と言っても、なんだか微妙な内容になってしまった気がします。次があれば、もっとほのぼの的な話にしたいと思います。
事の始まりは、菫子の何気ない一言であった。夏の暑い日差しが続くある日、彼女はジンにこんな事を言ったのである。
「プールに行きたい」
「・・・・・・は?」
唐突な言葉に、ジンは思わず呆けてしまった。
「だから、プールに行きたい」
「菫子・・・ここは山奥なんだぞ。そんな施設があるわけがないだろ」
「プールじゃなくてもいいから、泳ぎたいの! ねえ、何処か良い場所無いの?」
菫子の必死の訴えに、ジンは困った顔をする。
「うーん・・・あるにはあるんだが、守矢の湖は改装中で使えないんだよな。後は川か霧の湖で泳ぐしか―――――」
「そんな貴女に朗報です!」
そう言って現れたのは早苗であった。
「早苗か、一体どうした?」
「守矢の湖の改築が終わりましたので、今度リニューアルオープンするんですよ」
そう言って、ジンに一枚のチラシを手渡す。そこには“守矢ビーチ開催”と書かれていた。
「守矢ビーチ?」
「山奥にビーチって・・・そんな非常識な・・・・・・」
「ちっ、ちっ、ちっ、甘いですよ菫子ちゃん。ここは幻想郷、常識に囚われてはいけないのですよ」
「は、はぁ・・・・・・」
「おい早苗、あまり菫子に変な事を教えるな。ただでさえ残念な中二病なのに、更にかわいそうな子になる」
「ちょっとジンさん! それはかなり酷くない!?」
「冗談だ。そんなに真に受けるな」
「まったくもう・・・・・・それにしても、浜辺なんて簡単に出来る物なの?」
そう菫子が尋ねると、早苗は自信満々に言った。
「守矢の力を侮らないでください。その気になれば、浜辺の一つや二つ、作ってみせますよ」
「おおー! なんだか凄いわね!」
「でも、実際は神奈子と諏訪子の能力と、河童の技術で作ったんじゃないのか?」
「もうジンさん! ネタばらしは厳禁ですよ!
まあともかく、皆さんで入らして下さい。絶対に損はさせませんから」
そう言って早苗は、無料券をジンに手渡し去って行った。
「・・・・・・さて、どうする?」
「どうするって、行くしかないんじゃない?」
「だな。皆で行くか」
「やったー♪」
こうしてジン達は、新しくオープンする。“守矢ビーチ”に行く事にした。
―――――――――――
妖怪山にある守矢神社。その近くにある湖には浜辺があり、様々な人々が訪れ楽しんでいた。
そしてジン達も、そこに来ていた。
「本当に浜辺があるのねぇ・・・・・・」
「これが話に聞く浜辺ですか・・・初めて見ましたよ」
「「「「すっごーい!」」」」
「本当、まるで海に来たみたい」
「けっ、たかが浜辺ぐらいで大袈裟だな」
「そのわりには、ウキウキしているじゃないのか正邪?」
「そ、そんな訳無いだろ!」
人工的に作られた浜辺を見て、各々の反応を出す博麗神社一行。そんな彼等の前に、にとりが現れた。
「どうだい? 我ら河童の技術は?」
「おお、にとりか。凄いもんだな、こんな立派な浜辺を作るなんて」
「でしょー! 守矢の神様の協力もあったけど、ここまで立派な浜辺に仕上がったのは、我ら河童の――――」
「あーはいはい、そんなのどうでも良いから」
「どうでもとはなんだ! どうでもとは!?」
「私達はそんな自慢話を聞くより、さっさと遊びたいのよ。皆だって遊びたいでしょ?」
「「「「さんせーい!」」」」
「ぬぐぐ・・・お前ら・・・・・・!」
「まあまあ落ち着けよにとり。その話は俺が後で聞いてやるから」
「本当かい!? やっぱりジンは大盟友だ!」
ジンの言葉を聞いたにとりは、心底嬉しそうであった。
―――――――――――
その後彼女に脱衣所案内して貰い、それぞれ水着に着替え始めた。
「みんなー着替え終わった?」
霊夢がそう尋ねると、それぞれ返事をし、水着姿で現れた。
霊夢は赤いラインが入った白いビキニ、妖狐は紺のビキニで、布の面積が霊夢の水着に比べると少なく、やや際どい水着であった。
「あんた・・・よくそんなの着れるわね」
「ふっふっふっ、水着というのは殿方を悩殺する為の物なんですよ霊夢さん。
布面積が少なければ、それだけ男性の視線を釘付けに出来るんです!」
妖狐は自信有り気にそう言った。
(確かに効果はありそうだけど・・・見ず知らずの男に見せたくは無いわね)
密かにそう思う霊夢であった。
次にサニー達の水着は、三人とも色ちがいのワンピースタイプの水着で、サニーが赤、ルナが黄色、スターが青色であった。
「あら、なかなか可愛らしいじゃない」
「でしょー♪ ジンに選んで貰ったの」
「え? ジンさんに?」
「うん、水着を新調しようと悩んでいたら、“こうゆうのが良いんじゃないのか”って」
「せっかくだから、三人お揃いの物にしたの」
サニー達の言葉を聞いて、霊夢と妖狐は何故か敗北感を味わった。
「おまたせー」
次に現れたのは針妙丸。彼女はサニー達とは違い、薄いピンク色のフリルの水着を着ていた。
「あら、思いきったわね針妙丸」
「うん。ちょっと恥ずかしいけど、一度着てみたかったんだ」
「似合っているわよ針ちゃん♪」
そう言ったのは菫子だった。彼女は学校指定のスクール水着を着て、更には眼鏡を外しコンタクトレンズにしていた。
自分の水着を褒めてくれた菫子に、針妙丸は――――。
「変態に言われても、嬉しくない」
針妙丸の情け容赦ない言葉を浴びせる。菫子はそれがショックだったのか、ガクッと肩を落とす。
「そ、そんな酷く言わなくても・・・・・・」
「ふん!」
針妙丸は不機嫌そうにそっぽを向く。どうやら、彼女の遺恨は根強いようである。
「やれやれ、針妙丸にそこまで嫌われるなんて、案外天邪鬼としての才能あるんじゃないのか?」
「そんなの全然嬉しくな――――」
正邪の姿を見て、菫子は思わず言葉を止めてしまう。何故なら、彼女の水着は露出度ゼロのダイバースーツだったからである。
「ん? どうした?」
「いや・・・なんでダイバースーツかな?って・・・・・・」
「ふっふっふ、こういうのは誰もがお色気を期待するもんなんだよ。だからあえて、そのお約束に反逆したのさ。
期待してた奴は、さぞやガッカリしているだろうな♪」
(誰に言ってるのこの人?)
「はいはい、くだらない事を言って無いで行くわよ。ジンを待たせちゃ悪いから」
「そんな事言って、本当は水着姿を見せたくて仕方な―――――」
「何か言ったかしら正邪?」
「な、なんでもないです・・・・・・」
「そう。それじゃあ行くわよ」
そう言って、今度こそ脱衣所を出る霊夢達であった。
―――――――――――
改めて守矢ビーチランドを見てみると、かなりの人と妖怪が楽しんでいた。もし迷子やはぐれたら、探すのは困難だと思えるくらいに。
「さて、ジンはと・・・・・・」
霊夢はジンの姿を探す。しかし、これだけの人数の中を探すのはやはり困難であった。そんな時菫子が、ジンの姿を見つける。
「あっ、いたいた。おーいジンさ―――」
菫子はジンの水着姿を見て、言葉が止まってしまった。
至って普通のボクシングタイプの水着だが、ジンの体は鍛え抜かれており、脂肪という物が一切無いと思えるほど引き締まっていた。ボディビルダーとまではいかないが、一種の肉体美が備わっているように見えた。
そんな鍛え上げられたジンの肉体を見て、菫子は思わずみとれてしまった。
「待たせたな――――って、どうした菫子?」
ジンがそう尋ねると、菫子は上擦った声で答える。
「な、なんでもない! み、皆揃った事だし、行きましょ!」
そう言って、逃げるように湖の方に行ってしまった。
「なんだあいつ?」
ジンは首を傾げていると、霊夢、妖狐、正邪の三人は、やれやれとタメ息ついた。
―――――――――――
湖は冷たく、夏の日差しで熱された体を冷やすにはちょうど良かった。
サニー達や針妙丸がはしゃぐなか、菫子だけは何故か乗り気ではなかった。
心配になったジンは、菫子に声を掛ける。
「少しいいか菫子」
「な、なに?」
「なんだか元気が無いように見えるが、大丈夫か?」
「う、うん! 大丈夫大丈夫! なんでも無いから!」
「・・・・・・それなら何故、視線を逸らす?」
「そ、それは・・・・・・」
菫子は答えられなかった。まさか男性の体に見とれていたなんて、恥ずかしくてとても言えなかった。
(ううっ・・・見た目はひょろそうなのに、脱いだら凄いなんて反則よ・・・・・・)
「おい、本当に大丈夫か?」
心配そうに近づくジンに対して、菫子はジンから距離を置こうとする。
「・・・・・・何で逃げる?」
「べ、別に逃げて無いわよ」
「嘘つけ、明らかに距離を置こうとしているだろ?」
「そ、それは・・・・・・」
「俺に原因があるのなら、はっきり言ってくれ。改善するから」
菫子を思っての言葉だったが、その言葉は菫子を更に困らせるものだった。
「だから何でも無いって! あまりしつこいのは嫌いなの!」
菫子は思わず強い口調で言い放ち、その場を去って行った。
「菫子・・・・・・」
ジンは彼女の後を追わず、何がいけなかったのか考え始めるが、まったく思いつかなかった。
(接し方が悪かったのか? それとも他に原因が・・・・・・?)
「全然ダメだなお前は。あれじゃ逃げるっての」
悩んでいるジンに、正邪は何処か愉快な口調で言った。
「なんだよ正邪。お前には原因が分かるってのか?」
「ああ。知りたいか? 知りたいよな?」
明らかに挑発するような口調に、ジンは苛立ちを感じる。
「ふん、どうせ頼んでも教えてくれないだろ。だったらいい」
「本当にいいのかな? 男のお前がいくら考えても、答えは出ないと思うけどなぁ」
「男の?」
正邪の言葉でジンは、何となくヒントが分かった。菫子が自分を避けたのは、性別が関係していると。
(性別・・・男と女・・・異性・・・もしかして―――――)
ジンはそこである一つの要因を思いつく、思いつくが、真っ先に否定したかった。
(いやいやいやいや、有り得ないだろ。そんな事絶対に有り得ない! “俺の体に見とれていた“なんて絶対に無い!)
ジンはその可能性を全面的に否定した。
相手がアイドルとかなら分かる。恐らく自分も、グラビアアイドルの水着姿を生で見かけたら、とてもじゃないが直視なんて出来ない。しかし、その相手が自分だなんて、一体誰が予想出来るのだろう。
(確かに肉体は引き締まっているが、そこまでの物では無いと思うんだけどな・・・・・・)
そう悩んでいると、正邪がとても楽しそうに笑っているのに気がついた。
「・・・・・・なんだよ正邪?」
「べっつに~、ただお前が苦悩している姿を愉快に見ているだけ♪」
「お前、本当に性格悪いよな」
「天邪鬼だからな♪ それで、どうするんだ?」
「どうするって?」
「菫子の事だよ。一人にしておいたら、余計なトラブルに巻き込まれるんじゃないのか?
私の予想だと、あいつ男慣れしてないと思うし」
正邪の言葉で、ジンはハッと気づき、急いで菫子の後を追った。
―――――――――――
一方菫子は、一人ビーチをさまよっていた。
(あーあ・・・何であんな事言っちゃったんだろう・・・・・・ジンさんは悪く無いのに)
菫子は一人自己嫌悪に陥っていると、二人の妖怪が菫子に近寄って来る。
「ねぇそこの君、今暇?」
「俺達と一緒に遊ばない?」
「え?」
突然声を掛けられた事に動揺する菫子。そんな彼女に、二人の妖怪は言葉を続ける。
「いや~せっかくビーチに来たのに、男二人だけってのはなんか寂しくてさ」
「良ければ一緒に、夏の思い出を作らない? きっと忘れられない思い出になると思うからさ」
(えっと・・・これってもしかしてナンパ!?)
生まれて初めてのナンパに、菫子は更に気が動転した。
容姿に関しては自信がない自分に、まさかナンパが来るなんて思わなかったからである。
(え、えっと・・・この場合どうすればいいんだっけ?)
今までナンパをされた事が無い菫子は、ただ戸惑うばかりであった。そんな彼女の隙を、ナンパ妖怪達は見逃さなかった。
「そんな怖がらなくっていいよ。俺達は善良な妖怪だから」
「そうそう、女の子に関しては、種族関係無しに優しいから」
そう言って、菫子を逃がさないように取り囲むナンパ妖怪達。そんな様子に危機感を感じた菫子は、思わず口から出てしまう。
「か、彼氏を待たせているから、相手に出来ない!」
それを聞いたナンパ妖怪達は、どっと笑いだした。
「あっはっはっは、嘘はいけないなぁ子猫ちゃん?」
「う、嘘じゃないわよ」
「またまた、君どう見ても男慣れして無いじゃん。俺達に声を掛けられて、さっきから動揺ばっかしてるじゃん」
「うっ・・・・・・」
「まあ、最初は誰だって怖いものさ。でも、一回でもハマると、病みつきになるんだよ」
「病みつき?」
「とっても良いことだよ。どう? 興味あるでしょ?」
そう言って、菫子の腕を掴むナンパ妖怪。いつもなら超能力を使って追い払える菫子だったが、動揺し過ぎてそれどころじゃなかった。
「それじゃ、人気の無い所に―――――」
「おい、うちの連れに何をしている?」
そう言って、ナンパ妖怪の肩を掴む青年が現れた。その青年を見て、菫子は彼の名前を言った。
「ジンさん!?」
「大丈夫か菫子? 何かされたか?」
「う、うん大丈夫・・・・・・」
菫子はどうにか頷くと、ジンは安堵の笑みを浮かべる。そんな彼に、ナンパ妖怪達は不愉快に睨んだ。
「なんだテメェ、俺達の邪魔をするのか!」
先程の優しい口調から一転し、いかにも荒くれものように声を荒げるナンパ妖怪達。しかし、ジンは至って冷静であった。
「邪魔も何も、彼女は俺の連れだ。お前らこそ、彼女に何をしようとしていたんだ?」
「そんなのテメェには関係ねぇ! とっとと失せろやぁ!」
ナンパ妖怪の一人が、ジンに殴り掛かる。いくら雑魚妖怪とはいえ、妖怪の身体能力は人間と比べると高い。雑魚一撃であっても、一般人が喰らえばひとたまりも無い一撃である。
「ジンさん危ない!」
菫子が叫ぶ。しかし、ジンは涼しい顔で軽く受け止めた。
「え?」
「な、なに!?」
そして次の瞬間、ナンパ妖怪の手首がゴキリという音を立てた。
「へ?」
「手首の間接を外した。自分で嵌めるか、医者に頼むんだな」
ジンはそう言って手を離すと、ナンパ妖怪の手首がプランと垂れる。
「お、俺の手首が~!?」
「てめぇよくも――――」
もう一人もジンに殴り掛かろうとしたが、それよりも速くジンの手がナンパ妖怪の口を抑える。そして、怒りに満ちた瞳で睨み付ける。
「お前らが何処で何をしようか構わない。だが、俺の身内に指一本触れてみろ! 貴様らを地獄に叩き落とす! わかったな!?」
「「は、はい~!」」
それはまさにジンの逆鱗であった。ナンパ妖怪達は完全に怖じ気づき、脱兎の如く逃げ出した。
「ふう・・・少しやり過ぎたか?」
「えっと、ジンさん・・・・・・だよね?」
菫子が恐る恐るそう尋ねると、ジンは不思議そうな顔をした。
「俺だよ。何でそんな事を聞くんだ?」
「その・・・いつもと雰囲気が違っていたから・・・・・・」
「ああ・・・悪い。あまり人前では怒らないようにしていたんだが・・・・・・怖がらせてしまったか?」
菫子に申し訳なさそうにしているジンを見て、いつもの彼だと安心した。
「さあ、みんな所に戻るぞ」
「う、うん・・・・・・」
菫子は差し出された手を主を取り、ジンと手を繋いだまま歩き出した。
しばらくすると、菫子が口を開いた。
「あの、ジンさん・・・・・・」
「ん? どうした?」
「さっきはその・・・怒鳴ったりしてごめん」
「別に良いさ。俺も配慮が足りなかったからな」
「そんな事無い。ジンさんはいつだって、私の事を考えてくれてる。私にはわかるから」
菫子の超能力には、対象に触れる事で思念と思考を読み取るサイコメトリーがある。さとり妖怪までとはいかないが、ある程度相手の思考を読む事が出来のである。
そんな中、読み取ったジンの思考は、菫子の事を心から気にかけている物であると、彼女は感じ取っていた。
(サイコメトリーで思考が読まれているって気づいているのに、嫌がる思考が一つも無い。それどころか、私の心配をしてくれている)
まるで家族のように思ってくれるジンの思念に、菫子はなんとも言えない心地よさを感じた。
後で、この状態がかなり恥ずかしい事に気づく彼女だったが、その手を離す事はなかった。
幻想郷に海は無いので、守矢神社の湖を代用してみました。
まあ実際に、人口ビーチというものがあるらしいので、出来なくはないと思っています。