ガーリー・エアフォース Electronic wing 作:ECMO
…翼の六角模様はどうやって塗装しようか……。
「…知らない天井」
眼が覚めると白い天井と目に刺さるような蛍光灯の光。
えっと…どうなったんでしたっけ?
どこかの病院のベットで寝ていたみたいです。
ここがどこか、どうしてここにいるのか分かりません。記憶が曖昧です。
えーミサイルを迎え撃ってボロボロの時にザイに襲われて、ファントムに助けられて、着陸では脚が出なくて…どうやって降りたでしょうか?思い出せません。
周りを見てもカーテンがベットを囲んでいます。
見えるものは天井と同じく白い布団と高い位置に吊られた点滴のバッグ、バッグから延びる管は私の右腕に繋がっていました。
静かです、とても。
思い返すとなかなか酷い一日でした。ブロウラーの暴走、ライノとグリペンが行方不明になって探しに行ったら無傷の空港、ライノは私のこと撃ってくるし、ミサイル怖いし、なんとかなったらザイの襲撃。
泣きそうになりますよ。……あの空港、と多分峡谷もザイの罠だったのでしょうか、アニマを捕らえる罠。
あんなものまで出来るなんてザイって一体何なんでしょうね?あの静かな空港から逃げなかったら、どうなっていたのでしょうか?
そんなことを考えていると、ふと考えてしまいました。今いる場所、ここが何処なのか、最悪の可能性を。この静かな病室はザイの作った幻想で空港と同じくアニマを捕らえる罠なのではないか?ファントムに助けられて帰還したのはザイの見せた幻想ではないか?
生まれた不安は急激に大きくなります。もしそれが正解だったら早く逃げなければいけません。
さらにCCSとのリンクが確認出来ないのにも気付きました。それは不安を倍増させます。
布団を跳ね除けて起き上がります。抵抗を感じて右腕を見ると点滴の管が繋がっています。一体何が投与されているのか考えたくもありません。急いで管を引き抜きました。
痛いです。血も出てきました。しかし今はそれを気にする余裕はありません。
指先を挟んでいた洗濯バサミの様な機械も外してベットから降ります。
ふらつく足を進めてカーテンを開けます。カーテンの向こうは普通の病室です。
辺りを見回すと隣のベットを囲んでいるカーテンが中途半端に開いていました。中のベットは誰も居ません。誰かが使っていたのか僅かに荒れています。
そんな事を考える暇はありません。ふらつく足を無理にでも動かしてドアを開けて病室を出ます。
廊下に出ると目の前に1人の人影がありました。
「ファン…トム…?」
「グロウラー?眼が覚めたんですか」
よかったです。1人じゃありませんでした。安心すると気が抜けてへたり込んでしまいました。ファントムが抱きとめる様に支えてくれました。
「大人しく寝てないからですよ。どうしたんですかそんなに慌てて……泣いてるんですか?」
「…起きたら…誰もいなくて……知らない場所で…ザイの罠に……捕まったんじゃないか…って…怖くて…それで……」
ファントムは子供をなだめる様に私の事を軽く抱いてゆっくりとしたリズムで優しく背中を叩いてきました。
「大丈夫、大丈夫ですよ。貴女はちゃんと帰って来ました。怖がらなくても大丈夫です。慧さんもグリペンもライノも帰って来ました。ここに私も居ます、貴女は1人じゃありません。だから大丈夫ですよ、安心してください。」
ファントムはゆっくりそう言ってそのまま私が落ち着くまでしばらくそのままでいました。
「落ち着きましたか?」
「ごめんなさいファントム、迷惑かけちゃって」
「いいですよ、そんな事。さ、ベットに戻ってください。って腕から血が出てるじゃないですか、どんな雑な抜き方したんです、待って下さい絆創膏を持っていたはずなので……ありました、貼ってあげますから。ほらほらベットに戻ってください。」
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というわけでベットに戻って来ました。ファントムに絆創膏を貼って貰っていると、八代通遥が看護師を引き連れてやってきました。
「おう、起きたか。ベットから抜け出せるほど元気があるとはなによりだ。」
「それは、えっと…ごめんなさい」
「あーいや、責めてるわけじゃないぞ。ただ、ここでお前に何かあったら日本の責任になるからな、大人しくしててもらえると助かる。」
「はい、わかりましたよー」
「…ライノのことを聞かないんだな。」
「機体を停止後も自閉モードを継続してコクピットにこもってますよね?」
「なんだ知ってたのか」
「私がそうするように行動設定しましたから」
「そうか。ん?その絆創膏は?」
「これはファントムが貼ってくれましたよ?」
「絆創膏なんて都合よく持ってたもんだな」
八代通遥はそう言ってファントムを見ました。
「CCSから『グロウラーが起きるから絆創膏を持って病室に向かってほしい』とお願いされましたから」
なるほどファントムがタイミングよくあそこにいたのはCCSのおかげだったんですね、…私が起きてからファントムにメッセージを送っても遅いですし、これは起きる前から私の行動が完全に予測されてますね。
「CCSからメッセージ?俺には無かったぞ」
ファントムは肩をすくめながら微笑みます。
「信頼の差ではありませんか?」
「は、お前みたいなやつを信頼するなんてCCSの評価基準が分からんな。グロウラー、迎えは5時間後に到着予定だ」
「はい、了解でーすよっ」
「あぁ、それと」
「なんですか」
「必要ないとは思うが万が一ってこともあるからな、悪いがお前を拘束する」
「へ?」
今まで私に点滴の針を刺し直す作業をしていた看護師さんが私の四肢を拘束用ベルトで固定しました。
「いや、さすがにこんなにしっかりと留めなくてもいいですよ?」
「こちらとしてはこれ以上ケガをされると困るからな、すまないが数時間だけ我慢してくれ。」
そういうと八代通遥と看護師さんたちは部屋から出ていきました。
「こんなことならベットで大人しくしてるべきでした」
「混乱していたんです、仕方ない事ですよ。グロウラー、リンゴを持って来ましたが食欲はありますか?」
「食欲ありますありますよー、ちょうどお腹が空いてたところです!」
「そうですか、それは良かったです」
ファントムはそう言って手提げ袋から小皿とリンゴを3つ取り出して置いて続いて果物ナイフを取り出しました。
「3つも持って来たんですか?」
「慧さんの分もと思って持って来たのですが、いらっしゃらないようですね。知りませんか?」
「私が起きた時にはベットは空でしたよ?」
「そうですか、まあ散歩にでも行っているんでしょう。グリペンも見当たりませんし。」
ファントムはそう言いながらリンゴをカットしていきます。続いてて皮にV字の切り込みを入れてから皮をむいていきます。
「なんだか不思議な皮の剥き方しますね。」
「簡単な飾り切りですよ。これでっよし。出来ましたよ、ほら」
ファントムはそう言ってカットしたリンゴを見せてくれます。そのリンゴは皮がV字に残っていて二又の部分が浮いているようになっていました。おそらくなにかの動物を模しているのでしょう。
「すごいです!器用な事しますね!!可愛い、食べるのがもったいないです」
「食べない方がよほどもったいないですよ。ちなみに何を模しているか分かりますか?」
手のひらサイズで目立つ耳かつ丸みを帯びたシルエット。導き出される結論は……
「ラットですかね」
「残念、違います。サイズは参考にしてはダメですよ。それに食べ物関連でネズミはあまり良いイメージを持たないでしょう?」
「それもそうですね。ならば…」
この皮の部分を大まかに見た三角形のシルエットは
「……狐?」
「言われてみれば確かに狐を連想させるシルエットにも見えますけど、それも外れです。答えはウサギですよ。」
「ウサギでしたか、すごいですねこんな切り方できるなんて」
「日本では一般的な切り方ですよ。はい、どうぞ」
ファントムはウサギカットのリンゴにフォークを刺して私に差し出してくれました。
「ありがとうございグエッ」
受け取るために腕ををのばそうととして拘束用のベルトに阻止されました。
「あぁ、そういえばそうでしたね。少し待ってください」
ファントムはリンゴを皿に戻して一口サイズに切りました。せっかくのウサギカットがもったいないです。
「あ…」
「仕方がありませんよ。グロウラー、食べさせてあげます。お口を開けてください」
「えっと…なんだか恥ずかしいですね」
「大丈夫ですよ、ほら。はい、あーん」
「なんかすっごく子供扱いされてる気がしますけど…あむ」
「どうですか?」
どうって言われても恥ずかしくて味とか殆ど分かりませんよ?
「あ、はい普通に美味しいですよ」
ガチャリと音が鳴って扉が開きました。部屋に入って来たのは慧くんです。
「お、グロウラーも起きたのか。って何やってんだ?」
「何ってグロウラーに食べさせてあげてるだけですよ?ご覧の通りこの子は拘束されてますから」
慧くんが私の腕を固定している拘束ベルトを見ました。
「縛られてるからって私のこと襲っちゃイヤですよ?」
「襲わねーよ」
「大丈夫ですよグロウラー、慧さんにそんな甲斐性はありませんから」
「おい」
「でもまぁさすがに年頃の男の子の隣のベットで手足拘束はアレですからねっと」
私はそう言って両手の拘束ベルトを外しました。
「えっおい、それ外せるのかよ」
「あら、慧さんとしては都合が悪かったですか?」
ファントムが笑みを浮かべて慧くんをおちょくります。
「そんなわけあるかよ」
「ファントム、リンゴを食べさせて…もらえますか?」
口に出しちゃいましたけど大分恥ずかしい事言ってませんか私。
「外したんですから自分で食べては?」
「その、ほら私は拘束されていることになってますから……えっと、ダメですか?」
「はぁ、甘えん坊さんですね。今日だけですよ。はい、あーんしてください」
「えへへ、あむ。んー♪ありがとでーすよっ」
「なぁファントム、お前何かグロウラーにだけ優しくないか?グリペンやイーグルと扱いに差がある気がするんだけど」
「この子と仲良くしていると良いことが沢山ありますから」
「それはグロウラーが強いとか、そういうことか?」
「ええ、それもありますが、それよりもグロウラーと仲良くしているとCCSの恩恵を受けられますからね」
CCSとしてもファントムが敵対して頻繁にアタックしてくるのは嫌ですからね。
「米軍のコンピュータだっけ?と言うかそれをグロウラーの前で言って良いのかよ」
「問題ないと思いますよ、そうでしょう?グロウラー」
「別に大丈夫ですよーファントムが何を目的にしてても私に優しくしてくれているって事は変わりませんからねー」
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side ???-ANM
ロシア領空中国国境付近
《テスト項目は全て終了した。帰還しろ》
「了解」
私は帰還すべく進路を秘匿基地に向ける。ここはザイの勢力圏のすぐ近くだから周囲の警戒も怠らない、存在を公開されていない私は誰かに見られることを避けるために飛行テストをこんなところで行っている。
ザイの勢力圏に近ければ当然ザイやザイを迎撃するための空軍機と出会ってしまう事も予想される。分かっていた事だ。
パッシブ・フェイズドアレイレーダーが2機の友軍機と3機のザイが交戦しているのを捉える。友軍機・ザイ共に私の事にはまだ気付いていない。
「Orcaより基地管制、ザイと交戦中の友軍機を捕捉したわザイ3機、友軍機は2機」
《基地管制よりOrca、それらとの接触は避けて速やかに帰投せよ》
「あの2機が撃墜されてしまうと思うのだけれど」
《無視しろ。秘匿兵器であるお前を目撃される訳にはいかない》
無視しろ?人類を救うために生まれた私に人命を見捨てろと?1を捨てて10を救えと言うなら迷わずそうする。しかしここであの2機を見捨てても誰かが救われる事はない。
「目視外距離から仕留めれば見られる事はないわ。」
《許可できない。速やかに帰投せよ》
「1つの命も救えないものに人類を救うことは出来ないとは思わないかしら?交戦するわ。電子妨害準備。」
《基地管制よりOrca、交戦は許可できない速やかに帰投せよ。繰り返す、交戦は許可できない速やかに帰投せよ》
「電子妨害展開、方位・速度欺瞞は正常に動作。Orca 攻撃開始」
翼端電子戦ポッドが高出力の妨害電波を放って空域内のレーダーや通信、位置情報などの様々な電波情報を乱す。
残念ながら事前のブリーフィング等で友軍機の使用する周波数を教えられていない都合友軍機のレーダーも妨害してしまうが仕方ない。
むしろ姿を見られたくない事を考えれば好都合かもしれない。
3機のザイに向けて各1発ずつミサイルを発射。
鋭く尖った先端と白い弾体に4枚のストレーキ、尾部にはグリッドフィンと呼ばれる特徴的な格子状の操舵翼。R-77-1はロケットモーターを燃焼させて彼方の敵へ向かっていく。
私は3機のザイをレーダーで捉えてR-77を目標へ導いてあげる。
目標にある程度接近するとR-77はアクティブレーダーシーカーを作動させ自身の目で目標を捉える。
目標が空気密度の高い低空を飛行しているせいでミサイルの飛翔速度はマッハ3.3程度だ。
ザイはミサイルの接近に気付くとHiMATを用いて回避を試みる。R-77はそれに対応して急旋回、R-77はその特徴的なグリッドフィンの恩恵で得られた極めて高い運動性能により35Gの機動を実現している。
EPCMの影響さえ無ければザイを撃墜する事は十分に可能だ。
R-77は目標に接近するとレーザー測遠装置を起動、一定の距離にザイを捉えた2発が信管を作動させ炸薬が爆発。無数の金属ロッドがザイを食い破る。
2機のザイは撃墜されたが残り1機は激しい機動を持って追従させまいとする。
私はミサイルをダイレクトコントロールに切り替えて操作に割り込む。
アニマによるダイレクトコントロールでミサイルはザイを猛追して遂にその加害範囲に目標を捉える。ミサイルが炸裂し最後のザイはバラバラに砕かれて墜ちていった。
2機の友軍機は生存している。空域に新たな敵影は確認できない。
私は帰投すべく秘匿基地へと進路を修正する。
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秘匿基地の滑走路にアプローチする。狭くて短い滑走路だ。着陸誘導装置等の上等な設備も無い。
ランディングギアが接地する。機体が揺れる。路面はガタガタだ。舗装はひび割れ、タイルはずれている。視点を地面に近づけて見ると分かるが滑走路は全体が波打っている。
自分の前脚がダブルタイヤなのが幸いか、シングルタイヤの機体よりは安心出来る気がする。……シングルタイヤの機体に乗ったことは無いから分からないけれど。
ガタガタの滑走路から荒れた誘導路を通って、小さな格納庫の前の駐機場というには狭すぎるちょっとした広場で機体を停止させる。
キャノピーを開いて周りを見ると武装した兵士に取り囲まれていた。タラップがかけられ機体から降りると白衣を着た初老の男が待っていた。
この男がアニマである私をつくった人間だと聞いているが、あまりしっくりこない。
「命令に従わないのは愚かな事だ」
「1つの命を想う、それを愚かというの?」
「所詮は人間では無い、バケモノだ。人の言葉は介さないだろう」
「作った本人にバケモノと呼ばれるなんてヒドイ話ね」
私は人類を救うために生まれた。人が作った。その人が私をバケモノと呼ぶ。それでも私はザイと戦うザイから人類を守るのが私の使命だから。
「勝手をするものには罰を与えなければならない。私はお前が帰って来るまでの時間で考えたんだ。言葉の通じないバケモノにどうすれば言う事を聞かせられるか。」
「……」
「教育が必要なんだ。いや、躾けといった方が正しいか?私の言う事を聞かせる方法だ、わかるか?」
「……」
「簡単な事だった。それはな……『痛みと恐怖』だ。」
後半をロシア語で書こうとしたけど、やっぱり無理だったよ。