気が付けば五才。
孤児院の子供達に囲まれて顔を覗き込まれた時には思わず後ずさりながら、うぉう?!と変な声が出てしまった。
当時は訳が分からず知らない子供達に囲まれているのに困惑するばかりで、しかもみた感じでは孤児院とも分からず困惑の極み。
知らない名前を呼んでくる大人や周りの親し気に話しかけて来る奴等が鬱陶しくて堪らなくて感情の制御も後から分かった事だがガキの体で出来る筈もなく涙が溢れて俺は違うと違う名前の違う人間で違うんだ人違いだと叫んだ。
親に捨てられたという事が起因しているのだろうという事で泣いている子供を見守る形にシフトしていった大人とそれでも関わる子供——といっても中学生で五才にとっちゃ十分大人だったが元社会人からすりゃ子供――に他の奴に当たり散らすなと怒られ、理不尽さに、起こった事の異常さに、兎に角感情が爆発した、して、しまった。
「おれはぁ!!ちぃぃぃぃがぁあああうううううぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!」
その瞬間、周りの地面が、着ていた服が、あらゆるモノが変化した。
剣が地面から飛び出したり石がでてきたり鉄が柱となってその中学生を吹っ飛ばした。
上半身が裸になって周りの燦燦たる惨状に眼を白黒させ、更にある一点に、己の知識に一つ覚えのあるその『姿』に俺が釘付けになっていると、周りの人間は、口々にある言葉を口にした。
「個性だ・・・」「なんてすごい個性だ!」「ああ!孤児院が!」「大丈夫か!」「何が起こった!!」「怪我人は!」「個性の能力だ!」「みんな離れて!」「個性!?」「個性が発現したのか!」「羨ましいぜ!」
・・・『俺のヒーローアカデミア?』
個性、という言葉を聞いてそう想像したし、それで実際間違ってなかった。
けれど、同じジャンプ作品でも、俺の眼に映っていたのは、あの瞬間、俺の体を守る様に現れた、灰色の人型をした異常の具現、頭には緑色の歯車の様な形をした眼が三つと鎖で繋がれている体に指の関節や足の関節にも緑色の歯車、それ以外は鎖が足や手、胴体等の形をしているソレ。
『スタンド』
それが俺に現れた個性の正体で、けれどそれは俺以外には見えないモノで、周りには俺の個性は物を変化させる個性だと思われている。
あの後は個性の発言によるてんやわんやで、事態を把握するのに非常にやりやすかった。
個性って何?という俺の言葉を聞いて、知らなかったのか?となった周りは挙って俺にこの世界ついて教えてくれた。
ヒーローがいる、オールマイトだ!いやいや!他のヒーローが!俺はエンデヴァー!!とか俺の個性に何処まで出来るのか、とか。
俺の精神が、肉体にしっかりと定着出来ていなかった所為か、俺の半透明だったスタンドがはっきりとした色と形を持ち、俺の意志に従う形で慣れる事が出来たのは最近中学に入ってからだ。
実際、思う様に中々だせなかったし、そもそもあまり出す気にはなれなかったのもある。
この世界の事を知って、ああ此処はあの漫画の世界か、そして自分は何故か此処にいるのだな、これまでの自分ははっきりと覚えているし、家族もいる、恋人はいなかったけれど、友人もいたし好きだった本に関われる仕事にも付けてやりがいも覚えていたし、職場もホワイトな所にいた、週末には二日の休みを貰えていて、好きな映画や本、ゲームをやりながら二十歳になって覚えた酒を飲むのだってよかった。
偶に同じく休みの友人を誘って飲みにいったり、そんなありきたりの日常が、本当に幸せだった、ああ。
幸せだったんだよ。クソッたれ。
ギグシュァアアアアア!!!と音を立てて思わず掴んでいたジュースの缶が複雑に色々なモノに中途半端な変化をしながら崩れた。
「っと!制御できる様になったと思ったが、まだちと感情によって出て来ちまうみてーだな」
何時の間にか出ていたスタンドの腕を戻しながら、思う。
俺は、何故ここに居るんだろうか?————と。
その時、近くの公園で、もじゃもじゃの緑色の髪をした少年と、金髪のツンツン髪の少年とその取り巻きと思われる輩が眼に付いたが、特段関わり合いになろうとも思わなかったから、そのまま孤児院まで帰った。
「学校帰りだっつーのに、元気な奴等・・・」
そんな、虐めの現場をみて、ずれた感想を抱きながら。
未だに、俺のスタンドに名前は無い、理由は無い、灰色のスタンド、特に困る事もない、スタンドの名前はスタンドで良い、漫画の世界に来ても、全く楽しくない、ヒーローなんていらない、ただ渇望するのは元の世界に帰る事、突然来たのだ、突然帰れるかもしれない、——かもしれない、ないない、ない。
「——かも、しれない、ない、ないないない」
・・・・・・・・・可能性なんて—————
「————あるんだ!」
ピタリ。
足が、止まった。
学校帰り、かっちゃんに呼び止められた。
普段はそこらに転がっている石ころの様にしか思っていないかっちゃんが、僕を呼び止める事は珍しい。
僕は嫌な予感がしてかっちゃんの方から離れようとしたけどその時にはもう頭を手で掴まれたから言葉も口から出る事は無くただかっちゃんの呼びかけにYESの意味を込めて頭をコクコクと縦に振る事しか出来なかった。
「おいデェクくぅん!お前最近夜に体力作りのつもりか知らないけどよぉ・・・ちょろちょろ走り回ってるじゃねェかァ・・・?目障りなんだよォ!ぶっ殺すぞ!!」
「っひっ!」
学校では内申点を気にして問題だけはださない様にしてるかっちゃんが専ら何かするとしたら校舎裏、だけど最近は上級生の人が煙草か何かを持ち込んだとかで教師が学校の見回りを強化した。
僕としてはかっちゃんのいびりが学校では少なくなったからこれ幸いと、将来の夢――ヒーローになるべく特訓を開始したが、何故だか僕の特訓は邪魔されてしまった、理由はそのまま目障りだからだそう、無個性がウロチョロすると。
なぜこうなったというのもかっちゃんが近くでこういった特訓に使えそうな場所は取ってしまっているし、ジムなんかはお金や親の協力がいる。
・・・母さんにヒーローになる為、なんていうと止められるのは目に見えていたし、嘘を突き通せる自信もなかった、必然的に僕は夜にランニングをする所から始めたのだが甘かったみたいだ。
夜ならかっちゃんも見ていないし、ヒーロー分析ノートでも、最低限のタフネスというものを身に着ける事は殆どのヒーローに必要だった。
・・・・・・・・・最低限、個性が必要、という、僕のヒーロー分析の結果が、自分で分かってしまっているだけに、走る足が重かったが。
「デクぅ・・・お前最近なんか勘違いしてるみてぇだからよぉ・・・ここらで一端俺に対する認識を再確認しておかねぇとだよなぁ・・・・・・・・?」
「イッ!?」
かっちゃんが手を爆発させながら近づいてくる。
分かってはいる、分かる様な怪我はかっちゃんはしないし目に見せているそれはただのハッタリだ。
けれど、分かってはいてもその凶悪なまでにニタニタと笑っているヴィラン寄りのその笑顔は周りの取り巻きも引く程の怖さを持っている。
(((こいつ、ほんとうにやるんじゃないか・・・?)))
今だけはあの周りの人と共感できたと思う、そして思わずと言った感じで蔓んでいる一人が言った。
「お、おい爆豪・・・?流石に個性は・・・」
「ウルセェ!!バレなきゃいいんだよ!!」
「いいぃ!?かっちゃん本当にヒーロー志望!?ってうわぁ!」
目くらましだったのか、それとも本当にやる気だったのか、僕の見立てでは多分顔より前だったから爆発の余波で髪の毛が今以上にチリチリになるだけだったろう、ただ、個性による被害はそれだけでも、そのまま突っ込んできたパンチをそのまま受ければ、鼻血がでるぐらいの衝撃を顔に受けただろう。
どちらにしろ脅威な事には変わりなかったが、蔓んでいる二人はそうは思わなかったみたいでアイツまじでやりやがった!とか叫んでる。
こういう抜け目のない所をみると、かっちゃんの凄さは良く分かる、本当に天才的だ、こういった周りに見せるカリスマは。
「クソデク何避けてんだぶっ殺すぞクソコラァ!!」
「避けるなって、そりゃ無茶なぐえっ!!」
「「はは、ぐえだってよ!潰れたカエルみてぇな声でやがったぜ今の!!」」
ハハハ、と笑う声が耳に届く。
今度は避けきれず何時の間にか来ていた腹への蹴りをまともに避けた。
右のおお振りの後の蹴り・・・そこまではよく知らなかったな、と何と無くふらふらした頭でぼんやりと考えたが、すぐに鈍痛に喘ぐ。
「いいかデク!お前には、可能性なんざ無いんだ!一切合切!才能も!個性も!全てが無いんだ!!ヒーロー何かにはナァ!!無個性のお前がなれるわけねーだろーがァ!!!」
「・・・る」
「アァ?!」
「————あるんだ!!」
ムカついた顔して、言葉が止まったままのかっちゃんに、そのまま続けた。
「可能性はあるんだ!どんな事にも!諦めなければ、信じていれば!夢はきっと叶うんだ!!夢はその人に、力をくれるんだ!だから頑張れるんだ!!だから頑張るんだ!!人の意志がある限り!前に進んで行こうとする限り!!例えどんなに深い絶望の中にいたとしても!夢は!ヒーローは!!!そこから這い上がる事のできる希望の光なんだから!!!!!」
「・・・・・・・・・そんなに、死にてぇか・・・デェェェェエエエエエエクゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」
その瞬間、かっちゃんが何かに足を取られて転んだ。
見てみると、他の二人も動けなくなって転んでた。
「んだコレはァ!デク!何しやがったァアア!!?」
「なんだこれ!?」「とれねぇ!何だ?ガムみたいに地面がくっついて!」
「ぼ、ぼくじゃな・・・!?」
「・・・夢は、光、か・・・・・・・・・なぁ、主人公・・・単純だったんだなぁ・・・そっか・・・そう、だよな・・・諦めずに、そう・・・死んでも諦めなければ良かったんだよなぁ・・・?」
「んだ!テメェ!!」
「あ、クラスメイトの・・・?」
「誰だ?あいつ?」
「あいつの個性か?」
「なぁ?・・・せっかく、こんな所に来てさ・・・もしかしたら、次元の壁さえぶち抜ける程の奴がいるかもしれない・・・いや、俺がなればいいしな・・・できるんだな・・・?・・・そう、そうだな・・・ないんじゃあない、出来るし、あるんだ、後は―――――それだけだな?」
僕は彼に見覚えがあった、同じクラスだったから。けれど、彼の様な人は見た事はなかった。
彼には、何時も教室で見かけていた様な諦めていた、暗くて、常に落ち込んだ風な雰囲気の彼じゃなかった。
――今の彼には、やると言ったら、やる!!そんなヒーローの様な凄みがあった。