Monster Hunter Delusion【更新停止】 作:ヤトラ
モンスターは強さばかりが全てではない。これはモンスター自身が証明している。
ゲリョスのように死に真似をして難を逃れようとしたり、クルペッコのように他のモンスターを呼び出して攻撃させたりと様々だ。
両者とも攻撃的な能力もあるが、基本的には狡賢く、生き残るための手段が豊富である。
つまり、中には逃げるために進化した変わったモンスターも居る、ということだ。
とあるユクモ地域の渓流にて。
レックス装備のゴツい男は、山々から見える真っ赤な夕日を眺めていた。
「嗚呼、クック先生に会いたい……」
「何をいきなり」
そんな憂鬱そうな男を呼び止めるのは、レウスSシリーズで揃えた、同じくゴツい男。
彼らの背後では、今さっき仕留めたばかりなのであろう、クルペッコが倒れていた。
しかもその近くにはリオレウス。恐らくクルペッコが呼び寄せたモンスターなのだろうが、よく倒せたものだ。
「だってよ、知名度を上げる為にユクモにきてみりゃ、クック先生が居ねぇで、変わりにこんなへんてこな鳥が居るんだぞ?いい加減、懐かしくもなるだろ」
「そりゃそうだけどよ……」
元気がなさそうだからと呼び止めてみれば、これだ。
レウス装備の男はやれやれと首を振るが、レックス装備の男はそのままた佇んでしまった。
「あなたの気持ちはよく解るわ。けど油断しないで」
倒れているリオレウスから声がするから振り向けば、火竜の背で胡坐を書いているナルガ装備の女が居た。
彼女が飛び降りて二人の下へ駆けつければ、周囲を見渡した後、弓を背中に背負ってから大事なことを告げる。
「どうやら、このエリアに別のモンスターが乱入してきたみたいなの」
「げ。マジか?」
「本気と書いてマジ」
「じゃ、ちゃっちゃと倒すとしますか」
ナルガ装備の女からそう告げられると、レウス装備の男は地面に突き刺していたランスを引き抜く。
ナルガ装備の女がレックス装備の男を励ますと、二人もレウス装備の男に続いて大剣を引き抜き、歩き出す。
彼らは旧大陸からやってきた派遣のハンターで、装備を見ればわかるだろうがベテラン揃い。
ここへ来たのはハンターとしての圏域を広げる為であり、今では新大陸のハンターギルドに所属している。
それなりに名を馳せているチームで、ユクモ大陸の中心であるユクモ村の護衛が彼らの任務だ。
信頼度も中々のもの。ただ、変わっていることといえば……。
「クック先生の鳴き声が聞きたい……」
「クック先生のパニック走りが見たいわ……」
「くそぅ、なんでクック先生がユクモに居ないんだよ……」
「私だって気持ちは同じよ。今度、旧大陸の密林に行きましょ?クック先生に会いに」
「マジか!?ヤフーッ!」
(やっぱ変わっているよなぁ……)
―そう。彼らは(一名を除いて)異常なまでのイャンクックマニアなのだ。
旧大陸のハンターにとっての登竜門的存在のモンスター、イャンクック。
彼らが初心者だった頃だけでなく、ベテランとなった今でもお世話になっているという怪鳥。
あまりにもお世話になり続けた為か、イャンクックをこよなく愛するようになったという。
レウス男もイャンクックが好きだが、二人はそれ以上。怪鳥を先生と呼び慕うほどである。
彼らが所属しているギルドの面々からは「怪鳥を語るならギルド1のバカップル」と呼ばれている始末。
別に恋愛関係にはないと言い張る二人だが、レウス装備の男からすれば立派なバカップルでしかない。
―そんな彼らにとって、最大級の奇跡が降臨した。
―下あごが発達した巨大な嘴。愛嬌のある眼。大きなエリマキ。多少の違いはあれども、その姿はまさしく。
(((い、イャンクック!!?)))
―そう、我らが先生、イャンクックがユクモに降臨なさったのである。
祠がある古い木の前で立ち止まっているのは、多少の違いはあれど、間違いなくイャンクック。
こちらの気配に気づいているのか、忙しなく周囲を見渡しながら、餌であるオルタロスを食べている。
幸いな事に遠くの物陰から隠れているから、気づいていないのだろう。
では、多少の違いがあるというイャンクックの特徴について説明しよう。
まず、体の色は黄緑。原種はピンク、亜種は青緑色だったが、このイャンクックは明るい黄緑色をしていた。
どことなくカエルを思わせるような色だが、姿は確かに鳥であると認識できるような形状をしている。
翼がデカい。通常のよりも1.5倍ほどあるではないか。ついでに尻尾も長い。
そんな特徴溢れるイャンクックの姿を見たナルガ女はあることを思い出す。
(黄緑色の、翼が大きなイャンクック……まさか)
(なんだ?なんか知っているのか?)
(イャンクック愛好会の定期購読で見たことがあるわ)
(おい、なんだその会は)
(旧大陸で、長距離飛行を可能にしたイャンクックの変異種を発見したっていう情報があったんだけど……)
(それがあのイャンクックってのか?ていうか、だからなんだその会は)
「もう待ちきれないぜーっ!」
ナルガ女とレウス男がコソコソと話していたのをいい事に、レックス男が突進。
止めようとする二人を無視して、大剣を背負って黄緑のイャンクックへ向けて走り出す。
だが黄緑のイャンクックは、近づいてくるハンターの姿を見ると、ある行動を取り始める。
―ギャーギャーギャーギャー!
なんと、ハンターの姿を見ただけでパニックになってしまったではないか。慌しくその場でバタつき、口から電撃のようなものを漏らしている。
イャンクックの唐突な驚きようにビックリした為、口から漏れている物に気づいていない。
(お、おい、いくら不意を突かれたといっても……)
(ああクック先生かわいいよクック先生!)
(ダメだこいつ、早くなんとかしないと……)
そんなイャンクックの行動を見て怪訝に思っていたレウス男だが、涎を垂らすナルガ女を見て諦めた。
ハンターとしては優秀なのに、どうしてこんなところで駄目になるんだろうか。
「うひょー!久々の先生パニック乙です!」
―お前もか。
変なことを叫ぶレックス男に呆れたのか、もはや言葉に出さず頭で突っ込むレウス男。
だがレックス男は自重しない。パニックになっていることを良い事に大剣を振るおうと構える。
しかしそれよりも早く黄緑のイャンクックが動いた。ハンターへ向けて、口を広げて何かを吐き出す。最初は火炎かと思ったのだが……。
―バチチっ!
「あばばっ!?」
「で、電撃……だと!?しかも麻痺した!?」
レックス男を一撃で麻痺と電属性やられにしてしまうほどの強力な電撃玉。
一見するとサンダーボールを吐き出したようにも見えるが、確かにイャンクックが電撃を放った。
このままではレックス男がやられる、そう思ったナルガ女が弓を構えて狙いを定めた―――次の瞬間。
―バサァッ!
―逃げた。それも大空へ向けて。
大空に舞う黄緑のイャンクックを見上げながら、レウス男は呆然としていた。ナルガ女も弓を構えたまま、呆然と空に浮かぶ黄緑を見上げている。
あそこまで上がっては弓矢が当たらないとわかっているからだ。
「そういえばあの黄緑色のイャンクック、クックラブによると、逃げる事に特化しているんだって」
「そうか……」
「相手の姿を見て強敵かを判断できる賢い知能、大空を舞えるだけの筋力を持つ翼、主食であるランゴスタから得た麻痺毒、そして蓄電器官持ち……」
「そうか……」
「大空を舞う彼の別名が……『
「そうか……で」
「で……って?」
「クックラブってなんだ」
―そして朝。とっくに制限時間を越えていたにも関わらず、彼らはそこに居た。
「み、見つからない……」
ナルガ女がとても悔しそうに膝をついて涙を零す。隣で倒れているレックス男も同じく。
レウス男は既にベースキャンプで諦めた。彼はそこまでクック先生ラブではないから。
そう、イャンクック変異種は異常なまでに臆病なのだ。
音に敏感に反応し、敵を認識すれば空へ逃げるか、麻痺毒を吐き出すか、パニック走りで逃げる。
おまけに特異固体の亜種のごとく地面に電撃液を埋め込んで簡易シビレ罠を作るもんだから、余計に面倒くさい。
旧大陸で見かけたはずの彼が新大陸へやってきたのも、全ては強敵が少ない地域へ逃げる為の進化とも言える。
―こうして、クックをこよなく愛する二人の、ユクモでの奇跡は終わった。
ちなみにイャンクック変異種は、とっくに別の大陸へと移動中。
静かな生活を求めて、彼は今日も大空を舞うのだった。
―完―
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そんなわけで、見た目はクック先生でも、性質はゲリョスに近い感じです。
賢く、逃げ足に特化したモンスターも居たら面白いだろうなぁと思いまして。
強いうんぬんより、面倒くささが際立つモンスターです。麻痺、すぐ移動、シビレ罠と三重苦。
怒り状態になっても危ない時は逃げるのが特徴です。また、怒りやすい(パニックになりやすい)です。
○本日の防具と素材一覧
●スカイバードシリーズのスキル一覧(共通)
・風圧【小】無効
・探知
・高速設置
・心配性
●主に剥ぎ取れる素材
・空怪鳥の耳
綺麗な黄緑色をした空怪鳥の耳。耐電性に優れており、雷対策に最適。
・シャープなクチバシ
通常のイャンクックと比べて少しスリムなのが特徴。電気を通しにくい材質で出来ている。