アステロイドは揺るがない   作:夜なべ

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元の短編を分解・再構成・加筆修正して2話分にしました
今月のワートリ発売前に投稿したという事実が欲しかった


周防和沙の新しい事情

 ウィンターシーズン到来!

 とは言えど、三門市にはさして雪は降らないし、降ったとしても積もらない。そこそこ空気が冷えてくる程度で、和沙は出身地が三門市より北の地ということもあり、「まだ薄手の防寒着でも十分なくらいだな」と思っていた。実際、この町の学生たちはこの季節でも屋上で昼食を食べる者も多い。しかし暦の上では12月、街中を歩けばクリスマス商戦仕様の店が並び、目や耳を楽しませてくれる。自分の故郷ほど観光に力を入れた町ではないけれども、お楽しみはそれなりにいっぱい、なのである。

 例えば、そう。こうして学校帰りに友人たちとコンビニに寄って、肉まんやらを買い食いするなんていうことも、冬の学生の日常らしくて乙なものと言えるのではなかろうか。

 自分を含めた4人でやって来て、そのうち2人はコンビニ内を物色して。自分ともう1人はそう断ってから漫画雑誌を立ち読みする。友人と並んで有名少年誌のページをめくっていると、見慣れた名前と絵柄が目に飛び込んできた。岸辺露伴。ピンクダークの少年。ちょうど2年前の今の時期に始まった第4部であるが、そろそろ物語の核心に迫って来たところだろうか。かの人の顔が思い浮かぶ。故郷の幼馴染や友人とはわりと定期的に連絡をとっているのだが、彼とは帰省した時に挨拶をして少し会話する程度になってしまった。そろそろ年の瀬の帰省になるが、三門土産でも持っていこうか。ああ、そういえば故郷はもう初雪が降ったのだろうか――――そこまで考えたところで「お待たせ〜」とのんびりした声が聞こえて、和沙の意識は引き戻された。つい思考が飛んでしまったらしい。隣に並んで同じく漫画雑誌を見ていた友人……影浦が「おっせーぞ! 何分かかってやがる」と相手に軽くつっかかっている。顔を上げれば、店内を物色しに行っていた友人2人……北添と村上が戻ってきていた。村上に「和沙も悪いな」と声をかけられたので、「そんなに待ってねえから平気だぜ」と軽く雑誌を持ち上げて応える。

 

「この時期、限定もの多くて迷っちゃうんだよね〜。あ、『ピンクダークの少年』読んでる」

 

開いていた紙面を見て北添が目を輝かせた。村上もああ、と頷いて微笑んだ。

 

「面白いよな、これ。うちの隊もみんな読んでる」

「うちの作戦室にも既刊は全部あるしね、揃えたのカゲだっけ?」

「いや、半分くらいは光のやつ。あいつ、この作者の短編集も全部持ってるくらいファンだからな。ユズルもこれは好きらしい……おい、なんか刺さってきてるぞ和沙、痒いんだよ」

「ああ〜〜ッつい……悪ィ。やっぱり露伴先生はスゲェ漫画家なんだと思ってさ」

「はは、知り合いみたいに言うんだな」

「おっと、そう聞こえたかァ? ま、とりあえず帰ろうぜ」

 

 大変に高評価だ。さすがは露伴先生と言うべきだろう。あの人の漫画にかける情熱は本物だし、尊敬すべき部分だとはっきり言える――程度が行き過ぎなければ、だが。彼との最初の邂逅を思い出せば、何とも複雑な思いを抱かざるを得ない(それが影浦に刺さってしまったようだ、申し訳ないと思った)。こうして純粋に彼の作品を好きだと言っている読者も、作者本人に実際に会ったら印象が変わってしまうかもしれないな、と思う。けれど彼はあれでいて読者に対しては寛容だ、サインくらいスペシャルサンクスと言ってのけるほどに。……経験上、異世界の怪物と戦う防衛隊員の経験たる『リアリティ』を欲して【スタンド】を使いかねないので、やっぱり直接は会わせない方が良いのだろうけれども。

 コンビニを出て歩くうち、村上たちは既に別の話題に移っていた。明日影浦と村上のクラスは小テストで、その範囲がちょうど任務と重なり授業を受けていない時のものらしい。ボーダー隊員はなかなかに任務が不規則なので、こうして学校生活に穴を開けてしまうこともしばしば起こり得る。

 

「当真くんたちもしばらくいないし、帰ってきてから大変だろうね」

「こいつにノートとか頼んでんじゃねーの」

「おう、まあいつものことだしなァ〜〜。それにこっちには今先生という強〜い味方がいるもんで」

「今のノートすごく分かりやすいよな、俺もよく見せてもらうよ」

「はぁ!? 俺にも貸せよ!」

 

 わいわいと騒ぎながら家路を辿る。和沙は当真や国近、今とは同じクラスのため、わりと授業に関するやり取りも多くなる。当真という人間を思い出すと、そのヘアースタイルからまたも少々郷愁に駆られたりもするのだが――。今日はどうにも感傷的になりやすいなとぼんやり考えた。

 その時、それなりに大きな破壊音が響いてきた。もちろん警戒区域の方角だ。周囲の人々はちらりとその方角に視線を向けた後、何事もなかったかのように歩き出した。三門市がこうして戦場になってから数年経つが、市民はすっかり警戒区域から届く閃光や爆音に慣れてしまっていた。自分たちを襲いかねないトリオン兵やボーダー隊員の戦闘に興味を持ち、望遠で動画を撮っては話題にする者も少なからず存在する。しかし。

 

「……わりと近ぇな。大量の【メテオラ】でも使ったか?」

「この分じゃ警戒区域との境界ギリギリじゃないかな? 珍しいね」

「誘導誤差、結構ありそうだな」

 

影浦たちが会話をしている横で、和沙はしばらく、じっとその方向を見つめていた。

 

 

***

 

 

 杜王町。東北地方にあるその町の人口は国勢調査によると5万8千713人。町の花はフクジュソウで、特産品は牛タンのみそづけ。縄文時代の遺跡も残る、古い歴史を持つ町。

 和沙の故郷であるこの町で、2年前の春から夏にかけて事件が起こった。【弓と矢】、そして【スタンド】を巡る事件だ。和沙は同じ【スタンド使い】である幼馴染やその親族、友人とともに、解決のために奔走した。

 最終的な犯人は町民として暮らしていた連続殺人鬼だった。初めて殺人を犯した15年ほど前から証拠を残さず潜み続け、その間も何人も殺害していたという男。町の『誇り』と『平和』を、誰も気づかぬうちに奪い続けていた人間だ。杜王町は随分と前から行方不明者数が不自然に多かったのだが、その被害もそいつによるものだと後からわかった。さらに事件を追う中でも何人も犠牲者が出てしまい、杜王町はとても深く傷ついた……。その傷は数年経った今でも癒えてはいない。完全に癒えることはこれからもないだろう。

 吉良吉影は結局、逮捕されはしなかった。その前に車に轢かれて亡くなったからだ。『事故死』として片づけられ、その魂は町の守護聖霊曰く『安心なんてない所』に連れていかれた。そのはずだ。だって男が死ぬところをこの目で見たのだから。

 

 ――――では、この『黒いもの』は何なのだろう? 自分の手の中にあるこの『黒い腕時計』は? あの男が吹っ飛ばされる間際に触れてしまった、この手に残った『これ』は一体? たった今目の前に現れた、死んだはずの男の【スタンド】のヴィジョンは?

 

 それこそが【キラークイーン】――和沙の【スタンド】により吉良吉影から生み出された【黒トリガー】だった。

 

 和沙はその事実を理解した時、確かに恐怖した。

「まさか、まだ終わっていないのか?」

そう思った。あの男の何としても生き延びるという執念が、死んでからもなお自分に付き纏っているのではないか──そんな想像が頭を離れなかった。

 和沙は触れてしまった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その男に、『トリオンを操る』そのスタンドを発現したままで。

 全くの偶然だった。いや、それもまた『運命』であったのかもしれない。あの男は『命を運んでくると書いて運命』と評した。『運は自分の味方だ』とも。【黒トリガー】は、考えようによっては死者そのものであるともいえる。

 和沙が生み出してしまったものは、町の平和を脅かした『殺人鬼』の【黒トリガー】なのだ。

 

 ()()()()()、『覚悟』を決めた。三門市を故郷の二の舞にはしない。異世界からの侵略者である【近界民】には、この町の『誇り』と『平和』を奪わせてはならない。そして、自分のスタンド能力も、そしてトリオン能力も、町を守るための力だと示すべきだと思った。請われて力を貸すのならなおさらだ。だから、こう伝えた。ボーダーに所属するという意思を。

 

「俺が――いや、『俺も』この三門市(まち)を守ります。あなた方と一緒に……どんなことが起ころうと」

 

幼馴染は、警官だった祖父を一連の事件で亡くした。何十年も町を守った立派な正義の人だった。その時、彼は『代わりに』自分が町を守ると宣言した。正義の心を『受け継いだ』のだ。和沙がその言葉を借りたのは、自分の意思も『正義の心』であることの証明だった。星の一族や故郷の友人たちに恥じぬ行いをするための、固い決意だった。

 そして、町を深く傷つけた力で、町を傷から守ることができたなら。その時こそ、この事件から、その殺人鬼の執念から、解放される時だと思った。いや、絶対に解放しなくてはならない。この力ごと昇華しなければならない。その役目は他ならぬ自分が、その力を『受け継いで』しまった自分が果たすべきなのだ――。

 

 こうして和沙は、住み慣れた杜王町を離れ、新たに三門市でボーダー隊員として活動することになったのだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 和沙は彼らと別れてからボーダー本部に連絡を取った。先ほどの破壊音について把握しておきたかったからだ。話によれば、防衛任務の担当だった三輪隊が現着した時には既に、バムスターが粉々になっていたらしい。ボーダー隊員ではない誰かがやったとしか思えないという。まあ大方そんなところだろう、とは思っていた。

ちょっと考えて、オペレーターに頼んで開発室に繋いでもらった途端、鬼怒田に「勝手にあれを持ち出してはおらんだろうな!?」と騒がれたので、苦笑しつつ「まさかでしょ」と返した。しかし彼も気がかりだったのはその事である。そのために開発室に繋げてもらったのだ。すると電話越しに「持ち出した形跡はありませんよ」と若い男の声がした。チーフの寺島だ。

 

「それに見事にバラバラだったとはいえ、『あれ』の爆破とは随分違ったよ。今、検出されたトリガー反応を解析してるから、それで確実になるけど。ほぼ違うから安心して」

 

続けられた言葉に分かりましたと頷いた。【キラークイーン】は存在すら公にはされておらず、厳重に保管され持ち出すのも許可がいる上、適合者すら自分以外は未確認だ。それを使用するのは不可能だろうということは分かっていたが、聞いたところによると出力自体は結構なものだそうなので、念の為に確認しておきたかったのだ。

 ──この土地は多分、杜王町と似たような性質を持っている。

 【スタンド使い】が生み出されやすい……つまりスタンド適性のある人間が多い土地と、異世界からの侵略者が出現しやすい土地。それはまるで、その土地が持つ何かに惹かれるように。オカルトなどを信じているわけじゃあないけれど、きっと()()()()ものなのだと、和沙は思う。『スタンド使いは引かれ合う』と言われたように、重力が作用するように。きっと近界民と三門市も、互いに引き寄せ合っている。だから、そのバムスターの一件も――。

 何かが始まろうとしているのかもしれない。この空気が、あの日と似ているから。幼馴染の甥が町へやってきて、危険を告げたあの日の空気と。これは予感だが、おそらく本当になるだろう。迅ならばもう見えていてもおかしくないのだが、さて。

 礼を告げて通話を終える。そして顔を上げ──人だかりを目にした。

 ビルの間の路地を前にしてざわざわと顔を見合わせたり話したりしている人々の後ろからひょいと覗き込む。すると、まず白い髪の少年がひとり立っており、そしてその周りには、見事に意識を刈り取られたらしいガラの悪そうな成人男性4人が転がっていた。……あの少年がやったとしか思えない状況だが、しかし。和沙は逡巡した。

 

 

(カツアゲでもしようとして返り討ち、といったところか……救急車呼んだ方がいいのか? けど大きな怪我はなさそうだし)

 

 

 眉をひそめていると、不意に少年の視線がこちらを向いた。確実に目があったな、と思った。これは、もしかすると──

 

 

「うわっ!? なんだこれ!?」

 

 

 …………聞き覚えのある声だった。それは最近のものではなく、しかしとても印象的だったので覚えていた声だ。その声につられて白い髪の少年の視線が外れだ。声の主を認めたようだ。おうおかえり、と話しかけている。聞き覚えのある声の主は、白い髪の少年と何事か話した後、2人でその場からそそくさと退散していった。

 和沙は思わず空を仰いでため息をつきたくなった。故郷にいる友人の兄曰く、人の出会いもまた『重力』であるという。声の主は、紛れもなくあの時迅と共に助けたメガネの少年だった。彼と関わりのある少年となればそれは──。思ったよりも早く予感が的中してしまった。これからはきっと怒涛の日々が始まる。迅は既に忙しいだろう。無理をしないよう、手伝えることがあれば良いのだが。

 三門市も、杜王町に負けず劣らず奇妙な出来事のある町だが──自分のやることは変わらない。改めて気を引き締め、家路に着く。

 いつのまにかすっかり日の落ちた空には、未来を暗示するかのように数多の星が瞬いていた。

 




今更ですが、この世界はジョジョ世界観的にはもちろん並行世界なので、正確な原作時間軸ではないです。そのため原作と違った結末になったりしています。
「ジョジョリオン」世界線とは「岸辺露伴は動かない」世界線を挟んで反対側くらいの世界線のイメージです。
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