私の新しい仕事はハンターです   作:abc2148

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明けましておめでとう御座います


夢から覚めて

パラパラと雨が降っていた。朝から村を覆う雨雲は厚く日中にも拘らず辺りは暗い。加えて静まり返った村も合わさり異様な不気味さが満ちている。

 

そんな村の中で集会所だけは違った。中は雨音が耳がよく響くほど静まり返っていたが何より村長をはじめとした村人達全員が集まっている。但し中にいる誰かが話し出すの待っているせいでより暗く重い空気が集会所を支配していたが。誰もが話し出す機会を見出せず長い沈黙が続いた。だかそれを破り、最初の口火を切ったのは村長だった。

 

「ケンジ、カムイの様子はどうなのだ」

 

「酷いものです。全身を酷く痛め無事な所を探すほうが難しいです。それよりも酷いのが薬による症状です。今も家で安静にさせていますが落ち着くまで最低でも数日かかります」

 

「そうか」

 

「言っておきますが万全の状態に回復するには長い期間が必要です。最低でもひと月は掛かると考えて下さい」

 

静寂が満ち雨音しか聞こえなかった集会所には二人の声がよく響いた。詳しく知らされたカムイの容態、それを黙って聞くしかなかった村人達は自分達が置かれた状況を嫌でも知ることになった。二人が話し終わると再度集会所は静寂に支配される。だが今度の静寂は長く続かなかった。

 

「どうすればいいのだ!カムイがひと月も動けないとなると計画が進まない、これまでの準備が無駄になったではないか!」

 

余りにも重すぎる静寂に耐えきれなかった誰かが思いのまま叫んだ。それが引き金となって今まで口を閉ざしていた村人達が思い思いの事を言いだし始めた。

 

「ならばお前はあの化物に村が蹂躙されればよかったのか!」

 

「そうとは言っておらん。だが襲わぬ可能性も……」

 

「あれ程の死骸を見てもまだ言うか!奴らが腹を満たそうと思えばいずれ村が襲われるのは理解できるはずだ!」

 

「だがそれでカムイが倒れてはどうしようもなかろう!」

 

「ほかに方法があったのか!」

 

「カムイがいない間の村の防備はどうする、誰かカムイの代わりはいるのか?」

 

誰も彼もが言い争っていた。大人達は不安を、怒りを叫び、意見を違えたもの同士で激しく言い争う。そして確固たる考えを持たない幼い子供達はそれ故に大人達の行く末を見るしかない。だが行き交う言動に耳を傾ければ子供にも理解できた。すなわち大人達はカムイの行いを責めるか擁護するかで別れ言い争っているのだ。

 

責める者達はカムイの行いを軽率と考え、行動を止めなかったヨイチ達を責める。擁護する者達はカムイの行いは必要だったと言い、ヨイチ達を責めない。

 

だがそれだけだ。誰もその先、カムイがいない現状をどうするか何も言わない。いや、言えなかった。それを視界に納めながら村長は考える、どうすればよかったのかと。

 

 

 

 

事の始まりはヨイチが村に帰って来た時だ。村に着いたにも関わらず必死の形相で走り続けるヨイチ達。その姿を、ヨイチがカムイを背負いケンジの家に飛び込んだ一連の行動を見た村人達はその様子に只ならぬもの感じた。何よりヨイチが背負っていたカムイは酷い状態だった。身に付けていた防具は傷付き壊れ、全身は傷と血に塗れ、そして誰もが一目で見れば重傷と分かる程カムイの顔は青ざめていた。

 

狭い村の中、カムイが重傷を負った話は直ぐに広まりケンジの家の前には多くの人が詰め掛け人垣が出来た。老若男女に関わらず詰め掛けた誰もがカムイを心配していた。そんな時に家から出てきた者、ヨイチ達三人には多くの村人達が事の次第を聞き出そうと群がった。だがヨイチはそれには答えず、集まった村人達を見渡して言った。

 

「村の男衆、そして力の有る者は老若男女問わず武器になる物を持って付いて来てほしい」

 

聞いた誰もが何を言われたか最初は理解出来なかった。だが理由を聞き出そうにもヨイチ達が醸し出す剣呑とした雰囲気を前に誰もが言い出せない。そうする内に一人二人と武器を持ち出しヨイチ達の元に村人達は集まっていった。

 

当然それは村長も知る事になる。急ぎ駆け付けた村長はヨイチ達の行いを止め事情を聞き出そうとした。だがヨイチ達は村長の言葉に耳を貸さず集まった村人達を解散させなかった。

 

「これは言葉で伝えられるものではありません。村長もどうか自身の目で見て判断して下さい」

 

そうして村に最低限の人員を残し、村長をはじめ多くの村人を連れてヨイチ達は村を出る。連れ立った多くの者は初めて村の外、そして慣れない森の中を歩き続けることに苦労した。それに文句を言うもヨイチ達は何も言う事なく進み続けるのみ。いつしか口数は減り、誰もが口を閉ざして歩き続けた。そうして歩き続けた先に現れたのは洞窟、ランゴスタの巣だった。

 

その中に入ることになると村人達の誰もが拒んだ。だがここまで理由を言わず連れて来たヨイチ達は構わず進んで行く。中に消えて行く三人、そしてここまでの行いに反発を覚えた何人かは村に引き返そうし多くの者もそれに倣おうとした。だが引き返そうにも道中の護衛として三人は必要、その事に思い至った村人達は三人を連れて来る為に恐る恐る洞窟の中に入るしかなかった。

 

薄暗く湿った空気と鼻で感じる言いようもない匂い、洞窟の中に怯えながら踏み入れた村人達。そして洞窟の中を進む彼らが目にしたものは今まで知らなかったランゴスタという名前の生き物、その死骸だった。周りに目を凝らせば数え切れない数の死骸がある。その事実、その姿に誰もが驚愕し恐怖し、そして既に死んでいる事に安堵した。

 

だが中にいたヨイチ達は止まらず、彼らを置いてさらに奥へ奥へと進んでいく。そして村人達は不満を感じても付いて行くしかなかった。後を追うように、置いて行かれないように洞窟の奥へ怯えながら進んでいく。

 

村人達は歩き続けた。そしてその先に待っていたのは一際大きな空間と入り口の比ではない程のランゴスタの死骸、そして一際大きく存在感を放つ女王の遺骸があった。

 

ヨイチはその遺骸を前に言った。これがカムイが恐れ、戦う事になったモンスターだと。死に絶えても変わる事なく放たれる存在感に誰もが口を開くことが出来ずにいた。

 

そしてヨイチ達は女王の遺骸のさらに奥に進む。ヨイチ達に着いて行った数人の村人達はその先に女王に匹敵する恐怖を見た。彼らの視線の先にあったのは地面に数多く植え付けられた白い物体、ランゴスタの卵だった。

 

それから先は語る事は少ない。植え付けられた卵を潰し、利用出来そうなランゴスタとクイーンランゴスタの死骸を持ち帰っただけ。

 

だが自分達が生きる世界を改めて知るにはそれで充分だった。

 

 

 

 

ヨイチは村に住む者達に現実を知らせたかった。だか言葉で伝えるにも限界がある。何より村人達に伝える過程で事実が歪められる可能性があった。

 

辛く厳しい現実を、目を逸らしていたい現実を正確に伝えるためヨイチは暴挙に出た。

 

それは集会所に行き交う怒声を聞けば確かに伝わったのだろう。だがその内容は過ぎ去った過去についてのみ、これから先をどうするかといった内容は聞こえてこなかった。

 

「静まれ」

 

村長が発した言葉はたった一言。だがその良く通る声は村人達、言い争っていた者達の耳にも確かに届いた。言い争いが止まり集会所に静寂が戻ってくると村長が口を開いた。

 

「もう十分だ。今日ここに皆を集め話し合いの場を設けたのは過ぎた事について言い争うためではない。カムイのいない穴をどう埋めるかについてだ。誰か良い考えはないか」

 

期待はしていなかった。言った後に集会所を見渡すが誰も何も言わない。誰もが口を閉ざし頭を下に向けるばかりだ。暫く集会所を見渡していたがこれではいくら時間を掛けても無駄だと早々に悟った。

 

「ヨイチ、ハンターになる気は無いか?」

 

「村長、こればかりは……、こればかりはお断りします」

 

「……そうか」

 

ーーどうすればいいのか。

 

村長としてヨイチに命じることは出来る。だが今回の出来事を起こした当事者達は自分達の手に負えないと言っている。何よりヨイチ達は既に心が折れている。それで役割を果たせるのか?

 

「村長、カムイの妹、カヤに代わりをさせるのは」

 

「ならん、カムイとの約定だ。それ以前に担えるとは思えん」

 

何よりカムイとの関係が言い訳のしよう無く決裂する。一考にも値しない。

 

「ではどうしろと!」

 

「……村から有志を募るしかない。我こそと思う者はいないか」

 

そしてまた同じ事を繰り返す。集会所を見渡しても誰も何も言わない。誰もが口を閉ざし頭を下に向けるばーー。

 

「罪人にさせればいいのではないか」

 

誰かが呟いた。それは発言者にしてみれば咄嗟の思い付きで深く考えてのものではない。唯そこには無自覚の悪意があった。

 

それが切っ掛けとなってしまった。

 

「そうだ、お前確か反乱を起こすつもりでいただろ」

 

「その事については関わったもの皆が御咎め無しになった筈だ!」

 

「そうだ、それを蒸し返すとはどうゆう事だ!」

 

「黙れ!従わねば殺すと脅した者を信用できるか。それに丁度良いではないか、ハンターになれば身の潔白を証明できるぞ」

 

「巫山戯るな!我々に死ねと言うのか!」

 

「カムイが出来たのだ、貴様の子供もハンターになれるだろう!」

 

「今此処で殺してやる!お前とその家族、幾らか減れば外に出る必要もなくなる!」

 

「静まれ!静まらんか!」

 

ここにきて誰も想定していなかった方向に話が向かっている。それも最悪な方へ。集会所の中は殺気立ち最早村長には場を制御することも止める事は出来ない。

 

「私がやります」

 

だが聞こえてきた一言、誰もが言い出せなかった言葉が聞こえてきた瞬間、集会所にいる誰もが殺気を収め声の発生源に目を向けた。その視線の先にいたのはアヤメだ。

 

「アヤメ、それは……」

 

「このまま村に住む者同士で殺し合いますか?嫌がる者に無理矢理押し付けて上手くいくとは私は思いません。それは今目の前に起きている事を見ても明らかです」

 

冷めた目で集会所を見渡して話す。視線を向けられた大人達は顔を伏せるしかなかった。

 

「ならば私が代わりにハンターになります。それでこの話は終わり、これ以上話し合うことはありません」

 

村人達は互いに蟠りを抱えたまま、しかし安心した顔になり、それとは反対に村長は顔を歪めた。だが他に方法が無いことを理解している故に黙るしかない。最後に集会所を見渡し言った。

 

「何よりカムイの仕事は罪人にやらせる穢れたものではありません」

 

アヤメの声が集会所に響く。そのことに誰も何も言えなかった。

 

「新たなハンターはアヤメとする、以上だ」

 

そうして長かった話し合いは終わった。

 

 

 

 

「色々あって私ハンターになるから、よろしくカムイ」

 

「なにが起こったんだよ」

 

自分が意識を失っている丸二日の間に何か起こったのか、顔色悪く寝転ぶカムイは理由を聞かずにはいられない。

 

かくかくしかじか……。アヤメが集会所での経緯を事細かに話した。

 

「なんで俺が目を覚ますまで待ってくれ…ない…だ」

 

怒りで体を起こすも意識が飛びそうになり再び横になる。それでも頭に血が上った状態なので酷い頭痛が襲ってくる。

 

「カムイ大丈夫?」

 

「死ぬことは無いけど死にそう」

 

「これ何本、あと指先は何色に見える?」

 

そう言ってアヤメは指を二本立てる。勿論指先は肌色だ。

 

「四本に灰色」

 

「……ヤバイわね。ケンジさんは何か言ってた?」

 

「暫く絶対安静、後凄く苦い薬を毎日二回飲めって言われた」

 

「そうなの、それで今日の分はもう飲んだの?」

 

「……飲んだ」

 

「カヤちゃん、カムイ薬飲んだ?」

 

「飲んでませんよ。先程から飲まそうとしているのですが」

 

「裏切り者め」

 

そんなやり取りをしながらアヤメはカヤが持って来た湯呑みの中を見る。中には毒々しい緑色の液体が満ちていて、どう見ても不味そうにしか見えない。試しに指先に少し付けた液体を舐めてみれば強い苦みや渋みを舌に感じる。つまりとても不味い。指先に付いた量は少しの筈なのにそれでも舐めた事を後悔するくらいだ。

 

「あー、これは無理ね。……ちょっと待ってて」

 

そう言ったアヤメは家を出て行った。暫く待っていると何処からか持って来た小さな容器を手に戻ってきた。

 

「はい、これをこうして。これならどう?」

 

何やら容器から出した何かを薬の中に入れ混ぜる。そうして出来た物をカムイに渡してきた。受け取った湯呑みの中をカムイが覗くとそこには毒々しい液体が変わらずにあったまま。アヤメに向け弱々しい目を向け訴える。

 

ーー飲まなきゃダメ?

 

ーー飲みなさい。

 

視線で問い掛け戻って来たのは拒否を許さぬ強い思いだけ。カヤを見れば同じような目をしている。味方はいない、最早これまでとカムイは観念。目を閉じて薬を一気に流し込み襲ってくる不味さに身構える。だが舌に感じたのはとてつもない不味さではなく僅かな甘味。とてつもない不味さが消え飲み易くなった事に驚き、気がつけばコクコクと味わい飲み干していた。

 

「んっ、飲みやすい。何を入れたんだ?」

 

「蜂蜜よ」

 

「貴重品じゃないのか?」

 

蜂蜜と言えば村中を巻き込んだ騒動を引き起こした危険ぶ……、貴重な物だ。残量も少なく養蜂を開始したとはいえ安定して供給出来るようになるのはまだ先の筈だ。

 

「大丈夫よ、蜂蜜については今は少しだけど自給出来る様になったから心配しないで。後、蜂蜜関係は多分何とかなったから任せて来た」

 

「すごいなぁ」

 

まさか養蜂に関する技術がこうもあっさり確立されるとは。アヤメが凄いのかどうかは分からないが関心してしまった。

 

「そうでしょ。でも一番凄いのは貴方よ。ヨイチさんが詳しく話してくれた、だから今回も貴方のやり遂げた事の凄まじさが分かった。あと酷い無茶をした事も。それでもハンターを辞める気は無いの?」

 

「無い。もしこの村が豊かで仕事に溢れていたらハンターになんかならなかった。でも現実は違う、それに俺の意思に関係無くハンターを続けなくてはいけない。それ以外に仕事が無いから」

 

「村が豊かになったら辞めるの?」

 

「それは……分からない」

 

命を懸ける必要がない。それ程まで村が豊かになるまで生きていられるのか、想像しようとしたが出来なかった。

 

「そっか、そうよね。何馬鹿な事を聞いているんだろう私」

 

そしてそれはアヤメにも言えること。自らハンターになると宣言した以上途中で辞める事は出来ない。辞める時は大怪我を負うか死ぬ時、

考えれば考える程過酷に過ぎる。

 

「大丈夫か」

 

だから今カムイに出来る事は新たなハンターとなったアヤメを励ます事くらいしかない。だから向き合い話そうとするがーー。

 

「カムイは優しくて甘くてとても賢い。村の皆も、私の頼みもやり遂げてしまうから皆が頼ってしまった。だからせめて出来ないなら出来ないと言わないとダメ。分かった?」

 

逆に叱られてしまった。確かに今まで知恵を絞って何とかしてきた。まさかそれが駄目とは。いや、断る事もしないと仕事の難易度が次第に上がっていく。そう考えると間違いとは言えない。むしろカムイの改める部分だろう。

 

「分かった」

 

「これからは私も手伝う、無理をやりそうだったら止めるから。よろしくね、カムイ」

 

「ああ、よろしく」

 

こうして貧しい村に二人目のハンターが生まれた。

 

 

 

 

 

「ところで桶か何か持って来てくれない?」

 

「どうしたの?」

 

「吐きそう」

 

この後カムイはゲロゲロ吐いた。

 

 

 

 

夢はいつか覚めるもの。

 

しかし時は止まらず流れていく。

 

その場に立ち尽くすか進むかはあなた次第。




少しだけトロミを出したろ→ドロドロしすぎ、どうしてこうなった?

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