では、ゆっくりしていってね!
「───私を、ルビーさんの弟子にしていただけませんか!」
「・・・ほう。」
ルビーさんは、顔色一つ変えなかった。変えなかったが、その声色から困惑や動揺が見てとれる。
負の感情は閉じ込めたといいつつも、断られたらだとか、嫌われたらだとか不安な予想が何度も頭を過ぎり、緊張で胸の鼓動がはっきりと分かった。
「弟子、というのは剣の弟子ということだろう。悪いが、俺は人に教えられるような剣の腕は持っていない。それに、例え持っていたとしても人に教える能などない。他を当たってくれないか。」
「あなたに教える能がないのであれば、私は見て真似して覚えます。あなたの剣術は私が保証します。あなたは、国内でも有数の剣士だと称えられた父上に並ぶほどであると、私が保証します。ですので、どうか・・・どうか!」
「・・・。」
必死の思いで懇願し、頭を下げる。
下げた頭を上げたとき、ルビーさんの目の色は変わっていた。
「・・・お前、今父がなんと?」
「え?・・・えっと、私の父上はロマン帝国国内でも有数の剣士であると」
「気が変わった。」
ルビーさんはその顔に微笑を浮かべた。つわものとの戦いを心待ちにする戦闘狂のような微笑だ。
「子供にしてはやけに戦い慣れしていると思えば、そういうことだったとは。分かった。お前を弟子にしてやろうじゃないか。ただし、俺の戦いは剣というよりも刀だ。流派というだけでなく様々な面からお前の引き継いだ剣技とは異なるだろうが、それでもいいな?」
「はい!ありがとうございます!」
これまでの不安と緊張は立ち消え、私は安堵と喜びに包まれた。
なんとか・・・なんとか私、ルビーさんの弟子になれたんだ!
私の返事を聞き、ルビーさんは家への道を歩き出した。
「もうそろそろ昼時だろう。一度家に帰って話をしようじゃないか。」
「はい!」
昼食を終えた後、私達は向かいあっていた。
「それで、弟子にするというのはいい。だが、お前、家はどうするんだ?ロマンからわざわざ通うのか?それともう一つ聞きたい。お前の名前を教えてくれないか。」
「・・・!」
私の中に再度緊張が走る。でもこれはさっきの不安を孕んだものじゃない。焦りを持ったものだ。
大丈夫、回答は事前に考えてある。落ち着いて伝えるだけだ。
「名前は・・・明かせません。」
「ほう・・・どうしてもか?」
「どうしても、です。でも、いつか来るべき時が来たら、その時にはお伝えいたします。それで家の件なんですが・・・もしルビーさんが許してくださるなら、本日のようにこのまま住み込み、というより居候?という形をとりたいなと思ってるんですが、許してはいただけないでしょうか?」
傲慢なのは分かってる。ただでさえ弟子にしてくれという無茶な願いを聞いてもらっているんだ。でも、私にはこうするしかなかったんだ。
「・・・家出か何かか。親御さんを心配させるわけにはいかん。」
「そのようなものです。私はもう、ロマンには帰ることができないのです。あの兵たちは、おそらく帝国軍でしょう。理由は私にはわかりかねますが、軍に睨みを利かされている以上は・・・。それに、お父様ならともかく、お母様は私のことを心配などしないでしょう。私一人くらいいなくなったって家に問題はありません。」
「随分と複雑な家庭環境なんだな。」
「お母様は姉上や兄上、弟にばかり目をかけるものですから。私だけ嫌っているんです。」
私の話を聞くと、ルビーさんは黙ってしまった。おそらくどうしようか考えているのだろう。
その間私にできることは祈るくらいしかない。
その間、数秒だろうか、それとも数分だろうか、ルビーさんがひとりでに頷く。
「余程事情があるんだな。仕方がない、俺は許そう。だがもし親御さんが心配しているのが分かれば、すぐに引き渡すからな。それは片隅に置いといてくれ。」
「・・・本当ですか!?ありがとうございます!」
「それで、ならなおさらお前の名前が分からないのが致命的だ。どうするんだ。」
「名前なら、今の名前は捨てます。新しい名前は、ぜひルビーさんにつけていただきたいです。」
「お、俺にか・・・。」
この日を境に私は、今までとは全く別の生活を送ることになるだろう。だったら、忌まわしき昔の自分の名前なんて捨てて、新しい名前でやっていきたい。これは紛れもない私の本心で、それを師であるルビーさんにつけてほしいというのも私の本心だ。
私のこんなたくさんのわがままを、ルビーさんはしっかりと受け止めてくれた。そして、真摯に向き合ってくれた。
ルビーさんは少しの間悩んだ後、口を開いた。
「────アイ。アイ・ブリリアントってのはどうだ。」
「アイ・・・ブリリアント・・・。素敵な名前をありがとうございます!」
「そうか、気に入ってもらえたなら何よりな話だ。」
アイ、それが私のこれからの名前。
上品で、素敵な名前。
これをもって私は、今までの自分と決別して、アイという名前とともに、剣の修練に励みながら、普通の生活を送れるんだ。
そう思えると嬉しくて、また目頭が熱くなった。
「お、おい、そんな泣くほどか?」
「泣くほどです。ルビーさん、これから私を、アイをよろしくお願いしますね!」
「・・・ああ、こちらこそ、よろしく頼む。」
でも、この涙は悔しさで満ちたさっきとは違う、嬉しさに満ちた涙だった。
この春の暖かみに満ちた村から、私の新たな物語が始まる。
これはアイ・ブリリアントとルビー・ブリリアント、二人の何気ない日常と、その日常に忍び寄る影を描いた物語である。
これで剣聖剣魔のプロローグ的なのが終わったので、別の小説に手を出してみたいと思います。なので剣聖剣魔の次話投稿は少し遅れてしまうと思いますが、その間に新しい小説が投稿されてるのを祈って・・・。
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それでは次回も、ゆっくりしていってね!