サムライ・レーアの懐郷   作:ダラ毛虫

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第4話っと

ようやくアニメに追い付いたので、女魔術師の方に戻ります
間も無く第5話放送ですけど



サムライ・レーアの鬼退治

 一射にてゴブリン二匹を射抜き、即座に続く二射目で狼を射殺す絶技。

 

「充分に熟達した技術は、魔法と見分けがつかないものよ」

「わしの前で言うかね、ソレを……」

 平坦な胸を張り得意気に語る妖精弓手に、魔法を扱う術師である鉱人道士が顔をしかめる。

「魔術も技術も使いよう、といったところだろう」

 それに対し、笑い混じりに言う、魔法の様に湾刀を振るい、呪文も操る侍圃人。

 

「一……二……」

 そして、それらを他所に、ゴブリンの腹を裂き始めるゴブリンスレイヤー。

 

 

 

 恒例の、臭い消しだ。

 

 

 

「慣れますよ」

 ひきつった顔の妖精弓手。

 諦めの境地に至っている女神官。

 

 侍圃人にとって、そんな場所は五年前に通過した場所だった。

 

「どうしても嫌なら、匂い袋でも用意すると良い」

 次からは、という無慈悲な通告に、妖精弓手が泣き出しそうなくらい表情を歪めた。

 

 

 

 この場に彼女の味方は、居なかった。

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 カン、カン、と剣の切っ先で床や壁を叩き罠を確かめるゴブリンスレイヤーを先頭に、一党が遺跡を進む。

 

「拙僧が思うに、これは神殿だろうか」

「この辺りは、神代の頃に戦争があったそうですから」

 壁画に描かれた、過ぎ去りし遥かな時代を思う蜥蜴僧侶と女神官。

 

「うぇぇ……気持ち悪いよぉ……」

 それどころではない妖精弓手。

 

 

「あ、洗えば落ちますから。……少しは」

「湯に漬けて踏めば、多少はマシになるはず」

「……今度試してみます」

「うぅ……奇跡で何とかなんない……?」

「すみません……《浄化(ピュアリファイ)》の奇跡は、まだ……」

 臭い消しでゴブリンの血を被った女性陣による、洗い物談義。

 凄惨な見た目と深刻な声音に、鉱人道士もからかうことを躊躇う有り様。

 

 

 慣れてしまった女神官や、一人だけ匂い袋を使うのも、と付き合っている侍圃人といえど、好き好んで血塗れになっている訳ではない。

 清潔に過ごせるのなら、それに越したことはない。

 

 

「戻ったら覚えておきなさいよ……!」

「覚えておこう」

 ようやく意識を切り替え、野伏(レンジャー)として先頭に出た妖精弓手に、ゴブリンスレイヤーが言う。

 

 本当に、言葉通り「覚えておく」だけだろうな、と、女神官と侍圃人は顔を見合わせ、小さく笑った。

 

 

 

 

「待って」

 しばらく進むと、隊列を止め妖精弓手が床に這いつくばる。

 

「鳴子か」

「多分。真新しいから気付いたけど……」

 そう言って妖精弓手は、僅かに浮き上がった床を示す。

 

 

 侍圃人が、違和感に編み笠の下で眉をひそめる。

 

「妙だな」

 同時にゴブリンスレイヤーも呟く。

 

「どうしました?」

「トーテムが見当たらん」

 そして考え込むゴブリンスレイヤー。

 侍圃人と女神官はともかく、トーテムを知らない他の仲間には、意図が通じない。

 

「つまり、えっと、ゴブリンシャーマンがいない、って事です」

「知識層無しに、『真新しい』仕掛けを作る知恵は、ゴブリンには無い」

 慌てて通訳を行う女神官と、補足する侍圃人。

 彼女達の説明で、一党は『ゴブリン共を指揮する者が居る』ことを理解した。

 

 

 正直に潜るには厄介な、(いぶ)り出すか、火にかけるか、河の水を流し込むかしたい巣穴だが、ここでは使えない。

 

 結局、行き着く答えは乗り込んで潰す(ハック&スラッシュ)しかない。面倒なことに。

 

 

 話し合いつつ、一党は鉱人道士が読み取った床の減り具合から、T字路の右側、(ねぐら)の反対へと進む。

 

 

 ゴブリンスレイヤーの、手遅れになる、という言葉と、徐々に強くなる臭気から、女神官は薄々、侍圃人ははっきりと、何を見ることになるのか予感しながら。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

「……して……」

 

 ゴブリン共の汚物溜めに、彼女はいた。

 

「……ころして……」

 

 薄汚れた金髪。やせ衰えた、腱を断たれた四肢。

 ズタズタに痛め付けられた右半身。

 

「……ころしてよ……」

 

 同じ森人(エルフ)の惨状に、妖精弓手が胃の中身を吐く。

 

 

「わかっている」

 そして「彼」は、剣を握り無造作な足取りで歩み寄った。

 侍圃人も、愛刀の柄に手を添え、瞬時に斬られるよう構える。

 

 

 一匹ならば「彼」に任せる。

 二匹目が居たら斬る。

 

 

 

「ころして……! こいつを……!」

 

 飛び出してきたゴブリンが頭を叩き割られたのを見届け、四方八方上下、汚物の影まで意識を巡らせてから、侍圃人は構えを解いた。

 

 

 

 

 

 

 囚われていた森人(エルフ)を治療し、竜牙兵で里へ送り届けても、仕事は終わりではない。

 依頼は、ゴブリン退治だ。

 まだ三匹しか殺しておらず、巣の規模も上位種も不明では、偵察の役にすら立てていない。

 

 

 過去にゴブリン退治を、やったことがあるにせよ、駆け出しの頃に二、三回こなしただけで、ゴブリンに捕らえられた者がどうなるか、今回初めて目の当たりにした妖精弓手が泣き崩れようと、その事実は変わらない。

 

 

 

 ゴブリンは、殺さなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

「呪文は幾つ残っている?」

「私はまだ使っていないから、残り四回」

 回廊手前での小休止中、「彼」が確認する。

 侍圃人に続いて、《小癒(ヒール)》を使った女神官が二回、竜牙兵を使った蜥蜴僧侶が三回、ただし竜牙兵はあと一度、鉱人道士が四回か五回と答える。

 

 

 改めて、術師に恵まれた一党だ。

 

 普通なら、王都の銀等級でも、魔術師と神官が一人ずつ。

 侍や聖騎士のような兼業を含めても、合わせて三人居れば多い方だが、この一党は、六人中四人が呪文遣い(スペルキャスター)

 前衛が薄く、「彼」も生粋の戦士とはとても呼べないものの、連携が取れれば、ある程度の大物が相手でも対処できるだろう。

 

 

「やれる者でやれる事をやるだけだ」

 

 とは言え、その連携のためにも、「彼」の言葉足らずを改善するか、全員が意図を図れるようになる必要があるのだが。

 

 疲れた様子を見せた妖精弓手に対する、もう少しどうにかならないのかと思わないでも無い……むしろ切に思う「彼」の言い様に、侍圃人は溜め息を吐く。

 

 

 

 幸い、鉱人道士が宥めに回ってくれたので、通訳に行かなくても良さそうだ。

 百と七つは伊達では無い。

 ……二千は、まあ、変化の無い森での生活は精神年齢を若く保つのだろう、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉱人道士の《酩酊(ドランク)》が、目覚め前のゴブリン共を、より深い眠りへと(いざな)う。

 

 見事な術だ。

 侍圃人も《眠雲(スリープ)》を使えるが、この広範囲、この数のゴブリンを残らず眠らせるのは、些か厳しい。

 

 更に、女神官の《沈黙(サイレンス)》による静謐(せいひつ)

 

 こうなってしまえば、最早ゴブリン共に、奇襲に対処する(すべ)は無い。

 一匹ずつ、サイコロを振ること(ファンブル)も無く、とどめを刺していくだけだ。

 

 

 こういう時、切れ味の落ちない大脇差は都合が良い。

 

 

 そんなことを考えながら、侍圃人は、淡々と最小限の動きで、ゴブリンの喉を裂いて回った。

 

 淡々と。作業的に。機械的に。

 

 

 

 

 ゴブリン共を皆殺しにして、一党が更に奥へと進もうとした、その時。

 

 

 沈黙の中で、大気が震える衝撃が轟く。

 

 

 暗闇から姿を現した、青黒い巨体。

 

 

 巨大な戦鎚は、強固な盾を持つ騎士を、その盾ごと肉塊と化す。

 数多の術を修めた魔術師を、それを超える術にて焼き殺す。

 傷を負わせても、次の日には全くの無傷で迎え撃つ。

 

 

 人喰い鬼(オーガ)

 

 

 銀等級の冒険者にとっても、恐ろしい難敵。

 

 

 

「なんだ。ゴブリンではないのか」

 

 それを前にして、「彼」は変わらず、「彼」だった。

 

 

 くくっ、と思わず、侍圃人が喉を鳴らし笑う。

 

 

 侮られたと見たオーガが、憤怒のままに叩き付けた戦鎚が、白亜の石床を砕く。

 

 呪文と共に、巨大な《火球(ファイアボール)》が膨れ上がり、女神官の《聖壁(プロテクション)》と激突する。

 

 突き破られかけた《聖壁》に、更に祈りを重ねた、耐えうる限度を上回る超過祈祷(オーバーキャスト)が、致命的な熱量を辛うじて防ぎきる。

 

 

 崩れ落ちた女神官を支える「彼」を横目に、侍圃人はオーガの側面へと駆けた。

 

 先程の《火球》は、間違いなく致命。

 その前の戦鎚も、直撃すれば即死。

 驚異は変わることなく、目の前にある。

 

 だというのに、どうにも、込み上げる笑いが抑えられない。

 

 

 戦闘の高揚感ではない。

 

 ただ、こんな時だろうと「彼」は変わらないことが、堪らなく、嬉しい。

 

 

 まったくもって、度し難い。

 

 

 妖精弓手の矢、鉱人道士の《石弾(ストーンブラスト)》、蜥蜴僧侶と竜牙兵の刃が生んだ隙を狙い、編み笠と面頬の下、獣が牙を剥く笑みを浮かべて、侍圃人は「彼」と同時に、オーガの脚へと斬りかかった。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 ゴブリンスレイヤーと侍圃人の刃は、確かにオーガの脚を捉えた。

 

 しかし、たとえ足の腱であっても、オーガの皮膚は岩のように硬い。

 ゴブリンスレイヤーの一撃は容易く弾かれーー……。

 

「ぐ、おぉ……!」

 

 侍圃人の一撃は、オーガの腱を半ばまで()った。

 

 

 オーガに、有効打を与えてしまった。

 

 

 右目を射抜いた妖精弓手の矢と合わせて、二つ目の深手。

 

「きさっまぁぁぁっっ!!!!」

 

 オーガを激昂させるのに、それは十二分に過ぎた。

 

 

 一撃後、素早く退いた侍圃人は、既に戦鎚の射程外。

 

 故にオーガは、掬い上げるように、自身の足元を打った。

 

 

「かっ、は……!」

 

 

 それはさながら、横殴りの石の豪雨。

 腕力による面制圧。

 

 稼ぎの大半を注ぎ込んだ、魔術の込められた防具により、見た目よりも防御力があるとはいえ、小柄な侍圃人の身体を、無数の礫が襲う。

 

 

 

 それを、ゴブリンスレイヤーは見た。

 

 

 

 編み笠と面頬が弾き飛ばされた。

 

 額が裂け、血が吹き出した。

 

 その顔が(あらわ)になった。

 

 

 

 

 出会った頃から、

 

 ほとんど変わらない、

 

 思い出の中にあるままの、

 

 姉さんに良く似た顔が、

 

 

 赤い血に、染まる。

 

 

 

 

「殺す」

 

 無意識に呟き、雑嚢から巻物(スクロール)を引き抜く。

 

 

 ゴブリンスレイヤーの異様な、これまで見た中でも異質な雰囲気に、一党は皆、何かをする気だと直感した。

 

 妖精弓手が、まさしく矢継ぎ早に射かける。

 鉱人道士が、《石弾》を乱れ打つ。

 蜥蜴僧侶が、自身は距離を取り、竜牙兵を突撃させる。

 

 

 そして侍圃人は、右手で刃を握ったまま編み笠を拾い上げ被り直し、左手で印を組む。

 

「《サジタ()……インフラマラエ(点火)……ラディウス(射出)》……《サジタ()……インフラマラエ(点火)……ラディウス(射出)》」

 同じ呪文を、重ねて二つ。

 

「《火矢(ファイアボルト)》!」

 過剰な魔力を込めた炎の矢が、咄嗟に身を捩ったオーガの肩を穿つ。

 

「貴様……! 貴様ぁっ!!」

 

 

 

 その言葉を最期に、オーガを激流が飲み込んだ。

 

 深海で押し潰された水の精は、突然の解放に喜び躍り狂い、頑強なオーガの肉体を引き千切る。

 

 

 

 

 ゴブリンスレイヤーの記憶に名を刻むことすらなく、単に強力な個であっただけの魔物は、死んだ。

 

 




最初のボス戦(原作ボス最強クラス)にかこつけて、ゴブスレさんのトラウマをゴリゴリしていくスタイル(悪鬼




そして、お気付きでしょうか

ゴブスレさん、無傷です


もうすぐ始まる五話次第で、原作改変が必須ですねどないしょ
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