私の新しい仕事はハンターです   作:abc2148

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虫虫虫蟲蟲蟲

村の拡張が会議で決定されてから静かな熱気が村を満たしていた。ある男は村に植える作物を考え、ある女は今後の事に備え解れた服を修繕し、ある子供は親の仕事を積極的に手伝う等をしている。

 

それも仕方がない事だった。村に生まれた者は一度は村を如何にか良くしようと考える。しかしその前には様々な問題、特にモンスターの存在が大きな障壁になっていた。その存在は大きく、そのうち諦め現状に甘んじるしかないと悟ってしまうのが今までの流れだった。

 

だが今回は今までとは違う。己をハンターと名乗るカムイがいるのだ。まだ十を過ぎたばかりの少年だがその実力を疑う者はいない。そしてそのカムイの協力の下で計画が進められるのだ。加えて村の医者兼薬師のケンジが大量の薬を揃えている。不慮の事故に遭ったとしても大丈夫なようにこれ程まで準備してくれているのだ。これ程の好機に参加を渋る村人達はいなかった。

 

そうして村の集会所では日夜会議が開かれている。村の拡張において何を作るのか、拡張する範囲はどこまでか、使う資材はどうするか等々……。村の将来を考えた計画の策定が進められていた。

 

そんな中、ハンターであるカムイと言えば

 

「おおっ、見たことが無いモンスターだ!背中に苔、キノコが生えた豚、確かモスだったか……食べれるか?」

 

森の中で狩りをしていた。

 

冬の食糧難が去ってから数か月、春の気配も過ぎそろそろ夏が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

カムイは一人森の中で狩りをしていた。目的は村で消費される食料の補充だ。食料に関しては狩りに出る度にケルビやガーグァを獲ってきては村の食料庫に入れてきた。そのため食料の備蓄に関して言えば例年とは比較にならないほどの余裕がある。だがカムイは食料は多いに越したことは無いと考えこうして食料になりそうなモンスターを見つけては狩っていた。

 

「むむ、大きさも手ごろなのが二匹とは幸先が良いな」

 

そう言いながら仕留めたモンスターを解体しているカムイの装備は今までの物とは違っていた。ドスジャギィやアオアシラといったモンスターの素材が使われた防具を身に纏っているのだ。数か月の月日は村でモンスターの素材を防具に仕立てる事が出来るまでになったのだ。

 

「プギィイイー!」

 

身に着けている小手や鉢金、面頬、脛宛にはアオアシラの甲殻が使われ、ドスジャギィの素材で作った防具の上にアオアシラの毛皮を纏うようにしている。彼の姿を言い表すとすれば鎧を着た武士が近いだろう。だが幼く身長もまだ小さいため勇ましいよりも可愛らしい。

 

しかし、そんなカムイが身に纏っている防具はよく見ればまだ作りが粗い点があった。だがそれも仕方がない事だ。モンスターの素材を防具に仕立てる事が出来るようになったのは最近の事であり、加えて何もかもが手探りの状態なのだ。身に纏っている防具に関してもカムイとの相談に相談を重ねたうえで何とか仕立てたものだった。だが以前の様に服しか身に纏っていない時とは違い、命を守ってくれる防具の存在はカムイの心に余裕をもたらしてくれた。

 

「プギィイイー!」

 

余りの煩さに視線を向ければ解体されているモスとは別のモスがさっきから甲高い悲鳴を上げている。どうやら気絶から目が覚め、縛られていることに抗議しているのだろう。

 

「……先に二匹とも仕留めておけばよかったか?でも解体を止めるのも嫌だし煩いが我慢するか」

 

そう言ってカムイは解体作業を続行する。

 

「プギィイイー!」

 

今回捕まえたモスは森を探索している最中に発見した。それがどうして気絶し尚且つ縛られているのか、それはカムイが取った行動が原因だ。

 

呑気に鼻を引くつかせ餌を探し続けたモスはカムイが近付いても全く警戒心を抱かなかった。変わらず鼻を引くつかせる様子にカムイは呆れ、ならばと近くに落ちている岩を持ち上げ可能な限り近付いてモスの頭に落としたのだ。その結果気絶し四肢を縄で縛られ転がされてしまう。同様の方法を近くにいた二匹目にも行った。武器を、罠を使わず簡単に仕留められた事にカムイは上機嫌となった。

 

「最近、獲物にありつけない日が続いたからな。備蓄は多くても困らないし今日は狩れるだけ狩るか」

 

そう、実は五日ぶりの成果なのだ。村の周辺に生息していた筈のケルビやガーグァの姿を最近めっきり見なくなったのだ。カムイも最初は訝しんだがモンスターとはいえ自然に生きる生物の一種、餌場を変えたか、もしくはまだ知らない習性によって何処に移動したものと考えていた。

 

「プギィィッ……」

 

それで久しぶりに捉えた獲物に柄にもなく上機嫌になっているのだ。まだ子供にも関わらず解体の手際は実に慣れた物、血抜きを終えればサクサクとモスを解体していく。

 

「それにしても背中に生えたキノコはなんだ、寄生されているのか?第一アオキノコに似たこのキノコは食えるのか。姿形はソックリだけどどうなんだろ?」

 

カムイはモスから採ったキノコを観察する。その様子は真剣で静かな環境も相まって思索に深く沈みそうになり……、カムイは気付いた。

 

ーー静か過ぎる。

 

さっきまで響いていたモスの鳴き声が聞こえないのだ。警戒して振り返るとそこに縛られ転がされていた筈のモスがいなかった。縄を解いて逃げたのかと考える。だがそうであればモスが居た場所に縄の残骸なり何なりが落ちているはずだ。

 

たがそれは何処にも無かった。足跡も何かしらの痕跡も無い。それはまるで突然消えたかのようで余りにも不自然だ。

 

ここに来てカムイの警戒心が否応なく高まる。

 

剣を抜き構える。実は崖に突き刺してしまった二代目の剣は廃品になり今握っているのは三代目だ。その刃の鋭さは一、二代目と同じだが、刃渡りは延長され、肉厚も増し頑丈さと使い易さは優れている。そして三代目からはヨタロウの勧めで小さな盾を片手で装備する事にした。何かしら役に立つのでは無いかとヨタロウは言ってはいたが、今の所は役に立つ様子も無く余計な重りと化している

 

静かな森の中で辺りに視線を巡らせ耳を澄ませる。森の木々の擦れる音、風が吹き抜ける音、遠くに鳥の鳴き声が聞こえる。たがその中で聞こえた、ジジジジ、と嫌悪感を煽るような音が僅かに聞こえたのだ。

 

ーー後ろか!

 

音が聞こえた方向に振り返る。するとそこに居たのは虫だった。さっきから聞こえて来た音は虫が翅を震わせて飛んでいる事で発生した音だ。今もジジジジと翅を震わせているのか聞こえてくる。

 

カムイは虫は好きでは無いが嫌いでも無い。生まれた頃より今に至るまで大なり小なりの虫は見てきたし触ってもいた。こんな世界である、苦手意識を持つこともなく付き合ってきた。

 

だが今回ばかりは違う。そこに視線の先にいたのはカムイの身の丈より大きい虫だ。

 

カムイの腰の位置よりも高い位置に大きく中身が詰まっているだろう腹部がある。それは細かに波打ち震えている。虫特有の脚が六本、どれもカムイの腕よりも大きく、一番長い脚に至ってはカムイの身長と同じ位だ。虫の顔、頭には大きな顎門があり今もガチガチと鳴らしている。その巨体を浮かしている翅も大きくカムイが両腕を広げた以上の大きさだ。それなのに聞こえてくるのは僅かな音のみ。

 

そんな存在が振り返った先にいた。虫は無機質な複眼でカムイを見すえ、今もゆっくりと近付いてくる。

 

虫はカムイのもうすぐそこまで迫って来ていた。

 

カムイは逃げだした。

 

異様な存在を見て頭が真っ白になってしまう。しかし直ぐ様正気に戻ると脇目も振らずに走り出した。逃げるカムイの頭には仕留めたモスや虫を観察するといったものはない。ただひたすらあの虫から逃げ切る事に考えを集中させていた。

 

ーー知らない!知らない!あんな巨大な虫なんて何も知らない!

 

虫はカムイにとって初見であった。だが何よりも巨大な虫が魅せて来た異様さと虫の気持ち悪さが合わさったそれは冷静な思考を奪った。

 

森の中を逃げるカムイは手慣れた物、多少の障害物など気にかける事なく走り抜ける。

 

だが相手は空中を飛んでいるのだ。カムイが振り返れば視線の先には虫が追いかけて来ているのが目に入った。その速度はカムイの走りを僅かに超えたくらいだがカムイとは違い障害物に足を取られる事は無い。追いつかれるのは時間の問題だった。

 

そうして距離が縮まって来ると今度は虫が突進してきた。後ろを見ていたお陰で気付く事が出来たカムイは避けようするが突進の速度が速く間に合わない。だがここでヨタロウが作った盾が役に立った。盾を掲げ突進から身を守る。しかし相手は巨大な虫、吹き飛ばされたカムイは地面を転がるが直ぐ様体勢を立て直す。

 

突進を終えた虫は空中でホバリングを続けカムイに振り向こうとするが、そんな隙をカムイは見逃さない。直ぐ様近付き剣を振り抜こうとする。

 

狙うのは翅だ、優先すべきはこの場から逃げる事、倒すのは二の次。しかしーー

 

「クソッ、避けんな!」

 

虫は攻撃を察知したのか距離を取った。其処は剣が届かない上空だ。そして方向転換を終えた虫はその複眼をカムイに向ける。

 

「やり難い!」

 

厄介で恐ろしい虫だが隙が無いわけではない。さっきの突進を受け流すと同時に翅を切り落とせばいい。

 

カムイは虫に対する戦術を即座に構築、虫の突進を待ち構える事にした。

 

この場に逃げるという選択肢は無い。障害物が意味を成さない森の中、不利な状況で逃げ切れる自信は無い。追いつかれいつかは突進が当たると予想出来てしまった。ならば逃げ切るには戦うしかない。

 

そして虫が再度突進をして来た。カムイは盾を構え、予想する。突進の速度から剣を振るう瞬間を、角度を、そうして剣を振るった。

 

しかし当たるはずの剣は当たらなかった。

 

「チクショウ!」

 

虫は突進を途中で中断、カムイの一連の動作が空振り終わった瞬間に再び突進をして来た。

 

振り下ろした剣を振り上げる、盾を掲げ身を守るには僅かに時間が足らない。それを理解すると直ぐ様カムイは転がる様にして突進を避けるがーー

 

「痛っ!」

 

剣を持つ方の腕に傷を負ってしまった。だがそれは幸い浅い傷の為大事には至らない。地面を転がり立ち上がる迄に把握出来たカムイは再度剣を構える。

 

ーー間合いが足りない

 

それがカムイの考えたことだ。今持つ剣では間合いが短く、回避能力の高いこの虫に対して有効打を与えられる可能性が低い。しかし他の手段は無く、あるのは剣と盾のみ。

 

ーーならばさっきよりも素早く切返しを行う!

 

構えたカムイに再び突進を行う虫。フェイントを考慮した迎撃案は今度こそ虫の翅を切り落とすーー筈だった。

 

「ガァッ!」

 

だが再度剣は当たらなかった。いや、当たる以前に剣を持つ腕が動かなかった。

 

予想外の事態に頭が混乱、それによって突進を避ける事も出来ずカムイに直撃し吹き飛ばされた。吹き飛ばされた先にある木に背中からぶつかりうつ伏せにカムイは倒れた。

 

幸い防具のおかげで死ぬような怪我を負う事は無かった。そして衝撃で頭を回しながらもカムイは考え続けた。

 

どうして腕が痺れ動かないのか、目を動かして腕を確認すれば腕は千切れた訳でもなく体に繋がったままだ。だが動かず、そうして思考している間に腕の痺れが既に体全体に及ぼうとしていた。

 

その時、聞こえてきた音に視線を釣られ、そちらを見れば虫がカムイにゆっくりと近付いて来るところだった。

 

そして気付いた、虫の腹部の先に鋭く尖った物、鋭い針が木漏れ日の光を受けて光っていた事に。針が何かの液体で濡れていてそれが日の光を反射している事に。

 

ーー毒か。

 

ようやく理解出来たが遅かった。虫はカムイを抱え何処かに飛び去った。

 

 

 

 

 

虫がカムイを抱えてどれ程の距離を飛んだことか。

 

見慣れた景色は過ぎ去り、より薄暗い森の中まで運ばれた。そして同じような虫が合流し何処かに向かっている。そのどれもが何かを抱えていた。ある虫はケルビを、またある虫はガーグァを、または見たことがない小さな生き物を、または丸くて赤い団子のような物を。

 

そんな中カムイは死んだ様な目をしている。最初こそ虫に抱えられるという悍しい体験から暴れようとはした。だが毒のせいで身体は動かす、出来るのは視線をあちこちに向けること位。

 

故にカムイは諦め、死んだような目をして運ばれていた。しかし悍しい体験に関しては諦めたが、生き残る事については諦めていなかった。

 

実はカムイの身体を蝕んだ毒は既に消えている。その気になれば虫の拘束を解いて逃げる事も出来た。だがカムイは逃げる事も拘束を解こうと暴れる事もしない。いや下手に出来なかったのだ。

 

それはここまでの道中で合流した虫達、その中の一匹が抱えていたケルビが暴れ出した時に起こった事が原因だ。

 

そのケルビは毒が抜け、逃げ出そうと暴れ出した。暴れた末に虫の拘束を解く事が出来、そして逃げ出そうとした時に抱えていた虫とは別の虫にまた刺されたのだ。再び毒によって身体の自由を奪われたケルビは虫に再度抱えられるとカムイは考え黙って見ていた。

 

だがその考えは間違っていた。逃げ出したケルビを虫は抱えようとはしなかった。その代わりに大きな顎門を身体に突き立てた。

 

ブチリ、と聞こえた音は幻聴ではないだろう。

 

顔に、腹に、脚に、首に、ケルビの身体に顎門を突き立てた虫は身体を千切っていく。それだけに留まらず曝け出された臓物も骨も脳もありとあらゆるモノが千切られていく。そうして千切った肉は捏ねて丸め、出来上がったのは血の滴る肉団子だ。ケルビのいた場所に残ったのは骨と皮、それに僅かな肉片のみ。その所業が身体が痺れた状態で意識がありながらに行われるのだ。

 

抵抗も出来ずに体を千切られる。間違い無く最悪の死に方だ。

 

それからカムイは少しでも虫の習性を知ろうと観察を続けた。

 

それで分かった事は、虫は獲物に対して初犯は連行、再犯は肉団子という事。運んでいた丸くて赤い団子は血の滴る肉団子だった事だ。

 

分かりたくない事を分かったカムイは途方に暮れた。下手に逃げ出して捕まれば肉団子は確実、よって毒が完全に抜けきるまで大人しくする事にした。

 

だがそれも遅すぎた。遠くに見えるのは大きな洞窟の入り口が見え、そこから虫達が出入りしている。空気は洞窟に向かって流れているようで何の匂いも感じる事は無い。だが代わりに音は聞こえてきた。洞窟の中で反響し増幅された音は実にバリエーションに富んでいた。

 

ーー具体的には何かを千切る音と生き物の悲鳴だが。

 

処刑場は目の前に迫っていた。

 

最早時間は残されていないとカムイは覚悟を決める。故に囮となりそうな物を探す。

 

そう囮だ。カムイ一人ならば直ぐに捕まってしまう事は確実。ならば囮によって虫の狙いを分散させるしかなかった。この際囮となるものは何でもいい。視線を巡らせ虫達が抱えている獲物を見る。ケルビやガーグァ、見たことない小動物に加えてーー

 

「ジャギィ、貴様もか……」

 

そこには顔馴染みのジャギィもいた。毒のせいで動けない体を複数の虫達に抱えられた姿は滑稽だか自分も同じような姿なので笑えない。

 

そして確信する。村の周辺でケルビやガーグァが居なくなったのはコイツらのせいだ。ジャギィまで運ぶ程の食欲だ、付近の獲物になりそうな物は食い尽くしたのだろう。だがカムイは大人しくするつもりはもう無い。

 

ーー誰が食われてやるか!

 

毒の抜けた身体で剣を振るい抱えた虫の頭を斬り飛ばす。頭を失くした虫の身体は飛び続けることは出来ず地面に落ち、斬られた断面から汚らしい体液を撒き散らす。

 

すぐさま拘束から抜け出したカムイは近くを飛んでいる獲物を抱えた虫を斬った。

 

さっきもそうだったが虫はカムイの剣で一撃で容易く両断できた。その体は脆く何より獲物を抱えているため回避は出来ない。可能な限り数を減らそうとカムイが剣を振るう。一振りするたびに一匹、また一匹と虫が堕ちていく。だがーー

 

「脆いが数が多い!」

 

さっきから剣を振り続けているが虫の数が減ったとは感じらず、聞こえてくる虫の翅が出す不快な音は徐々に大きくなってきている。

 

だが当初の目的、虫の抱えていた獲物が次々と解放される。解放されたモンスターや小動物は、毒の抜けきらない個体はこの場から逃げ出そうと必死に体を動かし、毒の抜けた個体は一目散に逃走を始めた。

 

その喧騒に紛れカムイも逃走を開始する。

 

そしてカムイの狙いは当たり虫達は分散し逃げ出した獲物を次々追い出した。

 

「上手く引き付けてくれよ!」

 

逃げ出した獲物たちは各々虫を引き付けてくれた。特に群がる虫を体を振り回すことで寄せ付けないジャギィは多くの虫を引き付けてくれた。そのおかげでカムイを追ってくる虫の数は少なく、サイズも抱えられた虫よりもサイズが小さい奴だけ。

 

作戦は成功した。後はこのまま逃走を続け追ってきた虫を倒せばいい。そう考えていた。

 

その時音が鳴った。それは綺麗でありながらどこか悍ましいモノを含んだ音色だ。それを聞いた虫達が合わせるように鳴く。

 

カムイは良からぬモノを感じて振り返る。すると洞窟からカムイを抱えたものと同じ大きさの虫が次々飛び出してくるのが目に入った。そして虫達は信じられない速度でカムイ達、逃げ出した獲物達を追い抜いて行く。

 

それだけでなく虫たちがあろうことか組織立った動きを行った。つまり逃げ出した獲物たちを囲むように包囲網を形成したのだ。

 

「クソッ、どうする!」

 

脱出する前に包囲網に捕らえられた獲物達の中でカムイは考える。だが考える時間は余り残されてはいない、こうしている間にも虫達は包囲網を縮め、網に接触した生き物は容赦なく複数の虫達の咢が突き立てられ殺された。

 

包囲網の中を見渡せば取り残されたのはケルビ二匹にガーグァ三匹、ジャギィ一匹、それにカムイだけだ。此処にはそれ以外何もない。

 

この危機を脱する案が思い浮かばない。

 

「まさか死ぬのか、ここで?」

 

死ぬ事は分かっていた。ハンターなんて下手をすれば一瞬で死んでしまう仕事だ。モンスターで、事故で、考えられる死に方は幾つもあった。それを回避する為に常に考え打開策を何とか出してきた。だが今回ばかりはそうとはいかなかった。

 

身体は震え、血の気は引き、目の前が真っ暗になりかける。諦めと恐怖がカムイを満たそうとしていた。

 

だが満たされる寸前に自分とは違うもの、記憶が何かを考え付いた。

 

カムイは一縷の望みに掛けその何かを頭の中で展開する。そして出てきたものは荒唐無稽で実現出来るかも怪しいモノ、普段ならば歯牙にも掛けない考えだ。

 

だが、カムイにはこれ以外に考え付くものはない。これしかないのだ。選ばなければこのまま黙って虫に殺される以外の道はない。

 

「……やる、やってやる……、やってやんぞー!」

 

そうして自分に言い聞かせるように叫んだカムイは走り出す。包囲網ーーではなくジャギィへ。そして驚くジャギィを無視して飛び乗った。当然ジャギィはカムイを振り落とそうと暴れる。だがしがみ付きながらカムイは叫ぶ。

 

「コラ、少し大人しくしろ!」

 

だがモンスターに人の言葉が分かる筈もなくジャギィは暴れ続ける。だがそれはカムイには予想できたこと。故に包囲網から抜け出して近づいてきた虫を一刀の元切り伏せる。そうしてジャギィに示す。

 

「俺が虫を殺す、お前が走れ!」

 

ジャギィに言葉でなく成した事をもって示す。

 

俺は虫を殺せる、だが速く走ることはできない。

お前は虫を殺せない、だが速く走る事は出来る。

 

だから俺が虫を殺す、代わりにお前が走れと。

 

「死にたくなかったら従え!」

 

叫んだ内容をジャギィが理解できたのかは分からない。だがジャギィは暴れるのを辞め、その背にカムイが乗ることを許した。

 

ジャギィに跨ったカムイは剣で包囲網の一角を指す

 

「行け!」

 

それが合図だった。別に示し合わせたとかそんな事実はない。だがこの時ばかりは互いの考えが分かるような気がした。

 

「ギャッ!」

 

ジャギィが鳴き、走り出した。カムイは振り落とされないように跨り続ける。そして行く先に虫が現れた。

 

ジャギィが首を曲げてカムイを見る。

 

ーーやれるのか。

 

そう問いかけられた気がした。それに対しカムイはーー

 

「前だけ見ていろっ!」

 

そう叫び、近付いて来た虫を斬る。ジャギィに跨ったカムイの繰り出す攻撃は虫達の回避速度を超えた速度を出した。振るわれた剣を虫達は避けることは出来ず、腹部を、胴体を、翅を斬られ次々と堕ちていく。

 

加えて剣だけでなく盾も行く先に立ち塞がる虫達にぶつける。盾にぶつかった虫は身体を潰され、斬られた虫と同じ様に堕ちていく。

 

そうして虫を斬り、潰すことでカムイとジャギィ、それにいつの間にかついてきたケルビとガーグァが包囲網を脱した。

 

だがその先にも虫達が散発的に立ちふさがる。剣に付いた虫の体液を払いながらカムイは前を見据え叫ぶ。

 

「止まるな、走り続けろ!」

 

人とモンスター、互いに反目し合う存在は、今この時は互いを補う。

 

そうして虫が支配する領域をカムイ達は駆けていく。




書いてる途中で気付いた、これチョコボ騎兵じゃね

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