Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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エキストラステージ第3弾!今回のボスは風変わりな、しかし危険な能力の持ち主です。

イメージBGM「殷々たる煌鐘の音(アルバトリオン)」


ExtraBoss-3:「大地に咲く塩花」

 昔ある所に、塩を求めた国があった。

 

 その国は貧しく、せめて塩を手に入れようと僅かな食糧を他国に譲るしかなかった。

 

 神はその国の貧しさに嘆き、国に塩を送った。

 

 塩に恵まれたその国は、他国に塩を送る事でたちまち豊かになった。

 

 しかし今度は塩を求めた他国が、塩が豊かな国に戦争を仕掛けてきた。

 

 神は人々の欲するが故に奪おうとする罪深さに嘆き、こう言った。

 

 「そんなに塩が欲しいならもっとやろう」

 

 神は国々に塩の化物を送り、塩の化物は国々の全てを塩で包み込んだ。

 

 国は滅んだ。塩を欲した貧しい国も一緒に。

 

 欲して奪うのは良くないことだと、生き残りは知った。

 

 塩の化物は、国の間違いを象徴する神の使いなのである。

 

 

~とある国の末裔が記した御伽話~

 

 

 

―――

 

―塩、塩、塩。

 

 この地―――【塩原】は、かつて大国1つを潤すほどの巨大な塩湖であった。

 しかし今は水分が抜かれ、巨大な塩の塊が大地となって広がる原となっている。

 その塩害は凄まじく、塩湖の恩恵を受けていた大国の建物が全て塩に包まれ、風が届く範囲内の自然はとうに枯れ果てたほど。

 

 生命活動に必要とされる塩分。しかし過剰な塩分は自然を滅ぼす。

 水をも枯らした塩は大国を、そしてその近隣国ですら古代に滅ぼしたのだ。たかが塩でも、これほどの大災害を起こすのだ。

 

 この塩原……否、塩湖の誕生には伝承がある。

 大国が小国であった頃、塩が無く困り果てた所へ、神が恵みとして塩を与えたと。

 これは飽くまで伝承であり、真実は大きく違っていた。それを知る者は小国だった頃、つまり古代より前の者だけだ。

 

 

 しかし敢えてここで語ろう―――この塩は、生物が生み出したのである。

 

 

 かつて、塩湖と呼ばれる場所は湖だった。ただ広いだけの、塩気のまるでない、清らかな水が漂う巨大な水溜り。

 その湖を、たった1匹の生物が飛来してきたことで、大国どころか近隣国ですら賄えるほどの塩湖に変えた。……嘘のような話だが、全て本当である。

 

 

 ここで浮かぶものがあるだろう……その生物が何者であるかを。

 

 

―――

 

 その日、塩原に侵入者が訪れていた。

 こんな塩しかない場所だが、逆に言えば塩しか存在しないような地域だからこそ、長距離飛行を可能とする大型モンスターの羽休めには丁度良いのかもしれない。

 白い大地に足をめり込ませ着地するのは、空の王者と名高き飛竜種、火竜リオレウスである。

 

 分厚く硬い鱗には幾多の歴戦の傷跡があり、王者の風格を漂わせる目つきは、強者ならではのギラギラしたものを感じさせる。

 体も人が知る火竜の金冠サイズに届きかねぬほどに大きく、人が見ればG級と判断しても可笑しくない。事実、このリオレウスは幾多もの縄張り争いに勝利してきた猛者だった。

 そんなリオレウスがこの地を羽休めの場所に選んだのは偶然だ。腹が減ったわけでもなく、その日は風が強く飛び辛かったからこの地に足を止めただけに過ぎない。

 

 白い大地と言っても平らではなく、風化や何かしらの隆起によって生じた結果、小さな岩山のようなものが沢山ある。

 リオレウスは高く聳える塩の岩山に着地し、その上に着地し、翼を折りたたんで眠ろうとしている。

 

 

―しかし、リオレウスは何者かの存在に気付き、即座に起き上がる。

 

 

 高い岩山の上から見下ろした先には―――クシャルダオラのような、四足歩行し背に翼を携えた大型モンスターが歩いていた。

 しかしそのモンスターが歩くというだけにも関わらず、異常といえる箇所は多々存在している。

 

 一歩踏み出すごとに白い大地が隆起して刺々しい花が咲き、脚が離れると霧散する。

 足から塩の花が咲き、粉となって風に散る。それを繰り返しながら、そのモンスターはリオレウスが立つ岩山へと足を運んでいた。

 

 風によって舞う塩が吹雪のようにモンスターの姿を隠している為、リオレウスからは影としてしか見えていない。

 しかしリオレウスは長らく生き延びてきたからこそ、その影から放つプレッシャーが只者でないことを理解していた。

 リオレウスは翼を広げた。大きさをアピールしつつ咆哮を轟かせることで自分の力を見せ付ける、いわば威嚇だ。

 

 その咆哮だけでも衝撃波として周囲を揺るがし、黒い影にもその余波は襲い掛かる。並大抵の大型モンスターなら怯む程度はしていただろう。

 しかし黒い影は微動だにせず、その轟きに対応する。

 

 

 バキバキと音が鳴り、黒かった姿が徐々に白くなっていく。分厚く鋭く膨れ上がるそれは、まるで鎧を生成しているかのよう。

 その白い鎧は足元の塩原にすら及び、バキバキと音を立てながら鋭い棘を幾重にも生やしていく。

 

 刺々しい巨大な塩の花を咲かせた後―――この【塩原】の支配者たる古龍種は戦闘態勢に移った。

 その龍は塩を操るという、言葉だけで聞けばなんだそれはと思い兼ねない程の呆気ない能力を持つが……その力は間違いなく大災害級に匹敵するものだ。

 

 

 

 なにせこの古龍種――「塩曹龍(エンソウリュウ)」ソルトリウムこそが、この巨大な湖を塩の塊に変えた張本人なのだから。

 

 

 

 塩とは命の源。そして命を脅かす毒でもある。

 それは塩害として大自然に襲い掛かり、あらゆる物を枯らす猛毒にもなる。

 故にソルトリウムと対峙したリオレウスは、強さとは別の恐怖を思い知った。あの白い鎧は、自身を殺す毒でもあると。

 

 されどリオレウスは戦わなければならない。

 逃げようと背を向ければ殺されると解っているから。ならば戦って一矢報いようではないかと。

 傲慢ではない。生き残る為の僅かな道筋を本能で悟ったからだ。

 

 ソルトリウムはリオレウスの決死の咆哮を前に、咆哮で返す。

 地を揺るがす咆哮で塩の花は霧散し、代わりにソルトリウムの周りを、巨大な棘が連鎖しつつ隆起していく。

 咆哮に呼応するかのように聳えた塩の棘は波のように広がっていく。ただそれだけとはいえ、この古龍種の特性を物語らせる恐ろしいものだ。

 

 そして両者は息を深く吸い上げる―――己の最大の一撃を放つために。

 

 リオレウスの口からは紅蓮の業火が、ソルトリウムの口からは鋭く尖る塩の結晶が放たれる。

 

 

 

 その後の2匹の決着は―――言うまでも無かろう。

 

 

 

―――

 

 塩曹龍ソルトリウム。塩を生み出し、塩を操り、塩で命を脅かす古龍種。

 

 たかが塩と思って侮るなかれ。高濃度かつ大量の塩は大自然を、そして命を殺す、塩害という名の毒となる。

 湖を塩に変えるほどの力を秘めたこの古龍種が動こうものなら、抗う術もなく全てが塩で包まれていくことだろう。

 

 風とも炎とも水とも雷とも違う、命の源で害を成すという風変わりな、しかし間違いなく危険な古龍種。

 嵐でも炎でも洪水でも雷雨でも与えられない、大自然を覆し破壊するダメージを、塩害という形で与える滅びの力。

 

 

 

 彼の者を人が見つけた場合、時と場所によっては、遅くもあり早くもある。

 人の営みに届く範囲であるかないか。それ次第では、既にソルトリウムの塩に侵略されている可能性があるからだ。

 

 

 

 人がソルトリウムを見つけるのが先か、ソルトリウムが人の集落を見つけるのが先か。

 

 

 

 塩に脅かされる運命は、古龍種の気まぐれで決まる。

 

 

 

―完―




というわけで「塩曹龍」でした。これも恐ろしいですよね~。
これまでのエキストラボスの中でも、別種の恐怖というものを物語りたかった回でした。

このソルトリウムがコレまでのボスモンスターで群を抜いたのは「塩」です。

古龍種とは大自然の驚異そのものです。嵐を起こすクシャル、炎の権化テスカトル、竜巻を起こすアマツなどがそれですね。
しかしソルトリウムはそれら自然の力とは違う、命の根源たる塩で、大自然を容易く破壊する力を秘めているのです。
この破壊力はシャガルやゴアこと「マガラ」に通じるものがあります。命同士を殺しあうことで自然を破壊するからです。

人は必ずこのモンスターを討伐しなければならない。それほどまでの恐怖をこの古龍種は秘めている。
そんなソルトリウムこそラスボス級に選ばれてもいいんじゃないかという妄想が浮かび、採用しました!

さて、色々と語ってきましたが、早いもので次がラストです。
今年も残すところ僅か。年末を飾れるようなラスボスの様子を書けるよう頑張ります!
作者の妄想を存分にぶち込みたいと思いますので、ご了承ください。

ではでは!

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