緑谷出久は平凡な少年である。
折寺中学に在籍する中学一年生である彼は静岡県の平凡な町で平凡にヒーローに憧れていた。
この世界にある非凡――個性という超常の力を使い人を助けるヒーロー、その平凡な一般人と非凡であるヒーローとを分けるそれを有しているのが当たり前のこの世界。
そして平凡な彼にあるただ一つの非凡とは何か―――?
それは
――公園から無我夢中でとびだした足が止まってくれない。
『ヒーローを呼ばなくちゃ!あれは恐らく爆発?対応できるヒーローはこの町にどれだけいる?ヴィランが現れた!大型ビルのスーパーが倒壊してる!今すぐ交番へ!取り残された人達がいるかもしれない!きっと夕方のご飯時で買い物してる人達が!助けを呼ばなくちゃ!助けを呼ばなくちゃ助けを呼ばなくちゃ助けを呼ばなくちゃ助けを――っ!!』
頭の中では、そんな風に言葉が駆け巡っている。
ともすると口からも出ていたかもしれない。
ブツブツ、ブツブツと。
焦った時、冷静に成ろうとする時、考え事をする時、考え事を整理するためについやってしまう癖。
幼馴染であるかっちゃんこと爆豪勝己からはブツブツうるせぇーぞ!クソナード!と何時も罵声を浴びせられるこの癖は今も自分の口から言葉を発している。
「助けに行かなくちゃ!」
――この個性蔓延る世界となってから第四世代にあたる彼の特別さはこの個性至上主義とも言えるほど歪んでしまった社会の中で、極めて珍しいこの精神こそにあった。
ヒーローでもない、法律、規則、そう言った事は分かっている。しかし、体が動いてしまっている。
今まで生きてきて息苦しさを覚えなかった事は無いと言ったら嘘になる。
無個性というだけで虐められる、社会では求人募集に資格と並んで個性が記される事が当たり前。
無個性というだけで憐れまれて、無個性というだけで夢を諦めなくてはならない事を無残に思い知らされる。
ヴィランと名乗る悪党は、しかし、この世界で歯車と歯車の間で生まれてしまった火花のようだと思ったのは何時だっただろう?
助けたい、力になりたい、強く生きていたい、空を見上げて太陽を見つめて、柔らかな風が吹く、今日という日を守っていき、人の笑顔が溢れる明日へ。
そんな事をなす、オールマイトの様なヒーローへ。
個性があるなら多分こんな考えはなかった、昔に母が言ってくれた心に強く響く優し気なしかし、力強い言葉が体の内側から顕われる。
『ヒーローになるんだろ?』
個性がなければなれないんじゃ?そんな言葉もなんのその、彼は片手に握りしめた自分が最も尊敬するヒーローのフィギュアを握りしめ力強くうん!と頷いた。
そんな幼少期の出来事が思い起こされる。
あれからすっかりヒーローオタクを通り越してヒーローバカとなった出久であったがそんな出久を見て母は呪い言葉を残してしまったと悔いており自分がヒーローになるのをとめはしないものの悲し気に微笑むことが多くなった。
自分も隣に天才といえる個性と才能の塊である幼馴染を見て心がひび割れそうになる事もあった。
そんな時、今日の出来事だ。
公園で彼にヒーローになるんだろ?と言われた時、ふと。
子供の自分を思い出して足が前へと進んだ。
きっと、この足を止めてしまったらもう二度と自分はヒーローになると誇って言えない気がした。
そうして事件の現場に辿り着き――。
どうしようもない悲惨な現場を見た。
頭を押さえる血を流した主婦がいる。
泣き叫ぶ子供の声がする。
逃げ惑う人々、助けとヒーローを求める声、自らが来た時に安心しろとも私が来たとも言えやしない、無力さに打ちひしがれ、しかしそれでも救助者を、救うべき人を肩を担いで、未だ同じ様に助けに回っている同じく事件に巻き込まれながらも個性を自己防衛に使い逃れた人や幸運に恵まれ、救助に回る一般人の人々、ヒーローを呼んだ!大丈夫だ!
そんな鼓舞する声が聞こえる。
自分でも駆け付けられた、近くにいたとはいえ自分でもそうなのだからヒーローなら後五分もたたないうちに来ることが出来るだろう。
そんな時、微かに子供のか細い助けての声がした。
『おい、ヒーローぉ!聞こえるかぁ!!俺はお前が追うべきヴィランだ!このビルに多くの爆弾を仕掛けた!!人質はまだ子供が何人かこのビルの爆弾の傍に捕えてる!死なせたくなければタルタロスにいるあるヴィランを開放しろ!!・・・おいヒーロー聞こえ――』
そんな悪意の放送と共に。
電子音が頭の中に鳴り響く、ノイズが掛かった録音の様な声がビルの放送設備を使い建物の内外問わず響き、周りの人々の顔が曇り、声から生気を失った悲痛な声が漏れ始めて――。
「諦めるな!救える人を救え!今ここで立ち止まったら!助かる命も助からない!!」
助けられる人を救うんだ!そう声を挙げて目を丸くしてこっちを――。
緑谷出久という少年を見つめるその場にいた多くの人達の眼差しに行動を持って答える。
瓦礫で埋まっていた避難扉の近くにいた人達を助け出し、外へと連れ出していた大人たちへとお願いします!と声を張り上げた。
そうして声の聞こえた方向へと足を進める。
階段の上から子供の声は聞こえた。
親を、ヒーローを、助けを求める声だった。
生憎自分は、親でもヒーローでもないけれど、それでも――。
目の前の、人を助ける為に動いた足は決して止まりはしなかった。
後ろから静止する声に背をむけ、謝罪と理由を告げて避難扉の下、子供ギリギリ通り抜けれるぐらいの所へ潜り込みそのまま上へと向かう階段を駆け上がり――――。
元凶へと遭遇する。
「テメェ・・・ここで何してる?」
「ヴィ・・・ヴィラン!?」
「迷い込んだガキか・・・取り敢えず、死んどけよ」
「ウッ・・・グッ・・・・!?」
手を向けられると、何某かの個性か。
突然息が詰まり呼吸が出来なくなり視界が黒く染まっていく。
そうして緑谷出久は当然の様に敗北する。
個性はなく、非力なただの一個人。
だがそれでも助けを差し伸べられると思った手はしかし無力に地に伏せられようとして――――。
BAGOON!
「テメェ!これで建物が倒壊したらどうする!人がいたら!!」
「テメェがここなら大丈夫そうだっつったんだろが!」
「俺の個性の方が安全だった!」
「俺の個性の方が早え!」
「「やんのかゴラァ!!」」
「かっちゃん!?条城君!?何でここに!!危険だ!ここはヴィランが!!」
「「
「えぇっ!!・・・あ、息出来てる」
「クソガキが・・・増えやがって・・・コケにしやがって・・・纏めて殺すぞ・・・クソガキィ・・・ッ!!」
――炎が立ち上るビルの中、ヴィランとの闘いが始まった。