東方軌跡録   作:1103

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今回は没ネタを書き直した話です。
かなり前から構想していたのですが、話がまとまらず、見送ったものです。
とある漫画のネタがあるのですが、わかる人がいたら嬉しいです。


付喪神と騒霊と魔法のタクト

ここは無縁塚。外来人が不運に命を落とし、埋葬される場所である。

そんな場所に、プリズムリバー楽団と雷鼓率いる九十九楽団が一緒に演奏していた。

 

「ストップ! ストップ! また音がずれているわよ!」

 

雷鼓はそう言って、演奏を中断させた。どうやら演奏が上手くいかず、難航しているようである。

 

「一体何が駄目なんだろう・・・・・・?」

 

「最初は上手く行くんだけど、だんだんとずれてしまうのよね・・・・・・」

 

「どうしてなのかしら?」

 

「そんなの、そっちが旋律を崩しているからでしょ、おかげでこっちも崩れちゃうのよ」

 

「それはこっちの台詞よ! 貴女達がこっちに合わせないから、音がズレるんでしょうが!」

 

「何よ! そっちがついて来れないのが悪いじゃない! そんな言い掛かりを言う前に、腕を上げたら?」

 

「何をー!」

 

「何よ!」

 

「リリカやめなさい」

 

「八橋も喧嘩しない。もう講演まで、時間が無いんだから」

 

「プリズムリバー楽団と九十九楽団の合同演奏を、楽しみにしている人達が待っているんだから」

 

「「・・・・・・」」

 

その言葉に、リリカと八橋は黙ってしまった。

プリズムリバー楽団と九十九楽団の合同演奏はかなり有名となっており、幻想郷中に知れ渡っていた。それなのに、一度も通しが出来ていないことに、誰もが焦りを感じていたのである。

 

「取り合えず、今日の練習はここまでにしましょ。この状態じゃ、練習に身に入らないでしょうし」

 

雷鼓の提案により、その日の練習は終わることにした。しかし、誰もが心の内にある不安を振り払えずにいた。

 

―――――――――――

 

その日の夜。雷鼓は一人、ミスティアの屋台で飲んでいた。

 

「ミスちゃん、もう一杯」

 

「雷鼓さん、少し飲み過ぎじゃない? 何かあったの?」

 

ミスティアは心配そうに訪ねると、雷鼓は愚痴るように話始めた。

 

「演奏が上手くいかないのよ、公演まであと少ししかないのに・・・・・・」

 

「プリズムリバー楽団との? そんなに上手くいってないの?」

 

「うん・・・・・・」

 

雷鼓はそう呟き、力なく項垂れる。

 

「最初は上手くいくと思ったんだけどな・・・・・・見通しが甘かったのかしら?」

 

「まだ諦めるのは早いわよ雷鼓さん。ほら、雀酒でも飲んで元気出して」

 

「うん、ありがとうミスちゃん」

 

ミスティアに出された酒を飲む雷鼓。そんな時、一人の青年がやって来た。

 

「こんばんわミスティ。ん? 雷鼓もいたのか」

 

「あら、ジンじゃない」

 

「いらっしゃいジン。何にするの?」

 

「いつものヤツメウナギで」

 

「わかったわ。一緒に雀酒はどう?」

 

「それも貰おう」

 

「オーケー、少し待っててね」

 

そう言って、ミスティアヤツメウナギを焼き始めた。その間ジンは、雷鼓の隣に座って雀酒を飲み始めた。

 

「こんな所で油売って良いの? 奥さんが心配するじゃない?」

 

雷鼓はからかうようにそう言うと、ジンはきょとんとした。

 

「奥さん? 俺はまだ独身だぞ?」

 

「なに言ってんのよ、博麗の巫女の事よ。男女一つ屋根の下にいるんだから、それなりに進んでいるんでしょ?」

 

「からかうのはやめてくれ、俺と霊夢はそんな関係じゃない。それに、ちゃんと連絡したから大丈夫だ」

 

「あら? 怒らせちゃったかしら? ごめんなさい」

 

「まったく・・・そういう雷鼓はどうなんだ? 美人なんだから、言い寄る男はいるだろ?」

 

「残念ながら、まだそういうのに興味無いのよね。まだ生まれたてだし」

 

「そう言えば、小槌の魔力で生まれたんだっけ?」

 

「そうよ、まだ生まれたてホヤホヤなのよ♪」

 

「そのわりに、しっかりしているよな」

 

「そりゃ、道具としての年期は長いから、精神だけが成熟しちゃったのよ」

 

「なるほど、それだけ大事にされていた訳か」

 

「そうなのかしら? 道具の時の記憶は曖昧で、よく覚えて無いわ」

 

そんな他愛の無い話ながら、二人は酒を飲んだ。

そんな中、ジンは雷鼓にある事を訪ねる。

 

「ところで雷鼓、何か悩みごとでもあるのか?」

 

「え?」

 

「空の酒瓶がある。全部雷鼓が飲んだんじゃないのか? 不安な時ほど、酒を多く飲むものだ」

 

雷鼓は改めて、自分が飲んだ酒瓶を見る。その数は既に三本になっていた。鬼や天狗ならまだしも、普通の妖怪はここまで飲まないだろう。

 

「あー・・・確かに飲み過ぎだわね」

 

「悩み事があるなら、相談に乗るが?」

 

「どうせなら話してみない雷鼓さん。もしかしたら、いい案が出るかもよ」

 

「そうね・・・話すだけなら別にいいかな? 実は―――――」

 

雷鼓はジンに、演奏が上手くいかない事を話した。

 

「なるほど・・・音がズレるのか」

 

「そ、何回やっても途中でズレてしまうのよ」

 

「うーん・・・こればかりは実際聞いてみないとわからないな。次の練習はいつ頃だ?」

 

「え? 明日もやるけど・・・・・・聴きに来るの?」

 

「当然だろ。聴いてみないことには、何も分からないからな。そちらが良ければ、聴かせて欲しい」

 

「別に構わないけど・・・・・・良いの? そっちにだって、都合があるんじゃない?」

 

「少しくらいなら大丈夫。それに、困った友人を放っておけない」

 

「・・・・・・貴方って人は、本当にお節介焼きね」

 

「良く言われる」

 

「それじゃ、お願いしてもいいかしら?」

 

「ああ、どんと来い」

 

「ふふっ、ありがとうジン」

 

雷鼓は微笑みながら、ジンに礼を言った。

 

―――――――――――

 

翌日。プリズムリバー楽団と九十九楽団の練習場に、ジンの姿があった。

 

「今日は、彼に私達の演奏を聴いて貰う事にしたわ」

 

「よろしく頼む」

 

突然の事に、戸惑いを隠せないメンバー達であった。

 

「聴いて貰うって・・・・・・」

 

「まだ通しも成功していないのに?」

 

「だからこそよ。このまま練習しても、上手くいかないでしょ? それに、聴いて貰う事で分かる事もあるし」

 

「一理あるね。こういうのって、リスナーの方が色々と気づけると思う」

 

「まあ、姉さんがそう言うなら・・・・・・」

 

「話がまとまったところで、さっそく始めるわよ」

 

雷鼓がそう言うと、メンバー達は演奏の準備を始める。

 

「ワン、トゥ・・・ワン、トゥ、スリー」

 

雷鼓の太鼓の音が鳴り響き、それを合図にメンバー達は楽器を鳴らし始める。

流石は演奏のエキスパートと言うべきか、彼女達が奏でる旋律は素晴らしい物だと、ジンはそれを肌で感じていた。しかし――――。

 

(ん? なんだか、音がだんだんとズレていっているな・・・・・・)

 

昨夜、雷鼓が言っていた通りに、彼女達の演奏は徐々にズレ始め、先程の美しい旋律は、影も形も無く無惨な雑音となっていった。

これには、演奏者達も耐えられないのか、演奏を途中で止めてしまう。

 

「どうジン? 聴いてみて、何かわかったかしら?」

 

「・・・・・・」

 

雷鼓の問いに、ジンはしばらく考え、静かに口を開いた。

 

「聴いてみて、というより。“視て”わかった事がある」

 

「視て?」

 

「ああ、先程の演奏の音―――旋律を能力で視てみたんだ」

 

「そんな事も出来るの貴方!?」

 

「旋律も、言ってみれば音の軌跡だからな、見ようと思えば見れる。それでさっきの続きだが、主な原因は雷鼓にあると思う」

 

「え? 私?」

 

「ちょっと! 雷鼓姐さんの演奏にいちゃもんつける気!?」

 

「いくらジンでも、雷鼓姐さんを侮辱は許さないよ」

 

八橋と弁々は、ジンを強く睨み付けた。そんな二人を、雷鼓がたしなめる。

 

「やめなさい二人とも」

 

「でも!」

 

「原因が私にあるのなら、それを直さない限り、演奏は上手くいかないわ。まずは話を聞いてみましょう」

 

「むぅ・・・・・・」

 

雷鼓の言葉に、二人は渋々下がった。

 

「さてと、それでジン。私の何がいけなかったの?」

 

「雷鼓の太鼓演奏は素晴らしいと思う。だけど今回はそれが仇となってしまっている」

 

「どういうこと?」

 

「はっきり言うと、雷鼓の演奏がプリズムリバーの演奏の邪魔をしてしまっている」

 

「ちょっと待ちなさい! さっきから聞いていれば、ずけずけと――――」

 

「八橋、少し黙っていなさい」

 

「でも雷鼓姐さん・・・・・・」

 

「いいから」

 

「はい・・・・・・」

 

「それで、私の太鼓がプリズムリバーの演奏を邪魔しているって言ってたけど、具体的にはどんな感じなの?」

 

「そうだな、雷鼓のリズムに巻き込まれてしまって、自分達リズムが掻き乱されてるって感じだな。特に、リリカが一番乱されていた」

 

「そうなのリリカ?」

 

ルナサがそう訪ねると、リリカも思い当たる事があるのか、頷いて答えた。

 

「確かに、リズムが引っ張られる感じがした気がする」

 

「恐らくだが、リリカの音が崩されてせいで、ルナサとメルランの音も崩れてしまった。それがあの不協和音の原因だと思うぞ」

 

「ちょっと待って! それなら原因は雷鼓姐さんじゃなくて、プリズムリバーの方にあるんじゃないの?」

 

「そうね、私達は普段通りに演奏出来たもの。雷鼓姐さんのリズムについてこれないのが悪いわ」

 

「何を!?」

 

「言わせておけば―――!」

 

「メルラン、リリカ、落ち着いて」

 

「八橋と弁々も、口を慎みなさい」

 

「「でも!!」」

 

「私達は一緒に音を奏でる仲間なのよ」

 

「「・・・・・・」」

 

「ごめんなさい。気を悪くさせちゃって」

 

「こっちこそ、上手くわせられなくてごめん」

 

「初めてのセッションだから仕方ないわ。それよりも、どうするかを考える方が先よ」

 

「そうだね・・・とりあえず演奏をして、音がおかしくなったらジンに指摘してもらう感じでいいかな?」

 

「それが一番ね。そういう訳でジン、もう少し付き合って貰うわよ」

 

「俺は別に構わないが・・・良いのか? 俺なんかが口出しして・・・・・・」

 

「いいのいいの、遠慮無く口出してちょうだい」

 

「・・・・・・わかった。上手くやれるかどうかは分からないが、やってみよう」

 

「そうこなくっちゃ♪ それじゃ始めるわよ」

 

そうして再び、演奏を始める雷鼓達。

演奏は順調に進み、問題の場所に来た瞬間、ジンは口を開いた。

 

「雷鼓。そこは抑えめで、あまり激しくし過ぎると、リリカが釣られる」

 

「オーケー」

 

最初の演奏より抑えめで太鼓を叩く雷鼓。すると、音ズレが起きなかった。

 

「弁々と八橋、雷鼓についていくだけじゃなくて、ルナサ達に合わせてくれ」

 

「わかったわ」

 

「偉そうに言わないで!」

 

「リリカはそのままで、お前が崩れると、ルナサとメルランも崩れてしまう」

 

「はーい」

 

「ルナサとメルランは、いつも通りリリカのフォローを」

 

「まっかせて♪」

 

「もちろん」

 

ジンは次々と指摘をし、旋律を導いていった。そしてとうとう、雷鼓達は演奏しきったのである

 

「通し・・・出来た・・・・・・」

 

「結構いい感じじゃない♪」

 

「でも、まだまだ課題はあるわね。公演に間に合うかしら・・・・・・そうだ!」

 

雷鼓は何かを閃き、ジンにある提案を出した。

 

「ねえジン、お願いがあるんだけど・・・・・・いいかしら?」

 

「ん? まあ、俺に出来る事なら」

 

「あのね、私達の演奏の指揮を取って貰いたいの」

 

「・・・・・・は?」

 

突然の雷鼓の提案に、ジンは茫然してしまった。

 

「い、いくらなんでも、俺なんかが皆の演奏の指揮なんて・・・・・・」

 

「私は良いと思う」

 

「ルナサ?」

 

「ジンのおかげ通しが出来た。だから、ジンに指揮してもらえば良くなると思う」

 

「だがな・・・・・・俺は指揮をした事なんて――――」

 

「これを貸してあげる」

 

そう言って、ルナサが取り出したのは、一本のタクトであった。それを見て、メルランとリリカは驚いた。

 

「姉さんそれ―――」

 

「レイラの―――」

 

「良いの。たまに使ってあげなきゃ」

 

ルナサの言葉に、メルランとリリカはそれ以上何も言わなかった。その会話から、そのタクトは三人にとって大切な物だと理解した。

 

「良いのか? 大切なタクトなんじゃ――――」

 

「うん、大切な妹のタクト。でも大丈夫、貴方なら信用出来る」

 

そう言って、ルナサはジンにタクトを手渡した。すると、不思議な力が流れるのを感じた。

 

「これってもしかして、マジックアイテム?」

 

「うん。それを使えば、指揮も問題なく出来ると思う」

 

「そうか・・・・・・」

 

ジンは試しにタクトを振ってみた。すると驚く程手に馴染み、まるで何十年も使用した愛用のタクトと錯覚する程であった。

 

「凄いなこれ・・・・・・」

 

「どう? 出来そう?」

 

「ああ、これなら出来そうだ。でも良いのか? 俺なんかが指揮者をやって・・・・・・」

 

ジンがそう訪ねると、他のメンバーは次々とその問いに答えた。

 

「まあ、さっきの指示良かったし、任せても良いと思うわ」

 

「ちゃんとやるなら、雷鼓姐さんの暴言をチャラにしてあげるわよ」

 

「ちゃんと音が分かるし、そのタクトを使えるのなら、心配無いよ」

 

「私は最初から大歓迎よ♪」

 

弁々、八橋、リリカ、メルラン達は、ジンが指揮者をやることに反対しなかった。

 

「そういう訳でジン。指揮の方をお願いね♪」

 

「・・・・・・ああ、ここまで期待されたら、逃げる訳にはいかないな。みんな、よろしく頼む」

 

こうしてジンは、雷鼓達の演奏に、指揮者として加わる事になった。

 

―――――――――――

 

数日後。指揮者が加わった事により、演奏は確実に良くなっていった。しかしそれでも、まだまだ改善する所が多く、ジン達は今日も練習に励むのであった。

 

「八橋、遅れている! メルラン、飛ばしすぎ! 雷鼓、そこはもう少し抑えて! リリカ、雷鼓に釣られるな!」

 

音の旋律を見ながら、ジンは的確に指示を出す。幸いにも、彼女達は音楽のエキスパートであった為、ジンの指示通りの演奏を直ぐ様出来た。

 

「よし! 今のは良い感じだ。これなら公演に間に合いそうだ」

 

「一時はどうなるかと思ったけどね」

 

練習の手応えに、メンバー達は笑顔を見せ始めた。

そんな時に、文がその場に降り立った。

 

「こんにちはー、文々。新聞の物ですー。今日は取材に――――って、ジンさん? どうして貴方がここに?」

 

「文か、えっとこれは――――」

 

「彼ね、今度の演奏の指揮者なのよ」

 

「そうなんですか・・・・・・え? ええー!?」

 

雷鼓の言葉に、文は驚きの声を上げ、それと同時に歓喜した。

 

(超特大スケープじゃない! 二つの楽団のセッションに、人間が指揮をする。これは逃せない特ネタだわ!)

 

「そこ辺りの所を詳しく教えて貰えませんか!?」

 

「別に構わないが・・・・・・」

 

「まだ練習途中だから、あまり時間は取れないわよ?」

 

「構いません! 十分だけでも良いので、教えてください!」

 

「まあそれくらいなら――――」

 

「ちょっと待ったー!」

 

声と共に、今度ははたてがやって来た。どうやら余程急いで来たらしく、息が荒々しかった。

 

「ああ! 先を越された!」

 

「あら、はたてじゃない。どうしてここに?」

 

「念写したら、偶然にもこんな写真が取れて」

 

そう言って、はたてはカメラの画像を見せる。するとそこには、タクトを振るうジンの姿があった。

 

「これを見たら気になって、急いで来たわけ。もっとも、文に先を越された訳だけど・・・・・・」

 

「別に独占インタビューって訳じゃないんだから、聞きたいことがあれば、遠慮なく聞いて構わないわ」

 

「え? 良いの?」

 

「ええ、貴女もそれで良いわよね?」

 

「本当は独占インタビューしたかったんですけど・・・・・・仕方ありませんね」

 

「あと、時間があまり取れないから、質問は一つずつにしてちょうだい」

 

 

「ええわかりました。それでは先ず私から――――」

 

こうして文とはたては、それぞれ質問をし、それをメモに書き留めた。

 

「なるほど・・・そういった経緯があったんですね」

 

「旋律を見る・・・それは共感覚って奴かしら?」

 

「うーん・・・俺の場合は能力を使って見ている訳だから、本当の共感覚っていう訳では無いと思う」

 

「疑似共感覚って訳ね、これもネタになりそうだわ。

あ、良かったら練習も見せてくれないかしら?」

 

「構わないわ。聴いてくれる人がいれば、それだけやる気は出るから。皆も良いわよね?」

 

雷鼓がそう訪ねると、誰一人反対する者はいなかった。

 

「良いみたいね。それじゃ、早速始めるわ」

 

直ぐ様順番に入るメンバー達。そして、ジンのタクトを振ると同時に演奏が始まる。

六つの楽器が、それぞれの音を奏で、ジンのタクトがそれを一つにまとめる。多少粗削りな所があるが、それは見事なメロディーとなっていった。

演奏が終わると、文とはたては拍手を送った。

 

「いやー! 素晴らしい演奏です! これなら公演も大丈夫そうですね!」

 

「いいえ、まだ改善する場所もあるから、完成度といえば五割程度よ」

 

「五割!? 今ので!?」

 

「どんなに出来が良くても、それで満足してしまえば、それはそこまでの作品になってしまう。これは音楽だけじゃなく、様々な物に言える事なの」

 

「なるほど・・・それなら、公演当日には、先程の演奏より素晴らしい演奏が出来るという訳ですね?」

 

「もちろんよ♪ 期待して待っていてね」

 

そう言った雷鼓の表情は、自身に満ち溢れていた。

 

―――――――――――

 

公演当日。会場である紅魔館のパーティーホールでは、プリズムリバー楽団と付喪楽団の演奏を聴こうと、大勢の客が入っていた。

その様子を、雷鼓とルナサはこっそりと見ていた。

 

「うわぁ・・・・・・凄い数ね」

 

「うん、これだけの人数は初めてかも」

 

「でも、それだけ燃えて来るわ。あー、早く太鼓を叩きたい!」

 

逸る気持ちを抑える雷鼓。そんな時、リリカが慌ててやって来た。

 

「ルナ姉!」

 

「リリカ? どうしたの?」

 

「楽屋が大変な事に・・・・・・ともかく来て! 姉さんが来ないと、どうにもならないから!」

 

イマイチ事態が把握できないルナサと雷鼓だったが、取り合えずリリカと共に控え室に向かった。

 

 

楽屋に戻って来た三人が目にしたのは、超ハイテンションになっているジン、弁々、八橋の姿であった。

 

「「「イヤッホゥゥゥゥゥゥ!!!」」」

 

 

「こ、これは一体・・・・・・?」

 

「まさか・・・・・・」

 

「そう、そのまさか。緊張を解そうと、ジンがメル姉に演奏を頼んじゃって・・・・・・」

 

「少しやりすぎちゃった♪ てへ♪」

 

「メルラン・・・・・・」

 

「ともかく、三人を元に戻すよ」

 

「何だが、不安になって来たわね・・・・・・」

 

その後三人は、ルナサの演奏によって、無事正気に戻る事が出来た。

 

「いやー、酷い目にあった・・・・・・」

 

「それはこっちの台詞よ」

 

「そうよ! 私達二人は、思いっきり巻き添えを食らったんだからね!」

 

「わ、悪かったって・・・・・・」

 

(本当はメルランが悪いんだけど・・・まあいいや)

 

そんなやり取りをしていると、小悪魔が楽屋に入って来た。

 

「皆さん、そろそろ開演の時間です」

 

「お、いよいよか。それじゃあ皆、行こう!」

 

ジン達は、小悪魔の案内のもと、ステージへと向かった。

 

―――――――――――

 

その頃会場では、観客達がステージの開演を待っていた。

 

「なー、まだ始まんないのかよー?」

 

「少しは静かにしなさい、周りに迷惑でしょ」

 

行儀が悪い正邪に、霊夢は注意するが、正邪は聞く耳を持たなかった。

 

「だってよー、ずっと待ちっぱなしで退屈なんだよー」

 

「ああもう、こんな時ジンがいてくれれば・・・・・・」

 

「正邪、霊夢が困らせないの」

 

「嫌だね、私は人を困らせるのが大好きなんだよ♪」

 

「駄目ですねこれは・・・・・・」

 

相変わらずの態度に、針妙丸と妖狐はため息をつく。

それからしばらくすると、、華仙と魔理沙がやって来た。

 

「騒がしいと思ったら、やはり貴女だったのね正邪」

 

「よお霊夢」

 

「華仙に魔理沙じゃない」

 

「げ、説教仙人・・・・・・」

 

正邪はあからさまに嫌そうな顔をすると、華仙は正邪に対して説教を始めようした。

 

「正邪、貴女が天邪鬼であることは、十分に承知をしているわ。けれども、最低限のマナーは守るべきよ」

 

「あーあー、こんな場所で説教を垂れるのは止めてくれない? 周りの奴が迷惑するだろ?」

 

((((お前が言うなよ・・・・・・))))

 

「ご心配なく、周りに迷惑掛けずに説教をするから。ルナ」

 

「え? 私?」

 

「貴女の能力で、私と正邪の声が外に漏れないようにして貰えないかしら?」

 

「げっ!? そこまで説教がしたいのかよ!」

 

「説教は、相手の事を思って行う物よ。これも貴女の為なんだから」

 

「そんなのは、余計な御世話だっつーの」

 

「まったく、貴女は――――」

 

突然二人の声が聞こえなくなった。ルナが二人の周りに消音の結界を張ったからである。

ようやく静かになったところで、魔理沙が霊夢に話し掛ける。

 

「ところで、今回はジンが指揮者をやるみたいだが、大丈夫なのか?」

 

「さあ? でも、アイツは一度決めた事は、何がなんでもやり通す人だから、大丈夫だと思うわ」

 

「まあ確かに、途中で放り出す奴では無いな。お、そろそろ始まるみたいだ」

 

照明が徐々に暗くなる。いよいよカーテンコールである。

暗くなった会場に、ステージのカーテンが開かれる。そこにはプリズムリバー楽団と付喪楽団の姿、そして中央にタクトを持ったジンの姿があった。

ジンは観客の方を向き、御辞儀をしてから、改めて演奏メンバーの方を向く。そして、タクトを振り上げた。

最初に力強い雷鼓の太鼓、それに続くように五つの楽器が音を奏でる。そしてジンが、その音をタクトを振って一つに纏めあげる。

 

「うわぁ・・・・・・」

 

「これは・・・・・・」

 

「綺麗・・・・・・」

 

観客達は息を飲む。何故なら、彼らの旋律が会場を虹色に染め上げていったからである。その光景は幻想的で、会場の誰もが心を奪われた。

この現象は、ジンの借りたタクトの効果であった。これは使用者の思いを形ちどる効力があり、かつての使用者はこれで三人の騒霊を生み出し、ジンは会場を覆う虹を生み出した。もっとも、指揮に夢中になっているジンは、虹が出ている事に気づく事はなかった。

そうして最後まで演奏をしきり、改めて観客の方を向くと―――――。

 

「ブラボー! ブラボー!」

 

「凄く良かったわよー!」

 

「もう一曲頼むー!」

 

拍手喝采の声が会場中に巻き起こった。

それからジンは、予定以上の曲を演奏し、観客達を満足させるのであった。

 

―――――――――――

 

それから数日後、ジンは新聞を読んで、何やら複雑そうな顔をしていた。

 

「“虹の指揮者誕生!”か・・・文の奴、いくらなんでも、大袈裟過ぎるぞ・・・・・・」

 

「あら、実際にあの演奏で虹を見たんだから、あながち嘘では無いでしょ?」

 

霊夢はお茶を啜りながら、にこやかにそう言った。

 

「それはそうだが・・・あれはルナサから借りたタクトの力だ。俺自身の力じゃない」

 

「ルナサ言ってたわよ。“確かにタクトの効果ではあるけど、あの虹を出したのは間違いなくジンの力”だって」

 

「買い被りだ。実際、あのタクト無しじゃ、あそこまで出来なかった」

 

「謙虚ね・・・もう少し見栄を張ったら?」

 

「見栄を張りすぎると、それは虚構になるからな。虚構は身を滅ぼす」

 

「やれやれ・・・・・・正邪みたいな自信があれば良いのに」

 

「まあな・・・・・・ところで、その正邪は? 最近姿が見えないが?」

 

「華仙に捕まった」

 

「ああ・・・そうか・・・・・・」

 

それからしばらく会話も無く、のんびり過ごしていると、突然境内の方から大声が聞こえて来た。

 

「ジーン! いるー!?」

 

「この声って・・・・・・」

 

「輝夜か?」

 

二人は急いで境内の方へと向かう。するとそこには輝夜の姿と、大勢の妖怪達がいた。

 

「うわ!? どうしたんだこれ!?」

 

「まさか、宣戦布告!?」

 

「違うわよ。皆メンバーよ」

 

「メンバーって・・・何の?」

 

「オーケストラよ」

 

「「オーケストラ?」」

 

イマイチ事態が把握出来ていないジンに、鈴仙が説明をした。

 

「実は、この前の演奏を聞いて、姫様が“私達もやろう!”と言い出して・・・・・・」

 

「それなら別に、バンドのメンバーでいいだろ? 何故オーケストラなんだ」

 

「ジンに指揮者をして貰いたかったのよ」

 

「俺の?」

 

「あの虹は綺麗だったから、もっと凄いのがみたいなって思って」

 

「あれはタクトのおかげであって、タクト無しじゃ無理だ」

 

「それなら大丈夫、プリズムリバーの人達にも声をかけたから」

 

「あ、そうですか・・・・・・」

 

「そんな訳で練習よジン。さあ行きましょう!」

 

「ち、ちょっと待て! 受けるとは言って――――」

 

「受けてくれないの?」

 

「・・・・・・やります」

 

「それでよろしい。それじゃ霊夢、ジンを借りていくから」

 

そう言って輝夜は、ジンの手を引き、強引に何処かへ連れて行ってしまった。

 

「あ! ちょっと!? まったくもう・・・ジンには、人の頼みを断る事を教えないといけないわね・・・・・・無理だと思うけど」

 

霊夢は大きく溜め息をつきながら、母屋へと戻っていった。

その後、妖怪オーケストラというのが公演され、ジンは指揮者としてさらに有名になるのだが、それはまた別の話である。

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