あのゲームおかげで、幻想郷の全体図が大体つかめました。内容も面白いので、是非プレイしてもらいたい作品です。
ここは人里から少し離れた場所にある命蓮寺。そこにジンは珍しく、白蓮に呼び出されていた。
「よく御越しくださいました」
「別にいいって、困った時は御互い様だ」
「そう言って貰えると、助かります」
「それで? 相談ってのは?」
「実は・・・・・・小傘さんについてなんです」
「小傘が? 一体どうしたんだ?」
「これを見て貰えますか?」
そう言って、白蓮が出したのは、少し前の文々。新聞であった。その内容は、小傘がこれからの付喪神について、自分なりに考え、ベビーシッターを始めたという物であった。
「ああ、知っているぞこの記事。読んで感心したな」
「はい、あの子もあの子なりに考え、模索している事を知って、喜びました。ただ・・・・・・」
「ああ、やり方が不味いよな・・・・・・」
記事の続きには、“頼まれてもいないのに、泣いている子供がいれば、脅かしあやし。笑っている子供がいれば、脅かし泣かす。その姿は、残念ながら変質者にしか見えない”と書かれていた。
「脅かしあやすはともかく、脅かし泣かすのは流石に不味いんじゃないか?」
「そうですねぇ・・・あのままでは、里の皆様に誤解を受けてしまいます。
そこでジンさんにお願いがあります。小傘さんの指導をお願いできませんか?」
「え? もしかしてベビーシッターの?」
「はい・・・残念ながら、私はそのベびーしったーというのをあまり知らなくて・・・・・・」
「ああそう言えば、魔界に千年もいたんだっけ。それなら、知らなくてしょうがないな」
「はい。それで、引き受けていただけますか?」
白蓮の申し出に、ジンは少し悩んだ。彼はベビーシッターの経験はなど、まったく持って無かったのである。そんな自分が、指導など出来るのか? その一方で、自分のあり方を模索している小傘を応援してやりたいという気持ちもあった。
ジンは悩んだ末に、出した答えは――――。
「分かった。保証は出来ないが、やれるだけやってみる」
「ありがとうございます。何とぞ、よろしくお願いします」
こうしてジンは、小傘を立派なベビーシッターへと育成する事になった。
―――――――――――
命蓮寺の共同墓地で、ジンは小傘にこれまでの経緯を話していた。
「―――――そんな訳で、お前を一人前のベビーシッターになるように、指導を頼まれた。どこまで出来るか分からないが、よろしく頼む」
「よろしく~。と言っても、どうするの?」
「先ずは、ベビーシッターがどういう物かを教える」
「え? 子供達の世話をする職業でしょ?」
「それは合っている。だが厳密に言えば、仕事で忙しい親の代わりに、育児を受け持つ職業なんだ。だから、小傘がやっている事は、半分正解で半分間違いなんだ」
「どういうこと?」
「泣いている子供をあやすのは良いが、子供を泣かしてはいけない。それだと親の方が不安がる。
ベビーシッターをやるにあたって、親の信頼は必要不可欠だからな」
「そうなんだ・・・うーん・・・・・・」
「もし、小傘がベビーシッターを続けたいというのなら、俺は力を貸すが、どうする?」
「もっちろん続けるよ!」
「よし、それじゃあ先ずは信頼回復だ。ついてきてくれ」
そう言って、ジンは小傘をある場所へと連れて行った。
―――――――――――
ここは人里の広場。そこに連れて来られた小傘は、何故か霊夢と弾幕勝負をする羽目になっていた。
「な、何故に~!?」
「信頼を回復するには、こうするのが一番てっとり早い。迷惑料と思って諦めてくれ」
「そ、そんな~!」
「そんな訳で霊夢。あとは適当に頼む」
「・・・・・・あんた、以前に問答無用で妖怪退治するなって言わなかった?」
「それはあくまで、何もしていない妖怪だけ。残念ながら、小傘は主婦の間で指名手配されてしまっている。
こうなってしまっては、一度退治されたというアピールが必要だ。じゃないと信頼はいつまでもマイナスの域だ」
「まあ、それはそうだけど・・・・・・」
「いずれにしても、このままだと退治依頼が来るだろう。そうなる前に、やっとかないと、後が面倒になる」
「あんたって、容赦無い時があるわよね・・・・・・まあ良いわ、そんな訳だから、大人しく退治されなさい!」
「ひ、ひえ~!?」
その後、小傘は霊夢に惨敗するのだが、霊夢はある程度手心をしてくれたので、それほど酷い目に合わなくて済むのであった。
―――――――――――
それから数日後。表向きは霊夢に退治された事により改心した小傘は、改めてベビーシッターを開業したのだが――――。
「うーん・・・・・・今日も駄目だったね・・・・・・」
「まあ、こればっかりは仕方ない。そう簡単に子を預けて貰える訳でも無いからな」
開業してから、客はゼロであった。やはり指名手配されていたせいで、小傘の信頼はイマイチであった。
落ち込む小傘に、ジンは励ましの言葉を言う。
「まあ、開業して直ぐに客が出来る筈は無い。気長に頑張ろう」
「うん・・・ありがとうジン」
「どういたし―――ん?」
ふと、ジンの視線の先に、泣きわめく赤子とそれを必死にあやす母親の姿があった。
それを見たジンはチャンスと思った。
「ちょっと待っててくれ」
ジンは小傘にそう言うと、母親の元に行った。そして何やら真剣に頼み込んでいた。
それからしばらくすると、ジンは小傘を呼んだ。
「小傘、初仕事だ。上手くやれよ」
「う、うん・・・・・・」
ジンのおかげで得た初仕事。小傘は緊張しながら、子供をあやそうとする。
「う、うらめしや~」
「オギャー! オギャー! オギャー!」
「あ、あれ? うらめしやー!」
その後小傘は必死に赤子をあやそうとするが、赤子は泣き止む事はせず。結局ジンが代わりにあやす事で、どうにか事が済むのであった。
―――――――――――
その日の夜。昼の事ですっかり落ち込んでいる小傘の元に、ジンがやって来た。
「小傘いるか?」
「ジン・・・・・・」
「隣いいか?」
「うん・・・・・・」
ジンは小傘の隣に静かに座る。しばらく無言が続いたが、小傘はおもむろに口を開く。
「ねえジン」
「ん?」
「私って、何の為に生まれたんだろう?」
「・・・・・・」
「傘として使っては貰えず、ベビーシッターとしても駄目。人の役に立ちたいのに、人の役に立てない。そんな私に、存在する価値なんて無いんじゃ――――」
「それは違う」
「え?」
「何の為に生まれたかなんて、誰にも分からない。けど、価値なんてのは自分で決める物じゃないか?」
「自分で・・・・・・」
「そう。他の人にとっては無価値と感じても、その人にとっては価値があると感じる場合もある。結局価値観なんてのは、人それぞれなんだ。だからこそ、価値は自分で決めると物だと俺は思っている」
「それじゃ、ジンは私に価値があると思う?」
小傘は恐る恐ると訪ねる。すると、ジンは微笑みながら答えた。
「そうだな。価値かあるかどうかはさておき、俺は小傘が存在して良いと思っている」
「え? だって私、役に立って――――」
「役に立てないから存在する価値が無いなんてのはナンセンスだ。この世には、役に立たない人間はごまんいる。けど、だからってそれらの人間が存在してはいけないという訳じゃない。そうじゃないと、人間から余裕が無くなるだろ?」
「あっ」
小傘はジンの言葉でようやく思い出す。
“無駄こそが美しさ、予定通りの人生は悪夢のような物よ”
“道具だって、機能だけじゃ美しく無いもの。無駄な部分こそが妖怪足る・・・・・・”
それはかつて異変の時に、霊夢に言った自身の言葉であった。そして、言葉は違えども、ジンも小傘と同じ様な事を言ってくれた。
「なんだ、そんな簡単な事だったのね。ありがとうジン、なんだか気が楽になった」
「それは良かった。それと、小傘にプレゼントだ」
そう言って出したのは、動物の形をした小さいガラス細工であった。
「これは?」
「思いつきだが、これを傘につけて回せば、簡易的なベビーメリーになるだろうと思って」
「そんな事までしてくれるなんて・・・・・・」
「やるからには、最後まできちんとやらないとな。中途半端に放り出すのは主義じゃない」
「ジン・・・ありがとう」
「良いって、好きでやっているんだから。それよりも、傘を貸してくれ。つけてやるから」
「う、うん」
小傘はやや照れながら、ジンに傘の方を手渡す。ジンはそれを受け取り、一つ一つ、傘の親骨の先端につけていった。
「よし完成。ほら出来たぞ」
ジンは小傘に傘を返す。やや不釣り合いの装飾であったが、小傘は嬉しかった。
「ありがとうジン! 大切にするね!」
そう言って小傘は、傘を回して見せる。ガラス細工が月の光を反射し、鮮やかな光を産み出した。
それはとても美しい光であった。
―――――――――――
それから数週間後。ジンの根気強い呼び掛けとアイディアもあって、小傘のベビーシッター家業は一先ず波に乗ったのである。
その事でジンは、再び白蓮に呼び出された。
「どうやら、上手くいったみたいですね」
「ああ、一先ず一歩踏み出せたって所だろう。ともあれ、後は小傘の頑張り次第だな」
「本当にありがとうございます。なんとお礼を言って良いか・・・・・・」
「好きでやった事なんだ。礼は良いって」
「ふふ、貴方は本当に優しい人ですね。貴方を見ていると命蓮を思い出します」
「命蓮って、白蓮の弟にして伝説の聖人だよな?」
「ええ、あの子も優しい人でした。他者の悲しみ自分の事のように悲しみ、他者の幸福を自分の事の喜ぶ、そんな慈悲深い人でした。ちょうど貴方みたい」
「俺はそんな出来た人間じゃない。白蓮の弟みたいに、全ての者に手を差しのべる事は出来ない。やれるとしたら、手の届く範囲の事だけだ」
「それで良いのです。重要なのは、慈悲の心を持つ事です。それさえあれば、いずれ悟りを開く事だって出来ますよ。
どうです? 寺の一員になってはみませんか?」
そう誘う白蓮に対して、ジンは首を横に振った。
「俺は別に悟りを開くつもりは無い。ただ、頑張っている人や、困っている人の力になれれば良いと思っている。それに、俺の帰る場所は博麗神社だ」
それを聞いた白蓮は、少し残念そうな表情をしたが、直ぐに笑みを返した。
「そうですか・・・少し残念ですね。貴方なら、直ぐにでも真理に至ると思うのですが、そう仰るのなら仕方ありませんね」
「いつも誘っているのに、無下にして悪かったな」
「いいえ。それが貴方の考えなら、それを尊重します。でも、気が変わったのならいつでも出家に来ても良いですよ。歓迎しますから」
「ははっ、その時が来るかどうかは分からないが、来たらよろしく頼むよ」
「ええ、いつでも御待ちします」
白蓮は微笑みながら、そう言った。それを見たジンもまた、微笑み反すのであった。