Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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や、やっとモンハンデルシオン投稿……徐々にモンハン熱が冷めてきている(汗

はよ、はよぉモンハンクロスを……!


Extra8-2「水没林」

 弱者とはなんだろうか?

 

 弱き者と言うが種類は多岐に渡り、基準を定め、その基準より弱ければそれは弱者に違いない。では何を基準に強弱が決まるのだろうか。

 動植物、特に人間に置いてはその基準は曖昧だ。年齢差や武器の有無など、その強弱の基準というものを定める事は困難を極める。

 その中でも人が必要と考えられる要素の内の1つは経験則。豊富な経験と誠実な記録はその者への信頼を得ることができる。

 

―――まぁいずれにしても、基準を作っているのは人間ぐらいなのだが。

 

 

 

―――

 

「あ~腹立つ!」

 

―ドッパァン!

 

 水没林の水面下で起こる爆発。大きな水の柱を起こす程の爆発は、この赤毛の青年が繰り出した物だった。

 

 爆発によって生じた雨に打たれるこの赤毛の青年は、他所の世界から来た転生者の1人だ。現世の名はリュガンという。

 彼は以前から問題行動を多発しており、ハンターに就職して早々ギルドから多数の忠告を受け、最終的には異端者として扱われる始末。

 まぁ武器を通じて爆発を起こす能力を持つ転生者である以上、文字通りの異端者なのだが。

 

―ドパァンッ!

 

「何が殲滅せよだ!指名手配されて困っているってのに助けもしない駄目神の癖に命令しやがって!」

 

 自分の行いの性だと言うのに、行いの原因である神を名乗る存在にケチをつける。完全に八つ当たりだ。

 その八つ当たりをぶつけるように、しかし本人は気付かずに、魚という名の弱者を殲滅している。

 水面下に放たれた竜撃砲のショックで大量の魚がショック死して浮かんでいるが、それですら不愉快とばかりにガンランスが火を吹く。

 

「くそっ!くそっ!ちょっと能力がバレたからって、人助けしたハンターに対してこんな仕打ちかよ!ざけんなチキショウ!」

 

 確かに通り掛けの商人を助けるべく、襲い掛かって来たジンオウガを目の前で爆殺してしまった。

 商人はリュガンを恐れ噂となってギルドに届き、ギルドが秘密裏に送り付けた監視役に気付かずモンスターを爆殺。

 異能は恐れられ遠ざけられるのが世の常。異能を求めておきながら責任を自覚しなかったツケが帰って来た。それだけだ。

 

―ザバァッ!

 

「―ッ!?」

 

 突如、水面から何かが跳び上がって来た。

 リュガンは思わず武器を身構えるが、その影はリュガンを大きく跳び越え、轟音を立てて背面を着地する。

 リュガンが振り向く先には―――鰐と鮫を足して2で割ったようなモンスターであった。

 

 種別では獣竜種に入るのであろう体躯と、バランスを保つかのように長くしなやかな尻尾を伸ばしている。

 背中には巨大な背びれが聳え、顔には鰐のように長く大きな口を持ち、発達した前脚と後ろ足には小さな鰭を生やしていた。

 指先に生えた長い鉤爪を擦りながら唸り声を上げている様子から、どうやらお怒りの様子。

 

 水鰐竜スピラニムス。それがこの獣竜種モンスターの名前である。

 

 このスピラニムスは今でこそ陸上に立っているが、尾鰭や水かきがある事から水中での活動にも秀でている。

 スピラニムスは発達した聴覚で水中の獲物を探す為、先ほどから水面を爆破していたリュガンに苛立っていたのだ。

 

「はっ!わざわざ俺に狩られに来るとはバカな奴だ!」

 

 だがリュガンは恐れを抱くどころか、八つ当たりには丁度良いと優越感にすら浸っている。

 スピラニムスは咆哮を轟かせリュガンに向けて歩き出し、リュガンは武器を持って身構えた。

 

 

 

―――

 

 スピラニムスは、陸地での活動から水中でも適応するよう進化した獣竜種である。

 獣竜種特有の発達した後脚は巨躯を支える処か悠々と地を走り、長い尻尾は武器にもなる。

 その巨体を水中でも活動できるよう背鰭や水かき、そして新たな狩猟スタイルを得るよう進化した。

 その1つが獲物を捕らえる為の聴覚であり、性質上爆音などに非常に弱く、感覚器官に混乱を生じるという欠点を持つ。

 

 だが、スピラニムスを怒らす切っ掛けにもなり、現にスピラニムスは激情のままにハンターを追い詰めている。

 

 水陸で鍛えられた筋肉で包まれたスピラニムスにとってリュガンの放つ爆発など屁でもなく、平然と突っ込む。

 鰐のように長い口を使っての噛み付き、発達した前脚に生えた長い爪で切り裂き、尾鰭が突いたしなやかな尻尾で薙ぎ払う。

 いかにも水中で発揮するような見た目に反する激しい動きにリュガンは翻弄され、攻撃と防御を兼ねつつ引くがそれでも押されていた。

 

 スピラニムスの猛攻もそうだが、何よりも足場の悪さにてこずっていた。

 弱者を相手にしてばかりだった彼は単調な動きしか体に染み込んでおらず、ぬかるんだ地面で転ばないようにするのが精一杯。

 スピムラスを視界に納めながら後退。これが難しく、しかしスピラニムスは平然と木々や泥沼を踏み抜いて接近してくる。

 

「くそ……くそっ!」

 

 泥まみれの顔を拭う暇も無く、逃げられると踏んで複雑な地形へ足を運んだ己を悔やむ。

 ふと足音が止んだ事に気付いたリュガンが後ろを振り向くと、スピラニムスは足を止めて胸を逸らしていた。

 それがなにを意味するのか察知したが、なにが飛ぶか解らぬからと横へ飛ぶ。

 

 スピラニムスの口から放たれる圧縮した水を、右から左へと薙ぎ払うように放つ。

 大きな口に似合わず細い線となって射出するが、それは遺跡の残骸を粉砕するほどの威力だ。

 上を掠ったことで肝を冷やしたリュガンだが隙を逃さない。すぐさま走り、足の裏で爆発を起こして跳ぶ!

 

「こ、ここならどうだ!?」

 

 跳んだリュガンが狙うのは背鰭。体温調整を行っている背鰭はスピラニムスの弱点の1つだ。

 空中でガンランスを展開し、そこを突く。するとスピラニムスは痛そうに怯み、そのまま後退。

 

「へっへ、ザマァみろってんだ!」

 

 攻撃が通ったと解っただけでこの喜び様。地面に着地しガンランスを構えたリュガンは怯んで背を丸めるスピラニムスを睨む。

 しかしスピラニムスは直後に筋肉を強張らせ、先ほどよりも凄まじい怒気を宿した咆哮を轟かせた。

 

「……は?」

 

 鼓膜を破り兼ねないほどの衝撃波が全身に伝わり、目を丸くした。眼前には筋肉を膨らませ巨大な口を開くスピラニムスの姿。

 まさか今になって怒ったのか?今までのは怒りですらなかったのか?そんな疑問が頭の中で交差し……。

 

「こ、このやろぉぉぉっ!」

 

 もう重い武器など要らぬとガンランスを捨て、両手両足の爆破を活かして再び跳躍する。

 もうハンターなんてやってられない。今から俺は狩人として全力を持ってこいつを殺すと、恐怖を隠すかのように殺気を沸かす。

 ダイナマイトに匹敵する爆発を起こしながらリュガンは空を舞い、スピラニムスへと突っ込んでいく。この爆破攻撃を眼前にあてさえすれば―――!

 

―そんな青年の強がりですら嘲笑うかのように、スピラニムスは巨大な尾鰭を振り回す。

 

 考えなしの突進、それも空中移動であるが故に簡単に尾ひれに直撃し、リュガンを吹き飛ばした。

 木々と蔦によってスピードは軽減するも遠くへ吹き飛ばされたリュガンだが、水辺で警戒していたルドロス達の前に落ちる。

 器官に入った泥水を吐き出すリュガンだが、ルドロス達が水中へと逃げ出す程の怒気と足音が近づくのを察知し、顔を青くした。

 

―冗談じゃない!こんな所で死んでたまるか!

 

 咳き込んでいるので声ですら上げられないリュガンは、思い切って水中へと飛び込む。

 獣竜種は陸上に特化している生物だ。それにイビルジョーみたいな体型をしているあいつはきっと水中の方が鈍いに決まっていると考えたが故に。

 逃げる魚やルドロス達を差し置いて泳いで逃げるリュガンだが、直後に伝わる水飛沫と水流に怯えを隠せない。

 

 せめて洞窟へ逃げ込もうと必死に足をバタつかせて泳ぐ中―――巨大な何かが横切った。

 

 その巨大な何か―スピラニムスは、しなやかな動きを描いてリュガンの目の前を泳ぐ。

 ルドロス達が逃げ惑う中、リュガンだけは呆然と、あたりの水を吸い込んでいるスピラニムスを目の当たりにしていた。

 

 

 

―――

 

 スピラニムスはリュガンを餌としてみていない。縄張りを侵す侵入者としても見ていない。

 ただ五月蝿くて邪魔な存在。それ故に排除しようとした。そしたら意外な痛手を負ったので怒った。

 

 スピラニムスの水ブレスがリュガンを襲い、そこには巻き込まれ粉々になった水草や流木の残骸が漂うだけになった。

 自慢の聴力を持って聞いても、聞こえるのは逃げ惑うルドロスが泳ぐ音ぐらい。

 スピラニムスは満足したように怒りを納め、そのまま悠々と水中を泳ぎ出す。そろそろ餌を食べようと重いながら。

 

 

 

 

 

 

(早く、早く余所へ行ってくれ……!)

 

 僅かな気泡ですら出すまいと口を手で塞ぎながら、リュガンは流木の陰で祈り続けた。

 すぐそこにはリュガンのいる流木を通り過ぎようとするスピラニムスがいるのだろうが、顔を少しでも覗かせたら見つかりかねない。

 録に呼吸もできない水中に苦しみを覚えながら、それでもリュガンは必死で祈る。アイツさえ行ってくれれば、後はなんとでもなると信じて。

 

(……っ!?)

 

 いつのまにか目の前に居た巨大なアロワナに気付き、息を吐きそうになった。

 それを必死に抑えるが、目の前を横切っている、自身や鮫よりも遥かに大きいアロワナに驚きを隠せない。

 

 彼は知らないだろうが、これは大アロワナと呼ばれる激レアな魚だ。巨大黒魚(キョダイコクギョ)なんて仰々しい名前がある。

 

(あっちいけ!見つかるだろうが!)

 

 しっし、と手を振って追い払おうとするが、大アロワナはむしろリュガンに近づいていく。

 大アロワナはルドロスより小さなリュガンを獲物か何かと思ったのか、ゆっくりと近づき、その体に噛み付こうと瞬時に飛び掛る。

 

(やめ、やめろっ……!)

 

 咄嗟に噛み付きを避けるが、それでもしつこく迫ってくる大アロワナから逃げるしかない。

 武器も無いし、爆破は目立つ。だから手を振り払うしかリュガンには許されなかった。

 

 

 

 

 そんな1人と1匹の弱者を、強者(スピラニムス)が音をも立てずに見つめていた。

 

 

 

 

―巨大な口を開いて。

 

 

 

 

―完―




●簡易的紹介

名称:大アロワナ
別名:巨大黒魚
種族:魚種
鮫や大鯰なみに大きなアロワナ。

名称:スピラニムス
別名:水鰐竜
種族:獣竜種
元は陸上で活動していたが、長い歴史を重ね水中での活動を可能とした獣竜種。
巨大な背びれと尾鰭、鉤爪に水かき、水中でも聞こえる聴覚など水生生物らしい進化を辿った。
一方で水陸で鍛えられた強靭な後ろ足と巨大な口を持ち、機敏かつ激しい動きを見せつける

水中から陸上で活動できるよう進化した獣竜種がフロンティアに出たので、逆もありかなぁと。
まんまイビルジョーとザボアを足して二で足したような容姿しか浮かびませんが、カッコイイので良し!(ぇ

毎度遅くなって申し訳ありません(汗

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