Monster Hunter Delusion【更新停止】 作:ヤトラ
アラムシャザザミ、ツジギリギザミに続く、当作品におけるユクモ三大甲殻種の一匹です。
しかし彼の方が到着は先です。大昔から移り渡っていた、という設定です。
―アクラ・ヴァシム。
大繁栄と大衰退を繰り返すことで、永き時を生き抜いてきた甲殻種モンスター。彼らは大発生と同時に地を渡り、子孫をより多く、そしてより広い地へと送り込む。
それを繰り返したことにより、アクラ・ジェビアという亜種が現れるようにもなった。
そしてその魔の手は、かつて旧大陸から新大陸へと渡ってきたほど。
大発生によって数を増した彼らは、少数ながらも新大陸へたどり着き、繁栄していった。
いかにして旧大陸から新大陸へ渡ったかは解らないが、彼らは確かに新大陸で繁栄していたのだ。
―そう、恐暴竜イビルジョーが姿を現すまでは。
彼らは生命活動維持のため、大量の獲物を捕食していかなければならない種族。
己が生き残る為、他の種族を食らい続け、絶滅へと追い込むほどの執念と貪欲さを併せ持つ怪物。
その悪魔の食欲は、大繁栄期のアクラ一族を根絶やしにするには充分すぎた。
さらにアクラの体液には豊富な栄養が含まれているため、イビルジョーはこれを欲するが為に多くを食らってきた。
新大陸に殴りこみ、増殖し繁栄してきたはずのアクラ一族。
一時は大陸中に蔓延ってきたはずが、たった一匹の獣竜種によって絶滅させられるとは想像できただろうか。
しかし、有り得る事なのだ。少なくとも、遠い未来に多くの学者達が、イビルジョーによって滅ぼされた種が数多く存在していると知ったのだから。
―種が種によって絶やされる。それが弱肉強食の世界ではありえる光景なのだ。
だが、奇跡的なことに、アクラに生き残りが居た。
しかし繁栄して生き延びようにも、生き残りのアクラはたった一匹しかいない。繁栄したくても出来ないのでは仕方が無い上に、彼が居るのは極寒の地―凍土。
やはりこのまま滅んでいくしかないのだろうか。
―しかし、彼(?)には関係が無い。
たった一匹になろうとも、生き延びた以上は生き抜く。
彼らは大繁栄と大衰退を繰り返して生き延びた種だ。衰退期の生き方も遺伝子的に知っている。
それが長引くだけと考えれば、その為の進化への道は容易い。
さらに彼らは夜の砂原や沼地の洞窟など、寒い環境に適した種でもある。凍土の寒気なんてへっちゃらだ。餌も無いわけではないし、ここで生き残れる可能性は高い。
まずは寒気のみに適応した体に作り変える為、体液の栄養素と温度を変えなければならない。
以前、ギィギを卵巣ごと食したことで自身の体液の効能が上がったので、それを活用するとしよう。
それと我らを絶滅させるような強大な力を持った存在への対処。轟竜という近しいモンスターもいる。
ただ甲殻を硬くするだけでは足りない。もっと別の、力以外の何かが必要だ。
―まぁ、まずは餌だ。ポポという狩り易い餌もいるし、それを食べてから考えよう。
―それから何十年、もしかしたら何百年も月日が経った頃―
今、一匹のポポが足を凍らせて動けなくなってしまい、もがいていた。
原因は、凍土のあちこちに散らばっている氷の塊。これを踏んづけて凍ってしまったのだ。
空気中の水分を一瞬にして凍らせるほどの氷の結晶。これが咲き乱れるのは「奴」がいる証拠。
―――にも関わらず、そんな動けず終いのポポに狙いを定めたモンスターが居た。
轟竜ティガレックス。丁度お腹を減らしていたのか喜びの咆哮を轟かせるのだった。
高いところから飛び降りた後、忙しなく四肢を動かしてポポへ向けて走り出す。
―しかし、それこそが「奴」の狙いだった。
今、ティガレックスが通り過ぎた所である結晶が動いた。
そしてポポへ食らい付こうと牙を向けた瞬間、彼の背後で異変が起きる。
先ほどの結晶が地面から伸びていき、その結晶から圧縮された液体が噴出される。
レーザーのように伸びていったそれはティガレックスの足に命中。空気中の水分と足についた雪が凍り付き、ティガレックスの脚を氷漬けにして動けなくする。
ティガレックスが氷によって動けなくなったところで、その結晶の主が姿を現す。
その姿はまさしく、大昔からユクモ地域に生息していた生き残り――アクラ・ヴァシムであった。
ただ、やはりというか、永きに渡り生き残ってきた彼は、独特の進化により姿を変えていた。
まず、体中が氷に包まれ、美しい水晶色に染まっていた。
アグナコトル亜種のような中途半端なものではなく、甲殻全てを氷の鎧で覆われていた。
これは先ほどティガレックスに吹きかけた液体……常温でも空気中の水分を凍らせるほどの特殊な液体『凍結晶液』により、体に付着させているからである。
その氷は鋏にまで行き届いており、通常の鋏よりも大きく鋭い形状を帯びていた。
―仮にこのアクラ・ヴァシムらしき変異種を「
そんな氷晶蠍の狙いは、ポポを狙ってやってきた大型モンスター・・・つまり、このティガレックスですら餌でしかないらしく、一気に接近して鋏を広げる。
だがティガレックスも、脚を封じられているからといって抵抗しないわけではない。
的確に喉を狙ってきた氷の鋏によって狩られることを阻止しようと、その鋏に噛み付く。
ティガレックスの顎の力は強大で、呆気なくビシビシと氷の鋏にヒビが入る。
―しかしこの氷晶蠍、過去の経験と新たな進化によりその対策は済んでいた。
轟竜に噛み付かれた鋏。それを氷晶蠍は切り捨てた。
無論、ただ鋏を体から切り離すのではない。切り捨てたのは氷の鎧だけだ。
まるで脱皮のように簡単に剥がれたことにより、ティガレックスから氷の殻ごと引き離すことに成功。
それを可能にしたのは、その甲殻に宿る、アクラ特有の豊富な栄養が含まれた高温《・・》の体液。
極寒を生き抜く為に変化したその体液を熱が通りにくいはずの甲殻から滲ませることで、氷の鎧を内側から溶かし、抜けやすくする。
それによりこの氷晶蠍は、氷の鎧を脱ぎ捨てるという、力だけではどうしようもならない荒業を手に入れたのだ。
だが氷晶蠍は容赦しなく徹底させる。
氷の鎧を口に銜えたことでそれが凍り抜けなくなった轟竜。その凍って外れなくなった口に、先ほどの凍結晶液を吹きかけ、ティガレックスの呼吸を封じる。
呼吸が出来なくなってもがくティガレックス。そこへ氷晶蠍はさらなる追撃を掛けるべく接近する。
彼の喉を鋏で絞めつけたのだ。両の鋏が容赦なく絞めつけ、じわじわと肉を刃が食い込んでいく。
―しかし、ティガレックスは1分も経たない内に酸欠によって息絶える。
これにより、氷晶蠍は二匹目の獲物を手に入れたことになり、ご満悦となる。
そのために、まずは未だにもがいているポポに止めを刺してやらなければならない。
力いっぱいあがいているポポの前で、氷晶蠍は凍結晶液を鋏に吹きかけ、氷の刃を形成していく。
―目の前の獲物に、安らかな死を与える為に。
氷の爆弾となる、己の尾と同じような結晶を周囲にばら撒き、それを囮にして襲い掛かる狡賢さ。
高温の体液を循環させ、その熱を甲殻で逃がさないことにより、極寒に適応させたタフネスな身体。
あらゆるものを凍結させる液体で獲物を仕留め、自身の甲殻を覆う鎧として活用する器用さ。
その氷の鎧を脱ぎ捨てることで敵から逃げて隠れ潜む、生き残ることへの執着心。
そして何よりも恐ろしいのは、獲物の最期を見届けるまで容赦なく攻撃する残酷さだろう。
まさに生き残る為に戦う者。苦難に立ち向かい、たった一匹で生き残ってきた修羅の者。
―故にその名は……「アクラ・アシュラ」。新大陸に潜む修羅の甲殻種。
彼はずっと大衰退期の身体を維持してきたことで生き延びてきた。
いつしか新大陸に仲間が来ることを信じて、彼は長い時を生き抜いていく。
―子孫を残す為に。それがアクラ・アシュラの生き抜く意味。
そのためにも、アクラ・アシュラは仕留めた獲物を食していく。
誰からも邪魔されないよう、氷結晶を周囲にばら撒いておいて。
―氷の結晶には手を出すな。
それが、後のユクモ地域の雪山における警告である。
―完―
蠍めっちゃかっこいいやん(笑)けど名前の由来がめっちゃ解らなかってん(涙)
そんなわけで3匹目の由来は阿修羅です。名前そのまんまです。ユクモは古き日本っぽかったのでそれっぽく名づけてみました。
鬼武者、辻斬り、阿修羅。これがユクモの三大甲殻種です。
書いていて楽しかったです(笑)では最期に一覧をどうぞ。
●阿修羅【羅刹】シリーズのスキル一覧 (剣士)
・氷耐性【大】
・寒さ無効
・業物
・火耐性弱化
●阿修羅【刹那】シリーズのスキル一覧 (ガンナー)
・氷耐性【大】
・寒さ無効
・ブレ抑制+2
・火耐性弱化
●主に剥ぎ取れる素材一覧
・氷晶蠍の甲殻
氷とグラシスメタルの下に眠っている甲殻。熱を通しにくく、保温性に優れている。
・凍結晶液
常温でも水分を凍らせる事の出来る特殊な液体。取り扱いには厳重な注意が必要。
・氷晶蠍の体液
非常に高い温度を保っている、栄養価が非常に高いとされる特殊な液体。猛毒。
武器を作ったら氷属性値がめちゃくちゃ高いこと間違いなし。
防具にしたら、湯たんぽのような構造になる暖かな、けどかっこいい鎧になると信じたい。そんな素材だらけです。