実は、香霖堂と茨歌仙の霊夢の妖怪退治の仕方がガラリと変わっているんです。
香霖堂では、通り魔当然に朱鷺子を襲い本を強奪、それを香霖堂のツケの払いにしています。一方茨歌仙では、妖怪を追い払う振りをしています。
この心境の変化を自分なりに考えて、今回の話しを書きました。
夕暮れ時。一人の妖怪がトボトボと街道を歩いていた。
「ううっ・・・・・・またあの巫女に、本を強奪されてしまった・・・・・・」
彼女の名前は朱鷺子、本好きの妖怪である。
ほんの少し前、霊夢にコテンパンにされて、本を強奪されたばかりの不幸な妖怪でもある。
「くっそー・・・・・・あの巫女、絶対に許さないんだから!」
「おーい」
「ん?」
霊夢にリベンジを決意する彼女に、一人の青年がやって来た。
「何よ人間? 私は機嫌が悪いのよ。食べられたくなかったら、さっさとどっか行きなさい」
もちろんこれは単なる脅しである。幻想郷の人間を危害を加えていけないのが、ここでの最低限のルールだからだ。
すると青年は、一冊の本を朱鷺子に差し出した。
「これを渡したら、すぐに帰る」
「これって・・・私の本!?」
それは先程霊夢に奪われた本であった。朱鷺子は驚きを隠せないまま、それを受け取った。
「それじゃ、俺はこれで」
「待って!」
帰ろうとする青年に、朱鷺子は呼び止めた。
「どうして本を取り返してくれたの? 私と貴方は赤の他人じゃない」
そう訪ねると、青年はごく当たり前のように答えた。
「確かに赤の他人だけど、本を取られて困っていると思ったから」
「え? そんな事の為にわざわざ取り返してくれたの?」
「ああ。もしかして、余計なお世話だったか?」
「いや、そうじゃないけど・・・・・・」
「それなら良かった」
青年は笑顔でそう言うと、来た道を戻って行った。朱鷺子は慌て声を上げた。
「あ、ありがとー!」
朱鷺子の声が聞こえたのか、青年は手を振ってその場を去って行った。
それから数年の月日が流れるのであった。
―――――――――――
ある日の夜。朱鷺子はミスティアの屋台で、ヤツメウナギを食べながら、本を取り返してくれた青年の話を、ミスティアに話していた。
「――――ってな訳なのよ。すっごく良い奴でしょ?」
「その話は何度も聞いたわよ」
ミスティアは少しうんざりした様子で、ヤツメウナギを焼いていた。
話からすると、朱鷺子はその青年を好いている様子で、ことある事にその話を聞かされていたのである。
「それで? その人の行方はわかったの?」
「それが・・・・・・全然わからないのよ~」
先程の上機嫌とはうって変わり、朱鷺子は泣き上戸のように泣き崩れた。
「名前も素性も、どこ辺りに住んでいるかもぜーんぜん、不明なのよ~。こーんなに探してるのに~」
「泣くな泣くな。泣いたって、その人に会える訳じゃないんだから」
「くすん・・・・・・なんであの時に名前を聞かなかったんだろ・・・・・・」
「過ぎた事を言っても仕方無いわ。いつかきっと会えるって」
「そんな事言ったって・・・かれこれ数年経っちゃってるし・・・・・・このままだと会う前に、あの人は老衰しちゃうんだろうなぁ・・・・・・あーもう! なんで人間の寿命は短いのよー!」
「それについては同感だぜ」
声と共に魔理沙がやって来た。朱鷺子は彼女を見て、嫌そうな顔をした。
「げっ、黒いのじゃない」
「私には魔理沙っていう、立派な名前があるんだぜ」
「どうでも良いわよ。あんたとあの巫女とは関わり合いたく無いもの」
「そうつれない事を言うなよ。弾幕勝負した仲だろ?」
「一方的にぶちのめされた気がするんだけど?」
「そんな細かい事は覚えていないんだぜ」
「うっわー、もの凄くムカつくんだけど」
「おっ、リベンジなら受けて立つぜ」
「こらこら二人とも、私の屋台がある場所で、弾幕勝負はやめてよ。そんな事よりも、美味しいヤツメウナギとお酒はいかが?」
「もちろん頂くぜ」
「まだまだ飲むわよ」
ミスティアの機転により、魔理沙と朱鷺子は弾幕勝負せず、ヤツメウナギを食べ始めた。
それを見て、巻き添えをくわずに済んだ一安心するミスティアであった。
「ところで、何の話をしていたんだ?」
「貴女には関係無いわ」
「まあそう言わずに教えてあげなよ。もしかしたら、何かの手がかりになるかも知れないし」
「ミスティアがそう言うなら・・・・・・」
朱鷺子はあまり気は乗らなかったが、魔理沙に先程の話をした
「ふーん、物好きな奴もいるもんだな」
「私から見れば、あんた達よりまともな人よ」
「失敬な、私は善良な魔法使いだぜ」
(善良なのかしら・・・・・・?)
ミスティアは疑問に思ったが、あえて口には出さなかった。
「つまりだ。霊夢から本を取り返してくれた奴を探しているって訳だな」
「そうよ。でも、名前を聞き忘れて・・・・・・」
「それなら大丈夫だ。私にかかれば、探し人の一人や二人、直ぐに見つかるぜ」
「本当に!?」
「ああ、なんたって私は、人を探すプロなんだぜ」
魔理沙はニカッと笑いながら、自信たっぷりにそう言った。
―――――――――――
翌日。魔理沙は霊夢に、当時の事を聞く為、博麗神社を訪れた。
「――――ってな話があったんだよ」
魔理沙は大体の経緯を霊夢に話すと、霊夢は苦虫を潰した表情をした。
「ああ、そう言えばそんな事があったわね・・・・・・」
「話を聞く限り、本を取り返しくれた奴はジンだろ?」
「ええそうよ。っていうか、分かっていたのなら何で直ぐにその妖怪に教えてあげなかったのよ?」
「私としては、依頼より。霊夢からどうやって、本を取り返したの方が気になるんだがな」
魔理沙はニヤニヤと笑いながらそう言った。どうやら彼女は、霊夢の失敗談の方にしか興味が無いらしい。一方霊夢は、何処か複雑そうな顔をしていた。
「別に、大したことじゃないわよ。普通にジンに渡しただけよ」
「嘘だな。お前が何も無しに、妖怪の物を返す訳が無いぜ」
「あんたねぇ・・・私を何だと思っているのよ?」
「傍若無人な巫女」
「うっ・・・まあ、正直あの頃はそう言われても仕方無いわねぇ・・・・・・」
「ん? やけにあっさり認めるんだな」
「まあね、あんな事を言われたら。昔みたいに振る舞え無いわよ」
そう言って、霊夢は語りだした。
―――――――――――
数年前のある日。偶然見掛けた本好きの妖怪である朱鷺子を、霊夢は問答無用で襲い掛かり、コテンパンにした後、彼女が持っていた本を強奪。それを香霖堂に売りに行こうとしていた。
『ふふん♪ これはきっと値打ちがあるものに決まっているわ♪』
高価そうな本を手に入れて、霊夢は御機嫌であった。そんな時、ジンとばったりと出会う。
『あらジン。こんなところで何をしているの?』
『何をって・・・神社の宣伝の帰りだ。里の人に、博麗神社の事を知って貰おうと思って』
『あんたそんな事をしていたんだ』
『そんな事って・・・寧ろ逆に、何で宣伝をしてないんだ? 中では、神社の存在を知らない人もいたんだぞ?』
『ええ!? 嘘でしょ!?』
『本当だ。実際、博麗神社は守矢神社の分社程度の認識しかされていない』
『何てことなの・・・どうりで本殿の賽銭より、守矢の分社の賽銭が多い訳ね・・・・・・おのれ守矢!』
『いや、そこに怒るのか? 寧ろ、経営作業を怠った霊夢に非があるだろう?』
『うっさいわね、これでも努力しているわよ。これ以上どう努力するのよ?』
『先ずは神社への道の整地、神社の宣伝と売り込み。他にもやりようはあると思うが?』
『私は妖怪退治専門なの。そういう、まだるっこしい事は門外』
《結局努力しないって事か・・・・・・やれやれ》
ジンは小さくため息をつく。そんな時、霊夢が持っている本に気づく。
『ん? 霊夢その本は?』
『これ? さっきあった妖怪から奪った物よ。なかなか高価そうだから、霖之助さんに買い取って貰おうと思って』
『奪ったって・・・・・・』
ジンは霊夢の話を聞いた途端、何処と無く怒っているような表情をした。
『霊夢、いくら何でもそれはいけない事だぞ』
『何でよ?』
『何でって・・・古今東西、強奪は悪い事だと決まっているだろ?』
『それは人に対してよ。妖怪には当てはまらないわ』
『それって、妖怪相手なら何をしてもいいって訳か?』
『ええ、もちろん。あいつらはいっつも人間に迷惑かけているんだから』
『だが、全部が全部迷惑をかけている訳じゃないだろ? 仲には人間と仲が良い妖怪だっている』
『あんた、白蓮みたいな考えしているわね。洗脳でもされた?』
『俺は元々、そういう偏見は嫌いなだけだ』
『まあ良いけど。ともかく、妖怪は自分達の所業を悪いと思っていないんだから、質が悪いのよ。 ああいう輩は、問答無用にガツンとやんなきゃ分からないのよ』
『・・・・・・そんなんじゃ駄目だ霊夢』
『え?』
『霊夢。一つ聞くけど、さっき本を奪った妖怪は、一体何の悪さをしたんだ?』
『そ、それは・・・・・・』
『答えられないな? 当然だ。霊夢はただ妖怪ってだけで、その妖怪に危害を加えたんだから』
『な、何よ? 相手は妖怪なんだから、退治して何が悪いのよ?』
『ならはっきり言ってやる。お前がやっている事は、お前が言う人に迷惑をかけている妖怪と、何の大差も無い』
『なっ!?』
ジンのその言葉に、霊夢は驚愕を受けた後に、ジンに怒りを感じた。
『私が、あいつらと大差無いですって!?』
『ああそうだよ。はっきり言って大差が無い。
問答無用で妖怪退治する霊夢も、人に迷惑をかけている妖怪も、俺から見れば同類だ』
『言わせておけば――――』
『反論があるなら聞く、言ってみろよ』
挑発するようなジンの態度に、霊夢はますます怒りを感じていった。
『それじゃあんたは、妖怪退治をするなとでも言うの!?』
『俺は反論があるなら聞くと言ったんだが?』
『ぐぅ!』
『まあいい。妖怪退治に関しては仕方無いと思う。そうしないと困る人がいるんだからな』
『何よ、さっきと言っている事と違うじゃない』
『話を最後まで聞け、妖怪退治は反対では無いが、無差別に妖怪退治をするのは良くないと言っているんだ』
『つまり、悪さをしている妖怪だけ退治をしろと?』
『そういう事だ』
『あっきれた、散々偉そうな事を言っておいて、結局白蓮と同じ事を言うのね。
いい? 規則っていうのは、作った本人が得になるよう作られるのよ。だから誰も守らないし。例え破っても、力押しでうやむやにするのがオチだわ』
『霊夢こそ何を言っているんだよ? そういう時の為に、博麗の巫女がいるんだろ?』
『え?』
『俺は別に、規則を作るなんて言わない。寧ろ、そんな物は幻想郷じゃ役には立たないと実感した。でもな、だからって何をしていいって訳じゃない。
例えば、問答無用で人間を襲う妖怪がいたとする。そしたら、霊夢はどうする?』
『もちろん退治するわ』
『なぜ?』
『そんなの分かりきっているじゃない。そんな理由で人を襲ったからよ』
『ああそうだな。なら、立場が逆だったら? どっちが悪いと思う?』
『え? そ、それは・・・・・・』
霊夢は答えられなかった。もし人間の方が悪いと言えば、今までやってきた妖怪退治のあり方を、自ら否定することになる。逆に妖怪の方が悪いと答えれば、妖怪が問答無用で人間を襲う事を肯定してしまう事になる。
『霊夢はわかっている筈、自分がやっている事は悪いことだって。それが理解出来ているのなら、自ずと退治すべき妖怪がどういう奴かわかるんじゃないか』
ジンの言葉を聞いた霊夢は、何処か悲しそうで、悔しそうに答えた。
『・・・・・・だって、あいつらが悪さをしているかどうかなんて分からないじゃない。
誰だって、自分の都合の良いように嘘をつく。それは妖怪も人間も同じよ。
あんただって、騙されたからこんなところにいるんだから』
それを聞いたジンは、今までの人生を振り返り、霊夢にハッキリと言った。
『・・・・・・確かにな。嘘はこの世の何処にでもある。でもな、だからって信じる事を止めたら、何も出来ないだろ?
例え嘘まみれな世界であっても、信じる事だけはやめたくない。俺はそう思っている』
『ジン・・・・・・』
『それに、その妖怪が悪さをしているかどうかなんて、簡単に分かるぞ』
『え?』
『俺の能力を使ってその妖怪の軌跡を視れば、そいつが悪さをしたかどうか、一発で分かるだろ?』
『それはそうだけど・・・・・・』
『霊夢。自分の行動を正当化したいのなら、それに見合った振る舞いをしないと駄目だ。そうしないと、相手からも周囲からも理解を得られない。事実、参拝客は増えていないだろ?』
『むぅ・・・・・・』
『今すぐ変われとは言わない。人間はそう簡単に変われる生き物では無い。でも、少しずつ変わっていけるのも人間だ』
ジンの話を聞いて、何か思うところがあったのか、霊夢は小さく頷いた。
『・・・・・・分かった。確かに妖怪退治に関しては、思うところもあったし、少し考え直してみるわ』
『そう言って貰えて嬉しい。それと、生意気な事を言って悪かったな』
『え? 何であんたが謝るのよ?』
『いくら自分の言い分だからと言って、霊夢に不快な思いをさせたからだ。その辺りは悪いと思っている』
『・・・・・・はあ、あんたには口で勝てそうに無いわねぇ。分かった、今回は私の敗けよ。この本も、あの妖怪に返してくるわ』
『いや、それは俺がやる。霊夢が行ったら、向こうが逃げるかも知れないだろ?』
『それは否定出来ないけど・・・・・・あんたが行ったら襲われない?』
『その時は、博麗巫女に助けて貰うさ』
『言ってくれるわね。まあ、人を襲う妖怪なら、容赦しなくて良いんでしょ?』
『ああ。その時は思いっきりやれば良いと思う』
ジンと霊夢は笑い合いながらそう言い、本を返しに来た道を戻って行くのであった。
―――――――――――
「――――ってな訳よ」
話終えた霊夢は、御茶を啜りながら一息ついた。
「それから、その妖怪を見つけて、私は物陰から様子を見ていた訳。まあ結局、何もなかった訳だけと」
「ふーん、そんな事があったのか。道理で丸くなった訳だな」
魔理沙は縁側に置かれたお茶菓子を食べながら、そう言った。
ジンとの一件以降、霊夢は無差別に妖怪退治をしなくなり、一方で悪さをする妖怪を厳しく懲らしめるようになった。その姿から、里の人間に信頼されるようになり、逆に悪さをする妖怪から恐れられるようになった。更にそれが抑止力になったのか、悪さをする妖怪が激減したという。
「しばらくして、文から聞いたんだけど、私の妖怪からの評判は、当時は通り魔扱いだったらしいのよ」
「まあ、普通の妖怪からしてみれば、そうなるだろうな」
「それから、悪さをする妖怪だけを退治するようになってから、里の守護者扱いになって、悪さをする妖怪達が私を恐れて、里に近づかなくなったらしいのよ」
「おお、見事に騙されているな」
「そんな訳で癪なんだけど、問答無用で妖怪退治するより、悪さをする妖怪を退治した方が、信仰が得られるって分かったのよ」
「まあ確かに。通り魔より、悪を挫くヒーローの方が見栄えが良いな」
「そうものなのかしら?」
「そういうもんだろ?」
二人はしばらく無言のまま御茶を啜り、御茶菓子を食べていた。すると、おもむろに霊夢が口を開いた。
「・・・・・・ああいう事を言われたの、初めてだった」
「ん?」
「人外達には、よく無差別に妖怪退治はしない方が良いって言われていたけど、はっきり言って妖怪側の連中だから、自分の都合しか言っていないと思ったのよ」
「まあ確かに、人とは言い難い連中だな」
「でもジンは、人間側であるにも関わらず、私にそう言ってくれた。いえ、もしかしたら私と同じ立場で言ってくれたかも」
「同じ立場?」
「ねえ魔理沙。これから話す事を、秘密にしてくれない?」
「え? 別に構わないが・・・・・・」
「ありがと。実は私ね、妖怪が大好きなの」
それは決して口にしてはならない事であった。従来、博麗の巫女は妖怪退治や妖怪が起こす異変を解決するのが生業。その巫女が、妖怪好きだという事は、幻想郷のバランスを崩すに他ならない事である。
それを聞いた魔理沙は――――。
「いや、知ってたけど?」
「ええ!? 嘘!?」
「いや寧ろ、隠せていたと思っている事に驚いているんだが・・・・・・」
「もしかして、隠せてなかった?」
「そりゃそうだろ。あんだけ妖怪に囲まれて、妖怪達と宴会をしていれば、普通に妖怪の事が好きだって、察するって」
「た、確かに・・・私としては、美味しい物をタダでありつけると思って開いたつもりだったんだけど・・・・・・」
「宴会を開いている時点で、モロバレだと思うが」
その言葉を聞いて、霊夢はガックリと肩を落とした。
そんな様子の霊夢を面白がりながら、魔理沙は先程の妖怪好きについて訪ねた。
「まあ察してはいたが、お前の口からは初めて聞いたぜ。どういう経緯で好きになったか、教えてくれよ」
「・・・・・・そうね、せっかくだから聞いて貰おうかしら」
そう言って、霊夢は湯飲みを置いて、魔理沙に話始めた。
「ここって、人里から遠く離れているでしょ? だから私、魔理沙と出会うまでは同年代の友達がいなかったのよ」
「そうなのか? まあ・・・普通に考えれば、そうなるよな」
「同年代の友達がいなかったけど、代わりに妖怪の友達は多少いたわ。でも、大きくなるにつれて、その友達とも疎遠になったわ」
それは当然の既決であった。妖怪を退治する博麗の巫女が、妖怪と仲良くなっては示しがつかない。それは立場上、仕方がないことでもあった。
「ある時に、仲良くなれないのなら嫌われた方が楽だと思ってね。問答無用に妖怪退治をする事にしたのよ」
「なるほどな、あの傍若無人の振る舞いは演技って訳か?」
「若干八つ当たりも入っていたから、一概とは言えないけどね」
「ふーん・・・でもまあ、今もうそんな事を気にする必要は無いんじゃないか? 昔はどうだったが知らないが、今は普通に人も妖怪もそれなりに仲良くしているし。そもそも、妖怪神社って言われている時点で手遅れだと思うぜ」
「え? 未だに妖怪神社って言われてるの?」
「もちろん。ただまあ、ジンの奴が、“あそこにいる妖怪は、昔霊夢に退治された事がある連中だから。例え何があったとしても、霊夢が何とかしてくれるから大丈夫”って里の人に言ってたぜ」
「まあ確かに、異変解決の時に倒した連中ばかりだけど・・・・・・私にまる投げにしている感じがするわね」
「それだけ信頼されているんだろ? そうじゃないと、ジンはそんな事は言わないって」
「そっか・・・私、そんなに信頼されていたんだ」
「今頃気づいたのか? あいつはお前に絶大な信頼を寄せているんだぜ」
魔理沙は自信たっぷりに断言し、霊夢はそれを聞いて嬉しく思い、微笑んだ。
「さてと、おもしろい話を聞けたし、私はそろそろ行くぜ。朱鷺子を待たせているからな」
「そっか・・・それじゃその子に伝えておいて、“本をとって悪かった”って」
「それは自分で言えよ。多分、近いうちに神社に来るだろうし」
「それもそうね。それじゃ、詫びの茶と菓子を用意しておこうかしら」
「私分もよろしくな」
そう言って、魔理沙は空へと飛び去った。霊夢はそれを見送った後、茶菓子の在庫を確認しに家へと入って行った。
―――――――――――
博麗神社から戻って来た魔理沙は、朱鷺子に本を取り返した人物はジンである事を教えていた。
「ジンって言う人なのね。ありがとう魔理沙」
「これくらいどうって事無いぜ。それよりも、何で知らなかったんだお前? ああ見えても、ジンはそれなりに有名だし、天狗の新聞にも載っていたんだぜ?」
「私、天狗の新聞なんか見ないし、そもそも博麗神社に近づきたくなかったのよ。あの巫女がいるから」
「ああ、なるほど・・・・・・それは仕方ないな」
「それよりも、何で彼がそんな所に住んでいるのかしら?」
「おかしいのか?」
「おかしいわよ。人里ならまだしも、神社で住み込みで働いているのは絶対に変よ。あの二人、性格的に合わないもの」
「そうか?」
「そうよ。ジンって人は親切だけど、あの巫女は傍若無人じゃない。どう考えてもそりが合わないわよ」
(まあ確かに、それで喧嘩した訳だが・・・・・・)
「あの巫女と一緒にいるなんて有り得ない。もしかして―――――」
朱鷺子はとんでもない妄想をしてしまった。
あのジンという青年は、霊夢に莫大な借金をしており、ジンはそのせいで彼女の下で奴隷のように働かせていると。
「あの巫女ならやりかねない・・・もしかしたら、本を取り返す為に、また借金を増やしたのかも・・・・・・ああなんて事なの!」
朱鷺子は突然近くの木に、頭をぶつけ始める。
「お、おい!? いきなりどうした?」
「馬鹿! 馬鹿! 私の馬鹿! 何で直ぐに神社に行かなかったのよ!?」
「お、落ち着けよ! これから行けば良いだろ?」
「これから・・・そうよ! 今から助けに行けば良いのよ! 待っててねジン!」
そう言うと、朱鷺子は飛び去って行った。
「お、おい! 報酬はまだもらっていないぜ!」
魔理沙も急いで、朱鷺子の後を追うのであった。
―――――――――――
夕方の博麗神社。魔理沙が辿り着く頃には、霊夢が朱鷺子を倒した後であった。
「やっぱり遅かったか・・・・・・」
「魔理沙? これはどういう事なの?」
「いやこいつに、本を取り返したのは博麗神社にいるジンって奴だって教えたんだが、何を勘違いしたのか、いきなり飛んで行ってな、慌てて追いかけたんだ」
「何よそれ? それでどうした私が襲われるのよ?
「さあな? 日頃の行いが悪いからじゃないか?」
「あんたには言われたく無いわよ」
「私は、日頃の行いは良い方だぜ」
そう言って、魔理沙は朱鷺子を担いで、箒に股がった。
「取り合えず、こいつは連れてくぜ。報酬をもらっていないからな。それじゃあな」
魔理沙はそのまま朱鷺子を連れて飛び去って行った。
魔理沙が去った後、ジンがタイミング良く帰って来た。
「ただいまー」
「おかえり。今日は早いのね」
「思いの他早く終わってな。それよりも、魔理沙が飛んでるのが見えたが、遊びに来ていたのか?」
「まあね、それよりも夕飯にしましょ、皆待っているわよ」
「そうだな。待たせると悪いからな」
「そうね。それとジン」
「ん?」
「ありがとう」
霊夢は照れくさそうにそう言った。それに対してジンは――――。
「何の事が分からないが、どういたしまして」
そう微笑みながら答えた。
そうして二人は一緒に、母屋へと帰って行った。