私の新しい仕事はハンターです   作:abc2148

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妄想が止まらないので書きました


第一章 新人ハンター(仮称)
初心者ハンター


冬が近づき肌寒い森の中を少年が一人で走る。手には小さなナイフを持っているがそれだけ。菅笠と蓑を纏ったまま障害物があふれている森の中を走っている。木の根、倒木、岩それらを少年は器用に避け、飛び越え、駆けていた。

 

後からは何者かが追いかけるようで、少年が出す音よりも大きな音が森の中に響いている。加えて間抜けな鳴き声がギャー、ギャーと聞こえてくる。

 

少年、カムイは必死に走り続ける。捕まって奴の餌になるなんて御免だ。

 

 

 

 

カムイは幼いころから賢い子だった。滅多に我儘を言わず。親の言いつけを守った。後に生まれた妹の世話も忙しい両親に代わって行ってくれる等、二人にとって頼もしく自慢の息子だった。

 

そんなカムイは前世らしい記憶があった。らしいというだけで記憶の多くは虫食い状態、大人だった記憶が薄っすらとある程度だ。カムイも始めの頃は夢と考えていた。だが、気付けば記憶のせいで子供らしい考えを持てず、その振る舞いは子供らしかなる行動となってしまった。それは彼にとっては無意識の行動であったのだ。

 

年齢に見合わない振る舞いをしてしまった彼は、暫くして己の異常を自覚した。だがそんな彼を家族は受け入れた。貧しく厳しい生活において幼くとも頼りになる息子は欠かすことのできない存在であったのだ。

 

同様に村の人々も受け入れた。自らの子供にもカムイを見習いなさいという親も一部にはいた。そんな環境のお陰でカムイは記憶についてそれほど長く悩むことはなかった。そうして記憶については割り切り、有効に活用することにした。そうして周りには賢いが偶に変な事をする子供と受け入れられ、平和な日々を過ごしてきた。

 

父と母、自分と後から生まれた妹のカヤ。四人の仲睦まじい家族だった。それが唐突に終わりを告げたのが二年前の冬だった。

 

その年の冬は厳しかった。村の比較的近くにある安全な森の実りは悪く、村に蓄えられた食料は少なかった。村でもなんとか冬を越せるように駆けずり回り食料を集めた。だが結果は変わらず。少しだけ増えた食料を分配し越冬することになった。一日の食べる量は少なく飢え死にを免れる量だけだった。

 

だが食料は日毎に減っていき、おまけに冬が長引いたのだ。そうして四人の食料はあと数日で無くなるところまで追い詰められた。そこで両親は話し合った。

 

――この冬があと数日で収まるとは考えられない、どこかで食料を手に入れよう。

 

――だが村には余分な食料もない、他所の家にも同様だ。

 

ならばどうすればいいのか、二人は話し合った。そうしてある決断をした。

 

その日のことは今でも覚えている。 

 

――父さんは言った

 

「少し外に出かけてくるよ。安心してくれキノコや山菜を取ってくるだけさ」

 

――母さんは言った

 

「留守番を頼んだよ。すぐに戻ってくるわ」

 

――お前が居るから安心して行ける。

 

今思えばその言葉の意味は何だったのだろう。

 

そう言った両親はカムイに家を任せ村の外に出ていった。両親でも立ち入った事のない森の奥に、何か食料がないが探しに行ったのだ。

そして二人は帰ってこなかった。カムイが九歳の時だった。おそらくモンスターに襲われたのだろうと村長が家に来て話してくれた。その日はカヤと二人で一日中泣き続け家にいるのは自分と妹だけになってしまった。そして皮肉にも冬は両親の残した食料で乗り切る事が出来た。

 

だが、いつまでも泣いる暇はなかった。カムイは両親の仕事を受け継ぎ必死に働いた。

 

仕事はモンスターが出現する村の外の近くを廻って薬草や山菜を集めることだ。幼い自分には危険な仕事、最悪モンスターに襲われる可能性がある。だがやるしかなかった。村には自分たちに安全な仕事を回せるほど豊かではない。村の畑にも空きはなく、食い扶持は自分たちで手に入れなければならない。

 

そうして日々怯えながら働き続けた。そう過ごす内にモンスターについて分かったことが沢山あった。

 

外はモンスターの領域、ここには人を超えた巨躯を持つモンスターが数えきれない程いる。奴らの力は凄まじく村長が語ってくれた昔話には国を滅ぼした奴までいる。そして、そのモンスターを討伐しようと多くの人が立ち上がり挑んだ。

 

そして敗れ多くの国が滅んだ。

 

それを繰り返す内に人は悟ったのだ。

 

人は彼らには勝てない。彼らに見つかってはならない。

 

そうして人の牙は折れ、息を潜めて隠れ住むように生きてゆくようになった。彼らの心にモンスターに対する恐怖を抱えたまま。

 

村から出る仕事の為モンスターを目にする機会は多くあった。そして理解した。人を超えた力を持つモンスターとなるべく関わらない事が生き残る可能性が高くなる。生きていた両親からもモンスターに遭遇したら逃げなさいと教えられた。それだけの力の差があるのだ。

 

カムイの産まれた村には名前はない。山奥にある谷間にひっそりと作られた村だ。周りは崖に囲まれ出入口は一か所だけ。モンスターに見つかり難い立地のお陰で襲われる可能性はずっと低い。そして井戸に水も通っている。生きていくだけならば何事も無ければ可能だ。

 

そう、何事も無ければ。

 

天然の防壁で身を隠しコソコソ生きる村。そんな村には余裕はなく、予想外の事態が発生しただけで生活は成り立たなくなる。そんな薄氷の上に成り立っている状態だ。

 

だからあの冬は育ちざかりの子供の二人を満足に食わせることもままならなかった。だから両親は村の周辺から離れてしまったのだ。遠くに行けば食料があるかもしれない。そんな希望を持っていた。

 

そしてあの二年前と同じ最悪な冬が再び訪れた。今年の冬の訪れは早く、山の実りは少ない。村の周辺の食料は既に食い尽くしてしまい我が家には食べ物を得る手段は無くなってしまった。村からも温情で支給される食べ物があるがそれでは足りない。腹を空かせた妹の為に村長に頼んでもにべもなく断られる。

 

どこもギリギリなのだ。子供二人分の食料さえ出せないほど今年は切羽詰まっているのだ。

 

「大丈夫よ、兄さん。あたしは平気よ!」

 

カヤがお腹を空かせながらも気丈にふるまう姿を見れば心が痛んだ。そして何とか今ある食料で食い繋ごうとする内に気づいてしまった。

 

このままでは二人とも冬を越せない。自分の食料を全てカヤに譲っても足りないのだ。そして理解した。恐らく村長は自分達を切り捨てることにしたのだろう。村の大人達は今後も村には必要だ。その子供も彼らの支持の為に生かさねばならない。あの優しい村長の事だ、分けてくれた食料もなんとか身を削って出してくれた物だと想定出来た。

 

だからだろう。切り捨てられた事について恨む気にはなれなかった。

 

だから外に出て行った。生きるために、何より両親の死を無駄にしたくはない。そして家長として、兄としてカヤを守る為に。

 

まだカヤが寝ている内に装備を整えて俺は家を出た。

 

 

 

 

手付かずの自然。それ自体が人にとっての脅威である。おまけにモンスターもいるとなれば村の皆は訪れようとはしない。死にたくないからだ。村にいれば貧しいながらも死ぬことはない。

 

「すごい……」

 

だが、ここにあるものを見れば考えを変えるのでないか。ここには多くの食料があった、キノコに果実、めったに手に入らない薬草、それも手付かずの物が沢山ある。夢中になって採った、背負っていた籠の中に詰めれるだけ詰めようと手を動かし続けた。

 

――これだけあれば冬は越せる。

 

それは疑いようのない事実だった。それが心を満たしていた不安を消した。希望が心の中に溢れてきた。

 

だから油断していた、気がつかなかった。そんな無防備な背中に忍び寄っていた脅威に気がつけたのは相手が間抜けだったからだ。

 

「ギャー」

 

そんな鳴き声を聞いた。振り返った視線の先には一匹のジャギィがいた。その姿を目にして高ぶっていた気持ちは一気に冷えた。

 

たまに村にモンスターが襲ってくることがある。その多くは群れから逸れたジャギィで基本一匹、多くても二匹だった。だが村にしてみれば一匹でも最悪である。二匹なんて日には村の存亡をかけた戦いの始まりだ。奴らは素早く動き回り、こちらに噛みついてくる。噛みつかれたら最後、周りの肉ごと抉られてしまう。そこから多くの血が流れ、少なくない村人が死んでしまった。村にとっては恐るべき敵なのだ。

 

大きさは自分と同じくらいで成体と比べればまだ子供、巣から逸れた個体ではないか、近くに群れはあるのか、そんな冷静な思考は出来なかった。

 

『いいかカムイ、モンスターに遭遇した時は決して目をそらしていけない』

 

そう言い残してくれた両親の言葉は頭から飛んでしまった。

 

仕方がないだろう、振り返れば近くにいたのだから。

 

そしてカムイは最悪の選択をしてしまった。奴に、ジャギィに背を向け走って逃げてしまった。

 

急に動き出したカムイにジャギィは驚いた。だが直ぐに気付いた。

 

――こいつは自分より弱い。

 

そうしてモンスターとの命がけの鬼ごっこが始まった。

 

 

 

 

どれくらい走ったのだろう。口の中は血の味がして胸は燃えているように熱い。一呼吸するだけで、足を一歩踏み出すだけで体に痛みが走る。だが止まらない、止められない。

 

最悪の選択をした事に気付ける位には頭が冷静になってきた。そんな状態で耳を澄ませば聴こえてくるのは元気な鳴き声。奴は元気にこちらを追ってきている。狡猾なジャギィのことだ。獲物を疲れさせると同時に遊んでいるのだろう。

 

「チクショウ」

 

苦しいが愚痴の一つも言いたくなる。

 

そうして走り続けていると森を出て河原に出た。足元は土でなく石や岩が転がっている。ここで足に限界がきた。もう走れない。何処が休めるところがないか走りながら探した。そこで大岩を見つけた。後ろは振り返らず岩の凹凸に手足を置き、最後の一踏ん張りで急いで登る。そうして登りきってからようやく体を休める事が出来た。

 

「はぁ、はぁ、……これで漸く休める」

 

岩の上で大の字になって呼吸を整える。荒い息のまま視線を岩の下に向けるとジャギィが大岩の周りでギャー、ギャー言いながら回っている。獲物が届かない位置にいるのが悔しいのだろう。時折止まって岩の上に向かって叫んでいる。

 

そうだ、鬼ごっこで酷使した身体が漸く得られた休息に喜び震えているが何も終わってない。ここからどうするか考えなければならない。

 

だが考える時間すら奴は待ってはくれなかった。

 

「せっかちだな、オイ!」

 

食い意地が張っているのかジャギィが大岩に登ってこようとしている。カムイの登り方を見ていたのか前足を器用に凹凸に置いているのが下から見える。だが人とモンスター、体の構造が違うせいか登るのはそこまで早くはない。だが残された時間はもうない。

 

――諦めるしかない。

 

執念深いジャギィから逃げきることはできない。恐らく大岩から降りれば再度鬼ごっこをする羽目になる、そして今度こそ狩られるだろう。上手く逃げられても執念深いコイツの事、村まで付いて来てしまうのが簡単に予想できた。そうしたら例え村で退治できたとしても俺達兄妹の居場所は村から無くなる。そうなったら俺だけじゃない、カヤにまで肩身の狭い境遇に合わせてしまう。ならば、やる事は一つ。

 

――ここで仕留める。

 

奴は登ってこようと前足を凹凸に引っ掛けながら身体を持ち上げようとしている、そのせいで嘴の置き場が無く大岩の上に載せているのだ。無防備にも嘴をこちらに差し出しているのは反撃されると考えていないからだろう。奴にとって俺は弱い獲物でしかないのだ。

 

身に着けていた物の中で武器になりそうなものは小さなナイフのみ。これを活かすのはここしかない。

 

「なめるなよ爬虫類モドキが!」

 

無防備な嘴に手に持った小さなナイフを突き刺した。何度も何度も何度も。突き刺す度に暴れるジャギィのトサカを片手で握り締め、大岩の凹凸に足先を引っ掛け腹ばいになりながら刺し続けた。顔のすぐ近くでジャギィが暴れるが決して離さない。ここで可能な限り痛めつける必要がある。

 

だが所詮子供の身体、先にトサカを持つ腕に限界がきてしまった。その結果トサカを離してしまいジャギィは大岩の下に落ちた。だが存外に傷が深いらしい、大岩の上からジャギィがずり落ちた場所で蹲って弱々しく呻いているのが見えた。その姿を見て大岩から降りた。手に握ったナイフを見てみるが血か何かで汚れている。見るからに切れ味が落ちてもう使えない事が分かった。

 

代わりに足元に転がっていた大きな石を持ち上げ、蹲る奴に向かい振り下ろした。

 

一回目で頭に当たり何かが砕ける感触を感じた。ジャギィは小さな呻き声をあげる。

 

二回目も同じ頭に振りおろす。弱弱しかった呻き声がなくなりピクピクと体が震える。

 

三回目で岩が当たった頭は潰れた。そして体は動かなくなった。

 

「仕留めたのか?」

 

なんともあっけなく散々恐れていたモンスターが死んだ。半信半疑だったがピクリとも動かないジャギィを見て漸く目の前の現実が理解できた。それと同時に沸き上がったのは安堵と耐え難い空腹だった。何か食べるものは無いかと籠の中を探ろうと……そうして背負っていた籠はいつの間にかなくなっていた事に気付いた。当然中にあった食べ物もなくなっている。

 

「腹が減って死ぬ」

 

冗談でもなんでもなく、身体が食料を欲している。満足に食べることが出来ず栄養失調気味の身体で走り回り、さらにジャギィとの闘いの所為で身体に残っていたエネルギーはほぼ全て消費されてしまった。そのせいで途轍もない空腹が襲ってきたが食べられるものは辺りには無かった。あるのは辺りに転がっている岩に川に流れる水、死んだジャギィの死骸だけ。

 

「ジャギィ?」

 

そう目の前には死にたてホヤホヤのジャギィの死骸がある。

 

――食えるか?食えるだろう。肉だし。

 

残った思考は支離滅裂な結論を出した、ならば後は動くのみ。辺りにある枯れ木やら枝で川岸に即席の焚火を作り、そしてジャギィの足一本を切れ味の落ちたナイフで必死こいて切り落とす。焚火に固定して焼き、残った体も焼きあがるまでに捌いておく。そうこうしている内に肉は焼きあがり、すぐさま食いついた。

 

「……美味い」

 

初めて食べたジャギィの肉は美味しかった。野鳥の肉より弾力があり、なおかつ味も良い。そこから貪るようにように肉に食いつき捌いていた残りの肉も焼いた。そうして夢中で食べ続け、焚き火の周りにジャギィの骨が小さな山に積み重なった頃に漸く満腹になった。捌いた肉を確認したところまだ半分程度が残っていた。腐るのが怖いので口を付けていない残りは焼いてから持って帰る事にする。これだけあれば今日、明日の分は食料に困らない。

 

「それにしても美味かった」

 

空腹のせいで美味しく感じられただけかも知れない。だとしても正直モンスターがこれ程美味しいとは思わなかった。

 

「また食べたいなぁ」

 

そう思わず口遊んでしまったが仕方がなかった。だが、よくよく考えてみれば今回はジャギィが余りにも間抜けだったから仕留められたのだ。今の装備で再び挑めば今度はあっさりと此方が美味しく食われるだけだろう。

 

だからジャギィを狩る方法を考えなければならない。この瞬間、自分の中でジャギィは恐るべきモンスターではなく美味い獲物に変わった。




湧き上がる妄想を文書に書きました。頭を絞って書いた荒い文書ですが楽しんで下さい。


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