霖之助の考察が中々面白いので、個人的にオススメです。
ここは魔法の森の近くにある店―――香霖堂。そこでジンは、霖之助にある物の鑑定を依頼していた。
「これは・・・・・・」
「化石だ。かなりデカイのを玄武沢で見つけてな、一部を持って来たんだ。ところで、何の化石かは分からないか?」
興味津々に聞くジンであったが、霖之助は首を横に振って答えた。
「残念だけど、これについては僕の能力でもわからないんだよ」
「どういう事だ?」
「そもそも前提が間違っているんだよジン。これは化石では無くて、これは龍になろうとしている動物の骨なんだ」
「龍になろうとしている動物の? どう見ても化石にしか見えないんだが・・・・・・」
「化石には名称がついているけど、これには名称がついていないんだよ。
元々名前というのは確かに、神の力が宿る。けれどもそれは神の一側面でしか無く、元々神というのは姿形も曖昧で、名も無き存在でもあったんだ」
「うーん、確かに考えてみれば、殆どの神様の名前って、人間が分かりやすいようにつけられているよな。でも、それとこの化石――――いや、骨とどう関係しているんだ?」
「名前をつけられている物には、神の側面しか宿らない。けれど、名前がついていないものならば、側面では無く大本の――――つまり原初の神の力が宿るんだよ。そうして原初の力が宿った骨は、世界と同化し、徐々に大きくなる。やがて遥か未来で、龍となって復活するんだ」
「それじゃ、恐竜の化石なんかは、名前をつけられてしまったがために、龍に慣れなかった元動物なんだな」
「そうだね。名前をつけてしまう事で、原初の力が失われてしまい。その骨は成長を止めてしまうんだ。だけどこれは名前がついていないから、化石では無く骨なんだ」
そう言って、霖之助は骨をジンに返した。ジンは霖之助の説明を聞いて、何となく納得した。
確かに恐竜の殆どは化石で発見され、実際生きている恐竜を見た人間はいない。それ故、図鑑等に載っている恐竜の生態は全て推測でしか無い。
そして、ここ幻想郷には、外の世界では存在しない妖怪や神、龍がいる。そう考えると、霖之助の説明にも一理あると思うジンであった。
「なるほど、ありがとう霖之助。おかげで色んな事がわかった」
「別に構わないよ。ところで、その骨はどうするんだい?」
「元にあった場所に戻す。折角龍になっても、体の一部が無くなっていたら大変だろ?」
「なんとも君らしい考えだね。まあ、それがいいだろう」
こうしてジンは、香霖堂を後にし。骨があった場所へ向かうのであった。
―――――――――――
玄武の沢に到着したジンは、無数にある洞の一つに入って行った。
「ここだな」
洞の中には、巨大な化石―――動物の骨が、岩壁に埋まっていた。
ジンは持っていた骨を元の場所にはめ込んだ。
「これでよしっと・・・そうだな、他の奴等に見つからないように隠していた方が良いな。もし誰かに見つかって、名前をつけられたり、骨を取られたら大変だろうし」
そう思ったジンは、土獸を召喚し、土を操って骨全体を隠した。骨は完全に土に隠れ、端から見れば、ただの岩壁にしか見えないくらいである。
「これでよし。頑張って龍になれよ」
そう言って、ジンは玄武の沢を後にした。
しかし、これが騒動の始まりだとは、この時のジンは想像していなかった。
―――――――――――
それから数日後。日がすっかり落ち、辺りが暗くなった夜道を、妖夢はただ一人で歩いていた。
「すっかり遅くなってしまった。早く帰ろう・・・・・・」
妖夢はおっかなびっくりしながら、急いで白玉楼へと帰ろうとしていた。
「ううっ・・・誰か一緒なら怖く無いんだけどな・・・・・・」
怖さを紛らわせようと、独り言を呟きながら歩く妖夢。その背後から大きな影が伸び、妖夢に重なった。
「あれ? 急に暗くなったような・・・・・・」
妖夢は不思議そうに後ろを振り向くと、そこには骨だけの巨大な物体がそびえ立っていた。
「―――――」
「・・・・・・キ、キャァァァァァァァァァ!!??」
妖夢はその恐ろしい姿を見てしまい。大きく叫び気絶してしまうのであった。
妖夢が悲鳴を上げる少し前、ジンは一人夜道を歩いていた。
「すっかり遅くなってしまったな。早く帰らないと、霊夢に怒られるな」
そう考え、歩くスペースを速める。すると―――。
「キャァァァァァァァァァ!!??」
「なんだ!?」
突然鳴り響いた悲鳴。ジンは迷わず悲鳴があった場所に向かって走り出した。
「確かこっちから・・・・・・」
ジンは悲鳴の軌跡をたどり着け、その発声地点まで僅かな時間でたどり着いた。
しかしそこには、気絶している妖夢だけであった。
「妖夢? 何でこんなところで気絶しているんだ?」
ジンは改めて、この辺りで何が起こったのか知ろうと、軌跡を見始める。しかし、そこには妖夢意外の軌跡は残っていなかった。
「一体どういう事だ・・・・・・?」
この世界に存在するものであるならば、どんな物であっても軌跡が残るのだが、その痕跡は一切無かった。ただ分かった事は、妖夢は何かを見て気絶したという事実だけである。
「仕方ない、取り合えず神社に連れて帰ろう」
ジンは妖夢を背負い、神社へと帰る事にした。
―――――――――――
「本当なんです! 巨大な骨の怪物がいたんですよ!」
翌日の博麗神社。
起きた妖夢は、昨日の出来事を霊夢とジンに話していた。
「骨ねぇ・・・まあ幻想郷ならあり得るかも知れないけど、そんな大きい物が動くのかしら?
どうなのジン? そんな軌跡残っていた?」
霊夢は隣にいるジンに訪ねた。ジンは改めて、昨夜の出来事を思い出しながら答えた。
「いや、妖夢以外の軌跡は残ってはいなかった」
「ほら見なさい」
「そんな・・・・・・」
「だけど霊夢、妖夢は“何か“を見たのは間違いない。ただ、その“何か“の軌跡が残ってなかったんだ」
「なら話は簡単よ。妖夢は幻覚を見ていた。幻だから実態は無いし、軌跡にも残らないでしょ?」
「そんな筈は無いですよ! 私はちゃんとはっきり見ました!」
「でもさ、それなら何で軌跡が残らないかったの?」
「そ、それは・・・・・・日付が変わったとか?」
「いやそれは無いと思う。妖夢の悲鳴を聞いて、直ぐに駆けつけたからな」
「ううっ・・・・・・」
「ほら見なさい。怖い怖いと思うから、そんな幻覚を見るのよ」
「わ、私は・・・ちゃんと見たんです・・・・・・」
霊夢に対して、自分は見たと主張する妖夢であったが、肝心な証拠は無く、軌跡にも残っていなかったので、霊夢に全く信じて貰えなかった。
そんな必死な妖夢を見て、ジンは――――。
「妖夢が本当に、その骨の怪物を見たか、それなら調べてみよう。
「え?」
「ちょっとジン、何もそこまでする必要があるの? あんた言ったわよね? あそこには妖夢以外の軌跡はなかったって」
「確かに妖夢の軌跡しか残っていなかったが、だが妖夢が嘘をついているとは思えない」
「だからって、わざわざ危険に顔を突っ込む事は無いんじゃない?」
「まだ危険かどうかはわからないだろ? それに霊夢は、これは妖夢の幻覚だと思っているんだろ?」
「まあそうだけど・・・・・・」
「本当に骨の怪物が居たのなら、放っておけないし、妖夢の幻覚なら、そもそも危険なんて無いだろ?
ちゃんと調べてはっきりさせれば、妖夢だって納得するだろうし」
「あーもう、分かったわよ。好きに調べれば良いわ。ただし! 危ない事はしないように! もし怪物の住みかが分かっても、二人だけで行かず、ちゃんと私に知らせなさい!」
「ああ分かった。
それじゃ妖夢、人里で聞き込みだ。もしかしたら、妖夢意外に怪物を見た人がいるかも知れない」
「あ、はい!」
こうしてジンと妖夢は、骨の怪物を調べに、人里へと向かうのであった。
―――――――――――
人里の聞き込みを終えた二人は、近くの団子屋で休憩をしていた。
「ふぅ、疲れました・・・・・・」
「ああ、目撃情報が少なかったが、見てる人はいるもんだな」
「やっぱり、私が見たのは幻覚じゃなかったんですね」
「情報を整理してみよう」
二人はこれまでの情報をまとめてみた。
情報一、怪物の目撃は、決まって夜である事。
情報二、出現場所は人里周辺であること。
情報三、現れるだけで、特に何もしない。しばらくすると消えてしまうらしい。
「この三つだな」
「聞いていても、何が目的なのかさっぱりですね・・・・・・」
「そうだな・・・人を襲う訳でも無いし、ただ現れて何がしたいんだ?」
「「うーん・・・・・・」」
二人は頭を捻って考えたが、答えは出なかった。
「何はともあれ、妖夢が見たのは幻覚じゃなかったって事が証明されたな」
「はい! でもそうなると、どうして軌跡が残っていなかったんでしょうか?」
「それについてはわからない。何かカラクリがあるんだろうが・・・・・・ともかく、今回の件については霊夢に話しておくべきだな」
「そうですね・・・・・・あっ!」
「どうした?」
「ゆ、幽々子様に御使いを頼まれていたのをすっかり忘れていました・・・・・・しかも、一晩過ぎています・・・・・・」
「・・・・・・ま、まあそれについては俺にも非があるからな。一緒に行って、幽々子に事情を説明しよう」
「あ、ありがとうございます」
妖夢は深々と頭を下げて、ジンに礼を言うのであった。
その後ジンは妖夢と共に白玉楼に向かい、幽々子に事情を説明しに行く事にした。
―――――――――――
白玉楼につくと、案の定幽々子は怒っていたが、ジンが事情を説明すると、僅かばかりではあるが、怒りを鎮めてくれた。
「まったくもう、仕方ないわねぇ・・・今回はジンに免じて許して上げるわ」
「あ、ありがとうございます幽々子様!」
「ただし。罰として、今後は一日七食にしてもらうわ♪」
「えっ!?」
「あら不服かしら? 本当は十食にしようと思ったけれど」
「先進誠意! 七食作らせて貰います!」
「ふふっ、それでよろしい。
ところでジン、貴方はどうするの?」
「どうするって?」
「今から帰っても、日がくれてしまうわ。妖夢が見た怪物は夜に現れるんでしょ? 危険じゃないの?」
「大丈夫じゃないか。話を聞く限り、人を襲う訳では無いらしい。現に妖夢だって無事だった訳だし」
「豪胆ねぇ、その豪胆さを妖夢に分けて貰いたいわ」
「うぐっ」
「まあ、どんな人物だって、苦手な物はあるさ。そう目くじら立てるなよ」
「貴方って本当に甘いのね。子供を甘やかすタイプかしら?」
「ははっ、そうかも知れないな。
ともかく、俺は大丈夫だから。それじゃあまた」
「あ、はい! 今日はありがとうございました!」
そうすて帰って行くジンを、妖夢は頭を下げて見送り、幽々子は心配そうにその背中を見つめた。
―――――――――――
幽々子の言った通り、人里近くにつく頃には、すっかり夜になっていた。
「あー、これは霊夢に叱られるかな? 念のため連絡はしておいたんだが・・・・・・」
そんな事を呟いていると、その背後から大きな影が伸び、ジンに重なった。
「ん? なんだ?」
ジンは気になって後ろを振り向くと、そこには巨大な骨の怪物が立っていた。
「なっ!?」
妖夢の話と、目撃情報から照らし合わせても、目の前にいるのは恐らく件の怪物と同じものであろうとジンは考えた。そして彼は、その怪物に見覚えがあった。
「お前は化石の―――」
そう、以前ジンが見つけた化石その物であった。その化石が、まるで映画のワンシーンのように、目の前に立っていたのである。
「――――――」
怪物はすぐ去る訳でも無く、ただジンをじっと見つめていた。
「ま、まさか、骨を取った事を恨んでいるんじゃ・・・・・・」
あり得る話であった。古今東西、神の物を無断で持ち出した人間には、災いや呪いが降りかかる。ましてや目の前にいるのは、原初の力を宿した物である。悪気がなかったと言え、骨を持ち出したのは事実である。
「―――――」
「くっ・・・・・・!」
怪物の頭が、徐々にジンに近づく。ジンは覚悟を決め、目を瞑った。
「―――――」
「・・・・・・?」
喰われると思っていたジンであったが、いつまで経っても怪物の牙が襲って来なかった。恐る恐る目を開けると、そこには怪物は立って居らず。あったのは光輝く石だけであった。
―――――――――――
後日。ジンは霊夢は、霖之助に拾った石を鑑定してもらおうと香霖堂を訪れていた。
「なるほど、怪物が居た所に、これが落ちていた訳だね」
「ああ・・・喰われるかと思った」
「まったくもう! そんな事になっていたんだったら何で浮遊玉で、私に助けを求めなかったの!?」
「相手は原初の神を宿した物なんだぞ。人間がどうこう出来る訳無いじゃないか」
「そんなの、やってみないとわからないじゃない」
「いや、僕もジンと同じ意見だよ。原初の神は他の神とは比べ物にならないほど強力だ。それこそ、八百万の神全てを喚ばないと抑えられない程にね」
「なら喚んでやるわよ。私だって神降ろしぐらい出来るもの!」
「なら、もっと修行を真面目にやらないといけないわね」
声と共にスキマが現れ、そこから紫出てきた。
「ご機嫌よう三人とも」
「こんにちは紫」
「何しに現れたのよ?」
「灯油はまだ要らないよ」
ジンは普通に挨拶を返す一方、霊夢と霖之助は苦い顔をしていた。
「あら、歓迎してくれるのはジンだけ? 寂しいわね・・・・・・」
「うっさいわね。あんだが出てくる時は決まって、何かを企でいる時が多いんだから」
「私ってそんなに信用無いのかしら?」
「だったら、その含み笑いをやめたら?」
「まあいいわ。それよりも、面白そうな物を持っているわね」
そう言って、紫はカウンターに置かれた石を手に取って、しばらく観察してから、三人の方に向き直る。
「ところで、これが何なのかわかったかしら?」
「分からないから霖之助に鑑定をお願いしたんだが・・・・・・」
「残念だけど、名称が分からなかったよ」
「でしょうね。これはあの龍のなりかけが作った護石だもの」
「護石?」
「ええそうよ。あの子はジンに御礼がしたかったようね」
「御礼って・・・そんな事をされるような事はしてない筈だが・・・・・・」
「したわよ。貴方はあの子の骨に名前をつけず、それをもとに戻し、誰にも見つからないように隠した。それだけで充分感謝されていたのよ」
「どういう事だ?」
「人間というのは、何でも名前をつけ、自分達の物しようとするのよ。外の数々の化石達も、そうして力を失ったわ。
けれど、貴方は違った。貴方は骨に名前をつける事をせず、それを元に戻し、そして誰にも見つからないように隠して上げた。
だからあの子は、貴方に礼をしたくて、見つかる可能性があるのに夜を出歩いていたのよ」
「まさか・・・・・・その為だけに?」
「貴方にとっては当たり前だけど、あの子にとっては大切な事だったのよ」
そう言って、紫は石をジンに手渡す。
「大事にしてあげなさい。それが、あの子の為にもなるんだから」
「・・・・・・」
「それじゃ、私は失礼させて貰うわ」
そう言って、紫はスキマの中に戻ろうとする。その時ジンは、ある事を思い出し、紫を呼び止める。
「待ってくれ紫!」
「ん? 何かしら?」
「少し疑問があるんだが、何故そいつの軌跡が見れなかったんだ?」
「そんなの簡単な事よ。
貴方が見れるのは、世界に刻まれた軌跡のみ。だから、世界と同化している物の軌跡は見れないのよ。なんたって、世界そのものだから」
「あっ、なるほど・・・・・・」
「疑問が解けてなによりよ。それじゃぁね♪」
紫はウインクしながら、スキマ中へと消えて行った。
―――――――――――
二人はその後、香霖堂をあとにし、神社に続く道を歩いていた。
その途中霊夢は、改めて護石を手にとって見ていた。
「紫の話が本当なら、これってもしかして、凄い物じゃない?」
「もしかしてしなくても凄い物だ。原初の神の加護が宿っているんだからな」
「ねえジン、これを神社で祭らない? きっと参拝客が来るわ♪」
霊夢は期待するようにジンそう言うが、ジンは首を横に振る。
「いや、これは祭らない」
「ええ!? どうしてよー?」
「だって祭ったら、名前をつけなくちゃいけないだろ? 名無しの護石じゃ、誰も御利益を期待しないだろうし。かと言って名前をつけたら、加護が無くなるだろ?
名前をつけるとしたら、この護石をくれたあいつが龍になってからの方が良いんじゃないか?」
「そいつが龍になっている頃には、私達死んでいるわよ?」
「でも、霊夢の子孫の代で龍になっているかも知れないだろ? そうなったらその子達に祭って貰えば良いさ」
「・・・・・・ジンって、あんまり自分の事を考えないわよね」
「これでも、一応考えているつもりなんだが・・・・・・」
「だったら、もう少し我が儘に生きてみたら? 人生は短いんだから、楽しまなきゃ損よ」
「これでも充分楽しんでいるんだが・・・まあ、そこまで言うなら、今度デートしてみないか?」
「良いわよそれぐ――――え?」
「だからデートだよ。考えてみると、旅行には行ったけど、一度も遊びには出掛けてはいないだろ? だから今度行かないか?」
「え、えっと、その・・・・・・」
「駄目か?」
「だ、駄目じゃないけど・・・・・・」
霊夢は顔を真っ赤にしながら、あたふたしていた。
そんな様子を見て、ジンはクスクスと笑った。
「あっ! あんた今笑ったわね!」
「なかなか面白い反応をしたから、つい」
「こ、この・・・馬鹿ー!!」
「ぐえ!?」
霊夢は持っていた護石を、勢いよく投げつけ、ジンの顔面に見事直撃させるのであった。