Monster Hunter Delusion【更新停止】 作:ヤトラ
もう一つのテーマは「特別であること」。
前partの要素が割りと好評だったので続けて出してみました。無害な転生者です。
4/28:後書きにて防具スキル追記
4/29:誤字修正
2016/2/3:誤字修正
世の中は平等ではない。それは生まれた時から生じてくる。
生まれつき人とか一線を越えた何かを備えている者もおり、それらを見れば不平等だと思うだろう。
しかしそれは些細な問題。全てと見比べたら切りが無いし、それが必ず活かせれるかといえば当人次第だ。
逆に、生まれつき何かが欠如している者も存在している。
生まれつき脚が欠けている者、生まれつき病を携える者、生まれつき身体の機能に異常を持つ者などなど。
才能を持たないことより、必ずあるはずの物が無いことや、必ず無いはずの物がある事に劣等感を抱く者が多いはずだ。
それこそ差別の原因となり、不幸の理由に繋げようとし、自分という存在を落とす切欠に繋がる。
しかし敢えて言おう。それがなんだと。
生まれがどうであれ、生きていれば光も闇も背負って生きて行くものだ。生きてこそ意味がある。
そもそも何かを失っている事や何かを背負っている事全てが不利になるとは限らない。
足が欠けているからこそ出来ることもある。
病を背負っているからこそ解ることもある。
身体に異常があるからこそ治すこともある。
才能も劣等も、活かせなければ、そして死んでしまったら意味がない。
自分という存在を活かしてこそ生きる価値があり、それを見つけ出す事も生きる意味の一つだ。
それは人間も動物も、そしてモンスターも同じ。
―――
かつて、蓄電機能を持たない変わったジンオウガが天空山に居た。
ジンオウガの特徴である発電機能を好きで持たなかったわけではないし、龍属性エネルギーを纏う亜種になるつもりもない。
彼(一応性別は雄だ)は、生まれつき発電機能が未発達で、独り立ちする頃になっても未だに雷を纏う事が出来ずにいた。
甲殻は電気を発生する特殊な脂質を持たず、発電できないから電気を増幅する体毛も無意味で、電光虫に分けられず共生関係を得ることができずにいる。
強力な電撃を撃てぬジンオウガなど恐れるに足らずとばかりに、若き頃の彼は他の大型モンスターにしょっちゅう襲われていた。
リオレウスやゲネル・セルタス、格下であるはずのババコンガですら彼を追い出すのに充分な強敵となり、天空山を追いやられた。
無双の狩人と呼ばれているジンオウガでも、時には格下相手に倒されることもある。しかし今の彼は、狩人とは程遠い存在だった。
やがてこの若きジンオウガは、天空山の辺境に辿り着く。
天空山の奥地にあるここは、人間どころか並大抵のモンスターですら足を運ぶ事を躊躇するほどに険しい崖だった。
高低差と段差が激しく、跳躍力のあるケルビ、そして飛行能力を持つガブラスとアルセルタスが生息している。
捕食できるモンスターに限りがある以上、大型モンスターであるジンオウガには厳しい環境だった。
だが、それでも若きジンオウガは諦めない。諦めるという概念が無い。
獲物がいる以上は狩りをして捕食しなければならない。逆に言えば、苦労はするだろうが狩りをしようと思えば出来るのだ。
邪魔者であるガブラスやアルセルタスだって、地形が不利ではあるが、特質に囚われず純粋な戦闘能力だけでも倒せる。
この地で行き抜く為に必要なのは、崖を駆け上がれるだけの脚力と体力だ。上り下りを繰り返せば自然と鍛えられるだろう。
こうして、若きジンオウガの新たな狩猟生活が始まるのだった。
―――
ある所に、この世界をゲームとして知っている異世界のハンターが居た。
彼は気まぐれな神により転生された人間だと記憶しているが、彼自身は普通の人間として健康的に、そしてハンターとして静かに暮らしたかった。
彼は健康な身体を持つだけの普通の人間だった。父に身体を鍛えてもらい、母に知識を学び、友人らと共に遊んできた。
しかし彼は、ハンターとして旅立って知った。自分以外にも転生者が居て、そのほとんどが特別な力を持って生まれてきたことを。
彼らの大抵は、力を持たない自分を愚かだと罵った。せっかく転生したのに特別な力を得なかった自分が信じられないと言って。
彼は悩んだ。転生するだけでも感謝すべきなのに、なぜ力を欲するのか。特別な力を得ようとしなかった自分は、本当に愚かなのか。
確かに、ハンターになってからは苦楽の連続だった。
喜びもあれば苦労もあった。時には死の淵に立つこともあった。騙されたりもした。励まされたりもした。一夜を過ごしたりもした。
友と分かち合ったり、仲間と笑い合ったり、仲間と別れたり、一人悲しんだりした。時には裏切られたり、助けたりもした。
苦労をかけた分だけ喜びを得られ、今は最も信頼できる仲間が二人もできた。それだけで充分なはずなのに、何かが足りない気がする。
瞬く間に凄腕ハンターと呼ばれるようになった彼らのように、ゲームの世界だからもっと楽をしたりもっと良い目に合いたいと思っているのだろうか?
そう思うようになった彼は、心にポッカリと穴が空いた日々を過ごしていた。埋めたくても仲間に話すことができず、悩み続けていた。
そしてハンターとして成長してしばらくした頃。
天空山の麓に居を敷くシナト村からの依頼を受けた彼と二人のハンターは、あるモンスターと遭遇する。
当初は天空山で暴れているというジンオウガを討伐しに来た彼らにとって、そのモンスターは衝撃的だった。
彼らが遭遇したモンスターとは―――白銀のジンオウガだったのである。
―――
この白銀のジンオウガ(モンスターに詳しい片手剣使いのラスターによると亜種ではないらしい)、とにかく素早い。
「そっち行ったよミリス!」
「解った、って、そっちに戻ったわよー!」
「急旋回Uターンとか勘弁してぇー!」
「なぜじゃあ!なぜまた小生を狙うんじゃぁぁぁ!」
上から順に、転生者であるタケシ、タケシと同郷の女ハンターのミリス、タケシとミリスの仲間である物知りラスター、たまたま同行した(妙に運が悪い)大男ロクカン。
白銀のジンオウガは遠くからライトボウガンでチマチマと撃ってくるミリスに狙いを定め走ったかと思えば、急に旋回して三人の男達に突進。
回避して突進後の隙を狙うハンター達だが、白銀のジンオウガは右足を軸に強引に旋回、長い尾を振り回して逆に吹き飛ばす。
太い尾による一撃は大柄なロクカンですら軽々と吹き飛ばすほど凄まじいが、それを可能とした強靭な脚力にも驚いた。
吹っ飛ぶ中、タケシは地面に着地し態勢を立て直しながらも白銀のジンオウガから視線を離さず、観察する。
中背のタケシが双剣、小柄なミリスがライトボウガン、長身細身なラスターは片手剣、そして大柄のロクカンはハンマー。
小回りが利く彼らは、初めて見るタイプのジンオウガを前に遠巻きながらも戦いを挑んでいるが、ジンオウガはそれを上回っていた。
まず見た目以外で解ったのは、このジンオウガは電撃も龍属性も持たず、純粋な身体能力を見せ付けていること。
白に近い体毛にはなんのエネルギーも確認されていないが、その四肢に宿る筋力は体毛越しでもはっきり解るほどに逞しい。
恐らくは高所の上り下りを繰り返したと思われる、高い崖ですら楽々と跳び越せる脚力も凄かった。
その結果、巨体に似合わぬ小回りの効く動きを実現することに成功していた。
強靭な脚力を活かし強引に隙を埋める行為は、ハンター達に反撃のチャンスを与えず、ずっと俺のターン状態。
逆に言えば、隙を見せる行動は強力な一撃を宿しており、力を込めてからの突進は一発で壁を粉砕するほど。もし当れば命はないだろう。
防御力も高く、ライトボウガンから放つ通常弾では決定打を与えられず、むしろ平然としていた。こればかりは張り切り屋なミリスも涙目。
己の筋力のみを生かしたパワー溢れるアクロバティックな動き。それが、四人が感じた白銀のジンオウガの印象だった。
幸いなのは、避けられる技量と無闇に攻めないという日頃のスタイルが身に付いていたということか。
ハンターの間では防具があっても避けられる方が良いからと回避テクニックを磨く者が多いと、タケシはハンター生活を送ってから知ったのだ。
だがしかし。
「なぜじゃああぁぁぁ!!」
ロクカンがジンオウガの右肩タックルを受けて吹っ飛んだ。
「ロクカンが死んだ!」
「この人でなし!」
「何を言ってるの二人とも!?」
そもそも死んでないし。そう思っていたタケシだが、電波な台詞を放つミリスとラスターに突っ込みせざるを得ない。
そのまま気絶してネコタク送りになったロクカンを余所に、白銀のジンオウガは新しい獲物を狙わんとこちらへと振り向く。
今は品定めのつもりかゆったりとした足取りをしているが、迂闊に襲おうものなら跳躍して避けられるのがオチだ。
戦闘を通してそれを理解している三人は、バラバラに散開しつつ、走りながらジンオウガの様子を伺う。
小走りでジンオウガの背後を見張るタケシは、ある想いが湧き出てきた―――このジンオウガは、どれほどの辛い日々を送ってきたのだろうか、と。
その筋骨隆々な身体には、数多くの傷が浮かんでいる。鋭い物に裂かれた痕、幾多もの噛み痕、中には身体の反対側にまで貫通したかのような傷跡まで。
ジンオウガのセオリーである「虫との共生」が無くなった事で迫害を受け、それでもなお生き延び、強靭な肉体を得てこの天空山に帰還したのだろうか。
タケルは歴戦を知った恐怖と共に、この白銀のジンオウガが持つ「生への執着と誇り」を感じ取った気がしてならないのだ。
―特別な力を無くしたとしても、こうして新たな道を歩むことができるんだ。
タケシはこちらへと振り向いて突進してくるジンオウガを前に笑みを浮かべ、双剣を掲げ鬼人化する。
恐らくはこの白銀のジンオウガは上位、いやそれ以上の実力を持っている。未だ下位である自分達では歯が立たないだろう。
しかし、このジンオウガに背を向けることはできない。背を向ければロクカンのような目に合うのが解っているからだ。
なら、自分は鬼人化ですり抜けながら霍乱する。これまで磨いてきた勘と体術は、それを可能にすることができる。
霍乱する間にミリスとラスターを逃がせれば、後はなんとか隙を伺って逃げればいい。自休戦になるだろうが、悪い手ではないはず。
何より、この白銀のジンオウガを持ってみていたいという想いが、転生者でありながら現実を受け入れているはずのタケシに宿っていたのだ。
今、若きハンターと白銀のジンオウガの攻防の幕があがる。
その結果、タケシは全治半年の大怪我を負って帰還。ネコタクからの輸送でした。
ミリスとラスターは逃げ延び、より酷い怪我を負ったロクカンと共に病院生活を送ることになったタケシに代わってギルドに報告。
あの白銀のジンオウガが度々目撃され「
しかしその目撃は半年が経ち退院した今でも数が少なく、今や幻の存在と囁かれており、今もなお再会できていない。
なお、半年が経った頃になって、タケシは風の噂で知った。自分が知る特別な力を持った転生者は、この半年間に大半が亡くなったと。
特別な力があろうとも無かろうとも、死ぬ時は死ぬ。この世界の弱肉強食を肌で感じたタケシはそう理解した。
そして、あの翔狼竜に会って知った。特別な力があろうとも無かろうとも、生き残ればそれでいいのだと。
あの大怪我を負って死にそうな目にあったが、こうして生きている。生きる喜びを噛み締めることができた。
ミリスとラスターと再会でき、退院祝いで盛り上がったりもした。生きていればこんな目にも会うのだ。
だから自分は、ハンターを続け、この世界で生き続けたい。
ハンターは、この世界で生きる喜びと苦しさを誰よりも理解できる狩人なのだ。
より広い世界を見て、より喜びと苦しみを味わい、生きる意味を噛み締めたい。
それが、ゲーム感覚が抜け、現実と受け止めるようになったタケシの願いだった。
タケシの耳には今もなお、あの轟竜にも勝る咆哮を放つ白銀のジンオウガの轟きが聞こえる気がするとか。
「なぜじゃぁ!なぜ小生が退院しても祝ってくれんのじゃあぁぁぁ!」
所詮は通りすがりだからさ。
―完―
今回の登場ハンター
タケシ:転生者。望んだのは健康な身体。厳しく育てられ早い段階で現実を知った。双剣。
ラスター:モンスターの生態に詳しい友人。都会生まれで親が研究者。片手剣。
ミリス:この世界における転生者と同郷の友人。恋愛要素無し。張り切りや。ライトボウガン。
ロクカン:偶然クエストに同行することになった通りすがり。妙に運が悪い。ハンマー。
何気にクロスがあります。批判されなければチョコチョコ出してみようかなぁと検討しています。
新しくタグを増やすべきかも悩んでます。ご意見などあればお願いします。
電撃や龍属性をなくしたジンオウガは、アクロバティックな動きに磨きが懸かりました。
やっぱり純粋なパワーっていいですよね!ティガレックスみたいですが。
この翔狼竜は隙が少なく、それでいて動きが激しいのが特徴的です。動きが早くなったとも言う。
それ以外の追加点として
・ティガレックスみたく大咆哮が放てる
・ナルガクルガ亜種みたく連続尻尾バターンができる
・ティガやナルガみたくUターン突撃ができる
……やはりティガやナルガって凄いですよね。属性とか無くても充分に強いんですから。
・翔狼竜の剛爪
鋭く太い翔狼竜の爪。絶壁の環境で育った為、より硬くより長く伸びている。
・翔狼竜の靭尾
翔狼竜の太い尻尾。強硬な鱗で覆われ、見た目以上の筋肉が詰め込まれている。
●ジンオウガPシリーズのスキル一覧
・体術+2
・回避性能+1
・ランナー
・属性攻撃弱化
・状態異常攻撃弱化
ではでは。また次回をお楽しみに!