私の新しい仕事はハンターです   作:abc2148

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悪意が満ちる

視覚が捉える色は灰色と黒、嗅覚が捉えるのはナニかが焼ける臭い、そして聴覚は流れる風の音しか捉えなかった。

 

カムイ達が目指していた先に村は無かった。そこにあったのは燃え尽きて生じた灰と家を支えていたであろう黒ずんだ炭の塊。それが此処が何も無い平野では無く村があった確かな証だった。

 

「アヤメとトビ丸は此処に残って警戒を、少しでも異常があれば知らせてくれ」

 

「でも……、カムイ!」

 

「従ってくれ、直ぐに子供を連れて来る。……そしたら村に帰ろう」

 

アヤメとトビ丸を残し、カムイは進んで行く。その背後でアヤメがカムイの後を付いて行こうとした。だがトビ丸の小さな手がアヤメの歩みを止める。防具の裾を掴まれたアヤメば振り返るが頭を横に振るだけでトビ丸が手を緩める事は無い。

 

そんなやり取りを知る事も無くカムイはかつて村であった廃墟に足を踏み入れる。村で何が起きたのか知る為に。

 

そして村の惨状は異常だ。季節は冬に近付き空気も乾燥しているにしても建造物が軒並み燃え尽きているなど明らかにおかしい。 

 

勿論火災の原因として村人の火の不始末も考えられる。それでも此処までの被害が齎されるものなのか?火の不始末で火災が起きたとしても大火になるには時間が必要だ。その間に水でも砂でも掛ければ消火出来る。村が壊滅する規模ならば複数の場所で火の手が上がり消火が間に合わない状況が起こらなければ辻褄が合わない。

 

だが火災が起きる可能性は火の不始末だけでは無い。それこそカムイが常日頃関わるモンスターの可能性もある。そしてカムイが知る限り火災を起こせそうなモンスターは一体しか心当たりしかない。

 

──火竜が村を襲ったのか?

 

あの赤い竜の吐き出す炎ならば村を焼き尽くす事も可能だろう。だが火竜が犯人ならば村を焼いた理由は何だ?繁殖の為?報復攻撃?それとも悪戯に村を焼いただけなのか?火竜の行動理由が分からない。

 

そして考えながら村の中を進んでいるとカムイの脚が何かを踏んだ。それは容易く舞い上がる砂の様な灰でも無い、脆く簡単に砕ける炭では無い、確かな固さの下に柔らかい何かがあった。一言で言えば気持ち悪い、そんな感触だ。

 

視線を足元に向ける、そこに何があるのか、何を踏んでしまったのか理解する為に。

 

そして視線の先にあったのは人の腕だ。炎に焼かれ炭化した皮膚を脚が砕き、その下から覗く肉は熱で白く濁っていた。五指に至っては完全な炭と化し指先が砕けている。そして視線を更に移動させれば腕の持ち主であろう人がいた。炭化した皮膚に覆われ黒ずんだ姿からは性別も年齢も何もかも読み取れない。

 

だがカムイは焼死体を詳細に観察する事は無い。積もった灰に残された足跡を辿り子供の元へ駆ける。

 

道中にある焼死体は一つだけでは無かった。村の奥に進む度に二つ三つと人であった炭が目に入り、嗅覚は変わらずに焼き焦げた臭いを捕らえ続けている。その中に人が燃えた際に出た臭いも残っているのか、もし夏場であれば焼死体も腐り異様な臭いを放っていただろう。

 

あぁ、アヤメ達を連れてこなくて良かった。彼女達に、この光景を見せるべきでは無い。受け入れられず取り乱してしまうに違いない。

 

そしてカムイの胸の奥底で不可解な騒めきが次第に大きくなって来る。嫌な予感しかないそれを感じながらカムイは子供を探し──直ぐに見つかった。

 

子供は焼け跡の前に座り込んでいた。其処には何があったのかカムイは知らない、だが焼け跡が子供の帰る場所、家があったのだろうか。

 

座り込んだ子供の背後に立つと子供も気が付いたのか振り返りカムイを見た。子供は何も言わない、何を言えばいいのか、何をすればいいのか分からない。汚れた顔にある泣き跡が燃え滓で黒く染まり、目の光は消え伽藍堂だ。

 

この状況で何を言えばいいのかカムイには分からない。励ませばいいのか、慰めればいいのか、それとも黙っているべきなのか。それでも何かを口に出して伝えなければならない。

 

「悪いが此処から一旦離れ……」

 

此処から離れて状況を整理しよう。そうして落ち着いてからもう一度調べに戻って来よう。考えた末にどうにか捻り出した言葉を子供に伝えようとし──それは突如中断させられた。

 

──何かが子供に迫っていた。小さくて速いソレ、悠長に話していれば子供にぶつかってしまうのは簡単に分かった。

 

咄嗟に子供の肩を掴み引き倒す。その直後、子供の頭があった場所を何かが通り過ぎた。何かは速度を落とす事なく進み続けその先にあった焼け跡の残骸にぶつかり止まった。

 

振り返り残骸にぶつかった物を見れば、その正体は矢だ。細長い棒の先端には矢尻、反対側にはボロボロになった矢羽がついている。

 

矢を見た瞬間に胸の奥の騒めきが強くなり、それと同時に理性が頻りに危機を訴える。直ぐに身体を動かせ、此処から早く離れろと。

 

「外してんじゃねぇよ、下手糞がッ!」

 

「煩いな、オレのせいじゃねえよ」

 

「賭けは俺の勝ちだな。ほら、さっさと寄越せ」

 

「チッ!?」

 

たが、カムイが行動を起こす前に三人の男達が目の前に現れた。一人目は弓を持ち、二人目は片手に剣を握り、最後の男は自分の身長と同じ長さの槍を握っている。男達は三人とも薄汚れ、身に付けた防具は傷だらけ、手に握る剣も槍も刃毀れが酷い有様だ。

 

だが目を引くのは其処ではない。男達が付けている防具、武器には共通して赤黒いナニカに彩られている。

 

「あん?このガキ……」

 

現れた三人の男達、その中で剣を持った男が突如、子供を頭から足先まで無遠慮に観察し始めた。そうして一通り見た後には頭を掻きながら考え始め、思い出したのか子供を指差した。

 

「思い出した、森に逃げたガキだ。まさか生きてるとはな……」

 

本当かよ、と残りの男二人も子供を見ると思い出したようで驚いた表情をする。その後に三人とも歪んだ笑みを顔に浮かべながら子供を見た。その表情には子供を思い遣る気持ちは一欠片もなく、其処には悪意しかない。

 

そして男達三人の視線を受けた子供の変化は劇的だった。後ろに引き倒された時、子供は何が起きたか分かっていない顔をしていた。だが身なりの悪い男達を視界に捉え、視線を向けられからは身体が震えだしてしまっている。その目には涙が浮かび、震えながら後退りをしている。

 

「で、何しに戻ってきたんだ?」

 

三人の男達、その中で剣を持った大柄な男が子供に向けて大仰に一歩踏み出す。近付いてくる男とは反対に子供の身体は動かない。小さな身体は震え、堪え切れずに泣き出してしまう。

 

「どうして泣いてんだ?何か怖いものでもみたのか?」

 

そう言いながら男は笑い、後ろにいた二人の男も笑う、ゲラゲラと。小さな子供に向けて男達は貶し、嘲笑し、見下し、嘲笑い続ける。

 

そして子供は何も言い返さない、何の行動も出来ない。耳を塞ぎ、眼を瞑り、頭を抱える事しか出来ない。その姿が男達を笑いを誘う事になろうとも。

 

──故に子供を庇う様にカムイが前に出る。

 

「なんだ」

 

「貴方達は何者ですか?」

 

カムイは状況を理解仕切れていない。だから男達の言っている事の意味が分からない。いや、だとしても状況を鑑みれば彼等が子供の言う怖い人なのだろう。恐怖に呑まれ泣いている子供が男達に向ける目は親類や家族に向けるものではない。

 

だからこそ知る必要があった、その為の問い掛けだった。

 

「育ちの良さそうなガキだな。それに身に付けているモノもいい」

 

だが男は質問には答えなかった。それどころか子供以上に目を凝らしてカムイを見る。いや、男達はカムイを見ていない、人ではなく物としてカムイを観察している。そして子供の時以上に歪んだ笑みを浮かべながら口を開く。

 

「ガキ、持ってるモノ全部出せ。そうすれば命だけは取らないでやる」

 

出て来た言葉は脅迫。そして男達はカムイを威圧するかのように各々の武器を見せびらかした。

 

「カムイッ!?」

 

異常を察知したアヤメとトビ丸がカムイの後ろから来た。だが二人は目の前の何が起きているのか現状を理解出来ない。その顔には困惑がありありと浮かんでいた。

 

そしてアヤメとトビ丸の声に釣られた男達が二人へ視線を向ける。

 

「ほぉ、いいガキだ。まだ小さいがソレが好みな奴等には喜ばれるな」

 

「あの小さいのはどうする?」

 

「アレも良い、珍品としていけるな」

 

「へっ、貧乏くじを引いたと思っちゃいたが今日は運がいいな」

 

おぞましく気持ち悪い、そんな舐めるような視線がアヤメとトビ丸に向けられる。視線を受けたアヤメの身体は震え、トビ丸は全身の毛を逆立て男達を威嚇する。そして身の危険を嫌でも感じた二人は武器を構えようとし──。

 

「アヤメ、トビ丸、その子を連れて逃げろ!」

 

その前にカムイは大声で叫んだ。有無を言わせない気迫に満ちた言葉、それの意味を理解したアヤメとトビ丸は座り込んだ子供を立たせると急いでカムイから離れていく。

 

「あっ?逃げられると……」

 

男達はアヤメ達を追いかけようとし足を踏み出し──その歩みを遮る様にカムイは立ち塞がる。

 

「何の真似だ、小僧」

 

「道を譲るとでも思ったか?」

 

「……殺す」

 

意思疎通は出来ないと思っていた。しかし、どうやら言葉は通じた様子で男達の表情が笑いから怒りに変わる。

 

「アイツらは上玉だ。逃すのは惜しいぞ」

 

「さっさと殺せよ」

 

男達が思い思いの言葉を吐く。そしてカムイの前に剣を持った男が出て来た。カムイが余程気に入らないのか、物として見ていた視線も既に変わっている。但しそれは思い通りにならなかったカムイをどう痛め付けるか嗜虐の色を帯びているが。

 

「邪魔だ」

 

そして男が剣を振るう。両手で握り上段からの振り下ろし、剣の間合いと男の手足の長さが合わさった速く強い一撃。

 

──だがそれだけだ。

 

半歩身体をずらすだけでカムイは避けた。気負うこともない、恐れることもない。唯速いだけの一撃、そんな一撃に当たるカムイでは無い。

 

獲物を切り裂けなかった刃は止まることなく進み続け地面に当たり食い込んだ。間髪入れずカムイは地面に食い込んだ刃を踏みつけ、一撃を男に見舞う。それは男と同じ上段からの振り下ろし、ただし太刀の刃を抜かず鞘をつけたまま振るう。

 

脚から腰へ、腰から腕へ、腕から太刀へ、流れる様にして力は伝わる。そして振るわれた一撃は男の肩を強打した。命を取らない一撃、されど女王翅刀の刃を包む鞘は頑丈だ。その痛みに男は剣を手放し後ろへたたらを踏んだ。

 

「オマエッ!」

 

怒りに顔を歪ませ男はカムイを見る。されど怒りに呑まれず腰にある、もう一つの剣を抜くと太刀の間合いより外に出る。男も理解したのだ、目の前の子供が強いと、一人では勝てないと。

 

「囲めッ!」

 

故に数の暴力によって殺す。叫びに呼応して残っていた二人が動き出し三人の男達がカムイを囲む。正面と左右、分かりやすい三方向からの攻撃で殺す腹積りだ。

 

「死ねッ!」

 

カムイの右後ろにいた男が手に持った槍を突き出す。穂先についた刃は刃毀れし錆びているが先端はまだ鋭さを保っている。突き刺されば刃毀れした刃が肉を削り取り、それは斬られるよりも耐え難い痛みを齎すに違いない。

 

そして男と合わせる様に正面と左にいた男が剣を繰り出す。正面からは振り下ろし、左からは剣による突きが放たれる。

 

男達は確信する、これで殺せると。唯のガキなら狼狽えるだけ、経験を積んだ男なら運良く避けられるだろう。

 

──だが目の前にいる子供の正体を男達は知らない。

 

まずカムイは槍と剣の突きを前に出る事で避ける。穿つ獲物を見失った槍と剣はそのまま進み続け、次に正面から振り下ろしの刃に太刀を添え受け流す。ガラ空きの胴体に強かに太刀を打ち付ければ傷んだ防具を通じ衝撃が男の体内を駆け巡る。

 

振り抜いた太刀の勢いを保持しながらカムイは半回転、槍を持った男に身体の向きを変え、右手を離し、左腕を伸ばす。間合いが伸びた太刀が狙うは槍持ちの側頭部。そして太刀は狙い違わず槍持ちの側頭部を横から強打、与えらた衝撃は男の許容量を容易く超え一撃で倒れる。

 

しかし深追いはせず、カムイは一旦距離を離し態勢を整える。即座に二人を行動不能にし残った男に目を向ける。すると男は唯呆然とカムイを見ていた。だがそれも直ぐに終わり怒りに顔を歪ませる。

 

「何なんだ、お前ッ!?」

 

ガキだと思っていた、多少腕に自信があるそうだが三人で掛かれば直ぐに殺せると思っていた。だか結果は違った、残ったのは自分だけ、二人は倒れ地面に蹲り呻いているだけだ。そしてガキは表情を変えない、恐怖に顔を歪ませることも、泣き叫ぶこともなく無表情で自分を見つめるだけ。

 

不気味だ、唯々不気味で底が知れない。そして恐怖に呑まれたのは男だ。

 

「ああああああああぁッ!?」

 

奇声を上げ男が剣を振り回す。縦に、横に、斜めに、だか幾ら武器を振り回そうがカムイは傷一つ負わない。それが男の心に巣食った恐怖を大きくする。

 

型も術理もない唯の振り回し。元々カムイには男達を殺すつもりは無い。ある程度時間を稼げたなら直ぐにでも村から離れるつもりでカムイは男達の相手をしている。故に当たれば手酷い傷を負う力任せの行動に最後まで付き合う必要は無い。

 

「あッ?」

 

太刀で剣を絡め取り上へ弾き飛ばす。突然の出来事に理解が及ばない男、その頭に太刀の振り下ろしを見舞おうとして──

 

「ッ!」

 

左手から飛んで来た矢を太刀で迎撃して奇声を上げる男から離れる。飛んで来た矢は一つ、その出所に視線を向けると其処には四人の男達を引き連れる様にして青年が立っていた。

 

「へ〜、やるじゃん……」

 

見るからに若い青年は歩みを止めずカムイ達に近付いていく。そして青年を視界に捉えた男達はその場に畏るようにして頭を下げた。

 

「何をしているんだい?」

 

「はい、紫様。ここいらでは見慣れない上物をこの子供が纏っていたもので……、身包みを剥がして献上しようかと」

 

「ふ〜ん、そうなんだ」

 

そうして紫様と呼ばれた青年はカムイを観察する。その目も男達と変わらない人ではなく物を見る目つきだった。

 

「……そうか、此方は良いものが手に入ってね、高値で売れるのは間違いないんだ」

 

そう言って青年は後ろの男に目配せする。すると一人の男が両肩に何かを担いで前に出て来た。

 

「だから手早く済ませてくれよ、俺は早く帰りた──」

 

青年の言葉は続かなかった。その代わり腰に挿していた剣を抜き、前に出て来た男の前に立つ。そして剣を振るえば一振り毎に青年の握る剣が男に向かうナニかを弾く。金属同士が衝突し甲高い音を三度奏でる。弾かれたナニかは宙を舞い、そして地面に突き刺さる。

 

「……何の真似だ、小僧」

 

「心当たりが無いとでも言うつもりか」

 

地面に突き刺さった物の正体はナイフ。カムイはナイフを三振り、青年ではなく男に向けて投擲していた。だが男に突き刺さる筈のナイフは全て青年が握った剣で防がれた。

 

「なんだ、こいつらの知り合い?」

 

そう言って青年は片手で握った剣を男が担いでいるものに向ける。その刃先の先にはアヤメとトビ丸がいた。気を失っているのか身動ぎもせず身体を縄で縛られ担がれている。

 

「……アヤメとトビ丸をどうするつもりだ」

 

「売るのさ」

 

気安く青年は答えた。寧ろ何を当たり前の事を尋ねるのかと顔には困惑した表情を浮かべている。

 

「お前……」

 

「いいね、いい目だ」

 

カムイが無意識に放つ殺意に対し青年は気押されることない。それどころか濃密な殺意を感じた事でカムイに対する興味が湧く。

 

「お前達、それは使えるから殺さず捕らえろ。躾は俺がやる」

 

あと、お前達も手伝えと言って三人の男達を残し、紫様と呼ばれた青年はアヤメとトビ丸を連れ離れていく。

 

「待てッ!」

 

カムイが青年に向けて踏み出す。だがそれも残された男達がカムイの前に立ち塞がる事で数歩と行かずに止まる。そしてカムイに倒され蹲っていた男達も其処に加わる。

 

「紫様はあぁ言ってるけど、どうするよ?」

 

「別に殺せばいい、使えませんでしたとでも言えばいいさ」

 

「お前達、紫様の言われ……」

 

「ガキにコケにされたままでいられるかッ!奴はこの場で殺す、もう決めた事だッ!」

 

立ち塞がる六人の男達は各々の思いを口にし言い争う。そして争いの中心はカムイ一人だ。

 

カムイに傷一つ付けられず倒された男達は顔を憤怒で歪める。既に頭には血が昇り、命令で残った男達の言葉に対し聞く耳を持たない。

 

「……死ねば弱かっただけ、手間が掛ける事もないか。分かった、好きにしろ」

 

「お前も手伝え、このガキは生意気にも腕が立つからな」

 

カムイに対する処遇は決まった。そして剣を持って一人の男がカムイに近づく。

 

「小僧、お前の持っているモノは俺達が高値で売りざばいてやる」

 

その男は最初にカムイを脅迫した男。その表情は憤怒に染まり過度な力で剣を握っているのか、両手は赤く充血している。

 

「だから、とっとと死ね」

 

そう言って男は剣を振り上段から下ろし──それよりも速くカムイが背負い直した鞘から抜刀、敵よりも速く振り下ろした。

 

綺麗な凛とした音が響く。

 

「あっ?」

 

カムイが倒れていない、その訳が男には分からない。

 

何故血を流していないのか。

何故目の前の子供は無事なのか。

何故振り下ろした剣が届いてないのか。

何故腕が軽いと感じるのか男には分からない。

 

そして自らの腕を見た。

 

其処にある筈のモノが無かった、剣を握っていた両手は肘から先が無くなっていた。

 

「あ、あ、ああああああああっ!?」

 

現状を理解した瞬間に激痛が男を襲い、叫び声を挙げる。太刀の刃は肉を、骨を、人体を容易く断ち斬った。斬られた腕の断面からは赤い血が止めどなく流れ続け、足元の地面には血溜まりが広がっていく。

 

男は無意識の内に血を止めようとし──気付いた、流れ出る血を止める手がない事に、剣を握ったままの両手が血溜まりに沈んでいる事に。

 

そしてカムイは無表情で男を眺めている。耳には確かに男の叫び声が届いているがカムイの心は何も感じない。それよりもカムイの頭の中では青年、紫の言った言葉が繰り返し響いている。

 

──売るのさ、その言葉は人を物として扱うのに疑問を持っていない。ならば人身売買の市場があり、そこでアヤメとトビ丸は売られてしまうのか、売られたその先はどうなる?

 

いや、分かっている、気付かない振りを、見たくないものを見ない様にしていただけ。

 

あぁ、そうだ。村を焼き尽くした原因は不運とモンスターの二つだけでは無い。その二つでも無ければ残った可能性が一つだけあった。そして無意識にその可能性を頭から消していた。だが目の前の男達を見て分かってしまった、理解してしまった。

 

不運でも、モンスターでもない、ならばそれは同じ人から齎されたものだ。そして目の前に立つ男達──こいつらは敵だ。

 

ならば言葉は最早必要ない。

 

敵は──殺せ。

 

血に濡れた女王翅刀が陽の光を反射して妖しい輝きを放つ。そしてカムイは男達を見据える。

 

かちり、頭の中で音が鳴った気がした。

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