Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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ようやく第一回目を投稿できました。この調子だと全部終わるのに3か月はかかりそうです(汗)
そうならないようにだけは気を付けつつ、妄想モンスター第一打が登場します!

踏み台転生者も登場しますが、完全に空気です。


Extra8-1「未知の樹海」

 

「弱者を殲滅せよ」

 

 

 神を名乗りし者の声は、モンスターハンターの世界に飛ばされた転生者全ての脳に届いた。

 

 この世に飛ばされた転生者達の正確な数は解らないが、それでも多くの転生者達はその言葉に従い、行動に移す。

 強さを身につけ既存のゲーム知識を持つ彼らは、神の逆鱗に触れ、それら全てを没収されることを恐れているのだ。

 

 加えて、これまでの有頂天っぷりが嘘のように彼らは沈静し、「まずは経験値稼ぎだ」とばかりに強者へ挑むことを止めた。

 これは転生者自身知らない事だが、神を名乗りし者が施した精神操作により、短絡的な思考をしないようにしたからである。

 

 しかし、精神操作を施すとことは大きな欠点を生む要因にも繋がっていた。

 神を名乗りし者の号令に合わせ、世界各地で違反を起こすハンターが続出するようになったからである。

 

 ある者は鬼気迫る表情でアプトノスの群れを大量に殺し。

 ある者はリーダーが居ないが故に個体数の少ないジャギィやランポスを徹底的に殺し。

 ある者は「気持ち悪いから」という理由で狩猟地1帯の甲虫種を絶滅に追い込んだ。

 自然との共生を基本とするギルドは当然の如く処罰を与えたが、彼らはこぞって逃走。以後は犯罪者として追われる身となっている。

 

 自身に宿る恩恵の没収される事を恐れ、神を名乗る者からの精神操作によって助長され、形振り構っていられなくなる。

 しかしながら力を振るいたいという欲求は根本的には変わらず、弱者殲滅によりその欲求を満たし、己の身と力を愛していく。

 その悪循環によって変わってしまった彼らは、世間一般的にこう呼ばれるようになる―――【自己中】と。

 

 

 

―――

 

 未知の樹海。広大な大地に蔓延する樹木と大小様々な遺跡により複雑な地形と化している狩猟地。

 数多く発注したギルドクエストに比例するように多くのハンター達が挑んだが、未だ正確な地図という物は存在していない。

 故に、未知の樹海を隠れ蓑に違法を犯すハンターが多い。安全地帯からの狙撃や、お守りを大量に使った異常な護石の改造など。

 

 そして近年、未知の樹海で大量のモンスターを虐殺するハンターが急激に増加してきた。

 入り組んだ地形故に隠れ場所が豊富で、ギルドナイトですら逃げ切れる可能性が高いからだ。

 広い場所でノンビリしていたアプトノスの群れを虐殺している青年ハンターも、その1人であった。

 

「……ごめんよ。これも俺が生き延びる為だ」

 

 血塗られた双剣と、その刀身に纏わりつくように息吹く風を払うように振り下ろし、青年はボソリと呟いた。

 彼の背後にはアプトノスの死骸で満ち溢れているが、青年の顔に疲労も罪悪感もなく、怯えによって全身を細かく震わせている。

 

 彼の名はヒュウ。転生者にして、草食種虐殺の罪に問われ放浪の身となった()ハンターだ。

 疲労を感じない体と嵐龍のように風を纏う双剣を転生特典として得ており、かつてはこの能力を持って様々なモンスターと対峙してきた。

 

 しかし彼は、この世界がゲームではなく現実であるということを知ってしまった。

 予想外な展開など日常茶飯事で、見た目以上に強いモンスターに悪戦苦闘の日々を強いられてきた。

 もし特典を失ってしまったら今まで以上に無残な人生になると恐れ、神の命に従い弱者を狩る日々を送っている。

 

 今日もこうして1つのアプトノスの群れを殲滅した時―――地鳴りが響いてきた。

 ビクリと震えてからヒュウが震えると、そこにはアプトノス―――に似たモンスターの群れがやってくるではないか。

 

 規模は8頭ほど。大きさも見た目もアプトノスに非常に似ており、「針を纏ったアプトノス」と言うに相応しい。

 外敵から身を守る為の術として体表に鋭い針を並べたその身体は、突進を受けたら大ダメージ間違いなしだ。

 この草食種の名は「アルケロス」。草反竜《ソウハンリュウ》と呼ばれる、未だギルドが確認していないアプトノスの近縁種である。

 

 身を守る術を持っているアルケロスが慌ただしく走ってくるが、弱者殲滅を命じられたヒュウにとっては好都合。双剣に風を纏わせ突っ込んでいく。

 向かってくる自分の事など気にしていないのが不服だが、針に注意しながらいざ斬り裂こうとした時――――そいつらは現れた。

 

 大きなアルケロスの群れを軽々と飛び越えてきたのは、雷狼竜ジンオウガ。既に傷だらけにも拘らず着地と同時に地を駆ける。

 突如として頭上を飛び越えたジンオウガに驚いている中、もう一体の影がアルケロスの群れとヒュウを飛び越していき、その姿を目撃する。

 

 

―虎だ。違う事無き巨大な虎である。

 

 

 太くガッシリとした体と四肢に細めの尻尾。雷狼竜に匹敵する巨体が驚く程の高さを跳んでいる。

 その虎のようなモンスターはジンオウガが着地した地面に落下し、プロテクターのような物が付いた前足を叩きつけ、地面を震わす。

 見た事もないモンスターによって思考が停止し、そこへ虎が起こした地鳴りがヒュウを怯ませる。

 

―ブゥン

 

「うわっぷっ!?」

 

 続いてヒュウの視界を遮ったのは雷光虫だ。多数の光が視界を塞いだら驚きもする。

 

 

 そして光に遮られ戸惑っていても、鋭い棘を伸ばしたアルケノスの群れは止まることなく―――。

 

 

 

―――

 

 紅い花が咲いてアルケノスの群れが脇を通るのを他所に、二匹のモンスターが対峙していた。

 片方は雷狼竜ジンオウガ。片方は虎のような牙竜種―――命虎竜《メイコリュウ》ジオタイガ。

 

 唸っていたジンオウガが大きく吠え、それに対してジオタイガは野太い咆哮を轟かせる。

 ジンオウガが姿勢を低くしていつでも飛び出せる姿勢に対し、ジオタイガはドッシリと身構える。

 動のジンオウガに静のジオタイガ。見た目は牙竜種に共通したものを感じさせるが、生態系や狩りの仕方は極端に違っているようだ。

 

 今、ジンオウガが地を蹴ってジオタイガに向けて跳びかかる。ジオタイガは避ける気もなく、すっと右前足を前に出して重心をそこへ傾ける。

 電流が迸る左前脚を、その前に突き出した右肩に向けて突き付けた!

 身軽なジンオウガとはいえ相当な重量があるのだが、ジオタイガは微動だにせず、しかしプロテクターのような甲殻に電流が走る度に苦痛で顔を歪ませる。

 

 今度はこちらの番だ、と言わんばかりに溜めこんでいた力を解放するが如く、全ての重心と脚力をタックルへ変換させる。

 飛びかかって来た勢いを押し殺すどころか跳ね返すかのようなジオタイガのタックルは、ジンオウガを遠くへとふっ飛ばした。

 しかしぶっ飛んだとはいえジンオウガは負けていない。くるりと身を翻して着地し、もう一度大きく跳躍する。

 

 先ほどよりも大きく跳ぶジンオウガを見て大きな一撃が来ると理解したのか、ジオタイガは敢えて地に四肢を踏んで身構える。

 いい度胸だ!と言わんばかりにジンオウガが吠え、そのまま身体を上下反対に―――雷光が走る背をジオタイガに向けて落下していく。

 

 体格差があるとはいえジンオウガの巨体、それも高高度からの落下を受け―――ジオタイガは耐えた。

 四股を踏んだ巨体はまるで岩のように微動だにせず、しかしジンオウガの背から走る紫電が容赦なくジオタイガの身体を蝕んでいく。

 バチバチと痛む背中を持ち上げてジンオウガをどかし、着地する彼をジオタイガの太い前足が叩きつけた。

 

 着地と同時に太い前脚で殴られたジンオウガは相当のダメージを負ってバランスを崩すが、牙竜種ならではの脚力ですぐさま態勢を立て直す。

 それでもジオタイガは立て続けに前脚で殴りにかかるが、ジンオウガは背を向けて走り出し、距離を置こうとする。

 逃すまいとジオタイガは再び四肢に力を籠め、自身の倍以上はあるはずの距離を一気に埋めるように跳んでジンオウガに飛び込む。

 

 しかしスピードではジンオウガが上回っている為、ジオタイガの飛び込みは地面を陥没させる程度に終わってしまった。当然か。

 さほど悔しくなさそうに、しかし逃すまいと鋭い目を向け、距離を空けて反転したジンオウガと対峙する。

 相反するようになったジンオウガもまたジオタイガを睨んでおり、互いに敵意以上の殺意を抱いているのが解るだろう。

 

 

 

 強烈な殺意を剥き出しにする二対の牙竜種の周りには―――光り輝く二種類の虫の群れが漂っていた。

 

 

 

―――

 

「……間違いない。違反ハンターのヒュウだ。リストと一致している」

 

 乾燥しドス黒く染まった血溜まりの中心には、1人の男性らしき死体がある。その顔を見たギルドナイトの男が確認し、頷く。

 「そうか」と軽く囁くのは相方である女性ギルドナイト。既に死骸となった男に向けられる目は、恐ろしい程に冷やかであった。

 

 バルバレギルドより派遣された彼らの役目は「未知の樹海に出現したとされる牙竜種の調査及び潜伏中の違反者の排除」だ。

 本来ならモンスターの調査には慎重に慎重を重ねて行動すべきだろうが、近年の樹海では違反者が潜んでいる事も多い。

 一度見つかると隠蔽に専念して発見率が余計に下がってしまう為、ギルドは「サーチアンドデストロイ」を基本にギルドナイトを派遣している。

 

「それにしても……虫が多いな」

 

「ああ。だが今は隠れるぞ」

 

 黄色と白の2種の光―虫の輝きを鬱陶しく思いながらも、自然に帰るであろう死体を放って物陰に隠れだす2人。

 何はともあれ違反者の1人を発見できたのは大きい。何せ―――目の前では、2匹の牙竜種の激戦が繰り広げられているのだから。

 

 地を削るほどの取っ組み合いを行っている牙竜種の片方は、ギルドナイトらも熟知している雷狼竜。長期に渡る激戦だったのか、角と爪は荒々しく削られていた。

 体格はジンオウガと同じでも巨重を物語らせる骨格を持つ牙竜種が、最近になって未知の樹海で目撃されているという新種の牙竜種だろう。

 ドッタンバッタンと牙と体重を押し付け合い、上へ下へと代わる代わる。熟練のギルドナイトと言えど、下手に入ったらペシャンコになりそうだ。

 

 ジンオウガがマウントポジションを手に入れた直後、もう我慢の限界だとばかりにジオタイガから離れだし、再び距離を取る。

 爪や角、雷撃による火傷など数多くの傷を負っているジオタイガだが、平然とした様子で立ち上がった。

 角と爪が削れ、甲殻などもボロボロになっている疲労状態のジンオウガと比べると随分 と損傷が少ない。ギルドナイト達が不自然に思う程には。

 

 口から涎を垂らすほどにヘバっているジンオウガを前に、ジオタイガは改めて四股を踏む。

 するとそれに呼応するかのように白い光がジオタイガに集結していき、唸り声を上げる度にその発光は強まっていく。

 

「これは……」

 

「不死虫がジオタイガに集まって……!?」

 

 自身らの周りを浮遊していた白い光―不死虫が次々とジオタイガに集い、輝きを増していく。

 ジオタイガの体に張り付いた不死虫の輝きで見え辛いが、体表にあったはずの傷がみるみる内に治っていき―――。

 

―グオオォォォ!

 

 咆哮を轟かせ、全身の傷を回復させたばかりでなく、先ほどよりも凄まじい気迫を見せたではないか。

 これにはジンオウガもタジタジである。何せ自分はヘトヘトなのに相手は全快と来たのだから、身の危険を考えざるを得ない。

 だがジンオウガは逃げるという選択をしない。ジオタイガも逃がすつもりはない。

 スタミナ切れを起こしているにも関わらずジンオウガは走り、ジオタイガは迎え撃たんと四股を踏む。

 

 

 

―かくして、対を為す牙竜種の決闘は夜更けまで続くのだった。

 

 

 

―――

 

 ギルドナイト2名による調査(という名の観戦)を報告したところ、命虎竜ジオタイガは絶滅寸前に追い込まれていたモンスターだと判明した。

 研究者によるとジオタイガとジンオウガは古来より縄張り争いを繰り広げていたライバル関係で、大昔は頻繁に争っていたのだという。

 ジンオウガが今の生態を築くようになってからジオタイガは徐々に数を減らしており、今ではめっきり姿を現さなくなった。

 

 そのジオタイガが、不死虫と共生し回復能力を得たことで復活した。

 調査を重ねれば重ねる程に解る、始種であった頃のジオタイガとは違った生態。

 強靭な体に再生能力を持つ、パワーとタフネスに飛んだ牙竜種。

 

 

 

 これは新たな脅威の誕生になりそうだと、ギルドはジオタイガに関するG級クエストの発注を決めるのだった。

 

 

 

―完―




●簡易的紹介

名称:アルケロス
別名:草反竜
種族:草食種
体表に針を生やした、アプトノスに酷似した草食種。アプトノスの近縁種ではないかと考えられる。
保護色にもなる黒と深い緑の体色を持ち、外敵に襲われると針を立たせ群れ総出で突進する。

名称:ジオタイガ
別名:命虎竜(めいこりゅう)
種族:牙竜種
別名:不屈の闘士
巨大な虎のような姿を持つ牙竜種。前脚にプロテクターのような硬い甲殻を持つ。
ジンオウガのように不死虫との共生関係を持ち、不死虫のエキスにより傷を癒すことができる。
大昔よりジンオウガと縄張り争いを繰り広げ、現在の生態系になるまで数が衰退していた。

ポイントは何と言っても不死虫を生かした体力回復!特別な属性攻撃とはいえ、これは反則に近い(苦笑)
ジンオウガと対を為す存在、どっしりとしたバトルスタイルと、カッコイイ生態系にほれ込みました。
きっとセルレギオスみたいに新しい状態異常を武器かスキルに宿すことでしょう(笑)

では、第二弾を気長にお待ちください。また後ほど。

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