私の新しい仕事はハンターです   作:abc2148

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謎の存在を捕まえろ!

「これは鳥じゃないな」

 

「そうね、簡単な錠前だけど鍵の掛かった箱を鳥は開けられないもの」

 

そう言った二人、カムイとアヤメの目の前には休憩所に設置している保管箱ある。たがその中にあった保存食は一つも無く、空っぽの保管箱だけがそこにあった。

 

──ついこの前、二人は休憩所の保存食が半分程無くなるという事件に遭遇した。この食糧の盗難に遭遇した二人は犯人は一体誰かと考えた。そして閉め忘れて開けっ放しの箱を見つけた鳥類が盗み食いをしたのではないかと判断した。そこで今後は保管箱を閉め忘れと盗難防止の為に原始的な錠前、箱の蓋と本体に穴の空いた取手をつけ、その穴に棒を通す原始的な錠前を急遽施した。

 

これで食糧盗難を防げるだろうと二人は考え──それは数日後には何者かによって思惑は見事に外された。

 

「だけど鳥じゃなかったら何なんだ?モンスターに鍵開けの芸当が出来るとは信じられない」

 

モンスターが鍵を開ける、その可能性をカムイには信じられない。何故ならカムイが知るモンスターは己の爪や牙、その巨体で過酷な自然の中を生き抜き糧を得る。例え小柄なモンスターであろうと其れは変わらない。だが不思議な事に保管箱には傷や破壊された後は一つも無い。

 

「となると考えられるのは村人達の誰かが此処に来たとか?」

 

だからこそカムイは信じられない、錠前が解除された事よりも食糧が失われた事よりもその様な知性を持つ存在がいる事を。よって犯人は自分達の住む村人達の誰かだろうと疑ってしまう。

 

「こんな危険な森の中を、其れこそあり得ないわよ!仮にそうだとしたら理由は何なの?」

 

「そうだよな、明らかに危険を冒してまで此処に来る理由がない」

 

だか生まれた疑念は相棒であるアヤメによって即座に否定される。何故なら村と森を繋ぐ道は一つだけ、そして何らかの理由で危険な森の中に村人達が居るのであれば門番をしているヨイチ達からカムイとアヤメに知らされる手筈になっている。何よりもアヤメが言う様に危険を冒してまで此処に村人達が来る理由が全く考えつかない。

 

だからこそ残された可能性は一つに限られていく。

 

「それじゃ本当にモンスターが開けたの……」

 

「……多分な」

 

その可能性に、アヤメの震える声で尋ねられたカムイは否定出来ず、肯定するしかなかった。

 

「アヤメ、此奴は恐ろしいぞ」

 

アプノトスやケルビのように草を食むモンスターでも、ジャギィのように群で狩をするモンスターでは無い。『赤毛』、紅いアオアシラの様に格上のモンスターでも無い。

 

だが錠前を解除する知能を持つモンスター、その姿形を、何体この近くに生息しているのかを、そして戦闘能力を二人は知らない。未知のモンスターの存在に二人の警戒度は否応無く高まっていく。

 

「問題はいつからこの森にいたのか」

 

そして二人は現状持ち得る情報で今後の方針を定めていく。

 

「食糧の盗難はこの前のが初めて、だからつい最近迄居なかったんじゃない?」

 

「もしくは俺達が知らないだけだった。そして向こうは此方を知っていて隠れ続けていた可能性もある」

 

「それは……」

 

「分かっている、もしそうなら怖いでは済まないが相手はモンスターだ。俺達の予想を上回る事も十分にありえる。だがそうでも無い可能性もある、其れこそアヤメの言う様に最近になってこの森に現れたとかな。だが全ては推測止まりだ」

 

互いの考えを示し、参考にし、推測を深く煮詰めていく。二人の少年少女は今可能な最善策を手繰り寄せていく。

 

「カムイ、どうするの?」

 

「まずはモンスターの姿を確認する。姿を確認しないと有効な対策は立てられない。情報収集はその後だ」

 

「ならどうやって確認するかよね。取り敢えず今分かるのは簡単な錠前なら開けられる程賢くて、この休憩所に入れる程小さい事──」

 

「そしてかなり腹が減っている事だな」

 

カムイが屈んで指差した先は休憩所の中心。アヤメも同じ様に屈んで見る。

 

「これって…足跡?」

 

休憩所の地面、その踏み固まった土の上に浅くだが地面に小さな足跡が刻まれていた。その形は二人の知るモンスターのどれにも当てはまらないもので、それをカムイは指差しながら自分の考えを話す。

 

「奴等は休憩所にある保管箱に向けて迷う素振りも無く進んでいる。そして此処から出る時の足跡の方が深く残っている。多分保存食を持ち出した事が原因か、保存食を食い尽くして重くなっただけかもしれないが。どちらにしても食い意地が張っている奴だ」

 

「確かに、だとしたら保管箱にある保存食を知った方法は……匂い?目で見るだけじゃ中に食べ物がある事は分からないし。そうなるとこのモンスターは小さくて賢くて優れた鼻を持っているわね」

 

「そうだな、足跡の大きさから俺達よりも大きくないな」

 

そう言ったカムイは立ち上がり腕を組んで考える。

 

「アヤメ、俺達が設置した休憩所は全部で4箇所。そして全ての保管箱には簡単な錠前が付いているよな」

 

「そうよ、それで被害に遭っているのは今のところ此処だけ。他は盗られていないわよ」

 

「そうか……」

 

暫くの間カムイは腕を組みながら考え続け──考えが纏まるとアヤメに顔を向けて告げる。

 

「此処に罠を仕掛けるぞ」

 

 

 

 

走る、走る。今日も群から離れた一匹が森の中を駆けていく。その脚には迷いは無い、目指すべき目的地を知っているからだ。

 

そして一匹はある場所に辿り着いた。そこには周りの風景に溶け込むように小さな穴がある。そこに一匹は迷う事なく踏み入れ、そして目的の物を再び見つけた。

 

駆け足で目指した先には大きな箱、鍵は掛かっているが一匹に掛かれば簡単に解除出来るものだ。そして開けた箱の中には沢山の食糧が前と同じように入っていた。其れを確認した一匹、カムイ達が休憩所と呼ぶ場所を見つけた個体は急いで食糧を持ち出していく。

 

普通に考えれば余りにも自分に都合が良すぎる。落ち着いて考える事が出来れば今自分がしている事は盗みだと理解出来る。だが食糧不足の群の為に必死になっている一匹にはそんな事を考える余裕はない。

 

そして今回も中にある食糧を全て運び出す作業を終えて外に出ようする。一匹の頭の中には達成感で満ちていた。

 

だからこそ見落とした、気付かなかった。自分が今いる場所が危険だと

 

──そして次の瞬間にガシャンと何かが落ちて来て入口を塞いでしまった。

 

その瞬間に休憩所の外、モンスターの嗅覚を警戒して風下に潜んでいた二人のハンターが立ち上がった。

 

 

 

 

「掛かった!」

 

警戒心の強いモンスターだと想定していたが、まさかこんな簡単にいくとはカムイも思わなかった。だが作戦に変わりは無い、モンスターが休憩所の奥まで進むと自分の直ぐ側にある縄を切る。そして休憩所の上に仕掛けた柵が落ち入口を塞いだ。

 

この瞬間に休憩所はモンスターを閉じ籠める牢獄と化した。

 

そしてカムイとアヤメは間髪いれずに入口を塞ぐ柵の隙間から袋を中に投擲する。投げ込まれた袋は休憩所の地面に落ち中身が衝撃で拡散される。それは黄色い粉、その正体はランゴスタの痺れ毒を粉状に加工したものだ。

 

カムイの立てた作戦は休憩所にモンスターを閉じ籠め、痺れ毒でモンスターを捕獲するという実に単純なものだ。

 

致死性はなくモンスターの身体の自由を奪う毒が充満した休憩所、其処に口を布で覆ったカムイとアヤメが素早く近づいて行く。そしてアヤメは周辺を警戒、カムイが素早く痺れて動けないモンスターを縄で捕縛しようと中を覗く。

 

「居ないだと!」

 

だが休憩所の中にはモンスターはいなかった。辺り一面黄色に染まった中には身体の自由を奪われたモンスターの姿は無く、あるのは保管箱に各種道具に──穴だけだ。

 

「穴?」

 

カムイは休憩所の奥、保管箱の手前に穴が空いているのが柵越しに確見つけた。だが穴の深さなどは分からない、それ以前に穴なんて休憩所の中には無かった。ならばあれはなんだ?

 

「どうしたの、カムイ!」

 

「いや、確かに罠に掛かった筈なのに……」

 

アヤメが周辺を警戒しながら問いかける。それにカムイが答えようとした瞬間、聞き慣れない音を聞いた。

 

じゃりじゃりじゃり。

 

と何かを掻き分ける様な音、そして振動が足から伝わって来る。自身の前から、足元、そして背後へと。

 

まさかと思って背後を振り返った視線の先には穴があった。そしてその地面に空いた穴から丁度何かが出て来るところだった。それを見たカムイは直ぐに気付いた、それがモンスターの頭部だということに。

 

「逃すか!」

 

そう吠えるカムイは駆け出す。そして穴から這い出ようとしたモンスターを飛び越え前方に立ち塞がる。そして太刀を構えたカムイと同じくして穴から這い出たモンスターは互いに向き合った。

 

間近で確認した未知のモンスター、それはカムイ達より小さく二足歩行をしている。ぱっと見る限り鋭い爪や牙は見えず脅威度はジャギィよりも低いと予想す──だがそんなカムイの冷静な分析はモンスターの姿形を細かく確認した瞬間に一時停止を起こした。

 

薄茶色の毛が全身を覆いつつも所々が紋様の様に毛色が変わっている。頭部にはピンと張った三角形の耳があり、そして鼻から真っ直ぐに髭が伸びている。その姿はまるで──。

 

「猫っ!?」

 

この世界とは別の世界、カムイの頭の中に断片的に刻まれている世界に生きている動物『猫』、その姿形に通じるものを目の前モンスターは持っていた。

 

だがそんな驚愕も束の間の事、今は闘いの最中であると直ぐに再起動したカムイは雑念を払い戦闘に専念。両手で構えた太刀をモンスターに振るう。

 

捕獲が失敗した現状では次の目的、未知のモンスターの戦闘能力を測るのを目的としてカムイは戦闘を開始する。だからこそ太刀で攻撃する際も殺意は込めていない。剣速も意図的に下げ段階的に引き上げる事でより詳細に能力を測ろうと考えていた。

 

「クソっ、小さい上に速い!」

 

だがカムイの攻撃は当たらない。僅かに触れるだけでもいとも簡単に相手を切り裂く『女王翅刀』。剣速も八割程度に加減しているそれをモンスターは伏せて、跳んで、転がりながらもカムイの繰り出す剣戟を避け続ける。

 

その動きにぎこちなさは見受けられず毒に身体を蝕まれていないのは確実。それでも殺意が無いとはいえ振るわれる太刀を悉く避けられるのはモンスターの高い身体能力の為せる業か、それともカムイが自分よりも小さな相手と戦う事に慣れていないのか、それとも両方か。

 

「アヤメ、もう十分だ!」

 

だがカムイはモンスターの身体能力は測り終えた。それで理解出来たのは目の前のモンスターの脅威度はそれ程高くは無い事。よってカムイは次の目的をモンスターの捕獲に切り替える。

 

「分かった!カムイは一瞬でもいいから止めて!」

 

「了解!」

 

細かな打ち合わせは既に終えている。カムイの意図を理解したアヤメは弓に矢をつがえて時を待つ。

 

「ハッ──」

 

そしてカムイは先程と変わらずに太刀で剣戟を繰り出す。斬り上げ、突き、薙ぎ払い、振り下ろす。だが其れはモンスターを傷つける為ではなく行動を制限するように、モンスターが踏み出すであろう一手先、未来の移動するであろう場所に剣を突き立てていく。大雑把で幾度か読み間違え逃げられそうになるもモンスターの動きは次第に小さくなり──

 

「これでどうだ!」

 

最後の詰めとして地面を蹴り上げる。カムイによって掘り起こされた土はモンスターの頭部に向かい、避ける事が出来ないソレを浴びせられたモンスターは目を瞑るしかない。

 

そして一瞬だが完全に動きを止めた。

 

「アヤメ!」

 

カムイがアヤメを呼ぶよりも先に矢は放たれた。飛翔する矢は今回の為に作った特別製、矢の先にはモンスターを仕留める為の剣の様な鏃は付いていない。代わりに小さな木の円柱に布を幾重にも重ね『殺傷力』の代わりに『打撃力』を高めた鏃が取り付けられている。その形状の為に速度は遅くなるがそれでも小型のモンスターには十分な威力を持っている。

 

最早モンスターにアヤメの矢を避ける事は不可能──その筈だった。

 

「なっ!?」

 

カムイは見た。確かにモンスターの逃げ場は塞いだ、だが其れは地上に限った話。危険を感じ取ったモンスターは一目散に逃げ出した、地面に向かって。両手を地面に付けるとモンスターはカムイの信じられない速度で穴を掘り始め、そしてアヤメの矢を紙一重で避けた。

 

「地面に潜っただと!」

 

目の前に起きた事に驚愕しながらもカムイの頭の中では今迄の疑問が全て氷解した。休憩所に空いた穴、聞き慣れない音、毒に身体を蝕まれていない訳も全てモンスターが穴を掘ったからだ。

 

だからこそ耳から聞こえる音、足に感じられる振動の向かう先がアヤメだと分かると同時にカムイは駆け出した。

 

「下だ!」

 

「えっ?」

 

だがカムイが辿り着くよりも先に穴からモンスターは出て来た。そしてその手に見慣れ無い物を握り、ソレをモンスターはアヤメに向かって投げた。投げる速度は遅く、ソレ自体はモンスターの手に収まる小さな物だ。アヤメの身に着けている防具ならば当たったとしても痛みを感じる事は無い筈だ。

 

「ッ!アヤメ!」

 

だが鼻と耳から入ってくる情報を受け取った頭は警鐘をガンガン鳴らしている。焦げ臭い匂いとジジジと音を出すソレが危険であると。

 

「えっ、何!?」

 

カムイはアヤメを庇う様に抱きしめ──そして間を置かずして地面に落ちたソレから発せらた強烈な音と衝撃が二人を襲った。

 

「キャッ!」

 

「ぐっ──」

 

身を屈めていた二人が衝撃から立ち上がり辺りを見回した時には小さなモンスターは既に消えていた。

 

「逃げられたか……」

 

「そんな事よりカムイは大丈夫なの!」

 

そう言ってアヤメはカムイに異常がないか調べる。すると外套に小さな破片が幾つも突き刺ささっていた。

 

「これ大丈夫なの……」

 

「外套のしたの防具で完全に止まっているから安心してくれ」

 

衝撃はカムイの防具と通常のアオアシラの皮で作られた外套が完全に塞いだ。飛んで来た礫も外套に突き刺ささるだけで済んでいる。

 

「だけどアヤメの防具だと危険過ぎる」

 

だがこれをアヤメの防具、可動性を重視して防具で保護されていない生身の箇所で受けた時は礫が身体に食い込んでいた可能性がある。それを理解したアヤメは視線を先程までモンスターがいた場所に向けカムイに問い掛けた。

 

「逃げられたけど追いかける?」

 

「いや、辞めておこう」

 

カムイの視線は逃げたモンスターよりも投げられた物体が弾けた場所に釘付けだった。屈んで目を凝らして見れば其処には小さな破片と少しだけ焼け焦げた地面、そして鼻からは嗅いだ焦げ臭い匂いを感じとった。

 

そしてカムイの持ち得る記憶と知識が揺さぶられ、朧げながらもその正体を掴んだ。

 

「この匂い、それに爆発した……、火薬、いや爆薬?まさか奴ら火薬の類いを扱えるのか!」

 

それはこの世界には存在しないとカムイが思っていたモノ。そしてカムイに刻まれた知識は訴える、アレは世界を変える代物だと。

 

「アヤメ、作戦変更だ。奴を狩らず生け捕りにする」

 

「……危険だけどやるのね」

 

「そうだ、奴の持つ技術を何としても手に入れる」




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