Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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今回のテーマは「オオナズチを食らったネルスキュラ」です。
これは以前活動報告に乗せられたものを参照しました。ありがとうございます。

かなりヤッツケですが、モチベーション強化の為にもシンプルに行きました。


part34:「霞蜘蛛の生態」

 古龍種とは謎が多い。モンスターに関わる者としては当たり前の事を言うようだが、本当に謎が多い。

 強さと生息地に関しては大まかに解っているが、詳しい生態は謎に包まれている。

 

 これまで幾度か討伐こそできれど、その討伐数は希少であり、ましては捕獲に成功した例は一つもない。

 食性・寿命・性質と、古龍種独自の強さを解明するには死骸だけでは足りないのだ。

 そして古龍種とは嵐のように現れ嵐のように去るもの。自然現象の権化といっていい希少性が解明の難しさに拍車を掛ける。

 

 そんな古龍種の中でも特に珍しく、目撃例ですら稀とされているのが2つ。

 1つは文字通りの幻獣・キリン。特にキリンの亜種に至っては片手で数える程の討伐数しか確認されていない。

 もう一つが霞龍オオナズチ。姿を消し煙で晦ませる隠密性は見つけたとしても探し出すまでが一苦労。

 

 そんなオオナズチの生き様を最期まで見届けた生物が居る事を、我々人間は知らない。

 

 

 

―――

 

 原生林のとある時期に、突然変異として誕生したネルスキュラが存在していた。

 それは生まれながらにして原種の物とは違い、非常に臆病で用心深い性格をしている。根気強く隠れ続け、見つからない為に知恵を巡らせ、見つかれば全力で逃げる。そんなネルスキュラだ。

 元々ネルスキュラとは用心深いが、それは捕食に対するものだ。粘着糸で罠を張り、縦横無尽に動き回り、毒で仕留める。執拗にして執念深いこの意識を、狩りではなく守りに徹した結果かもしれない。

 

 

 そんなネルスキュラだからだろうか―――古龍種の死を目の当たりにしたのは。

 

 

 原生林にして姿を現したものの、誰一人として発見されなかった霞龍オオナズチ。

 身体を透明にする能力だけでなく、他の古龍種とは違い広大な被害を出さないこともあって目立つ事が無いので発見しにくさは古龍種トップクラスとされている。

 そんなオオナズチではあるが、大きな力を持つ古龍種には違いなく、敏感に察知した大型モンスターが姿を消すことも多い。

 

 だがこのネルスキュラは、強大な存在でありながら自分に害をなさない事もあってか、密かに隠れながら生き延びてきた。

 そんな臆病なネルスキュラ故にオオナズチも気にすることなく生息し続け……原生林にて死を迎えた。

 

 ネルスキュラはオオナズチの生き様を見てきた。古龍種という生態系の頂点でありながら、姿を晦まし、盗賊の如き舌捌きで獲物を捕らえる。

 拙い動きを見せると思えば猛烈な勢いで走り出し、キョロキョロと目で周囲を見渡すだけかと思えば瞬時に舌で獲物を攻撃する。

 強大な力を宿していると本能的に理解できるが、ネルスキュラが身に付いた観察力によって得られたのは奇妙な、しかし確かな「生きる技能」。

 

 そんなオオナズチの最期を見届けたネルスキュラだからか、ネルスキュラはオオナズチの亡骸を食らった。

 いくら古龍種といえども死に絶えれば只の屍。死肉をも食らうネルスキュラにとっては餌に過ぎない。

 

 

 

 しかし屍と言えど古龍種。その体に秘められた力は、死骸を再活用することに定評のあるネルスキュラを大きく変貌させるに十分だった。

 

 

 

―――

 

 こうして生まれたのが、オオナズチの外皮を纏ったネルスキュラの変異種【霞蜘蛛(カスミグモ)】である。

 

 元々が性格の変わった変異体ということもあって、高い知恵と適応力により体質も大きく変わっていた。

 霞龍の亡骸を食らったことで体質にも大きな変化を生じたのか、白を中心とした体色は無くなり、毒々しい薄紫色に変色。

 霞龍の毒素を含んだ事で毒性が勝り、背部にあった水色の棘も濃い紫色に変色、通常種以上の猛毒を撒き散らすようになった。

 

 粘着液は何故か透明度が大きく増し、腹部から直接弾として発射する事以外は目視しづらくなっている。

 この透明な糸は粘着性と強度も優れたもので、ネルスキュラ特有の糸タックルの威力もスピードも向上。何よりもより高所への移動が楽になった。

 

 そして何よりも特徴的なのは、霞蜘蛛の身体をすっぽりと覆うオオナズチの分厚い外皮である。

 古龍種の外皮ということあって非常に堅く、ゲリョスには及ばないが収縮性もピカイチ。火属性には若干弱いものの防御力はお墨付きだ。

 しかもこの外皮を纏っているからかは解らないが……この霞蜘蛛、なんと姿を消すことができる。

 オオナズチの透明化は体内の特殊な金属や微弱な電気を使用して行われているらしいが、このネルスキュラ変異種はどうしてか透明化(それ)ができる。

 外皮だけとはいえ周囲に溶け込めるのは大きな利点であり、この擬態性により元々高かった隠密性が更に高まる事に。

 

 極めつけは霞蜘蛛の性質。ひたすら隠れ、欺き、忍び、見つかれば全力で逃げる。変異体として非常に賢い事や元来の生態、そしてオオナズチの透明化が合わさる事で非常に見つけづらい。

 残念ながら常に透明化することはできないが、それでも卓越した隠蔽能力によりモンスターからもハンターからも逃れられる。

 捕食に関しては小柄な甲虫種や中型モンスターが主体であり、透明な糸による罠や猛毒により仕留め、獲物ごと外皮で包んでゆっくりと捕食する。

 

 

 

 さて、こんな臆病で隠れる事に定評のあるネルスキュラ変異種の情報をどのように入手したかというと―――。

 

 

 

「ニャ、霞蜘蛛だニャ」

 

「若い衆、あのネルスキュラだけには手をだすニャよ~」

 

 原生林を根城にしているアイルーの皆さんである。

 

 害をなさず害にもならないであろうと霞蜘蛛の判断されたのか、彼らに見つかっても姿を晦ませる気はないらしい。

 アイルー達も手を出しさえしなければ襲ってくる事はないと解っている為、若いアイルーに刺激しないよう注意すればオーケーだ。

 周囲に脅威が居ない事を確認し、ゆっくりとグロテスクな捕食を続ける霞蜘蛛。その捕食の光景ですらアイルー達は観察し、龍歴院に情報を売り渡そうと目論むのだった。

 

 

 

 モンスターの情報を教えてくれるのは、ハンターだけではないのだ。

 

 

 

―完―




●変異種紹介
霞蜘蛛ネルスキュラ変異種
オオナズチの死骸を被った影蜘蛛の変異種。死肉を食らって体質が大きく変化した。
薄い紫色の甲殻は皮ごと周囲の景色に溶け込み姿を消し、粘着糸は透明度が高くなった。
元々突然変異として性格が臆病だった事もあり、その隠密性と擬態性はずば抜けている。

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