最新作が待ち遠しいです。
ある時ジンが目を覚ますと、それはいつもの自分の部屋であったが、何処か違和感もあった。ジンはその違和感で、ある事に気がついた。
「・・・・・・これは、俺の夢か」
そう呟いて、ジンは夢の世界を眺めた。
ジンは時折、自分が夢を見ていると自覚が出来た。理由は分からないが、幻想郷に訪れてから自覚出来るようになっていた。
彼の自覚する夢は決まってこの夢の幻想郷である。
「暫くぶりだな・・・まあ、その気になればいつでも起きれるし、少しのんびりしていくか」
そうして縁側でのんびりしていると、夢の世界の妖狐がお茶と茶菓子を用意してくれた。
「ありがとう妖狐」
ジンがそう言うと、彼女は何も言わずに会釈して、その場を去って行った。この世界の住民は、現実の幻想郷の住民を模しているが、喋る事はなかった。
これはジンが、夢と現実をはっきりと区別しているが為だと思われる。言わばここは、幻想郷のジオラマなのだ。
(まあ、話し相手がいないのは寂しいけどな。こうゆう時に、紫が来てくれたらな)
そんな風に思っていると、境内から二人の少女の声が聞こえた。
「メリー、ここって博麗神社だよね?」
「そうみたいだけど・・・なんだか様子がおかしいわ」
「そうね・・・あっ、あそこに巫女さんがいるわよ。話を聞いてみましょう」
「あれ? 神社にあんな巫女がいたかしら?」
そういった会話が聞こえて来た。
(誰だ? ここは俺以外喋らない筈だが・・・・・・)
ジンは不振に思い、境内を除き込む。するとそこには見知らぬ女性が、夢の世界の霊夢に何度も話し掛けていた。
(知らない奴らだな。一体何者だ?)
ジンは暫く様子を見る事にした。
「すいませーん! 話を伺いたいのですがー!」
「・・・・・・」
「あのー! 聞こえていますかー!?」
「無駄よ蓮子、この人は幻みたいよ」
「え? 何言ってるのメリー、ちゃんと触れるわよ。ほら」
そう言って蓮子と呼ばれた少女は、霊夢の頬を触ってみせる。
「ほら、少し様子がおかしいけど、触れるでしょ」
「何て言うか上手く言えないけど、ここにいる巫女さんは、誰かの記憶で作られた。言わば、触れる立体影像みたいな物よ」
「誰かのって・・・メリーのじゃないの? だってこれはメリーの夢なんでしょ?」
「うーん、何だが違う気がするの。まるで、誰かの夢の中に迷い込んだような・・・・・・」
「多分、その通りだと思う」
そう言ってジンは、二人の前から姿を表した。
「誰!?」
蓮子はメリーという少女の前に出て、現れたジンを睨み付ける。どうやら警戒されているようである。
「そんな警戒しないでくれ。俺はこの夢の世界の主だ。君達は?」
そう訪ねると、メリーと呼ばれる少女から自己紹介を始めた。
「初めまして、私は宇佐見蓮子。秘封倶楽部のメンバーです。こちらがメリー、私と同じメンバーです」
「・・・・・・こんにちは」
「蓮子とメリーか。俺はジン、幻想郷の博麗神社で住み込みで働いている者だ」
「幻想郷の博麗神社?」
ジンの言葉に、蓮子は不思議そうに首を傾げた。それを見てジンは、ある予想を立てた。
「その様子だと、二人は外来の人間だな」
「外来?」
「そうだな、立ち話もなんだし、母屋に来ないか? 美味しい御茶と茶菓子があるぞ」
「え! いいんですか!?」
「ちょっと蓮子」
「いいじゃない、どうせこのままじゃ何もわからないんだし。それにこの人、そんな悪い人には見えないし」
「だからって・・・・・・」
「それに、こんなチャンスは滅多に無いのよ? これを逃す手は無いわ」
「・・・・・・わかった。でも、危険になったら直ぐに逃げるわよ」
「もう、心配性だなメリーは」
こうして蓮子とメリーは、ジンの誘いを受け、母屋に向かう事にした。
―――――――――――
蓮子とメリーを居間に案内したジンは、二人に人里評判の御茶と茶菓子を馳走していた。
「美味しい~♪ この茶菓子、本当に美味しいわ♪」
「そうね、この御茶と一緒にいただくと、格段に美味しくなるわ」
「気に入って貰えて何よりだ。さて、改めて蓮子とメリーに聞くが、二人はどうやって俺の夢に来たんだ?」
ジンがそう訪ねると、二人は説明をし始めた。
「実は、私には昔から不思議な能力があって、それを使ってここに来たんです」
「不思議な能力?」
「そう、メリーが持っている“境界を見る”能力を使ってね」
「ああなるほど、それなら他人の夢に来れるかもな」
「あれ? 驚かないんですか?」
「知り合いに似たような能力が持つ者が居てね。時々俺の夢に入って来るんだ」
「へぇー、メリーの他にも境界を見る人がいるのね」
「いや、彼女の場合は境界を見るんじゃなくて、操る方だからな。そして人じゃなくて、妖怪だ」
「え! 妖怪ですって!?」
ジンの言葉に、蓮子はますます目を輝かせた。
「あのジンさん! そこのところ詳しく教えてくれませんか!?」
「ちょ、ちょっと蓮子、少し落ち着いて・・・・・・」
「これが落ち着ける!? 妖怪だよ妖怪! 今まで空想の存在だと思われいた物が、実在していたのよ!」
蓮子は興奮が押さえ切れないのか、息を荒げながら言った。メリーはそんな蓮子に困りながら、何とか落ち着かせようとする。
「わかったから落ち着いて、ジンさんが困っているわよ」
「え?」
メリーの言葉で、ジンの方を見る。彼は先程から苦笑いを浮かべていた。
「あっ、す、すみません!」
「いや気にしてないから大丈夫だ。それよりも、先程の話の続きでもしよう」
「あ、ありがとうございます!」
蓮子はジンに礼を言いながら、彼の語る妖怪と幻想郷の話に耳を傾けた。
幻想郷とそこに住む人や妖怪の事を話終えると、蓮子はとても楽しそうで、メリーは何やら考えていた。
「人と妖怪が共存する世界・・・・・・そんな世界があったなんて」
「吸血鬼が住む紅い館・・・月人がいる迷いの竹林・・・もしかして、以前に夢で来ていた所は幻想郷だったのかしら?」
「取り合えず、話せるのはこれぐらいだな。他に質問は?」
「うーん・・・そうですねぇ・・・・・・」
蓮子は次の質問を考えていると、次第に風景がボヤけて来る。
「な、なに!?」
「どうやら時間切れのようだ。現実の俺が目を覚ますようだ」
「ええ!? まだ聞きたいことがたくさんあるのに!」
「すまないが今回はこれでお開きだ。この続きまた機会に」
「約束ですよ!」
「それじゃジンさん、私達はこれで」
「ああまたな」
蓮子とメリーはジンに別れの言葉を言うと、その姿を消した。
そしてジンは、眠りから覚めるのである。
―――――――――――
ここは某大学内にあるカフェラテ。そこに蓮子とメリーが一時を過ごしていた。
「いつ来ても、ここの紅茶は美味しいわね」
「そうね、ところで、蓮子はこの前の夢を覚えている?」
「覚えているわよ。ジンさんに幻想郷について色々と聞いたわね」
「その事なんだけど。あの人、人間じゃない何かが混じっていたわ」
「人間じゃない何かって?」
「わからないけど・・・・・・あの人、本当に信用出きるの?」
「考え過ぎよメリー、もしあの人が悪人の類いだったら、私達は今頃あの夢から帰れていないもの」
「それは私達を油断させる罠かも知れないわ」
「ああもう、この話はお仕舞い。あの人がどういう人か、今度聞けばいいじゃない」
「あっ、ちょっと蓮子!」
蓮子は席を立ち、カフェから出て行ってしまう。
「もう、次も無事だとは限らないんだから」
メリーは一抹の不安を抱きながら、蓮子の分も払うのであった。
―――――――――――
その日の夜。メリーは見知らぬ森を歩いていた。
彼女は感覚で理解した。これは自分の夢だと。
(また夢か・・・・・・ここは何処なんだろう?)
メリーは辺りを見回すが、人の気配は無く、代わりに自分に向けられる嫌な視線を感じる。
「・・・・・・っ!」
メリーは走り出した。するとその視線の主達もメリーを追いかける。
「はっ、はっ、はっ、あっ!?」
メリーは思わず足を引っ掛け、転んでしまう。その間に、怪物達が彼女を取り囲む。
「グルル・・・・・・」
(もう! どうしてこんな時に限って目を覚まさないのよ!)
内心悪態をつく彼女だったが、それでも悪夢は覚めなかった。
そうこうしている内に、怪物の一匹がメリーに飛び掛かる。
「っ!」
メリーは思わず目を瞑る。夢ならここで目が覚める筈、そう思いながら強く瞑った。
すると、何やら獣声と、それを薙ぎ払う音が聞こえた。
「え?」
恐る恐る目を開けると、そこにはいつしか夢であったジンと土の獣が、メリーを守るように立っていた。
「彼女に手を出すな。俺の客人だ」
ジンが怪物達に睨み付けると、怪物達は恐れを為してその場から立ち去った。
「ふう、大丈夫かメリー」
そう言って、ジンはメリーに手を差し伸べる。
「え? あ、はい・・・・・・」
メリーはおずおずとジンの手を取り、彼の助けで何とか起き上がる。
「それにしても、変わった体質だな。幽体離脱してこっちに来るなんて」
「え?」
「どうやら気づいていないようだな。今の君は意識だけがここに来ている状態なんだ」
ジンの話によると、今のメリーは意識だけの存在で、肉体は外の世界にあるらしい。恐らく先日の夢の中の邂逅も、同じ状態だったとジンは言った。
「それじゃ、これは私の夢じゃないんですか?」
「いや、これは君の夢だ。君は夢の中で、現実の幻想郷を訪れているだけだ」
「は、はあ・・・・・・」
「よく分からないか、まああまり気にしない方がいい」
「・・・・・・」
「どうした?」
「あ、いえ・・・・・・私、戻れるかなって」
「夢はいずれ覚めるものだ。その間は俺が守ってやる」
恥ずかしい台詞を良く言えるなぁと思う一方、とても頼りになると感じるメリーであった。すると、彼女の体に異変が起きた。
「あれ? 体が・・・・・・」
メリーの体が徐々に透けていったのである。
「どうやら、夢から覚めるようだ。もう大丈夫だな」
「あ、あの! ありがとうございます!」
メリーはそう御礼を言うと、ジンは微笑みながら――――。
「どういたしまして、蓮子にもよろしく伝えておいてくれ」
そう彼の言葉が聞こえたところで、メリーは夢から覚めた。
―――――――――――
Message body
翌日。メリーは昨夜見た夢を蓮子に話していた。
「――――という夢を見ていたの」
「むぅ~、メリーだけ幻想郷に行くなんてずるい」
「ずるいって・・・こっちは食べられそうになったのよ?」
「でも無事だったじゃない。ジンさんに感謝しないとね」
「そうね・・・・・・」
「どうしたのメリー? 浮かない顔をして」
「・・・・・・何となくだけど、あの人以前に何処かであった事がある気がするのよ」
「え? 一体どこで?」
「それが良くわからなくて・・・・・・」
「気のせいじゃない?」
「うーん・・・・・・」
「そんなに気になるんだったら、今度夢であったら聞いてみなよ。また会う約束したんだから」
「それもそうね。あっ、この前蓮子の分まで払ったんだから、今回は蓮子の奢りね」
「え!? 私今月ピンチなのに・・・・・・」
項垂れる蓮子、そんな彼女を見て、少し楽しそうなメリーであった。
―――――――――――
これは本筋には関わらない、ほんの些細な物語の一つである。
その昔、ジンがまだ幻想入りしておらず、借金も背負っていない時の事をである。
彼がいつものように買い物を済ませ、住んでいるアパートに帰ろうとした時、泣いている幼い少女を見つけた。ブロンド髪からして、恐らく外国の子だとジンは思った。
『ひっぐ・・・・・・えっぐ・・・・・・』
(迷子か?)
元々世話好きで子供好きの彼は、その少女に話し掛けた。
『どうした? 迷子か?』
『?』
少女は声を掛けられたジンを見て、少し怯えていた。ジンは彼女を安心させる為、買って来た飴玉を手渡す。
『そう怖がらなくて良い。俺は悪い奴じゃないから』
自分から言っても、説得力無いと分かっていたが、それ以外掛ける言葉がなかった。すると少女は――――。
『Don't I understand Japanese.(私、日本語がわからないの)
I don't know so what you'er talking about.(だから、貴方が何を言っているかわからない)』
少女の言葉を聞いて、ジンは自分の失敗に気づき、直ぐ様彼女と同じ言葉で言った。
『Because safeness and I understand your word.(大丈夫、俺は君の言葉がわかるから)』
その言葉を聞いた途端、少女から安堵の笑みが溢れた。
それからジンは、彼女の親を探し、送り届けた。
その少女が、メリーだったとは、当時のジンは知らず。メリーもその事をおぼろ気にしか覚えていなかった。