じだ。

 ルドロスの群は完全なハーレムとなっており、ロアルドロスを筆頭に群れ全体で狩りを行う。

 

 いずれも、群のリーダーは別格の大きさと強さを誇る、という共通点を持ってはいる。

 しかしこの海域に生息している、あるモンスターの群は少しばかり違うようだ。

 

 今、サキモリザザミの撃退を諦め、海中の縄張りを周るルドロスとロアルドロスが泳いでいる。

 クネクネと蛇のように泳ぐ中、ロアルドロスはあるモンスターの群を目撃する。

 

 そのモンスターは、白と黒というシンプルな色調をしていた。ロアルドロスと同じ海竜種ではあるが、形状はむしろ魚類のそれに近い。

 身体を支えられるほどに大きな前鰭、頭部と胸部には背鰭のような突起物が生えている。

 身体には鱗も毛もなく、ツルリとしている。色は全体的に黒だが、下顎や腹部は白い。

 

 まるでシャチを大きくしたようなモンスターの群が悠々と泳いでいる。

 前述でも言ったが、これでも立派な海竜種だ。名はオルカマーダ。別名「音海獣(オンカイジュウ)」。

 このオルカマーダの別名の由来が難なのかは、後ほど紹介するとしよう。

 

 オルカマーダはロアルドロスと同じ、群を成して行動する海竜種だ。

 しかしロアルドロスのような個体差は無く、雄雌関係なく大きさが一致している。

 ロアルドロス並の巨体が5~6匹の群を成し、それぞれが同じ能力を備えているのだ。

 

 そんなオルカマーダの群は、獲物であるエピオスを追い詰めている最中であった。

 エピオスは我武者羅になって捕食者(オルカマーダ)から逃れようとするが、別のオルカマーダに遮られてしまう。

 それでも逃げようと方向転換するも、また別のオルカマーダが道を遮り、反対を向かわざるを得ない。

 円というよりは球を描くようにしてオルカマーダ達が泳ぎまわることで、確実にエピオスを逃がさない策のようだ。

 

 音海獣の群に囲まれ逃げ道を塞がれたエピオスだが、それでも泳ぎ方はメチャクチャだ。

 そんなエピオスを仕留めんと、泳ぎ回る仲間とは別のオルカマーダがエピオスに急接近。

 短くも鋭い歯が並ぶ口を大きく広げ、勢いをつけたままエピオスの喉元に喰らいつく。

 あれだけ暴れまわっていたエピオスの喉元を正確に狙えるとは流石なものだ。絶命するのも時間の問題だ。

 

 だがそこへ邪魔者が入ろうとしていた。ロアルドロスとその取り巻き達である。

 己の縄張りを侵した上に、そこで獲物を獲ろうとしているオルカマーダ達を許せなかったのだろう。

 許さんぞゴルァ!と言わんばかりに果敢に突撃。ルドロス達は遅れてその後を追う。

 

 しかしオルカマーダ達は、ロアルドロスが接近していることを知っているにも関わらず、狩りに専念していた。

 肉食性ではあるがオルカマーダは温厚な性格をしており、好奇心旺盛で何にでも興味を示す習性がある。

 ここがロアルドロスの縄張りであるということを知らない為、オルカマーダは何故こっちに来るのか不思議に思っているようだ。

 

 しかし、その温厚さも攻撃されなければの話。

 ロアルドロスがエピオスを加えていたオルカマーダに体当たりをし、ルドロス達が邪魔をしに来たのなら対応は変わる。

 体当たりを食らった衝撃でエピオスを離してしまい、弱ったままではあるがエピオスを逃してしまった。

 

 これには流石のオルカマーダも激怒。咆哮を上げて仲間に敵意を伝えるが、仲間達もルドロス相手に怒っているようだ。

 こうしてオルカマーダ対ロアルドロスの水中戦は幕を上げたのだった。

 

 数でこそロアルドロスたちが上回っている。何せ8匹もいるのだから。

 しかし能力はオルカマーダが上だ。数は5匹とはいえ、大きさはロアルドロス並にあるのだから。

 オマケにチームワークも良い。オルカマーダの群の総力をかけ、確実にルドロスを仕留めていく。

 

 ここで、オルカマーダが「音海獣(オンカイジュウ)」と呼ばれる由来を紹介するとしよう。

 オルカマーダ達のチームワークが良い理由も、ここからきているのだから。

 彼らはシャチに近い習性と性質を持っている。つまりは彼らもエコーロケーション……超音波を持っているのだ。

 だがただの超音波ではない。陸上では振動を伴う咆哮として、水中戦では衝撃波としても扱うことができる優れもの。

 もちろん調整が可能で、超音波による指示で互いを動かし、効率的な狩りと戦闘を行うことができるのだ。

 つまり、音を放つ海獣だから「音海獣(オンカイジュウ)」……納得いただけただろうか?

 

 さて、説明を終えた頃には、取り巻きのルドロス達の数は減っていた。

 ほとんどはオルカマーダの放つ衝撃波による脳震盪の気絶なので、時期に目が覚めると思われる。

 残るは孤軍奮闘のロアルドロスだけ。殆ど無傷なオルカマーダ達を見渡して若干焦っているようだ。

 しかしオルカマーダ達は容赦しない。ロアルドロスを取り囲み、超音波の一斉攻撃を仕掛ける!

 

 かくして、衝撃波による全身打撲を受けたロアルドロスは、負けを認めたのか逃げ去っていく。

 待ってくださいよ~、と言っているかのように目覚めたルドロス達が、彼の後を追う。

 オルカマーダはそれらを追わない。去る者は追わずが彼らのモットーなのだ。

 こうしてオルカマーダの群は、新たな獲物を探そうと行動に移す為に、悠々と海を泳ぐのだった。

 

 

 オルカマーダ達の群から逃れたロアルドロス達。生き残ったと聞けば幸運に思えるだろうが、それはとんだ間違いだった。

 オルカマーダに若干噛まれたらしく、ロアルドロス他数匹の体からは少量の血が流れている。

 

 

 この僅かな血が海へと流れ、その血が災厄を呼び止めてしまうのだから……。

 

 

―第4章:「猛魚竜(モウギョリュウ)の生態」―

 

 ゼパルイールにオルカマーダ、ロアルドロス、そしてこの海域を支配しているラギアクルスが生息している。

 いずれも海竜種という共通点があり、彼らは強さと群を成す能力により、繁栄を約束されていた。

 つまり、水中における最強の種とは海竜種を指すのか?――否、断じて否である。

 この世に最強の種族など居ない。古龍種ですら、他の種に敗れるという可能性が僅かとはいえあるのだから。

 最「強」は存在しないが―――最「凶」は存在している。少なくとも、この海域では。

 

 今、海中にて不思議な光景が広がっていた。

 陸上ではリオレオスとゼパルイールの縄張り争いが起こり、島中の小型モンスター達が逃げ惑っていた。

 それと似たような出来事が、海中でも起こっているのである。

 エピオス達が我武者羅に逃げ、オルカマーダ達が砂浜へと避難し、魚の群ですら岩陰に隠れようと必死に泳いでいる。

 先ほどオルカマーダ達にやられたロアルドロス達も、苦手なはずの陸地へと逃げるようにして上陸していく。

 滴るのは海水の他に血が混ざっている。その血は逃げてきた道を沿うようにして漂い、霧散していく。

 どうやら殆どの生物は、海中に残っている血の道から逃げ惑っているようだ。

 

 そんな中、海竜ラギアクルスまでもが勢いをつけて泳いでいる。

 彼の辺りは、殆どのモンスターや魚類が逃げ延びた後のようで、珊瑚や海草以外の生物は見えない。

 どうやら逃げ遅れたようだが、それでもラギアクルスの勢いは止まらず、とにかく前へ進んでいる。

 

 

 海の王者が逃げている原因は、彼の後方を泳ぐモンスターにあった。

 

 

 ほんの僅かにしか残っていない血の道を辿ってくる、一匹のモンスター。

 一見すると魚竜種であるヴォルガノスにも似ているが、一見であって、その姿に大きな違いがある。

 ラギアクルスのより荒々しい鱗は、硬質的な白によって海の色に染まっており、淡く光る青色をしていた。

 尾鰭は横にではなく縦に長い為にマンボウにも見えるが、泳ぐスピードはかなりのものだ。

 何よりも恐怖をそそるのはその口。鋸のような歯や牙がビッシリと並んでおり、その凶暴性を醸し出している。

 

 このモンスターの名は「ピラニアノス」。別名「猛魚竜(モウギョリュウ)」と呼ばれる魚竜種だ。

 

 今、血の臭いを辿っていたピラニアノスの視線に、背を向けて泳ぐラギアクルスを目撃。

 獲物だと判断したのか、血の道から外れ、先ほどとは比べ物にならないぐらいのスピードで泳ぎ出す。

 いかにラギアクルスといえどもピラニアノスの力強い泳ぎから逃れられないと察したのか、反転して威嚇の咆哮を轟かせる。

 ピラニアノスは咆哮を上げず、ラギアクルスの周囲をグルグルと円を描くようにして泳ぎ出す。

 周るにつれて速度を上げていくピラニアノスを前に、ラギアクルスは帯電を行い、電撃を放とうとする。

 しかしピラニアノスの最高速度に達したのはその直後で、尖った鱗を微調整することで急カーブを描き、突進する。

 口から放たれる電撃を微妙に横へずらすことで回避し、そのままラギアクルスを横切るように身を当てる。

 その鱗は非常に硬い為、すれ違いザマといえどもラギアクルスの甲殻に傷をつけるほどで、すれ違いの水流が身を揺らす。

 

 ピラニアノスは方向転換しようとするが、それよりも先にラギアクルスが旋回し、尾鰭に噛みついてくる。

 荒々しく尾鰭を振ったり身をよじったりするものの、ラギアクルスの顎も相当なもので、中々離そうとしない。

 これに参ったピラニアノスは、大きく口を開き、あるものを吐き出す。

 

 それは脚が無いピラニアノスを小型化したようなもので、ギィギほどの大きさを持つ。

 「ピラニー」と呼ばれるピラニアノスの幼生だ。孵化した稚魚を口に入れる習性があり、このように口から吐き出すこともできる。

 小柄でありながら獰猛らしく、自分より遥かに大きい、下手をすれば捕食者になりかねないラギアクルスに猛然と挑みにかかる。

 柔らかな腹部や喉元に噛み付いてきたピラニー達に参ったのか、ラギアクルスは思わず口を離してしまう。

 

 それを待っていたかのように、ピラニアノスは一気にラギアクルスの喉元に喰らいついた。

 いや、喉元に喰らいついたに飽き足らず、噛み付いたままラギアクルスを振り回し、喉を食いちぎったではないか。

 もがき苦しむラギアクルスだが、連中はそれだけに留まらず、次々に攻撃を仕掛けてくる。

 ピラニー達が傷から侵入して血肉を喰らい、動きが鈍っているラギアクルスに次々と噛み付いてくる。

 

 

 十数分も経たず、ラギアクルスは食べ残しという名の、無残な姿に成り果ててしまった。

 残すは骨と甲殻と僅かな血肉のみとなったが、それですらピラニアノス達は喰らいつき、噛み砕いていく。

 獰猛かつ食欲旺盛な彼らは、仕留めた獲物を骨まで喰らいつくす凶悪な魚竜種だったのだ。

 

 

 これで、海の生物達が逃げ惑っていた理由がお分かりになっただろうか?

 彼らは血が漂うことで恐れていたのだ。獰猛な魚竜種ピラニアノスの餌食になることを。

 海の王者ですら挑む獰猛さと、骨まで残さず食べる悪食。これを恐れずして何とするか?

 

 

 後に、ピラニアノスは人々からこう呼ばれるようになる―――「海のハイエナ」「海中のイビルジョー」と。

 

 

―最終章:「海域とは」―

 

 ここで伝えておくが、この海域はあくまで広大な海の一部分でしかないことを伝えておく。

 海はとてつもなく広い。こんな島々が浮かんでいること事体が一種の奇跡なぐらいに。

 

―海を渡る蟹もいれば、粘液を滴らせる海竜もいる。

 

―ロアルドロスとは違った群を構成する海竜種もいれば、海竜種よりも恐ろしい魚竜種もいる。

 

―もしかしたらこの海のどこかに、巨大な口を持つ海竜種がいれば、海中に特化した飛竜種もいるかもしれない。

 

―古代の言い伝えでは、島一つを海に還す大津波を起こす巨大な古龍種もいたというが、その真意は定かではない。

 

 海は広い。船で大陸間を渡ることが人間にとって精一杯の努力でしかないように。そして、海は深くもある。

 

 

―海域の海底火山に眠る一匹の古龍と、それを世話する魚竜種がいることも知らせないほどに。

 

 

―深い深い海の底にも、生物は存在している。

 

 

―広大かつ深い海は、果てしない浪漫と脅威、そして陸上とは違った自然が広がっているのだから。

 

 

―完―

 




●名称:サキモリ・ザザミ
●別名:渡泳蟹 (とえいがに)
●種族:甲殻種
●特徴:巨大なイソギンチャクを背負った渡り蟹。基本的には盾蟹によく似ている。水中を泳ぐために足が幅広で、平たく見える。

●名称:ゼパルイール
●別名:粘鰻竜(ねんまんりゅう)
●種族:海竜種
●特徴:海にすむフルフルやギギネブラみたいな感じ。全身ほのかに淡いピンクのブヨブヨの皮に覆われている

●名称:オルカマーダ
●別名:音海獣(おんかいじゅう)
●種族:海竜種
●特徴:シャチの様なモンスター。見た目はMHFGにて登場したポカラドンに近いが、大きさはそれに少し劣る。

●名称:ピラニアノス
●別名:猛魚竜(もうぎょりゅう)
●種族:魚竜種
●特徴:ヴォルガノスのような体躯をもつ。ヴォルガノスより大きな頭、短い胴、幅の広い縦長な尾鰭をもつ。

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