東方軌跡録   作:1103

115 / 194
今回の話しは、鈴奈庵の最新話です。

もう少し後に投稿しようと思ったのですが、今回の話しは幻想郷のシステムにかかわる話で、ジンのあり方を考えると、こっちを先に投稿した方が後々スッキリすると思いまして。

今回の話しに、蓬莱人形の初版についているショートストーリーを読み、独自の考察で考えた幻想郷の裏ルールを出しました。

初版のショートストーリーは、http://en.touhouwiki.net/wiki/Dolls_in_Pseudo_Paradise/Storyで公開されているので、そちらを参考にしてください。

あと、後書きでそのショートストーリーの独自考察を書いときました。あっているかどうかわかりませんが、読んでくれると幸いです。


楽園のルール

半年前の事である。ジンは友人になった易者の長屋に訪れていた。

 

「話を聞いたぞ。お前、大門先生に破門されたらしいな」

 

ジンがそう訪ねると、易者の友人が照れくさそうに答えた。

 

「ああ、どうやら俺の占術がおきに召さなかったらしいんだ」

 

「良く当たるのにか?」

 

「良く当たるからだそうだ。先生が言うには、俺のは魔術染みたらしい」

 

「魔術か・・・・・・魔理沙辺りが好みそうな話だな」

 

「ところでジン、君は人里についてどう思う」

 

「どうって・・・・・・のどかで良い場所だと思うぞ」

 

ジンがそう答えると、友人の易者は少し残念そうな顔をした。

 

「外来の君からはそう見えるだろうが、俺は窮屈で堪らない。もっと広くの自由に生きたいんだ」

 

「まさか、人里を出るつもりか?」

 

「とんでも無い! そんな事をすれば、瞬く間に妖怪の餌食になってしまう」

 

「なら、どうするつもりなんだ?」

 

「実は、ある秘術を見つけたんだ。それを使えば、もう妖怪に怯えて、里に籠る必要も無く、幻想郷中を気ままに歩けるようになるんだ」

 

「おい、それは危険じゃないのか? もし妖怪の誰かに聞かれたら、ただじゃすまないぞ」

 

「だから今日君を呼んだんだ。俺に何かあったら、この本を鈴奈庵に寄付して欲しい」

 

そう言って一冊の易書をジンに手渡した。

 

「これは?」

 

「これは普通の易書だが、中には俺が独自に考案した占術が書かれているんだ」

 

「何でそんな事を?」

 

「深い理由は無い。ただ、この占術が誰の目にも止まらず、消えるのが怖いんだ。だから、君にお願いしたい、君にしか頼めないから」

 

友人の易者の言葉を聞いて、不振に思いながらも、ジンは彼の頼みを聞く事にした。

それから数日後、その易者は不振死を遂げるのであった。

 

―――――――――――

 

それから半年後の現在、鈴奈庵に訪れたジンは、奇妙な光景を見る。

いつもは店番をしている筈の小鈴が、占いをしておりその客で鈴奈庵が賑わっていた。

 

「一体何だ?」

 

不思議に思っていると、既に店内にいたマミゾウが、こちらを手招きしているので、彼女の側に寄った。

 

「これは一体どうなってるんだ?」

 

「いや儂も来たばかりじゃ、どうやらここにおる輩は小鈴殿の占い目当てらしいのう」

 

「小鈴が占いを? 彼女そんな事出来たのか?」

 

「わりと噂になっておる。近々天狗の新聞にも載るじゃろう」

 

そんな会話をしていると、今日の占いが終わったのか、客達は鈴奈庵を後にしていった。

客が居なくなった後、ジンとマミゾウは、改めて小鈴に事情を聞く事にした。

 

「お待たせしましたマミさん。あれ、ジンさんも来ていたんですか?」

 

「ついさっきな。ところで、小鈴が占いをしているなんて初耳だな」

 

「実は数日前に、この易書を見つけたんです」

 

そう言って小鈴が取り出したのは一冊の易書であった。その内容は至って普通の易書であったが、メモ書き多数書かれていた。

 

「これに書かれているメモを参考に、占いを試したら、これが意外と当たるんですよ」

 

「ふむ・・・・・・確かにメモ書きが多いが、それ以外は至って普通の易書じゃな」

 

マミゾウはそう言いながら、小鈴に易書を返した。

 

「そう言えば、噂じゃと小鈴殿が独自に編み出した占術という事になっておるが?」

 

「えっとですね、このメモ書き通りに占いをしていたら、自然とそうなちゃって、いちいち否定するのもあれかなー?と思ってしまって・・・・・・」

 

「ふむ・・・・・・それにしても、このメモ書きは一体誰が―――――」

 

「それは半年前に死んだ、俺の友人が書いた物だ」

 

今まで黙っていたジンが、そこで口を開いた。

 

「死んだ御主の友人が?」

 

「ああ、死ぬ前にこの本を渡してな、もし自分が死んだら、鈴奈庵にでも寄付して欲しいって」

 

「あっ! 思い出しました! 確か半年前にジンさんから頂いた本です!」

 

「じゃが、何で鈴奈庵なんかに?」

 

「本人が言うには、そこに書かれている独自の占術が誰の目にも止まらず、消えるのが怖いという事らしい。恐らく、何かを残して起きたかったんだろう」

 

「ふむ・・・・・・」

 

「も、もしかして、私ってとんでも無い事をしちゃいました?」

 

「いや、寧ろあいつは喜んでいると思うぞ。形はどうあれ、あいつの占術がこうして注目されているんだから」

 

「そ、そうですかね?」

 

「ああ、きっとそうだと俺は思う」

 

ジンのその言葉を聞いて、小鈴は少し安心するのであった。一方マミゾウは、ジンの話を聞いて余計に気になったのか、もう一度易書を調べてみた。

 

(ふむ・・・妖気の類いは一切無い。至って普通の易書じゃな・・・・・・儂の考え過ぎか?)

 

「どうかしましたか?」

 

「ん? いや、何でもない。占いも良いが、程々にしておくんじゃぞ」

 

そう言ってマミゾウは、鈴奈庵を出て言った。

 

―――――――――――

 

数日後。用事で稗田家の屋敷に訪れたジンは、阿求にその事を話していた。

 

「ふーん、小鈴がやっていた占術は、ジンさんの友人が編み出した物なんですか」

 

「ああ、だがいつの間にか小鈴が独自に編み出したっていう風になっていたな」

 

「なんですって?」

 

ジンの言葉を聞いた阿求は、何かを思い出そうと額に指を当てた。彼女この仕草は、能力によって培われた莫大な記録、記憶、知識を取り出す時の癖であった。

そうして暫くすると、阿求は何かに気づいた。

 

「“民家要術”・・・・・・! 不味い! 小鈴を止めないと!」

 

そう叫ぶや否や、阿求は直ぐ様身支度をし始めた。

事態が飲み込めないジンは、阿求に訪ねた。

 

「一体どうしたんだ阿求?」

 

「あの子が持っていた易書は、ただの易書じゃなく、呪いの易書だったんですよ!」

 

「呪いの? 妖気の類いは無かったぞ」

 

「妖気の無いのは当たり前です。それを作ったのは人間なんですから」

 

「人間・・・・・・まさかあいつが?」

 

「ともかく止めないと、大変な事になる!」

 

そう言って阿求は身支度を済ませ、屋敷を出ていった。ジンもその後を追う。

 

「大変な事になるって、どういう事なんだ!?」

 

「すみませんが、説明している時間が惜しいので!」

 

そう言って、走る阿求であったが、体が丈夫で無い彼女では直ぐに息切れを起こした。そんな彼女を、ジンは抱きかかえた。

 

「ジ、ジンさん!?」

 

「理由は分からないが、小鈴が危ないんだろ? ならこっちの方がてっとり早い」

 

「何を――――」

 

「しっかり捕まっていろ!」

 

「キャア!?」

 

ジンは阿求を抱え、民家の屋根に飛び乗った。そして屋根から屋根へと飛び移り、瞬く間に鈴奈庵に辿り着いた。

 

「着いたぞ」

 

「は、はい!」

 

ジンから降りた阿求は、急いで鈴奈庵に入り、ジンもその後に続いた。

鈴奈庵の中で、小鈴まさに占いをしようとしていた。

 

「小鈴! 今すぐにそれを止めなさい!」

 

「え? え?」

 

事態を飲み込めない小鈴は、目をぱちくりしていた。

 

「良い小鈴、その易書に書かれている占術は――――」

 

そこで阿求の言葉が止まった。小鈴の背後に、禍々しい姿をした怨霊が姿を現したからである。

 

「ひいぃぃぃ!?」

 

「で、出たぁー!?」

 

「え?」

 

客達は怨霊の姿を見て、脱兎のごとく鈴奈庵を出ていった。小鈴は思わず後ろを振り向いて、怨霊の姿を見てしまう。そして顔を青ざめて、そのまま気絶をしてしまった。

 

「小鈴!」

 

「金獸!」

 

ジンはすかさず金獸を呼び、怨霊に目掛けて鋭い針を放つ。怨霊はそれを避け、店の裏口から逃走した。

 

「阿求! 小鈴を頼む!」

 

「え! ジンさん!?」

 

小鈴を阿求に任せたジンは、直ぐ様怨霊の後を追い掛けた。

 

―――――――――――

 

怨霊を追いかけて人里の外に出たジン。すると怨霊は、人気がいないことを確認すると、突然立ち止まる。

 

「・・・・・・久しぶりだね、ジン」

 

「あんたは・・・・・・!?」

 

ジンはその怨霊に見覚えがあった。それは半年前に不振死した。友人の易者であった。

禍々しい姿であったが、僅かに生前の面影を残っていた。

 

「半年前に死んだんじゃ・・・・・・」

 

「ああ、一度は死んだよ。だけどある禁術で甦ったのさ。君のおかげでね」

 

「俺の?」

 

「君が俺の頼みを素直に聞いて、あの易書を鈴奈庵に寄付してくれたからね」

 

易者に言うには、生前所持していたあの易書に、自分の占術方法と術を書き込んだ。

後はその占術を、あたかも自分が編み出したかのように見せびらかす人間を待ち、その嫉妬心と術によって、怨霊としてこの世に舞い戻って来たというのである。

 

「まさか・・・俺を利用したのか!? 自分が死んだら、易書を鈴奈庵に寄付して欲しいって言ってたのは!」

 

「そう、全ては人間を辞めてこの世に戻る為だったのさ。幸いにも、あそこの娘は好奇心旺盛だから、俺の占術を見つければ、必ず実践するだろうと思ってね」

 

「貴様――――!」

 

「おいおい、怒らないでくれよ。利用したのは悪かったが、これしか思いつかなかったさ」

 

「・・・・・・何故、人間を辞めようとした?」

 

ジンがそう訪ねると、妖怪易者は遠い目をして話始めた。

 

「・・・・・・嫌気がさしたんだよ。この狭い人間社会に」

 

「どういう事だ?」

 

「俺は占術を通して、世界の外側を見たんだ。そうしたら、この幻想郷での人間社会は狭くあまりにも惨めだ。だったら妖怪になって、自由気ままに過ごした方が良いと思えてね」

 

「その為だけに術を作り上げ、自殺したのか」

 

「外来のあんたなら分かるだろ? 外の世界は、妖怪に怯えず、快適に暮らせる。だけど外に行けない以上、より良い生活をするには妖怪になるしか無いじゃないか」

 

「それは違う」

 

妖怪易者の言葉に、ジンははっきり否定の言葉を言った。

 

「どんな世界であって、理不尽な事はある。今の世界が嫌で、他の世界に逃げたとしても、その理不尽からは逃げる事は出来ない。それを受け止める事が出来なきゃ、どんな世界だって生きていけないんだ。ましてや、人間を辞めるなんて絶対に間違っている」

 

ジンはそう妖怪易書に言い聞かせたが、妖怪易書は不愉快な顔をした。

 

「・・・・・・なら、お前はどうなんだジン? お前は外の世界から逃げて来ただけじゃないのか? しかもお前は鬼になれる。そんなお前に、俺をどうこう言う資格はあるのか?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

妖怪易者のその言葉に、ジンは言葉を詰まらせた。はっきりと易者の言葉を否定出来なかったからである。もしかしたら自分は、目の前にいる妖怪易書と変わらないじゃないかと、そんな考えがジンの頭に過った。

 

「まあいいさ、俺はここで失礼させて貰う。二度と会うことも無いだろう」

 

そう言って、妖怪易者はその場を去ろうとしたその時、一枚の札が彼を拘束する。

 

「なっ!? これは!」

 

「霊夢の札・・・・・・」

 

「悪いけど、あんたは見逃せないわよ」

 

声と共に現れたのは霊夢であった。しかし、いつもの彼女とは違い、何処か冷徹であった。

 

「ま、待ってくれよ! あの娘を利用したのは悪かったが、決して危害を加えた訳じゃない! 今後里には近づかないし、人を襲わない! 人里離れてひっそり暮すつもりだ!」

 

「で?」

 

「え?」

 

「そんな口約束で、あんたを見逃すと思うの? まあそれが本心だとしても、怨霊のあんたを見逃すつもりはまったく無いわ」

 

「感情をコントロールすれば、怨霊にはならない! そうすれば俺は無害なんだぞ!」

 

「何言ってんのよ、たかが易者程度で感情をコントロール出来るのなら、人間全員が聖人になっているわよ。それが出来ないから、悪人や悪霊が出るんでしょうが。そもそも――――」

 

霊夢は祓い棒を妖怪易者に突きつけ、更に言葉を続けた。

 

「幻想郷において、人間が妖怪になるのは最大の大罪なのよ。これを破ったあんたは、もう幻想郷には居られないの」

 

それは妖怪易者とジンも知らなかった、知られざるルールであった。

それを聞いたジンは、激しく動揺し、妖怪易者は激しく怒りを露にする。

 

「ふざけるな! ならその男はどうなんだ! 鬼になれるんだぞ! 何故俺が駄目で! そいつはいいんだ!」

 

その言葉に、ジンの心は深く刺さった。もしかしたら自分は、幻想郷に居てはいけない存在じゃないかと思うくらいに。すると霊夢は―――――。

 

「彼は人間よ。あんたなんかよりずっと全うなね」

 

「なんだと!?」

 

「ジンは確かに鬼になれるけど、時間が経てば人に戻れるの。これはジンが人としての心を捨てては無いからよ。でもねぇ、あんたは違う。

あんたは自ら人間である事を捨て、身も心も妖怪となってしまった。そうなったらアウト、今は人間としての自我が残っていても、やがてその自我は失われ、普通の妖怪よりも凶悪になるの。凶悪になった妖怪は、巧妙に人を襲うから、普通の妖怪より質が悪い。だから幻想郷では、そう言った妖怪は問答無用で排除する決まりなの」

 

「ま、待ってくれ! 俺は絶対に人を襲わない! 信じてくれ!」

 

「悪いけど信じられないわ。友人を騙すあんたの言葉なんか、耳を貸す価値もない」

 

そう言って、霊夢は無慈悲に祓い棒を降り下ろした。

妖怪易者は、無惨にも消滅してしまった。これがジンにとって、初めて目にする本物の妖怪退治であった。

 

「ふう、さて――――」

 

妖怪易者を退治した霊夢は、ジンの方を振り返り、一歩一歩彼の元に歩み寄る。

ジンは恐怖で動けなかった。次は自分の番かも知れないと、錯覚していたからである。しかし、霊夢はジンの体をペタペタと触るだけであった。

 

「ふーむ・・・・・・」

 

「れ、霊夢?」

 

「うん、どうやら何もされてはいないようね。てっきりあんたにも、何かしているんじゃないかと思って」

 

そう言って霊夢の顔は、いつも通りの彼女であった。それを見たジンは、ようやく安心出来たのである。

 

「ともかく一度鈴奈庵に戻りましょ、あいつが残した易書を処分しないと」

 

そう言って、歩き出す霊夢に、ジンは呼び止めた。

 

「霊夢」

 

「ん? なに?」

 

「・・・・・・俺、幻想郷に居て良いのかな」

 

「え?」

 

「人間を辞めて、妖怪になった奴は凶悪なるんだろ? だったら俺もいつかは――――」

 

「てい」

 

「いた!」

 

ジンの弱気の言葉を聞いた霊夢は、祓い棒でジンの頭を小突いた。

 

「あんたね、あんな不良易者の言葉を真に受けているんじゃないわよ」

 

「だって・・・・・・」

 

「まったくもう・・・・・・良いわ。ならあんたがスッキリする話をしてあげるわ。

ジン、“八人の正直者”っていう話を知っている?」

 

「ああ、読んだ事がある」

 

“八人の正直者”それはあるミステリー小説である。

楽園に迷い混んだ正直者の八人が、次々と謎のピエロに殺され、最後の一人が自殺する。まさに幻想郷版の“そして誰もいなくなった”である。

 

「確か最後は全員死ぬんだが、遺体は七体しか発見されなかった。つまりは八人の内一人がピエロだったっていう話だろ?」

 

「そうよ。ところでジンは、誰が犯人だと思った?」

 

「それは二番目の被害者だ。彼だけが、殺害された描写が無かった」

 

ジンがそう言うと、霊夢は首を横に振った。

 

「違うわ。犯人は一番最後に首吊り自殺する、臆病者少女よ」

 

「何を言っているんだ、彼女は一番最後に自殺したんだぞ。彼女が犯人なら、遺体は八体残らないと不自然だ」

 

「そうね。でも、その少女が人間だったの話でしょ」

 

「え? どういう意味だ?」

 

「あのには一部抜けている部分があるの。少女が自ら人間を辞める部分が」

 

「それってまさか・・・・・・」

 

「察しの通り、少女は楽園に来て直ぐに人間を辞めてしまったの。だから首吊り自殺程度では死なないのよ」

 

「何でまた人間を辞めたりなんか・・・・・・」

 

「実はこの話、幻想郷で実際に起きた話なのよ。

ある時、八人の男女が幻想入りをして、ここに住み着いたのよ。他の七人は気に入っていたらしいけど、その臆病者の少女は妖怪が怖くてたまらなかった。だから――――」

 

「人間を辞めて、妖怪になったと?」

 

ジンのその言葉に、霊夢は頷いた。

 

「人間を襲うのが妖怪の本分なら、妖怪になってしまえば襲われないと思ったんでしょうね。でもそれが、惨劇の始まりであった」

 

妖怪になった少女であったが、仲間と離れるのが嫌で、暫く人間の振りをして生活をし始めた。それから暫くして、ピエロが現れたのである。

 

「自ら妖怪になった事によって、少女の人格は酷く歪み、人間としての人格と妖怪としての人格に分かれてしまったのよ。

歪んでしまった少女は自覚せず、ピエロとして次々と仲間を惨殺していった。

そして最後に、仲間を失った少女は絶望し、首吊り自殺をした。それによって、なけなしの人間の自我が完全に失われ、残ったのは凶悪なピエロだけ。彼女が退治されるまで、多くの人が惨殺されたわ」

 

それは幻想郷の存在をを揺るがす事件であった。

事態を重く思った紫は、幻想郷にある裏ルールを作った。

 

「人間を必要以上に怖がらせないこと、人間を密かに監視すること、そして自らの意思で妖怪になった者を排除することを取り決めたのよ。またあのピエロを生み出さないようにね」

 

それは当然の処置であった。幻想郷において、最も恐ろしいのは、人間社会に溶け込むシリアルキラーである。

巧妙に紛れ込み、人を殺す者を放っておけば、幻想郷はたちまち崩壊するであろう。

 

「・・・・・・その話を聞くと、やっぱり俺は――――」

 

「ジン、人が人である所以って何だと思う?」

 

「さ、さあ? そんな事考えもしなかった」

 

「それはね、自分が人であるという想いよ。それさえあれば、例え不老不死であっても、半獣であっても、魔法使いであっても人なの。だからそれを大事にしていれば、貴方はピエロにはならないわ」

 

「――――」

 

霊夢の言葉を聞いて、ジンは思わず涙を流した。今まで自分は人かどうか曖昧で自信がなかったのだが、霊夢のその一言で、何だが救われた気持ちになったのである。

 

「ちょ、ちょっと! 何で泣くのよ! 私酷い事言った?」

 

「い、いや、そんなんじゃなくて、ただ人だって言われて嬉しくて、自然に――――」

 

「ああもう、これじゃ私が泣かせたみたいじゃない」

 

「わ、悪い・・・・・・」

 

「謝んなくて良いわよ。ほら、吹いてあげるからこっち来なさい。そんな情けない顔じゃ、人前に出れないでしょ」

 

そう言って、持っていたハンカチでジンの顔を吹く霊夢。少々気恥ずかしかったが、心地よさも感じた。

 

「はい、これでよし。それじゃ鈴奈庵に戻りましょ。まだやる事があるんだから」

 

「なあ霊夢」

 

「ん?」

 

「俺、幻想郷(ここ)に居てもいいか」

 

ジンのその言葉に、霊夢は微笑みながら答えた。

 

「貴方がそう望むなら、ここは貴方を受け入れてくれるわよ」

 

その言葉を聞いて、ようやくジンに笑みが戻るのであった。

それから二人は鈴奈庵に戻り、妖怪易者が残した易書を処分する事によって、この事件は幕を下ろした。

いかに全てを受け入れる楽園であろうと、秩序を破ればたちまちその楽園からも追放されてしまう。ジンはしみじみと思ったのである。

 




考察

蓬莱人形の初版ストーリーに関してですが、自分は臆病者の僕が犯人だと思っています。

ショートストーリーの5を最初に持って行くと、彼女が人間を辞めた事によって事件が起きた風に読めます。因みに、1で出て来る蓬莱の玉の枝は、好奇心旺盛の僕をおびき寄せる罠なので、それが本物の蓬莱の玉の枝とは限りません(なので、永遠亭メンバーが犯人とは限らない)

それから12では、残った人間を辞めた臆病者の僕は、一人は珈琲に毒で死に、一人は木に打ち込まれて死んで、もう一人は首をはねられていた惨状を見て、珈琲に毒で死んだ最も大人びた僕が犯人だと思い込んでいるようですが、自分は違うと思います。

臆病者の僕は、昨日は夕食後、強烈な睡魔の襲われ、昨夜のことが何にも思い出せなくなっていました。
そこで自分は一つの仮説を立てました。この臆病者の僕は、人間を辞めた時にもう一つの人格を生み出してしまった。そう、それが正直者を殺していったピエロだと思います。
そして絶望した臆病者の僕は、再度自殺をはかります。この時に、臆病者の僕の人格は完全に死に、残ったのは凶悪なピエロの人格となったと推察しました。

以上の事を踏まえ、人里の人間が妖怪になるというのは、そういった存在を生み出す恐れがあるから、なってしまった者は排除するんではないかと思いました。

これはあくまで自分の考えなので、本当かどうかは神主様のみぞ知る事です。他にも、面白い考察があれば、教えて下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。