人里にあるとある鍛冶屋。小傘はそこで子守りの仕事をしていた。
「うらめしや~」
小傘は傘を、赤ん坊の前で振り回す。すると、以前ジンが着けてくれたガラス細工が光だし、鮮やかな光を出す。それを見た赤ん坊は驚き、やがて笑い出す。
「キャ♪ キャ♪ キャ♪」
小傘はその後も、赤ん坊が満足するまで、傘を回し続けた。
しばらくすると、赤ん坊は満足したのか、スヤスヤと寝ついた。
「いつもありがとうね、小傘ちゃん」
やって来たのは赤ん坊の母親であった。
彼女はここの鍛冶師の奥さんで、周囲からは彼女の事をおかみさんと慕われているのである。
小傘ともそれなりに仲が良い間柄で、時折こうして子守りを頼のでいる。
「いえいえ、これぐらい御安い御用だよ。それよりも、親方さんおそいね」
「そうだねぇ、いつもなら帰って来る頃なんだけど・・・何処で道草を食っているのやら・・・・・・」
そんな時に、一人の若者が突然やって来た。
「おかみさん! 大変だよ!」
「どうしたんだい? 藪から棒に?」
「親方さんが事故にあったんだ! 今、永遠亭に運ばれて――――」
「何だって!? 小傘ちゃん! 留守番お願い!」
「え!? あっ!」
小傘の返事を待たず、おかみは若者と共に出掛けて行ってしまった。
「ふえ・・・・・・」
「おー、よしよし、おかみさん直ぐに戻って来るからねー♪」
先程の騒ぎで目を覚まし、ぐずり出した赤ん坊をあやしながら、小傘はおかみの帰りを待つのであった。
それから夕方になって、おかみと亭主である親方が戻って来た。
「おかえり二人とも」
「ああ・・・・・・ただいま」
空返事をする親方。彼は意気消沈しており、いつものように豪快な元気はなかった。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない・・・・・・見てくれよこの腕」
そう言って親方は、自分の右腕を見せた。そこには、キブスがつけられていた。
「話よると、骨折らしい。しばらくは安静だとよ。くそっ!」
「悪態つくんじゃないよ。先生がいなかったら、右腕は使い物にならなかったんだよ?」
「そうは言っても、これじゃ仕事が出来ねぇ、出来なきゃ納期に間に合わねぇんだよ」
「仕方ないさ、事情を説明して、謝るしかないよ」
そう親方を宥めるおかみであったが、その声はとても残念そうであった。
ここの鍛冶屋は評判は良いのだが、裕福とはいえなかった。それ故、しばらく仕事が出来なければ、家計が苦しくなるのは、誰から見ても容易であった。
そんな心情を察した小傘は、ある事を提案した。
「親方さん。私が代わりに親方さんの仕事をするよ」
その言葉に、親方とおかみは驚いた。
「え? 小傘ちゃん、鍛冶出来るの?」
「私は一つ目妖怪だよ。鍛冶は得意中の得意だよ」
「「一つ目妖怪?」」
「何でそこで疑問!?」
「いやだって、どう見ても一つ目妖怪には見えないよ」
「ほ、ほら! 傘だって一つ目だし! 片目を閉じればこの通り!」
そう言って、小傘は片目を閉じた。一際目立つ赤い目を見ていると、段々と一つ目のように見えて来た。
「まあ、見えなくは無いな・・・・・・」
「でしょ?」
「だが、仕事を任せるかどうかは別だ。中途半端な仕事をさせる訳にはいかない」
厳しい態度で言う親方。そんな親方に、小傘は毅然とした態度で言う。
「それなら、親方が納得する腕前を見せれば良いんだよね?」
「出来るのか?」
「もっちろん! むしろ、親方より良い物を作れるよ」
「ほう、言うじゃねぇか。そこまで言うなら、腕前を見せて貰おう」
「良いよ、それじゃあ鍛冶場借りるね」
そう言って、小傘は親方の仕事場である鍛冶場へと入って行った。それをおかみは心配そうに見ていた。
「大丈夫かねぇあの子・・・・・・」
「本人があそこまで言うんだ。それなりに自信があるんだろう」
「そうなんだろうけど、あの子おっちょこちょいだから・・・・・・」
「・・・・・・言われてみればそうだな。ちょっと見て来る」
おかみの言葉で心配になったのか、親方も鍛冶場へと入って行った。
それからしばらくして、小傘は見事な斧を一本作り上げた。
「これは・・・・・・!?」
「どう? 中々の出来栄えでしょ?」
「ああ・・・仕上がり具合は完璧だ。しかも品質は俺が作った物より上だ」
「えへへ♪ これなら任せてくれるよね?」
「・・・・・・わかった。ただし頼みがある」
「頼み?」
「小傘の仕事を見学したい。それだけだ」
「そんなの頼まなくたって、いくらでも見て良いよ」
「本当か!? それはありがたい!」
親方は小傘に、深々と頭を下げた。
後に彼は、小傘の鍛冶技術を吸収し、人里一の名工となるのだが、それはまた別の話である。
―――――――――――
それから一月が過ぎ、二月になった。その頃になると、親方の右腕は大分良くなっていた。
「白い奴、取れたんだ親方」
「ああ。といっても、まだ本調子ではないがな。
まだ暫くは、小傘頼みになってしまうな」
「別に良いよこれぐらい。人の役に立つのは嬉しいから」
「・・・・・・なあ小傘、お前が良ければ、正式にうちで働かないか?」
「え?」
「これまでずっと仕事を見て来たが、お前の鍛冶技術は大したものだ。正直言って俺なんかよりも上だ。
それだけの腕前なら、別にベビーシッターなんかやらなくても、十分やっていけると思うのだが・・・・・・」
そう言う親方に、小傘は首を横に振った。
「ありがたいけど、遠慮しておく。私はもっといろんな人の役に立ちたし。それに、ベビーシッターの仕事好きだから」
「そうか・・・何だか野暮な事を聞いちまったな」
「こっちこそ、せっかくの誘いを断ってごめんね」
「気にするな、お前がやりたい事なんだろ? ならやりたいようにやれば良いさ」
「・・・・・・うん、ありがとう親方」
自分のやりたい事を応援してくれる親方に、小傘は素直に感謝した。
そんな時、おかみが鍛冶場に入って来る。
「あんた、魔理沙ちゃんが来たよ。何でも仕事を頼みたいとかで」
「魔理沙の嬢ちゃんが? 珍しいな・・・・・・」
「なんだろう? もしかして、魔法鉱石の加工かな?」
「それだと俺は門外なんだが・・・まあ取り合えず話を聞いてみるか」
こうして二人は、魔理沙の話を聞きに、鍛冶場を後にした。
―――――――――――
魔理沙はおかみが出してくれた御茶を飲みながら、目的人である親方の到着を待っていた。しばらくすると、親方と小傘がやって来る。
「待たせたな魔理沙の嬢ちゃん」
「おっ、親方――――って、小傘? 何でこんな所にいるんだ?」
「まあ色々あって、親方の仕事を手伝っているんだよ」
「お前、鍛冶が出来たのか?」
「そりゃ一つ目妖怪だもの。鍛冶が出来なくてどうするのって話だよ」
「一つ目・・・・・・?」
「どーしてそこで疑問文が出るのよー!?」
小傘は涙目になりながら叫んだ。
話が脱線して来たので、親方は咳払いをして、改めて魔理沙に訪ねた。
「ごほん。ところで、仕事ってなんだ? 言っておくが、魔法関連はあいにく門外だぞ」
「いや、親方に頼みたいのはそっち方面――――かも知れないが、違うとも言うべきか・・・・・・ともかくこれを見て欲しい」
そう言って魔理沙が見せたのは、一本の折れた針であった。それを見て小傘は、ピンと来た。
「これって、霊夢さんがいつも使っている針?」
「おっ、流石は被害者だぜ。ああ、これは霊夢が使っている針だ。
何でも仕事の時に折れて、これを期に新調するとの事だ」
「なるほど、確かにこの大きさなら、特注じゃないと無理だな」
「そういう訳で、お願い出来るか親方?」
「いや、それは―――」
親方は少し返答に困った。
自分で作るのは良いのだが、あいにく腕がまだ完治しておらず、鍛冶は出来ない。かと言って、妖怪である小傘に妖怪退治の道具を作らせるのも気が引いてしまう。
そんな風に悩んでいると、小傘はこんな事を言って来た。
「受けてあげようよ親方」
「へ? 良いのか小傘?」
「うん、必要とされている物なら、作ってあげた方が良いと思うから」
「・・・・・・わかった。引き受けよう」
こうして親方は、魔理沙の仕事を引き受ける事にした。
―――――――――――
それから数日後の博麗神社。魔理佐は、ジンと霊夢、そして遊びに来ていた華仙に数日前の鍛冶屋での話しをしていた。
「―――――ってな事があったんだ」
「へぇー、あの小傘が鍛冶をねぇ・・・・・・」
「意外な特技だな。寧ろそっちがメインじゃないのか?」
「そうだな、私も“人間を驚かす程度”より“鍛冶が出来る程度”の方がしっくり来ると思うぜ」
「それよりも大丈夫なの? 妖怪に妖怪退治の道具を作らせて? 何か細工でもされたら――――」
「それは心配ないと思うぜ。あの親方は職人だから、人様が使う道具に細工何かしたら、それこそ雷が落ちるって」
「仮にされたとしても、払い棒と陰陽玉のコンボでお仕置きするわ」
「更に白蓮に報告して、説教をしてもらう。彼女の説教は映姫の次に長いからな」
「ほ、程々にね?」
そんな話をしていると、袋を背負った小傘がやって来た。
「お待たせー! これが御注文の針でーす!」
そう言って、袋の中にある針を広げ見せる。それは素人から見ても、かなりの上質で出来た針であった。
「すげぇ! こんな針初めてみたぜ!」
「確かに・・・ここまで立派な物はなかなか御目にかかれないわ」
「ああ、素人から見ても立派な物だな。これなら合格じゃないか霊夢?」
「そうねぇ・・・確かに品質は良さそうね」
「でしょ? でしょ? 親方にも褒められる。まさに会心の出来でしょ?」
小傘は自慢気にそう言った。すると霊夢は、おもむろに針を手に取る。
「だけど、重要なのは使い勝手よ。いくら品質が良くても、実戦で使えなくちゃ意味がないもの。というわけで――――」
「え?」
「試し投げさせて貰うわ。ちょうど良い的が目の前にいるわけだし」
「も、もしかして、わちきですかー!?」
「いや、ちょっと待て霊――――」
「居たわね、博麗の巫女!」
すると突然、朱鷺子がやって来た。彼女は何故か自信満々に霊夢と対峙する。
「噂を聞いたわ。何でも針が壊れて使えないらしいわね。針が無い巫女なんて、私の敵では――――あれ?」
朱鷺子はようやく気づく、彼女の手には新品の針がある事に。
「あら、良いところに的が来たわ。貴女でさっそく試させて貰おうかしら?」
「話が違うじゃなーい!?」
その後、朱鷺子の悲痛の悲鳴が、神社の境内に響き渡った。
小傘は身代わりになった朱鷺子に、深く感謝するのであった。
―――――――――――
それから夕方。親方に仕事完了の報告をしに、親方の鍛冶屋に向かって歩いていると、赤ん坊を背負ったおかみとばったりと出会う。
「あら小傘ちゃん」
「あっ、おかみさん」
「針は無事に届けたのかい?」
「うん、霊夢さん喜んでくれたよ」
「そりゃ良かった。あっそうだ、良かったら小傘ちゃん、夕飯うちで食べていかない?」
「え?」
「お世話になった礼だよ。遠慮しないで来なよ」
おかみは善意でそう言うが、小傘は人間の食べ物を食べてもお腹は膨れ無い妖怪であった。しかし彼女は――――。
「それじゃ、お言葉に甘えようかな?」
「そう来なくっちゃあ」
「キャ♪ キャ♪ キャ♪」
「この子も喜んでいるみたいだね」
こうして小傘は、おかみの誘いを受け、夕飯を御馳走になる事にした。
御腹は膨れなかったが、小傘の心は膨れたのであった。