Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

30 / 63
今回のテーマは「グラビモスを捕食し、その皮を身に纏ったネルスキュラ」です。
ようやっとハーメルン版リクエストに手が掛かりました。お待たせしてすみません。

今回のもう一つのテーマは「二次元と本物の違い」です。
踏み台転生要素がありますので、苦手な方はご注意ください。

4/28:後書きにて防具スキル追記


part21:「鎧蜘蛛の生態」

 現実は非情であるというが、それは現実を多く直視していないからではないだろうか。

 俺は二度目の人生を送るようになってからそう理解した。

 

 平凡な自分は平凡で退屈な毎日を強いられ。

 かと思えば長い階段から転落して死んで。

 そして神と名乗る厳つい男から転生を約束された。

 

 あの転落は手違いによる事故だったから転生させてやろうと聞いて、心から舞い上がった。

 記憶だけでなく特典として好きな力をやろうと言われ、「リリカルなのは」のような強大な魔力とデバイスを発注した。

 これで俺は晴れてテンプレ転生者となり、生まれながらにして勝ち組人生を歩めると思い込んでいた。

 

 

―――そう、モンスターハンターの世界に転生するまでは。

 

 

 生まれて間もない頃は、ソロで狩猟すれば魔法もデバイスも使い放題だと考えていた。

 ハンターの両親と暮らしていた頃は、魔法の才能があるからと高を括り、父の特訓から逃げ続けていた。

 誰にも見つからない所に隠れて魔法の練習をしていた頃は、確実に強大な魔法を操れるようになり確かな手応えを感じた。

 

 このまま行けならモンスター相手に無双できる。主人公のような生活を送れる。そう思っていた。

 しかし後になって、それは現実的ではなく、自分勝手なただの妄想でしかないと知った。

 

 

―――

 

 影蜘蛛ネルスキュラ。その生態は独特的なものだ。

 蜘蛛らしく粘着力のある糸を操り、毒で弱らせ、狭い場所を縦横無尽に行き来する厄介なモンスターだ。

 しかしネルスキュラの最大の特徴は、補食した獲物の皮を自分の体に纏う習性だろう。

 頭蓋骨をヤドにするザザミ類もいるが、仕留めたばかりの獲物の皮を剥ぎ、それを纏うモンスターはこのネルスキュラぐらいだろう。

 今のところゲリョスの皮を被るネルスキュラしか確認されていないのが幸いか。

 

 だが未知の樹海となればそうはいかない。

 

 未知の樹海とは、一言で言えば混沌だ。何せ東西南北の大型モンスターが闇鍋の如く入り乱れているのだから。

 それらがなんの前触れもなく乱入してくるのだから、自然が時節見せる狂いっぷりを感じさせる。

 

 そんな未知の樹海に生息するネルスキュラがある日、グラビモスを補食することに成功した。

 重厚な鎧を持つグラビモスだが、鈍重な獲物などネルスキュラにかかれは造作も無い事。

 四方八方から糸で絡み付けて動きを封じれば、後は楽に狩れる。必殺のグラビームも当らなければどうということはないのだ。

 

 さて、グラビモスを補食した事により、ネルスキュラの世界は広がった。

 ネルスキュラ自身が眠りかける程の濃厚な睡眠毒が血肉から得て。

 鎧竜の甲殻は耐久性だけでなく耐火性にも優れていると、イャンクックとの戦いで学び。

 鈍重となった体を活かす為に、糸をより粘り強くする必要があると理解した。

 

 

―そしてネルスキュラは、新たな進化の道を歩む。

 

 

―――

 

 ディバインバスター。「エースオブエース」高町なのはが得意とする一撃必殺の砲撃魔法。

 

 エクスカリバー。約束された勝利の剣をモチーフにした、俺オリジナルの大剣型デバイス。

 

 Sクラスの魔力量。「リリカルなのは」の世界にとって、その魔力量は尋常では無い。

 

 しかし、10歳で初めてランポスの群れに遭遇した時、それらが全て覆された。

 

 

―初めて生のランポスを見た時、俺は吐いた。

 

 

 始めは俺TUEEEを実感したいが為に意気揚々と村外れを探索したのだが、そんな気は疾うに失せた。

 鱗の肌にギョロリとした目、細身の身体が気持ち悪い。それが数匹群がるだけで気を失いそうな程の悪寒と嗚咽が湧き出る。

 恐怖やら嫌悪感やらが頭の中を真っ白に染め、デバイスの声も届かず、バリアジャケットで身を守ろうとですら考えられなかった。

 むしろランポス達の爪や牙で傷つけられた痛みで、目の前の現実から目を逸らすのに必死だった気がする。

 ハンターである父が助けてくれたが、俺は完治するまでの1ヶ月間、見えない何かに怯えっぱなしだった。

 

 とにかく、俺は肉食モンスターが総じて怖くなった。ランポスよりも小柄なジャギィですら見かけるだけで震えて動けなくなるほどに。

 

 ゲームでない本物の怪物(モンスター)の姿と、奴らが持つ『殺意』を前にして完全にビビってしまったのである。

 チートを持ちながらテンプレ主人公になれず負け犬になるという葛藤より、モンスターに襲われる恐怖が勝るのだから。

 

 そんな俺はどうにかしてハンターに成れたのだが、未だに採取クエストしかこなせていない。

 見た目が気持ち悪いブナハブラや小柄なジャギィですら目にするだけで吐きそうになるのだから当然だろう。

 魔法もデバイスも使う気になれない。むしろ使おうとする度、突然現れた大型モンスターに狙われるから使うに使えない。

 生き物を殺す感覚に慣れないというのも致命的だ。前世は何も知らない学生だったのだから当たり前か。

 

 

―そんな俺が未知の樹海に迷い込んだあの日―――俺のハンター人生は終わりを告げることになった。

 

 

―――

 

 鎧蜘蛛(よろいぐも)ネルスキュラ。

 

 バルバレギルドが近年になって発見した、未知の樹海と地底火山を行き来する影蜘蛛の変異種である。

 鎧蜘蛛の名の通り、このネルスキュラは鎧竜グラビモスの甲殻を身に纏っており、食性の違いか水色の水晶棘を持つ。

 腹や脚にも細かく砕かれた甲殻を貼り付けているが、頭部に鎧竜の頭蓋骨を被っているのが特徴だ。

 

 最初は地底火山で目撃情報があった為、ネルスキュラを知る者がその話を聞いた時は半信半疑だった。

 なにせ同じ地底洞窟でも、火山活動が活発化すれば地底火山となり、高熱を苦手とするネルスキュラは生息できなくなるはずなのだ。

 よって、このネルスキュラは未知の樹海でグラビモスを捕食した可能性があると学者は推測している。

 その証拠に、水色の水晶棘から零れた液を分析した結果、スプーン1杯でアプトノスを眠らせるほどの強力な睡眠毒であることが判明。

 グラビモスを捕食し睡眠毒を摂取することによって、水晶棘は猛毒の紫色から睡眠毒の水色に変色したものと考えられる。

 

 そして熱伝導率の低いグラビモスの甲殻を纏ったことで熱に強くなり、火山にも適応が可能となったと考えるべきだろう。

 元々火山活動が活発化してもネルスキュラの巣は残っている為、高熱に適応さえできれば火山に潜むことも珍しくは無い。

 しかし出生が未知の樹海である事もあるのか、あちらの方が軽快な動きを見せる為、未知の樹海に姿を現す事が多いそうだ。

 

 

 では鎧蜘蛛となったネルスキュラ変異種はどのような狩猟光景を見せてくれるのか。

 

 

 今日の鎧蜘蛛の敵は、未知の樹海に迷い込んできた若人ハンター。

 巨大な柱と柱の間を網のように蔓が蔓延って空を遮るこの場所を歩いていた所、突如としてハンターが眼前に姿を現したのだ。

 最初はそこらの小型モンスター同様、軽く威嚇して追い出そうとした鎧蜘蛛だが、この若人ハンターはそうでないらしい。

 

「ネ、ネルスキュラがなんだぁ!す、姿が変わってるからって俺ぁ、俺ぁ怖くねぇぞぉぉ!」

 

 などと素っ頓狂な声を上げながら、奇妙な形状をした大剣を振り回しながら襲ってきたのである。

 本来なら多脚ならではの機動力で避けられるのだが、重い甲殻を纏っている鎧蜘蛛の動きは若干鈍い。

 まぁ、その分防御力にまわした為、我武者羅に振り回しただけの大剣は簡単に弾かれるが。

 

 手に持った大剣を呆然と見つめるハンターを余所に、ネルスキュラは起き上がって腹部から糸を発射。

 呆然としていたハンターは咄嗟に後方へ跳び……そのまま空中を浮遊したではないか。

 彼の足元には丸い絵のようなものが浮いており、まるで絵に支えられているかのよう。ネルスキュラはその様子を地面から見上げていた。

 

「は、はは、ざまぁねぇな蜘蛛野郎!空が飛べねぇモンスターなんざ怖くねぇ!怖くねぇんだ―――!?」

 

 どのような原理で浮遊しているかはわからないが、飛べない蜘蛛を見下して歓喜するハンターだったが、その表情は瞬時に消え失せた。

 正確に言えば、全身に水色の糸が巻きつけられて顔が見えなくなった。糸の発信源はネルスキュラの口。

 糸で顔面どころか全身を巻きつけられたハンターはバリアタイプの魔法を施すんだったと己の失態に怒るが、直に眠気が襲う。

 

 この鎧蜘蛛が放つ水色の糸は睡眠毒を練り込ませており、それが地肌に染み込むことで眠気を誘ったのだ。

 瞬く間に睡眠毒に置かされ深い眠りについたことにより展開していた魔法が解かれ、空から地面へと落ちる。

 

 ベチョリと水色の塊が地面に引っ付く中、鎧蜘蛛ネルスキュラはせっかくなので仕留めた獲物を喰らおうと動き出す。

 水色の繭へと近づく中、唐突にネルスキュラは脚を止め、横へと視線を移した。

 

 そこには陸の女王リオレイアの亜種、桜火竜ことリオレイア亜種が歩んでくるではないか。

 どうやら漁夫の利を得ようとしているらしく、さっさと去れ、と言わんばかりに鎧蜘蛛に咆哮を上げる。

 

 ここで普通のネルスキュラならワンランク上の捕食者に道を譲るだろうが、鎧蜘蛛はそうではない。

 通常種よりも鈍いとはいえ軽快な動きで横移動を見せつけ、敵を視界に捉えつつ隙を伺う。

 

 敵対の意思を感じ取ったリオレイア亜種は火の粉を散らしながら鎧蜘蛛に吼え掛け、大きな翼を広げて宙を舞う。

 しかし上部には蔓が蔓延っている為、思うように高度が取れず、ホバリングしているだけに留まる。

 それでも桜火竜はフワリとネルスキュラの側面へと舞い、自慢の尾で強烈なサマーソルトをお見舞いする。

 

 いくらグラビモスの甲殻を得て防御力と重さが増したとはいえ、その一撃はネルスキュラを吹っ飛ばした。

 とはいえさほどダメージは入っていないようで、吹っ飛んだ状態で糸を射出、柱に命中させ重い身体をそちらへと引き寄せる。

 重さと粘着力が合わさることでパチンコ玉のように跳んで行くネルスキュラを、目でしか追えずに佇む桜火竜。

 柱に着地するかと思えば僅かに身をよじることで柱を越えていき、慣性が合わさり糸は限界近くまで引き伸ばされる。

 

 

 狙いは、大地に脚を乗せ、炎を溜め込んでいる口をこちらへと向ける桜火竜。

 

 

「ぶっはぁ!あーちくしょ、窒息しするかと思った!ていうかこの糸まだ破けねーのかよゲーム以上にネバネバじゃんこれ!

こんなことなら攻撃魔法だけじゃなくて色んな補助魔法やら防御魔法やら覚えとくんだったぜ!

まぁ今はどうでもいい、あのクソ蜘蛛をさっさとぶっ潰して、最強オリ主大活躍の足がかりを―――」

 

 

 

 桜火竜の背後で独り言を言っていた若人ハンターは、桜火竜共々、鉄砲玉となった鎧蜘蛛の突進に巻き込まれて死亡した。

 

 

 

――――

 

 俺と同じ転生者らしきハンターと鎧竜の甲殻を纏ったネルスキュラとの立会いを目撃した俺は、腰が抜けて動けぬまま一部始終を見送った。

 彼の最後の末路は、桜色のリオレイアと共に崖に激突し、真っ赤な水飛沫となって終わった。惨すぎる最期に、俺はまた吐いた。

 一緒に突っ込んだはずのネルスキュラらしきモンスターは平然としており、リオレイアの亡骸を貪ってからどこかへ去って行った。

 

 

 俺は命がけで逃げ出し―――ハンターを辞めた。

 

 

 流石の親父も、未知の樹海から帰還した俺を見て諦めがついたらしい。(その時の俺は親父曰く「死んだ魚のような目だった」そうだ)

 元々お袋が賛同していたこともあり、俺がハンターを辞職することに対し、親父は反対しなかった。

 

 あんなイレギュラーが当たり前に居て、転生者でもあんな無残な死に方をして、あんな殺伐とした日常が世界中に広がっている。

 それを知った時、俺の心の底に最後の最後まで残っていた、転生者だから諦めないっていう変なプライドも打ち砕かれた。

 

 そして現在―――俺はお袋の故郷で小さな雑貨店を切り盛りしている。

 実家の祖父母から商売を学び、アイルー達に癒されながら共に働き、村人達と会話を交わす。

 のどかで、平和で、穏やかで、暖かくて……肉食モンスターが滅多にやってこない静かな村。

 

 最高だ。俺の第二の人生は、ここで静かに暮らす事なんだ。

 

 デバイス?俺の部屋に飾ってありますが。(元々無口だったし)

 魔法?全く使っていませんが。(今になっても使う必要が全く無い)

 オリ主?そんな目標とっくに捨てましたが。(ランポスを見て吐いた時点で諦めた)

 前世?今後を生き抜く上での反省点ですね。(退屈な日々とか言ってスミマセン)

 

 殺意と敵意の塊であるあいつらに殺されたくない。

 これはモンハンの世界だけじゃない。殺したり殺されたりする二次元の世界に転生したらゼッタイに思う。

 所詮は妄想の世界。本物の殺意と敵意を知らない俺とって、本物となった世界は地獄だったんだ。

 

 

 

 とりあえずモンハンの世界に転生してよかったと思えることは―――モモちゃん(アイルー♀)をモフモフ出来たことぐらいか。

 

 

 

―完―

 




作者が考える転生者の課題:本物の野生を目の当たりにできるか否か。

今回より踏み台転生要素を加えてみました。

転生モノで有名なのは、リリカルなのは系だと聞いたのでやってみましたが……
やっぱりちゃんと解っていないと全然ダメですね、活躍の仕方も解らないし漠然としすぎて執筆が遅れてしまいました(汗)
次からは自分でも知っている能力などを選びたいと思います。雑学増やさないとなぁ。

本物の野生動物に触れたことも間近で見たこともないなら、普通はモンスターに対峙したらこうなるのでは?
そう思って書いたのが今回の転生者君です。本物の殺意にブルっちゃうのが基本かなぁと。
試験的に書いたので、次回以降転生者要素を書くかは読者の皆様の反応次第です。

さて鎧蜘蛛ですが、これは活動報告にあった睡眠毒特化ネルスキュラも反映してみました。
地底火山には居ないネルスキュラをどうやって……と考えていた所、未知の樹海にもグラビ居るじゃん!と思いつき、後はスラスラと書けました。
未知の樹海ってモンハンデルシオンには打って付けの環境ですね~。ビバ闇鍋(笑)
イメージはパチンコ玉です。遠心力を使ってガンダムハンマーみたく攻撃します。超痛いこと間違いなし。

ご満足いただけたでしょうか?次回のモンハンデルシオンをお楽しみ!
以下、鎧蜘蛛の素材です。(一部のみ)また、追記で防具スキルも表示します。

・鎧蜘蛛の蒼棘
睡眠毒が含まれたネルスキュラの水色の棘。鎧竜の甲殻を貫けるほどに硬い。
・鎧蜘蛛の堅鋏角
 ネルスキュラの伸縮自在のキバ。鎧竜の甲殻を噛み砕けるほどに硬い。

●スキュラGシリーズのスキル一覧
・罠師
・破壊王
・睡眠無効
・鈍足

ではでは。いつも応援と応募ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。