私の新しい仕事はハンターです   作:abc2148

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採取

「こんなものか」

 

そう言ったカムイの前には籠一杯に入った草があった。大きさも色もバラバラなそれらはもちろん只の草ではない。多年草の薬草をはじめとした効能が確認されている物から用途不明の怪しい草ーー勿論、用途不明の草は直接触っても大丈夫なものーーが籠に小分けにして積み込まれている。

 

雲一つない晴天の空が強い日差しを地上に注いでいる。そのおかげで鬱蒼とした森は明るく、見渡しの良くなった状態は依頼の進捗に大きく貢献してくれた。採集作業は順調に進み昼前には籠一杯の量を集める事が出来た。

 

そうして依頼に一区切りついて改めて籠を見ればその種類の多さに驚いた。

 

「それにしても色んなものが自生していたな。だが、薬草は分かるが他の草に一体どんな用途があるんだ?」

 

そう言ってカムイは用途不明の草、霜ふり草を掴んで観察する。霜ふりと言っても草にきめ細かな脂が入っているわけでもない。特徴と言えば他の草とは違い肉厚で弾力があることくらい。そもそも薬学に関しては専門外なので教えてもらわなければ判別すらできなかっただろう。それでも判別できたのは事前に特徴を教えてもらっていたからだ。しかし、その特徴をもとに探し出したがこれが霜ふり草とは限らない。良く似た別の草の可能性もあるのだ。このあたりの目利きはカムイには出来ず、細かく観察しても確信は持てない。

 

「……分からん。これは持ち帰って詳しく聞こう」

 

掴んでいたものを戻して籠を背負う。そうすると両肩にズシリとした重さを感じるがカムイは苦も無く背負い森の中を歩く。例え草でも水分が抜けていない状態は軽くない、そのうえ大量にあればその重さはちょっとしたものだ。だがカムイはバランスを崩す素振りもなくしっかりとした足取りで進んでいく。

 

これは食生活の改善のおかげだ。以前の栄養失調一歩手前の痩せ細った体はそこにはなく、服の隙間から見える体には筋肉がしっかりと付いている。懇ろ同年代の子供達よりも体を酷使することが多いため筋肉は発達しているだろう。そのおかげで森の中での移動速度も上がっている。

 

多少の段差も何のその、カムイは村への帰り道を進んでいく。そもそも何故カムイが採集をしているのか、それは昨日まで遡る必要がある。

 

 

 

 

 

「薬草採取ですか?」

 

「はい、カムイ君には薬の原料となる薬草の採取を依頼したいのです。可能ですか?」

 

そう話すのは村で医者兼薬師を任されているケンジだ。村で使われる薬は全て彼が調合し、外に出ることの多いカムイが特にお世話になっている人物の一人である。

 

弓騒動から暫く経ってカムイが新造された剣を受け取ったその日、村長からの依頼があるということで集会所を訪れたら村長とケンジがいたのだ。座って詳しく話を聞けば依頼はケンジからのものだった。

 

「可能です。しかし薬は足りているのでは?怪我人自体が少ないのでそこまで消費されたと思わないのですが」

 

小さな村はそういった話が出回るのは早い、しかしカムイは村で怪我人が出たという話は聞いていない。だとすれば何故なのか。

 

「はい、その通りです。今すぐ薬が必要になる程消費されたわけではありません」

 

「ならば何故?」

 

「これから薬の消費量が上がると考えているからです」

 

そう言ったケンジの顔は真剣そのもので嘘、偽りはないことが感じられた。

 

「まず知ってほしいことですが、村で薬は不足していません。それは何故だと思いますか?」

 

「それは……村人皆が怪我をしないように注意しているからです」

  

怪我で死ぬ、病気で死ぬ、怪我が元になって病気で死ぬようなこともあればその逆もある。この世界においては死は身近に溢れている、死から身を守るために村人達は怪我をしないように注意して生活している。薬もあるが量は少なく貴重品だ。

 

「半分は正解です」

 

だが答えにはまだ半分足りなかったようだ。

 

「もう半分は」

 

「そもそも怪我をするようなことが少なすぎるのです」

 

それ自体は良いことではないかとカムイは考えるがケンジの考えは違うようだ。

 

「この村は内に籠りそこから得られる糧で何とか生き延びてきました。しかしこの前のような厳冬があればそれすら成り立ちません」

 

「それは重々承知しています」

 

「村の中は何事もなければ怪我をしないように生きることが可能です。そんな環境では怪我をするような事は殆どありませんから薬は今までの様に細々と造っていれば事足ります」

 

そう辛そうに話すが気がかりなことがあった。今までの様に?それはつまりーー

 

「つまり……その環境が変わる、もしくは変えさせられるような事態が起こるということですか」

 

それが人為的なものか、自然のものかは分からないが起こる事は間違いないのだろう。確定した事として話を進めているのだから。

 

「さすが、ハンターと言ったところですか。頭の回転が速くて助かります。それは……」

 

「よい、そこからは私が話す」

 

今まで黙っていた村長が話しを引き継ぐ。いや、事前に決めていた段取りだったのだろう。そもそも依頼の仲介だけであれば村長まで話に付き合う必要はなかった。それでも残ったということはこの話には村長も一枚噛んでいる可能性がある。

 

「さてカムイよ、単刀直入に言うと私は村の拡張を考えている」

 

一枚どころか黒幕であった。

 

突然の問題発言に思考停止してしまうが暫くして再起動を果たしたカムイは立ち上がって村長に問い詰めた。

 

「それはいくら何でも急過ぎます!」

 

「ほう、そんな言葉が出てくるとは。村の拡張に関しては考えていたのか」

 

しかしカムイの鬼気迫った表情を物ともせず更には考えを見透かされる始末。だがその顔は涼しげでありながら目は油断のならない光を放っている。その目を見たことで冷静さを取り戻し座りなおすとカムイは白状した。

 

「将来……村が今後とも生き残る道を模索するのならば必要な事と考えてはいました」

 

「それはいい。だが安心してくれ、これはまだ計画ですらない夢想の類だ。実行に移すと決めたわけではない」

 

決めたわけではない。

 

何とも含みを持たせた発言だが、笑って話す村長の眼差しは真剣だ。その目はこれが冗談の類でないと訴えてきている。ならば何故話したのか、頭を高速回転させて考える。

 

今この場にいるのは村の拡張を考える村長に薬の増産を行うケンジ、そしてハンターであるカムイ。この場にケンジがいることから少なくとも村長の考えには賛同しているのは間違いない。そして村の拡張を秘かに考えていた自分を非難するでもなく笑って受け入れた村長。村でも自分は貴重な人員であることは理解している。そのうえで計画の障害になるものは何だ。村の拡張は大仕事だ、怪我やモンスターに村人たちの反対もあるかもしれない。そこまで考えてカムイは理解した。

 

「説得材料ですか」

 

そう言えば村長は笑みを深くしていく。どうやら正解のようだ。

 

「ケンジさんはどう考えているのですか?」

 

この場にいる以上は賛同しているのだろうが、どこまで協力するつもりなのか知りたかった。

 

「カムイ君、私は賛同しているよ。村の今後を考えれば必要なことだ、それに私は怪我や病気なら力になれるけど飢えには無力なんだ。それをどうにかできるのならそうしたい。勿論協力も惜しまないさ」

 

そう話すケンジさんの表情は覚悟を決めたものだ。確かに病気や怪我であれば彼の持つ技術が助けになれるが、目の前にあるのは飢えによる餓死だ。人を助ける術がありながらそれを生かす事が出来ず、あるのは自分ではどうしようもない現実。やるせない気持ちは人一倍強く、そうでなければ医者や薬師は務まらないのだろう。村長に賛同するのは何もおかしくはない。

 

「ケンジは説得済みだ。後はカムイが賛同してくれるのならば計画は現実のものになる」

 

この計画の鍵はケンジとカムイであり、この場は依頼の仲裁の形をとったカムイの取り込み工作の場だ。抜け目のない村長である。

 

「私も賛同はします。しかし他の方々はどうなのですか、根回しの方は?」

 

元々カムイには反対の余地はない。どちらかと言えば村長と同様の危機感は持っているのだ。だがそれは個人で解決できる程容易いものではなく、それが村長公認で話が進むのであれば乗らない手はない。しかしそれはカムイに限った話だ、他の村人達が同様の意見を持っているとは限らない。

 

「もっともな懸念だ。だが今回ばかりは必要ない。この計画は会議で私から提案するが皆が賛同してくれる」

 

そう村長は確信を持って言い切った。

 

「確かに村の会議で私から正式に提案するが渋る奴もいるだろう。だがらこれは説得する為の準備だ」

 

そうして計画の詳細を話した

 

「まずこの計画にはカムイとケンジの協力が欠かせん。村の拡張となれば仕事の際に怪我人が出ることもあろう。いや出る。それだけの大仕事だ、そこで怪我を負いそれが元で死なれたりでもしたら差し障る。私の強権で無理矢理に実行することは出来なくもないがやりたくはない。最悪、ようやく纏まった村がまた分裂してしまう恐れがある」

 

「そのための薬の増産ですか、村に十分な量の薬があれば怪我をしても大丈夫と安心させるために。そして私はモンスターに対する不安を払拭する為に」

 

そうして村人達自身が納得し、行動してくれるように場を整えるのだ。こうすれば例え人死が出たとしても納得したうえで計画を進め続けるだろう。

 

「理解が早くて助かる」

 

そう言った村長の顔には安堵があった。カムイが計画に反対を唱えず賛同してくれたことが大きかったのだろう。

 

「何、皆も考えてはいるのさ、だが最後の一歩が踏み出せないままなのだ」

 

そう、これには事前の根回しなど必要ないのだ。皆が皆、大なり小なりどうにかしようと考えていた。だがそこには障害が、病気に怪我、そしてモンスターがあった。村長は多くの村人達と日頃から関わっている。だからこそ知る事が出来た。そして考え付いたのだ。

 

「だが二人の賛同を得られたならば踏み出す」

 

これは村人たちの背中を押して最後の一歩を踏み出させるだけ。だがそれで十分なのだ。

 

「分かりました。採取の依頼引き受けます」

 

「ありがとう、依頼に関してはケンジと話してくれ」

 

「それではカムイ君、詳しい内容の事ですが……」

 

集会所には村長と依頼について話し合うカムイとケンジ三人がいるのみ。だがその胸の内にある思いは村の未来を見据えたもの、話し合いは長く続いた。

 

 

 

 

 

そうして採集に励み籠一杯の薬草は集まった。だが依頼は採集だけではない。

 

「薬草の群生地はここと……あと依頼されてたネムリ草と、何だろうこの草、すごいネチョネチョするんだけど?」

 

ケンジには薬草と今まで村で利用されていない草の採集と群生地を書き記した地図の作製も依頼されたのだ。カムイにとって初めての仕事であり特に地図の出来は余り褒められたものではなかった。だがこれは今後は定期的に行う依頼だ。初めから完璧は求めていない、少しずつ上達していけばいいとカムイは考えていた。

 

そうして移動を続けては見かけた草や種を拾っていると不思議な音を拾った。ハンターとして活動するようになってから僅かな物音を拾えるよう常に意識している耳に入ってきたのは何かの咀嚼音。ジャギィ達や草食モンスターの咀嚼音とも違うそれは今まで聞いたことがないものだ。

 

ーー未確認のモンスターか?

 

そうであれば今後のことも考えて情報を収集しなければならない、たとえ違ったとしても新しい情報が入手できるのであれば無駄ではないだろう。

 

そう、カムイは無知であることが一番の恐怖であることを理解した。モンスターに関する情報は少しでも集める、それがモンスターと相対した時に生き長らえる可能性を上げるのだ。それを知ったのがドスジャギィによる横槍で授業料は高くついたが。

 

身を低く茂みに隠れるように移動して音の発生源に向かう。そうすると音の発生源は今いる場所から先にある開けた場所から聞こえてきた。

 

茂みから隠れて覗けばそこには巨大な熊がいた。モンスターなのは間違いないが名前がわからない。新種かもしれないがここでは熊と呼ぶことにする。冬の間は見かけたことは無かったが熊だけに冬眠していたか、と下らない事が頭に湧いてくるが振り払って観察に集中する。

 

観察している熊の姿かたちが良く分かった。熊の様に毛深い体は大きくドスジャギィと同じくらいだろう。だがその体はドスジャギィと違い細く引き締まったものではなく、太くずんぐりとした体つきだ。体重に関しては圧勝しているだろう。だがそれだけでなく前脚、いやここでは手と呼ぼう。手には毛ではなく棘の付いた甲殻のようなものに覆われている。殺意しか感じられない手には鋭い爪もあり殴られたらどんなモンスターもひとたまりもないだろう。おまけに口には鋭い牙を持ち合わせているとなれば肉食かもしくは雑食のモンスターだろう。

 

ーーやばそう、そもそも関わりたくないんだけど。

 

まず戦いになったら勝てない。大きさはそれだけでも立派な武器だ。あの巨体が移動するだけで子供のカムイには恐ろしい脅威である。それにドスジャギィ達とは違い厚い毛皮は刃物による斬撃を防ぐだろう。例え通ったとしても持っている剣の刃渡りを考えればあの巨体には掠り傷が精々で致命傷には程遠い。

 

そうして沸き上がる逃げ出したい気持ちを抑えて渋々観察を続けていると気づいた。熊は大きな殺意の塊のような手を使って何かを一心不乱になめているのだ。そしてしばらくすると満足したのかその場を離れていった。その足取りは軽く機嫌が良いことが観察できた。

 

熊の気配を完全に感じなくなってから茂みを出る。そして奴が座り込んでいた場所に向かうとそこには大きく壊れた虫の巣があった。中には虫がまだ残っており壊れた巣を修復しようとちょこまかと働いていた。

 

ーー成程、虫を食べていたのか。

 

あの巨体では小さな虫は舌で絡め捕る方法でしか食べれないのだろう。そして虫は意外にも栄養価が高い、それとあといくつかの食料であの巨体を維持していると考えた。虫だけなら爪も牙も必要でないから退化しているはずだろうと考えて。

 

そうしていると巣から小さな虫が飛び出し彼方此方に飛んで行く様が目に入った。そこで熊に関する考察を中断して今度は虫に注目する。巣の中にいる虫は小指の先くらいのサイズだがおとなしく襲い掛かってくる気配はない。むしろ今は壊れた巣の修復に忙しくカムイに構っている暇は無いのだろう。相も変わらず忙しそうに働いていた。そして虫の巣で何かが日の光を反射しているのに気付いた。それは琥珀色で壊れた巣から少しずつ流れ出ていた。

 

気になって匂いを嗅げばいい匂いがした。そう、いい匂いとしか言えない、言語化できないのだ。頭の隅で何かが引っ掛かっているのだがそれがどうにも出てこない。試しに指で触るが異常は感じず、トロリとした粘性のある液体であることが分かった。

 

ーーさすがにモンスターといえど毒を食べないだろう。

 

沸き上がる興味に背中を押され指の先に着いたそれを舐めてみる。

 

「kdじゃいがにthがそjv!!」

 

その瞬間に頭に衝撃が走った。苦いとか不味いとか美味いとかしょっぱいとかでは無い!そう、これはーー

 

「甘い……」

 

今世において初めて味わった感覚、そして頭の中に引っ掛かっていたものが漸く出てきた

 

「蜂蜜だーっ!!」

 

理解できればもう止まらない、巣の中にある蜂蜜を取ろうと指を突っ込むが掻き出せたのはわずかな量だけ。その際に虫、蜂がブーブーと飛び回るが襲ってはこない。もしかしたら諦めの境地に入っているかもしれないがそんなことはどうでもよかった。そしてそのわずかな量の蜂蜜を中身を捨てた小瓶の中にしまう。ちなみに小瓶の中身はケンジが調合してくれた貴重な薬だ。

 

「あの熊……クマ野郎は虫じゃない、蜂蜜を舐めてたんだ」

 

なんて奴だ、モンスターのくせに甘味の味を知っているとはとんでもない野郎だ。そんな八つ当たり気味の考えがカムイの頭に湧きあがる。

 

そもそも、そのクマ野郎を発見できたから蜂蜜を知る事が出来たのだが冷静さを失った今のカムイには理解できない。

 

「蜂蜜さがしだ……!」

 

どうやら蜂蜜の甘さは頭を蕩けさす程に強烈だったようだ。血走った目でカムイは森に入る。

 

クマ野郎とは戦う運命だ、そんな事を考えるほどにカムイの頭は飛んでしまった。そうして日暮れまで粘った結果、小瓶を満たす程度の量をクマ野郎に見つからずに回収できた。

 

そうして持ち帰った蜂蜜はカヤと自分だけで味わうと決めたカムイ。

 

だがそんなカムイにも想像できなかっただろう。蜂蜜は次第に周りの人間を狂わせていくことに。

 




いきなり評価やUAが伸びて嬉しいやら怖いやら色んな気持ちが沸き上がりましたが、やっぱり評価してもらえると嬉しいです。

あと誤字脱字を報告してくれた皆様ありがとうございます。おいおい修正していきます。

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